勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第六章 その祈り、届かなくとも……

524 大巫女と勇者

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「大変おまたせした。どうも精霊の民は何事も即決することが苦手で、うちの部族も独自に精霊にお伺いを立てたようだ」
「いえ、俺たちも有意義な時間を過ごしましたから。いい土地ですねここは」

 そう言うと、大巫女様はわずかに微笑んだ。

「そうであろう? この場所は天与の地。精霊王様から賜った地であると我らは思うておる。だから皆、この地を大事にしておるのだ」
「自分たちの土地を大切に出来るのは素晴らしいことだと思いますよ」

 などと挨拶を交わしていたら、勇者が焦れたのか割り込んで来た。

「なんでもいいが、聖地とやらに行けるのか行けないのか?」
「ふふっ、西の勇者は思うたよりも人間味のある御仁だな。安心せよ。私はそなたの師匠を取って食うたりせぬ」
「なんだと!」

 どうもこの二人、相性がかなり悪いようで、すぐ喧嘩腰になるんだよな。
 国際問題になるから勇者も落ち着いて欲しい。
 勇者と言っても元はミホムの貴族。
 大連合はミホムとは直接国境を接しているので微妙に緊張した関係だからな。

「まぁ落ち着けアルフ。お前には関係ない世間話に聞こえるだろうが、人と人と言うのは要件だけ話せばそれで終わりというのでは長続きしない。お互いを理解するためには会話することは大切なんだぞ」
「長く付き合う必要はないだろ。どうせもう次はない。大連合は俺たちとは別のことわりで動く地だ。俺が首を突っ込む必要はないからな」

 うわぁ、はっきりと拒絶したぞ。
 いくらなんでも失礼すぎるだろ。
 だがある意味それは勇者が大連合の問題に口出しはしないという宣言でもある。
 悪いばかりの言葉でもなかった。

「ふふっ、まこと西の勇者は良き戦士よの。戦士というものは単純なものほど強い。そういう意味では間違いなくそなたは最強にもなれよう」

 うわあ! 大巫女様、実は怒ってるのか?
 一見褒めているようだが挑発にしか聞こえないぞ。

「……確かにこの地の戦士は純粋で強い。それは認めよう。だが、勇者はそれだけの存在ではない。そこは肝に命じておけ」
「ほう。我らが戦士をお褒めいただきありがたい」

 お? 勇者の舌鋒が少し鈍ったぞ。
 ああそうか。
 この地の戦士と共に狩りをしたんで仲間意識が出来たんだな。
 何にせよあからさまな罵り合いが始まらずによかった。
 周囲の戦士たちも今の状態なら褒め合っていると感じているようでほのぼのとした様子だ。

「こほん! 二人共打ち解けてなによりです。ところで、肝心の本題のほうは?」

 頃合いと見て話を戻す。
 このまま延々と続けられたら間違いなく険悪な状態になっていたはずだ。
 嫌味の応酬は止めてほしい。

 そうか、よく考えたらこの二人、かなり年が近い感じだ。
 大巫女様も二十を越えたばかりという年頃に見える。
 年頃も地位も近いせいで同類嫌悪みたいな状態に陥っているのかもしれない。

「ああ、申し訳ない。我が大祖母オオババ様の墓を詣るという話は受け入れられた。ただし、大祖母様の眠る青銀の祈りの野以外には立ち入らせる訳にはいかぬがよろしいか?」
「もちろんだ。あなたがたの聖地をむやみに荒らすつもりはない。このような要望を容れてくれてありがたい」
「なに。我らが同胞を悲惨な運命から救ってくれたのだ。虜囚となっていた者も盗賊に堕ちた者も、取り返しのつかないことになる前に救われた。これに恩義を感じぬ同胞はおるまいよ」
「まぁそれは勇者様と聖女様の手柄であって、俺はおまけのようなものだ。それなのに俺個人のわがままを言ったのだから拒絶されても仕方がないと思っていた」
「何を言う」

 大巫女様が呆れたように言った。

「師というものは弟子にとっては親よりも尊いものだ。弟子の成したことは師の手柄。そなたは大いに誇るべきであろう」
「お前、たまにはいいことを言うな!」

 大巫女の言葉に勇者がすかさず賛同した。
 お前は本当に調子がいいな!

「ピャッ!」
「お前は黙ってろ」

 フォルテが頭の上でもそもそと動いて胸を張ってみせようとしたので意思を伝えて抑える。
 隠れてろって言っただろうが!

「ん? 今なにか……」

 まずい、大巫女様が感づいた。

「そ、それで、どうやって聖地まで行くのですか? 聖地はこの湖の対岸ですよね?」
「ああそうだ。ルートとしては二つある。湖を回り込むように進むルートと湖を船で横断するルートだ。湖を回り込むルートはほかの部族の土地を二つほど通らなければならんので、少し面倒になる。そこで湖を船で横断するルートを考えておるのだが」
「船か、……」

 船には以前東方の南海国で乗ったことがあるのだが、船酔いで大変な目に遭ったものだ。
 正直、あまり船は乗りたくない。
 だが贅沢も言っていられないだろう。

「わかった。それでお願いする」

 船で湖を渡って聖地へと入ることが決まった。

「お師匠様、実はわたくし、船酔いに効果がある魔法を考えました」
「なんだと?」

 聖女が驚きの事実を教えてくれた。
 以前は船であんなに辛そうにして、魔法ではどうにも出来ないと言っていたのに、大したものだ。

「船は不規則に揺れるため、体の感覚がおかしくなるのだと思うのです。だから、船の上でも体が揺れないようにすればいいと思って。そういう魔法を考えました」
「なるほど。さすがミュリアは賢いな」
「うふふ」

 褒められてニコニコと嬉しそうな聖女を見ながら、これで船旅の不安も解消されたと少しだけ気持ちが楽になったのだった。
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