勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

752 英雄と姫君

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 会食の後、サーサム卿とファラリア嬢が、俺達全員が集まっている勇者の部屋を訪ねて来た。
 なんで全員が勇者の部屋にいるかというと、毎度のことだが、勇者の部屋が一番広いからだ。
 貴族用の客室というものは、家族単位で、従者と共に過ごせる造りになっている。

 つまり大きな部屋が何室もある小さな館のような部屋なのだ。
 正直、全員がこの部屋に泊まってもいいんじゃないかと思うんだが、貴族のしきたりとかで、称号持ちにはそれぞれ別室をあてがう必要があるらしい。
 面倒くさいよな。
 勇者には俺以外の従者はいないので、領主の使用人を傍仕えとしてあてがわれそうになったが、勇者が断固として断った。
 可愛いお嬢さん達が、我も我もと立候補したらしいので、嫌な予感がしたんだろう。

 そうなると、自分ではほとんど何も出来ない勇者の世話は、俺やパーティの仲間がする羽目になる。
 いや、頼めば領主館の使用人にやってもらえるんだが、いろいろはかりごとをしている関係で、他人を近寄らせるのは遠慮したかったという事情もある訳だ。

「いや、師匠。俺だって茶ぐらい自分で淹れられるぞ」
「茶筒一杯の茶葉を全部ぶち込んだ奴は黙ってろ」

 来客のために、俺が勇者に少々当てこすりを言いながら茶の準備をしていると、何やら自信ありげに勇者がのたまわった。
 勇者はちょくちょく、暇つぶしのように俺の真似事をすることがある。
 だが、いつまでたっても、雑事を大雑把にしか覚えないので、失敗することが多い。
 いい茶葉を使って、毒物のような味にした恨みは忘れないぞ。

「うふふ。くつろいでいるときの皆さま方は、のびのびしてらして楽しそうです」

 ファラリア嬢が、ゆったりとソファーに座ってそう言った。
 ソファーには十分な空間があるのだが、サーサム卿にぴったりと寄り添っている。
 サーサム卿のほうは、少し居心地が悪そうだった。
 嫌がっているのではなく、その逆だろう。
 少しでも好意を持っている異性にぴったりとくっつかれるのは、うれしいと同時に、大変困る。
 頭がぼーっとして、まともにものが考えられなくなるのだ。

 大事な話をしに来たんだろうに、大丈夫か?

「ここはまぁ、過ごしやすい内だな。ときに貴族の館は、野営よりも過ごし辛いことがある」

 勇者がはっきりと言う。
 お前、少しはやんわりと遠回しに伝える努力をしろ。
 いや、こいつ、そういう話術を駆使出来ない訳じゃないんだよな。
 貴族と丁々発止やり合うときには、遠回しな皮肉とか、それとはわからない悪口とか言ってるから。
 一度気を許すと、気を抜くんだろう。
 としても、気を抜き過ぎだが。

「それはわかる。俺も、見た目だけ立派で実のない貴族の館に滞在するのは苦痛でならんときがある」

 意外にも、サーサム卿が、勇者の言葉に同意した。

「そうだったのですね。ご苦労をさせてしまい、申し訳ありません。今度からは私が付いておりますゆえ、そんなご不快な思いはさせませんわ」

 そして、ファラリア嬢から変な合いの手が入る。
 この言い方だと、今後ずっとサーサム卿の道中にファラリア嬢が付き従うということになるな。
 そこにツッコんだら、絶対野暮なことになるから、ツッコまないが。

 しかし我らが勇者さまは、そういう場の空気というものを、読む能力がいまいちだった。

「ほう。これからは、特権騎士ホーリーアイとしての任に、ファラリア嬢が同行するのか? 女人の身で厳しくはないか?」

 これは、おそらく純粋な心配から出た言葉だろう。
 勇者は、女性や子どもには少々過保護なところがある。

「まぁありがとうございます勇者さま。私のような者の身を案じてくださって。ですが、この国一番の英雄が共にいるのですから、これほど心強いこともありませんわ」
「うぬう」

 ファラリア嬢の言葉に、サーサム卿がうなり声を上げた。
 これはあれだな、全く納得してないな?

「お茶をどうぞ。お二人ともお疲れでしょうから、ジャムを添えてありますので、お好みの量を茶に入れて味わってください。香りもなかなかいいですよ」
「まぁうれしい!」

 俺が淹れた茶をお客さまであるサーサム卿とファラリア嬢に配ると、少し大げさなほど喜ばれた。
 女性はだいたい甘いものが好きだよな。

「余ったジャムは、こっちの焼き菓子に乗せて食べるのもおすすめですよ」

 メルリルが、俺の後に焼き菓子をテーブルに出しながら言い添える。

「うんうん。師匠の淹れてくれる茶は美味いからな。存分に味わうといい」

 勇者よ、なんでそんなに自慢げなんだ?
 というか、さっそく大量のジャムを茶に投入するな。
 少しずつ、香りを楽しみながら入れていくもんなんだぞ。

 俺が勇者の茶の飲み方に憮然としていると、聖女がファラリア嬢に話しかけているのが聞こえた。

「ファラリアさまは、どうしてサーサム卿に同道なされることにされたのですか?」

 聖女の質問は、今回限りのこととも、これからずっとのこととも取れる。

「この方、一度屋敷から出立すると、完全に行方をくらましてしまわれますの。我が家とて、それなりの情報網は持っているのですが、差し向けた隠密の使者は全て撒いてしまわれて。おこなったことの結果のみが、伝えられるばかりで、本人がどこで何をしているのかは、さっぱりなのです。父などは、エンデの好きにさせておけばいいとか言って、完全に任せきりです。でも、それは統治者として、少し危ういと思うのです。もちろんエンデを信用しているのは当然ですが、強いからといって、絶対に大丈夫などということはありませんもの」

 ファラリア嬢は、これからずっとの意味で受け取ったらしい。
 そんな説明をしていた。

「大公陛下のために働いているのに、全く連絡を入れないのか?」

 勇者が眉をひそめて尋ねる。
 サーサム卿は、少ししどろもどろに答えた。

「隠密連中は皆同じように見えて、全て撒いてしまうし、大事な要件は、信頼出来ぬ者には伝えられぬ。自分で戻ったときにきっちり報告はしているぞ」

 味方の隠密も撒くのか。
 何か合図とか、印とか決めておけばいいんじゃないのか?

「このようにおっしゃって、年に一度戻るかどうかという、有様なのです。おかげで、私共は全く状況がわからず、常にやきもきさせられることになっていましたの。それで、私がエンデの補佐として行動を共にすることになったのです。他人を信用しない方ですけど、私なら安心してくださいますし」
「別の心配もあるがな」

 ファラリア嬢の言葉に、サーサム卿がうなるように言った。
 そりゃあね、主君の姫君を連れまわすってことだからな。
 よく考えてみりゃあ、とんでもない話だよな。
 大公陛下が世襲制ではない、この国だからこそ、許されたことだろう。

「私達の心配を少しは味わえばいいのです」

 小さい声で、ファラリア嬢が言う。
 サーサム卿は、まるで叱られた犬のような顔になった。

 どうやら、うまくやっていけそうじゃないか? この二人。
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