勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
589 / 885
第七章 幻の都

694 敵か味方かで語ることは出来ない

しおりを挟む
 勇者とか聖女とかは、組織と言うと、きっちりと役職が決まっていて、規律正しく運用されているものという認識があるようだ。
 だが、冒険者の作るギルドにおいては、その常識は通用しない。

 冒険者ギルドというのは、言ってみれば獣の群れだ。
 ボスがいて、そのボスが配下の面倒を見る。
 狩りをして、その獲物で群れを養う。

「つまり、冒険者や探索者のギルドという組織は、組織としての体を成してないということか?」

 俺の説明に、勇者はふむとうなずいた。

「全部が全部じゃないがな。俺が所属している先駆けの街のギルドなんかは、わりと組織立っているし。ミホム王国は、なんだかんだ言って、冒険者を優遇しているからな」
「優遇していると組織が出来るのですか?」

 俺の説明に、聖女が不思議そうに尋ねた。
 俺はうなずいて答える。

「国がギルドという組織を認めていて、商組合と同じように、運営許可を発行しているんだ。つまりだ。届け出やらなんやらで、書類仕事が必須となる」
「書類……仕事、ですか?」
「組織の構成を提出しなければならないから、構成員のリストが作られる。収支の報告が必要なので、金勘定の記録が必要となる。こういうのは書類として残さないと、報告出来ない」

 聖女はきょとんとしている。

「それは、普通のことですよね?」
「いやいや、ミュリア。衝撃の事実を教えておこう。なんと、冒険者のほとんどは、文字の読み書きが出来ない」
「ええっ!」

 聖女が面白いように驚いてくれた。
 聞き上手だな。

「師匠は読み書き出来るよな?」
「おう。……必要があって覚えた」
「さすが師匠だ!」

 勇者がまた禁止ワードを口にするが、もう勇者を止めるのを諦めた俺は、せめてもの抵抗にスルーすることにした。
 それにさすがでもなんでもない。
 師匠が、いろいろな場所の花街で借金を作っていたり、意中の女に届け物をしたりを繰り返していたので、俺が後始末に奔走して、結果的に文字と数字を覚えざるを得なかったというだけの話だ。

 あと、花街の女達が面白がって俺に本の読み聞かせや、計算問題などを教えてくれたというのもある。
 師匠が好きになる女は、ただ美人というだけではなく、頭がよくて、なんでも出来る、いわゆる最上級の女達だった。

 彼女達は、師匠に振り回されている俺に同情したのか、いろいろと良くしてくれたのだ。
 なかには病気で先がない女なんかもいて、最期に何かを残したいと、知っている限りのことを教えてくれたりもした。
 おかげで俺にとって、花街という場所は、決して薄汚れた場所でも、女を買いあさる場所でもなくなってしまった訳だが、まぁそれはどうでもいいとして、とにかく俺の場合は運がよかっただけと言える。

 平民にとって、商売などに関わるのでなければ、文字など必須ではないのだ。
 学ぶためだけに時間を使うというのは、とても贅沢なことだからな。

「つまり、組織化には、組織のトップがその集団を完全に把握しておく必要があるんだが、この迷宮都市の探索者ギルドの場合、面倒な書類なんかは、手を組んだ支援者に任せて、ただの戦闘集団みたいな感じになっていることがほとんどでな。探索者達は、何も考えていないことが多い」
「その習慣が、そのままここに引き継がれているってことか?」
「そうそう」

 ただ、俺達が所属していたギルドは、まがりなりにも、貴族としての教育を受けられたカーンがいたおかげで、自分達で組織をまとめることに成功していた。
 だが、奴隷の子として生まれたメイサー達兄妹に、そんな教養があるはずもない。
 このヤサの集団が、かなり適当に暮らしているのは、組織としての形が出来ていないせいだろう。
 野盗の集団なんかとおんなじだ。

「つまりこの集団は、メイサー殿の魅力だけでまとまっているのですね」

 聖騎士がそう話をまとめてみせた。

「そういうことだ」

 なんでこんな話をしているかというと、俺達の今後の方針を決めるにあたって、メイサー達からどう離脱するかということが、最大の懸念材料だからである。
 つまり攻略するために、相手の情報をまとめている感じだな。

「組織としてまとまってないってことは、みんな好き勝手なことをしているってことだよな」

 勇者が今の話を踏まえて意見を出す。

「まぁそうなるな。一応戦える者は狩りや採取をして、戦えない者は、裏方の仕事をするってのは決まっているようだが」
「それなら俺達が勝手に出て行っても、誰も気にしないんじゃないか?」

 勇者の到達した結論は、かなり楽観的なものだった。

「問題は、メイサー達が、ここにいるということを、地上の連中に知られたくないという部分で、意思統一されているということだ。それぞれ事情は違うようだが」
「あー、理解した。なるほどね。連中からしてみれば、俺達は、潜在的な危険因子ということだ。師匠が毒殺を懸念した理由がようやくわかった」
「いや、そこまで直接的に疑った訳じゃないぞ?」

 勘の鋭い勇者は、俺が食材を確認しに行った理由にすんなりと気づいたようだった。

「でも……」

 メルリルが首をかしげつつ発言する。

「私達に対して、誰からも悪意は感じられなかった。あの、メイサーさん、も。……それどころか、好意的、……だった」

 なにやら歯切れが悪い。
 しかし、共感能力があるメルリルがそう言うなら、今のところ相手の悪意を疑う必要はないのかもしれない。

「まぁ今のところは俺達の取り込みを狙っている感じだよな。それが無理とわかってからどうなるかってところか」

 勇者が核心を突く。

「今は俺達に好意的なリクスだって、ミュリアがここから出て、二度と戻って来ないとなったら、敵に回る可能性が高い」

 お前、言いにくいことをズバズバ言うな。

「そ、そんなことはありません。リクスはいい子です」
「ミュリアは甘い。まぁそこが美点でもあるんだが、人ってのはそう、美しい存在じゃないぞ」

 ぽつりと言い放った勇者は、ひどく難しい顔をしていたが。

「それでも、わたくしはリクスを信じます」

 きっぱりと言い切った聖女に、笑みを向けた。

「ミュリアはそれでいいのかもな。人の不安を払うのは俺の役目だ」

 勇者は、ときどきひどく酷薄な表情をすることがある。
 人の希望である勇者なんだが、あまり人の善性を信じてはいない。
 そういう気持ちが、他人に対する冷淡さとして表れているのかもしれないな。

「まぁまぁ。先入観があると、なんでもないことを疑うようになってしまう。そこは注意しておこう。少なくとも、メイサー達は現時点では、敵という訳ではないしな」
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。