勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
648 / 885
第八章 真なる聖剣

753 無我夢中でゴールを目指す

しおりを挟む
 サーサム卿達大公陛下の使者が訪れてしばらくして、とんでもない一報が届いた。
 なんと、大聖堂から聖者さまが訪れるという。
 その滞在の準備をするようにとの先触れがあったのだが、その先触れの時点で、領主館は、パニック状態に陥った。

 通常の巡行の際には、各地の大教会に泊まり、一般の人々に場所を開放した上で、説教を行ったりするものらしい。
 ところが今回は、この地の大教会である、上層教会ではなく、領主館泊ということで話が回って来ていた。

 これは、上層教会からしてみれば、大変な恥辱であり、ある意味御叱りのようなものと受け止められる。
 まぁ仕方ないよな。
 あの現状じゃ。
 とは言え、現在は仮とは言え、ちゃんとした教手おしえての人が上層教会を取り仕切っているので、その辺りは、なんとか折り合いをつけてもらいたいところだ。

 いや、そんな場合じゃない。
 真っ青になったホルスが、凄い顔で、カーンとメイサーを働かせ始めたのだ。
 最初はぐずっていた二人だったが、働かないと、お前等の目の前で自刃してやるというような脅しをしたらしい。
 震えあがった二人はさっそく働き出した。
 すごいな、ホルス。

 この二人に何をやらせたかというと、聖者さまが到着する前に、七家全部の代表を集める必要があるため、カーンに直筆署名入りの手紙を書かせて、その手紙に大公陛下の署名を入れてもらい、各家に檄文のような形で届けるらしい。

 ようするに、お前等すぐに来ないと大公陛下と魔獣公を敵に回すけどそれでいいのか? というような脅しを、遠回しにやったようだ。
 貴族、こええよ。

 メイサーの役割は、街の探索者ギルドと商人の抑えだ。
 カーンのガサ入れによって、探索者ギルドも、それを裏で支えている大商人もおとなしくはなっていたが、ここで聖者に対して何か粗相があったら、街全体が熱心な信者によって破壊されかねない。
 その辺りをきっちり言い聞かせる必要があった。
 商人はともかく、探索者連中は頭が悪い奴が多いからな。

 それと、探索者として働くことも出来ず、犯罪まがいのことをやって生きている連中もいて、そういう奴等にもメイサーは顔が利く。
 もともと、そこからのし上がった人間だからな。
 つまりこの街でバカをやりそうな連中に釘を刺しておけということだ。

「わかった。ついでに掃除もしとくよ」

 とは、メイサ―の言葉。
 頼もしい。
 それとは逆に。カーンと来たら……。

「うおおおおおっ! き、貴族の脅迫状ってのは、なんて面倒臭いんだ!」

 などと頭を掻きむしりながらわめいていた。

「我が君。脅迫状ではありません。招待状です」
「体裁の話じゃねえんだよ! わかってんだろうが!」

 まぁホルスが貼り付いているので大丈夫だろうが。

「俺達は特に何もしなくていいのか?」

 思わず勇者に尋ねたが。

「俺達は聖者と同じぐらいの立場のゲストだぞ。本来ならふんぞり返って、いろいろサービスを要求するのが正しい作法だ」

 などと、実にいい加減な答えが返って来たので、どうしようもない。

「うそつけ」

 そんな風に否定はしたものの、正直、俺達に現状やれることはない。
 どう考えても、俺達は邪魔者だった。
 何しろ、俺達がカーン達の手伝いをする訳にはいかないし、その一方で、カーンの立場からすれば、俺達の滞在中は、もてなさない訳にもいかない。
 ホルスもカーンもメイサーも手一杯の今、使用人達にとっては、俺達をどうしていいのか扱いに困っているのが正直なところだろう。

 そこで、俺達は、ホルスからバトンタッチされた、それなりに有能らしい使用人に告げておいたのだ。

「式典を前にして、やらなければならいことがある。こちらで独自に動くから、特に俺達に構わないで大丈夫だ。食事ぐらいは出してもらいたいが」
「承りました」

 ホルスから俺達を任されたらしい使用人は、少しホッとしたような雰囲気で、快く了解してくれたのだった。
 俺達はまず、ロボリスの作業場に向かうことにする。
 連絡係としてつけた使用人からは、必要なものは全て揃って、後は、仕事をするだけとなった、とだいぶ前に告げられていた。
 その後、連絡が来ないので、とりあえず様子を見に行ったほうがいいだろうという話になったのだ。

 そうやって赴いたロボリスの作業場だが、予想に反して静かなものだった。

「ありゃ。試し打ちとかで忙しくやってると思ってたんだが。……もしかして、連絡はまだだが完成したのか?」
「そうだと助かるな。出来るだけ早いうちに、リハーサルをしておきたい」

 そう言いながらも、勇者は慌てた様子はない。
 ある意味世界中を騙すたくらみでもあるんだが、全く気に病んでないらしい。
 俺はずっと胃が痛いっていうのに。

「あっ!」

 作業場の入り口をくぐると、受付の机に突っ伏すように座っていた少女が顔を上げて俺達を見た。
 そして、声を上げる。

「やあ、ひさしぶり、デルタ」

 鍛冶師ロボリスの長女であるデルタである。
 五歳ということだが、年齢から受ける印象よりも、利発そうだ。

「おじさん達、お父さんに何を依頼したの!」

 こ、これは、責められている?

「ま、待った。まずは落ち着いて、話を聞こう」

 なんだか疲れている様子のデルタを座らせる。
 すると、みるみるその両の目に涙が溜まった。

「お父さん、おじさん達が頼んだお仕事に取り掛かってから、最初のうちは、すごく張り切ってたの。うれしそうで。私もうれしかった。……でも」
「あー、なんか行き詰ったのか?」
「うん。窯に火を入れて、打ち始めてから、お父さんどんどん痩せていって、最近は、鉄を打たないで、じっと火を見つめてて……」

 それはヤバいな。
 だいぶ無理なことを頼んだ自覚はあるので、ロボリスにも、その様子を見ている家族にも、申し訳ない気持ちで一杯になる。

「それなら俺が喝を入れて来る」
「え?」

 勇者がローブを脱ぎ捨てると、さっさと作業場へと向かった。
 デルタはびっくりしたようにその後ろ姿を見ている。

 おっと、俺も追いかけないと。
 勇者がうっかり更に追い打ちをかけてしまうようなことがあるとマズいからな。
 とは言え、俺はそれほど心配していなかった。
 勇者は、いろいろ問題がある性格ではあるが、必死でがんばっている庶民に、居丈高に振舞うような男ではない。

「大丈夫。わたくし達にまかせてちょうだい」

 聖女が、少しかがんで、デルタと目を合わせると、にっこりと微笑んで安心させた。
 デルタは、少しぼーっとしているようだ。
 
「はい。あ、あの、お父さんをよろしくお願いします!」

 そして、勢いよく頭を下げて言った。
 さすがは聖女である。
 一瞬で信頼を勝ち取ったようだ。
 しかしまぁ、何か行き詰ったんなら、連絡をくれりゃあいいものを。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。