勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
599 / 885
第七章 幻の都

704 取り引きの罠

しおりを挟む
 ヤサが襲撃を受けている、丁度その頃。メイサー達のほうもかなり大変な状況だったらしい。
 このときの出来事は、時系列がはっきりしない部分が多くて、勇者なんかは、自分が関わったこと以外はどうでもいいというスタンスで、記録をつけていた。
 後に、大聖堂で聖者さまから、あの優し気な顔で、「巷で語られている噂のうち、どれが本当で、どれが偽りなのでしょう?」などと言われてしまい、言外に、正確な記録をつけさせるようにとのご指示をいただいた訳だが、これに勇者が猛反発して……ああ、いや、その話はどうでもいいか。

 ともかく、正確なところを本人から確認しておいた俺を褒めて欲しい。
 もちろん俺も報告しなかったことはある。
 プライベートなことは、記録として残すべきではないからな。

 迷宮の浅い層、順を追って数えると、十層ぐらいらしいが、迷宮には吹き抜けのようになっている場所もあるし、正確な数字で測るのは難しい。
 まぁ、とにかく十層ぐらいの安全な場所で、メイサー達は、用心を重ねて、商人と取り引きをしていたようだ。
 普通、こういう取り引きは、商人の部下が行うものなのだが、メイサーの要望で、商人本人を来させていた。
 いざというときに人質に出来るし、部下だと、そいつだけを切り捨てて、メイサー達をだまし討ちにすることも出来るからな。

 そして、そこからわかるのは、そんな取り引きに応じるぐらい、メイサー達の持ち込む収穫物は、ほかの探索者と比べても群を抜いて、上物だったということだ。

 まぁ最深部周辺に拠点を構えているんだから、当然かもしれない。
 普通、どんな探索者だって、深部に潜ったまま、採取を続けたりはしないからな。

闇灯やみあかり殿、今回の品物には、その、遺物が少ないように思えますが」
「仕方あるまい。探索出来る場所は、ほぼ掘り尽くしたと言っていい。だが、その分、魔鉱石や魔物の素材はあるはずだが?」

 目深に兜を被ったメイサーと、魔道具を身に着けて、煌びやかな魔宝石の光を帯びている商人が向かい合って話す。
 互いに、背後には見るからに一癖も二癖もありそうな護衛をつけている。
 なかなかに緊張感あふれる取り引きだが、彼等はこういうやり取りを、もう何年も続けて来ていて、言うなれば、慣れたやり取りでもあった。

「ふむふむ。まぁ普通のギルドに比べれば、確かに量も質も段違いですね」
「わかったら、リストにあるものと交換だ。あんたの苦労に見合うだけの割引には応じるが、目に余るようなら、取り引き相手を変えても一向にかまわないぞ?」

 定型文のようなやりとりに、しかし、ほころびを生じさせたのは相手からだった。

「どうでしょう? ほかの取引相手なんて見つけられるのでしょうかね? 私達ももう長い。そろそろ腹を割ってお話ししませんか?」
「話すことなど何もない」
「まぁそうおっしゃらずに……メイサー殿・・・・・

 双方の陣営に緊張が走った。
 メイサー達は、迷宮を根城にする特殊なギルド闇灯やみあかりとして、これまでこの商人と取り引きをして来ていて、メイサーの名を明かしたことはなかったのだ。

「詮索は、命取りだぞ?」
「今さら、そのようなことをおっしゃらなくてもいいじゃないですか。元のギルドの名前は『闇のなかの灯』でしたっけ? 似たような名前にしたのは、誰かに気づいて欲しかったからなのでは?」
「貴様……」

 メイサーはエストックを素早く抜き放った。
 背後の護衛達も全員武器を抜く。

「メイサー殿と言えば、評判の美貌の持ち主でありましたなぁ。そうそう、父親は、愚かにも商品に手を出して、処刑され、母親は違法奴隷を高値で買い取る貴族に買われて、何やら魔法の実験台になったとか……」

 メイサーのエストックが空気を斬り裂き、商人の、魔道具に守られていたはずの兜を弾き飛ばした。

「おほっ! いやいや、短気は損気ですぞ。メイサー殿。実は、わたくし共、何度かの逢瀬の際に、こっそりと後を追わせましてね。実に用心深くて、それは苦労しましたが、ついに貴女方の、隠れ家をば、発見したのですよ」
「っ! 貴様! まさか!」
「おお、怖い怖い、そのように顔も見えないのでは、きちんとお話しも出来かねますなぁ。さ、わたくしも素顔となった訳ですし、噂に高い御尊顔を拝ませていただけませんか?」

 メイサー達は、行動に迷った。
 この商人が偽りを言っている可能性もある。
 だが、本当であった場合、ヤサの仲間が危険に晒されることとなるのだ。

 顔を見せる程度と、メイサーは考えたようだが、実は、これは商人らしい取り引きのノウハウだった。
 人は、一つを譲れば、後は持ちこたえるのが難しくなるものだ。
 メイサーが兜を外して見せると、商人と、そしてその背後から、思わず感嘆の声が上がった。

「これは……噂というものは誇張されるものですが、いやはや、実に、噂以上ですな。なるほど。わたくしとしても、売り物が増えてありがたい限りですよ」
「売り物、だと?」
「ええ。わたくしは商人ですからね。売れるものは何でも売ります。貴女方は、これまで本当に価値ある遺物は、渡して来なかった。そうでしょう?」
「……だったら? お前の商品に十分以上に見合うものは渡していたはずだが?」
「足りない、足りないのですよ! わたくしは、この街一番の、いや、この国一番の商人として成功したいと思っています。これは、あなた方冒険者にも理解出来る気持ちではないですかな?」

 メイサーは、勝ち誇ったような商人に無言を返した。

「実は今、この街に最大のチャンスが訪れているのです。なんと、あの勇者さまが、この迷宮に隠された、聖なる武器を探して訪れたのですよ! そこへもし、わたくしの店が、最高の遺物の武器を売ったとしたら? その名誉は、国中に、いえ、世界中に轟くことになるでしょう!」
「愚かだな……」
「迷宮に巣を作る落伍者共にはわからんか」

 メイサーが愚かだなと言ったのは、勇者の居場所を知っていたからだが、商人はもちろんそんなことは知らない。
 楽し気に宣言した。

「さぁ、大人しく投降すれば、悪いようにはしない。少なくとも生きて地上に出れますからね。抵抗したら、何もかも失うことになる」

 商人の合図と共に、高価な魔道具を使って潜んでいた、傭兵達が姿を現した。
 その数は五十人近く。
 十人にも満たないメイサー達にとって、抵抗するのもバカバカしい数だった。

「あはははははっ!」

 メイサーが急に笑い出したせいで、商人は少し驚いた顔になったが、すぐに落ち着きを取り戻す。

「おやおや、気が触れでもしましたか?」
「馬鹿め、貴様等は迷宮を知らない!」

 そして、メイサーは合図と共に、部下に煙幕を張らせた。
 迷宮内部は地上とは違い、ほぼ閉鎖空間に近い。
 そんなところで煙幕を張られれば、もはや何も見えなくなってしまう。
 そして、見えない場所で行動するなら、その場所をよく知っている必要があった。

 メイサー達は、こんな場合のために、きっちりと備えていたのだ。

「くそっ! 逃がすな!」

 商人は怒鳴ったが、後の祭り。
 メイサー達は撤退し、ヤサの混乱のなかへと合流することとなった。

「ち、まぁいい。連中のアジトには既に、裏仕事専門の探索者共を向かわせている。あの女を商品にしそこなったのは惜しいが、お宝は俺のものだ」

 メイサー達を逃がした商人は、しかし、そう嘯いた。
 少々手違いはあったとしても、勝利を確信していたのだ。

「そうか。で、詳しく話を聞きたいんだが?」

 首に、蛇のように冷たい鎖が絡みつき、聞き覚えのない男の声がそう告げるのを耳にするまでの、儚い勝利ではあった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。