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第八章 真なる聖剣
772 大公国の港街カリオカ
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しばらく進むと、ザアザアと水の流れる音が聞こえて来た。
ちょうど街道の下に川が流れているのだ。
ディスタス大公国は、あまり川が多い土地ではない。
湧き水などは案外多いが、ほとんどが地下に潜って、表に出て来ないのだ。
そんなディスタス大公国で、一番有名な川がこの北川だ。
大変わかりやすい名前である。
街道は、川を見下ろす崖沿いの道だが、道幅は広く、普通の馬車よりも大きい俺達の乗る魔道馬車でも、十分余裕があった。
「うわぁ、水があんなに流れていますよ」
「そりゃあ川だからな」
ロボリスの長男ルフは、どうやら川が珍しいらしく、御者台から体を乗り出すように川を見下ろしている。
俺は落ちないように片手でルフ少年を支えてやった。
どうせ、魔道馬車は安全設計なので、うっかり崖から転がり落ちる心配もない。
転がり落ちる心配があるほうに気を回すべきだと考えたのだ。
「ルフ、この川がずっと海まで続いて、海に流れ込んでいるんだ。その河口部分に海洋公の名前を冠したカリオカの街がある。大きな船のある港街なんだそうだ」
「ダスターさんも初めてなんですよね?」
「ああ。こっちに来る機会がなくってな」
以前、大陸東方へ行く際に、本来は船で行く予定だったのを変更して陸路で行ったことがあった。
その後、海王や南海、アンリカ・デベッセなどの東方の国で大きな船を見る機会があったが、結局、俺達の住む西方の技術で作られた大型船を見たことはないんだよな。
正直、楽しみでないかと問われれば、楽しみだと答えるだろう。
やがて、道はゆるやかな下り坂になり、川も隠れて見えなくなってしまった。
ルフ少年は残念そうだ。
この辺りは、小高い丘が連続しているような土地で、丘の中腹やてっぺんに、ぽつぽつと家らしきものが見える。
ときどき、立派な角を持つ牛や、巨体で有名な北方馬の姿もあるので、この辺りは牧場地域なのかもしれない。
「ダスターさん! あれ、魔物ですか! 大きいですね!」
北方馬はともかくとして、牛を見ても大騒ぎするルフにいろいろ教えてやるのが楽しい。
やがて、街道がにぎやかになって来た。
周辺の農家や牧場などから荷物を運ぶ荷車や、遠くから商隊を組んで商売の旅をする商人達などが合流し始めたのだ。
蛇行した街道を少し上ったところで、右手に大きな橋が見えて来た。
そして、橋の向こう側に街も見える。
なんと、壁もなにもなく、いきなりい家々が立ち並んでいた。
「そうか、この辺りには、大型の魔物は出ないんだな」
大きな街は全て壁で囲むという常識が、この街では通じないらしい。
川は街近くでは、水面よりも街のほうが低い場所にあるように見えた。
橋のある川の周辺は、まるで丘のように土地が盛り上がっていて、橋が川を越えて、そのまま地面まで続いて、街道と交わっている。
街へ入るには、どうやらこの橋を渡ればいいらしい。
巨大な石造りの橋は、なぜか途中から分離して街のほうまで続いている。
橋には、兵士が見張っているということもなく、特に街に入るために調べられることもない。
オープンな街だ。
馬車を進めて行くと、先程、橋から分離した石の通路が、街なかにある溝の上で階段状になり、そこを水が流れ落ちているのが見えた。
「あ、あれは、噂に聞いた水道の仕組みですね」
「なるほどなぁ。ってことはあのでかい橋は、水を汲む仕組みでもある訳か」
「きっとそうですよ! 詳しく知りたいなぁ」
技術的なことなら、鍛冶師の範疇でなくても興味があるらしいルフは、普段の内気な部分が引っ込んで、はしゃいでいる。
道なりに進むと、街の規模に圧倒された。
「迷宮都市だってかなり大きな街だったが、ここもまた広いな。さすがに帝国の帝都ほどじゃないが」
「ダスターさんは帝国にも行かれたことがあるんですね!」
「ああ。まぁな」
「ふわー」
「前に言った蒸気機関列車は、帝国にもあるぞ」
「いいなー、行ってみたいな」
「いつか行けばいいさ。ルフぐらいの年頃なら、なんだってやろうと思えば出来ないことはないからな」
「はい!」
街に入って、宿を探す。
大型の荷馬車が行き交う商人が多い区域を避け、比較的落ち着いた通りに馬車を進める。
途中、道の端に佇んでいる、衛兵らしき人物に声を掛けた。
「すまないが、この辺に、馬車を停められる宿はあるか? なければ、馬車停めのある広場でもいいが」
「む? 遠方からの旅行者か?」
「ああ。実は西側から大聖堂に向かうつもりなんだ」
「ほう! それはまた奇特だな。そうか北の墓所に詣るつもりだな。いい心がけだ」
北の墓所のことは知らないが、無難にうなずいておいた。
「この先に、貴人もお泊りになることのある歴史ある宿泊所がある。安くはないが、高すぎるということもないので、ちょうどいいだろう。それに宿のオーナーは、信仰心豊かな人物だ。そのような道中であると告げれば、便宜を図ってくれるだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
礼を言って教えられた宿に行くと、古い立派な建物があった。
「予想よりも高級そうだな」
とは言え、今回はお忍びという訳ではないので、勇者としての格落ちしない宿を選んだほうがいいだろう。
「待っててくれ。ちょっと泊まれるかどうか聞いて来る」
「俺も行く。あ、ルフは危ないから馬車のなかに入っていろ」
「あっ、……はい、勇者さま」
馬車を停めた途端、勇者が馬車から飛び降りて来た。
ずっとなかで退屈だったのか?
子どもか?
入れ替わりにルフを馬車に入れ、念の為に聖女に害意のある者を近づけない結界を張るように頼んでから宿に向かった。
「師匠。今回は俺が交渉する」
「……そうか」
そんなに張り切ってるなら、任せてみるか。
ちょうど街道の下に川が流れているのだ。
ディスタス大公国は、あまり川が多い土地ではない。
湧き水などは案外多いが、ほとんどが地下に潜って、表に出て来ないのだ。
そんなディスタス大公国で、一番有名な川がこの北川だ。
大変わかりやすい名前である。
街道は、川を見下ろす崖沿いの道だが、道幅は広く、普通の馬車よりも大きい俺達の乗る魔道馬車でも、十分余裕があった。
「うわぁ、水があんなに流れていますよ」
「そりゃあ川だからな」
ロボリスの長男ルフは、どうやら川が珍しいらしく、御者台から体を乗り出すように川を見下ろしている。
俺は落ちないように片手でルフ少年を支えてやった。
どうせ、魔道馬車は安全設計なので、うっかり崖から転がり落ちる心配もない。
転がり落ちる心配があるほうに気を回すべきだと考えたのだ。
「ルフ、この川がずっと海まで続いて、海に流れ込んでいるんだ。その河口部分に海洋公の名前を冠したカリオカの街がある。大きな船のある港街なんだそうだ」
「ダスターさんも初めてなんですよね?」
「ああ。こっちに来る機会がなくってな」
以前、大陸東方へ行く際に、本来は船で行く予定だったのを変更して陸路で行ったことがあった。
その後、海王や南海、アンリカ・デベッセなどの東方の国で大きな船を見る機会があったが、結局、俺達の住む西方の技術で作られた大型船を見たことはないんだよな。
正直、楽しみでないかと問われれば、楽しみだと答えるだろう。
やがて、道はゆるやかな下り坂になり、川も隠れて見えなくなってしまった。
ルフ少年は残念そうだ。
この辺りは、小高い丘が連続しているような土地で、丘の中腹やてっぺんに、ぽつぽつと家らしきものが見える。
ときどき、立派な角を持つ牛や、巨体で有名な北方馬の姿もあるので、この辺りは牧場地域なのかもしれない。
「ダスターさん! あれ、魔物ですか! 大きいですね!」
北方馬はともかくとして、牛を見ても大騒ぎするルフにいろいろ教えてやるのが楽しい。
やがて、街道がにぎやかになって来た。
周辺の農家や牧場などから荷物を運ぶ荷車や、遠くから商隊を組んで商売の旅をする商人達などが合流し始めたのだ。
蛇行した街道を少し上ったところで、右手に大きな橋が見えて来た。
そして、橋の向こう側に街も見える。
なんと、壁もなにもなく、いきなりい家々が立ち並んでいた。
「そうか、この辺りには、大型の魔物は出ないんだな」
大きな街は全て壁で囲むという常識が、この街では通じないらしい。
川は街近くでは、水面よりも街のほうが低い場所にあるように見えた。
橋のある川の周辺は、まるで丘のように土地が盛り上がっていて、橋が川を越えて、そのまま地面まで続いて、街道と交わっている。
街へ入るには、どうやらこの橋を渡ればいいらしい。
巨大な石造りの橋は、なぜか途中から分離して街のほうまで続いている。
橋には、兵士が見張っているということもなく、特に街に入るために調べられることもない。
オープンな街だ。
馬車を進めて行くと、先程、橋から分離した石の通路が、街なかにある溝の上で階段状になり、そこを水が流れ落ちているのが見えた。
「あ、あれは、噂に聞いた水道の仕組みですね」
「なるほどなぁ。ってことはあのでかい橋は、水を汲む仕組みでもある訳か」
「きっとそうですよ! 詳しく知りたいなぁ」
技術的なことなら、鍛冶師の範疇でなくても興味があるらしいルフは、普段の内気な部分が引っ込んで、はしゃいでいる。
道なりに進むと、街の規模に圧倒された。
「迷宮都市だってかなり大きな街だったが、ここもまた広いな。さすがに帝国の帝都ほどじゃないが」
「ダスターさんは帝国にも行かれたことがあるんですね!」
「ああ。まぁな」
「ふわー」
「前に言った蒸気機関列車は、帝国にもあるぞ」
「いいなー、行ってみたいな」
「いつか行けばいいさ。ルフぐらいの年頃なら、なんだってやろうと思えば出来ないことはないからな」
「はい!」
街に入って、宿を探す。
大型の荷馬車が行き交う商人が多い区域を避け、比較的落ち着いた通りに馬車を進める。
途中、道の端に佇んでいる、衛兵らしき人物に声を掛けた。
「すまないが、この辺に、馬車を停められる宿はあるか? なければ、馬車停めのある広場でもいいが」
「む? 遠方からの旅行者か?」
「ああ。実は西側から大聖堂に向かうつもりなんだ」
「ほう! それはまた奇特だな。そうか北の墓所に詣るつもりだな。いい心がけだ」
北の墓所のことは知らないが、無難にうなずいておいた。
「この先に、貴人もお泊りになることのある歴史ある宿泊所がある。安くはないが、高すぎるということもないので、ちょうどいいだろう。それに宿のオーナーは、信仰心豊かな人物だ。そのような道中であると告げれば、便宜を図ってくれるだろう」
「わかりました。ありがとうございます」
礼を言って教えられた宿に行くと、古い立派な建物があった。
「予想よりも高級そうだな」
とは言え、今回はお忍びという訳ではないので、勇者としての格落ちしない宿を選んだほうがいいだろう。
「待っててくれ。ちょっと泊まれるかどうか聞いて来る」
「俺も行く。あ、ルフは危ないから馬車のなかに入っていろ」
「あっ、……はい、勇者さま」
馬車を停めた途端、勇者が馬車から飛び降りて来た。
ずっとなかで退屈だったのか?
子どもか?
入れ替わりにルフを馬車に入れ、念の為に聖女に害意のある者を近づけない結界を張るように頼んでから宿に向かった。
「師匠。今回は俺が交渉する」
「……そうか」
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