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第八章 真なる聖剣
862 晩餐会 2
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「おい。こんなチビがどうして魔法を使えるんだ」
勇者は、平身低頭状態の聖女の兄夫婦を無視して、その頭の上から尋ねた。
当のクリス君は、何が起こったのか理解していない様子だ。
勇者が魔法について尋ねている理由は、本来、四歳では魔法は使えないはずだからである。
貴族は皆魔法を使えるが、平民は、魔力持ちはいても魔法を使える者はいない。
その理由は、神の盟約を使った祝福、魔法紋にある。
魔法紋とは、貴族の手の甲の部分に描かれているおしゃれな文様のことだ。
勇者なんか腕までずっと続いているし、聞いたら、あれ、背中までずっと文様が描かれているっぽい。
結論から言うと、あの魔法紋が施されているから貴族は魔法が使えるのであって、魔法紋がないから、平民は魔力はあっても魔法は使えないという訳だ。
魔法紋は十五歳前後の成人の儀式の際に施されるとのことだから、こんな幼い子どもが間違っても魔法を使えるはずがないのである。
とは言え、今、クリス君が勇者に放ったのは……。
「そ、それが、この子の使うのは魔法と言うよりも、魔力の放出らしくて」
「魔力の放出が火を生み出すのか?」
今度こそ、勇者は驚いたようだ。
俺も驚いた。
魔力というのは、あくまでも魔力であって、それ自体は、定まった状態ではない。
例えば、魔力それ自体を放出して遠当てのようなものとして使う冒険者はいるし、俺みたいに自分の体の一部を強化するのに使う者はいる。
しかし、元貴族とかでもなければ、具体的な作用を引き起こしたりは出来ない。
魔道具などを介せば、平民でも魔法を使えたりするんだが、クリス君の場合は、そういう物も持っていないようだしな。
「わ、我が一族にはときどき、常識を逸脱した能力を持つ子が生まれることがありまして……」
すげえな、魔王さまの血筋。
常軌を逸脱しているとか、自分達で言ってしまえる程おかしいらしい。
こりゃあ大聖堂が常に監視しているはずだ。
「ふーん。そりゃあまた、よくもまぁ大聖堂に連れて行かれなかったな」
勇者がそう口にした途端、場が凍った。
おいおい、ずっとここの一族が不満に思っていることをズケズケと口に出しちゃうのか。
お前ほんと、果敢だよな。
「……我が家は、ロストの家名を継ぎませんでしたので」
う、わ。
長男さん、声が震えているぞ。
「うん? お前、城主の長男なんだろう?」
勇者が顎で示す先には、冷え冷えとした視線で勇者を見るロスト辺境伯の姿があった。
「家庭の事情です」
「そうか。まぁ深くは聞かないさ。それよりも、いい加減這いつくばるのを止めろ。それではまるで俺が幼子のやったことに腹を立てているようではないか」
「……お怒りではない、と?」
「誰もケガをしなかったし、何も壊れてすらないだろ?」
勇者はそう言うと、自分はさっさとクリス君の前にしゃがみこんだ。
「おい、坊主」
「クリス、よんさい、です!」
クリス君は、何が起こったのかはっきりわかってはいないようだが、自分の両親が何やら謝っていることは理解出来ているらしい。
「おとうしゃまと、おかあしゃまは、わるいことしてない、です!」
ちょっと涙を浮かべながら、そう勇者に訴えた。
「おう、よくわかってるじゃないか。悪いことをしたのは、お前だ」
「ふえっ」
あ、泣きそう。
「泣くな、男だろうが!」
幼児にも容赦のない男である。
だが、言われたクリス君は、泣くのをグッとこらえる。
偉いな。
「いいか、よく聞け。その力は、悪い奴から大事な人や自分を護るためのものだ。間違っても、いきなり人に向けていいもんじゃない。今お前が俺にそれを向けたから、お前の父さまや母さまがああやって、お前の代わりに謝っているんだぞ」
「うっうっ、ごめんなさい」
あ、とうとう泣き出した。
さすがの勇者も少し焦っているぞ。
「いいか、ソレは、大人になるまでは、使っていいと言われたときだけ使え。自分で勝手に使うな、わかったな」
コクンとクリス君がうなずく。
「わかりました」
「おう。男と男の約束だぞ」
「ほえ、やくそく」
「そうだ。本当なら契約で縛るぐらいのものなんだぞ、それは。今度やらかしたら、親も甘やかさないで契約で縛ってしまえ」
と、今度は戸惑っている両親に向かって告げる。
「え、あ、でも、そんな小さな子に……」
「馬鹿か、小さくて、自分で判断が出来ないから契約で縛るんだろうが! 精神に負担がかかるとか不安があるなら、その手の専門家でも呼んで、相談しろ。教会や大聖堂が嫌いなんだろうが、そういうことを言っている場合じゃないってことぐらいわかるだろ。何かが起こってからじゃ遅いんだぞ。何よりもクリスに、ものの判断がつかなかった時代にやらかしたことをずっと一生背負わせるつもりか!」
勇者が正論をピシッと言う。
凄く勇者らしくて立派だ。
俺もなんか感動しそうだ。
最近涙腺が弱くなって来てるからな。
「勇者さまのおっしゃる通りです。わたくしにとってはクリスは甥に当たりますから、あえて言わせていただきますが、精神が成長するまでは、いっそ魔力は封印したほうがいいでしょう。大聖堂はそういうことの専門家で、わたくし自身、助けて頂いたことも多いのです。あそこには、ロスト家の影響が色濃く残ってもいます。もう少し、歩み寄ってもいいのではないでしょうか?」
聖女が、勇者の後押しをするように言い募った。
ロスト家の人間は、勇者の言葉には素直にうなずけないかもしれないが、聖女の言葉なら受け入れざるを得ないだろう。
少し乱暴な言い方ではあったが、勇者の言葉で何かが変わってくれるといいんだが。
勇者は、平身低頭状態の聖女の兄夫婦を無視して、その頭の上から尋ねた。
当のクリス君は、何が起こったのか理解していない様子だ。
勇者が魔法について尋ねている理由は、本来、四歳では魔法は使えないはずだからである。
貴族は皆魔法を使えるが、平民は、魔力持ちはいても魔法を使える者はいない。
その理由は、神の盟約を使った祝福、魔法紋にある。
魔法紋とは、貴族の手の甲の部分に描かれているおしゃれな文様のことだ。
勇者なんか腕までずっと続いているし、聞いたら、あれ、背中までずっと文様が描かれているっぽい。
結論から言うと、あの魔法紋が施されているから貴族は魔法が使えるのであって、魔法紋がないから、平民は魔力はあっても魔法は使えないという訳だ。
魔法紋は十五歳前後の成人の儀式の際に施されるとのことだから、こんな幼い子どもが間違っても魔法を使えるはずがないのである。
とは言え、今、クリス君が勇者に放ったのは……。
「そ、それが、この子の使うのは魔法と言うよりも、魔力の放出らしくて」
「魔力の放出が火を生み出すのか?」
今度こそ、勇者は驚いたようだ。
俺も驚いた。
魔力というのは、あくまでも魔力であって、それ自体は、定まった状態ではない。
例えば、魔力それ自体を放出して遠当てのようなものとして使う冒険者はいるし、俺みたいに自分の体の一部を強化するのに使う者はいる。
しかし、元貴族とかでもなければ、具体的な作用を引き起こしたりは出来ない。
魔道具などを介せば、平民でも魔法を使えたりするんだが、クリス君の場合は、そういう物も持っていないようだしな。
「わ、我が一族にはときどき、常識を逸脱した能力を持つ子が生まれることがありまして……」
すげえな、魔王さまの血筋。
常軌を逸脱しているとか、自分達で言ってしまえる程おかしいらしい。
こりゃあ大聖堂が常に監視しているはずだ。
「ふーん。そりゃあまた、よくもまぁ大聖堂に連れて行かれなかったな」
勇者がそう口にした途端、場が凍った。
おいおい、ずっとここの一族が不満に思っていることをズケズケと口に出しちゃうのか。
お前ほんと、果敢だよな。
「……我が家は、ロストの家名を継ぎませんでしたので」
う、わ。
長男さん、声が震えているぞ。
「うん? お前、城主の長男なんだろう?」
勇者が顎で示す先には、冷え冷えとした視線で勇者を見るロスト辺境伯の姿があった。
「家庭の事情です」
「そうか。まぁ深くは聞かないさ。それよりも、いい加減這いつくばるのを止めろ。それではまるで俺が幼子のやったことに腹を立てているようではないか」
「……お怒りではない、と?」
「誰もケガをしなかったし、何も壊れてすらないだろ?」
勇者はそう言うと、自分はさっさとクリス君の前にしゃがみこんだ。
「おい、坊主」
「クリス、よんさい、です!」
クリス君は、何が起こったのかはっきりわかってはいないようだが、自分の両親が何やら謝っていることは理解出来ているらしい。
「おとうしゃまと、おかあしゃまは、わるいことしてない、です!」
ちょっと涙を浮かべながら、そう勇者に訴えた。
「おう、よくわかってるじゃないか。悪いことをしたのは、お前だ」
「ふえっ」
あ、泣きそう。
「泣くな、男だろうが!」
幼児にも容赦のない男である。
だが、言われたクリス君は、泣くのをグッとこらえる。
偉いな。
「いいか、よく聞け。その力は、悪い奴から大事な人や自分を護るためのものだ。間違っても、いきなり人に向けていいもんじゃない。今お前が俺にそれを向けたから、お前の父さまや母さまがああやって、お前の代わりに謝っているんだぞ」
「うっうっ、ごめんなさい」
あ、とうとう泣き出した。
さすがの勇者も少し焦っているぞ。
「いいか、ソレは、大人になるまでは、使っていいと言われたときだけ使え。自分で勝手に使うな、わかったな」
コクンとクリス君がうなずく。
「わかりました」
「おう。男と男の約束だぞ」
「ほえ、やくそく」
「そうだ。本当なら契約で縛るぐらいのものなんだぞ、それは。今度やらかしたら、親も甘やかさないで契約で縛ってしまえ」
と、今度は戸惑っている両親に向かって告げる。
「え、あ、でも、そんな小さな子に……」
「馬鹿か、小さくて、自分で判断が出来ないから契約で縛るんだろうが! 精神に負担がかかるとか不安があるなら、その手の専門家でも呼んで、相談しろ。教会や大聖堂が嫌いなんだろうが、そういうことを言っている場合じゃないってことぐらいわかるだろ。何かが起こってからじゃ遅いんだぞ。何よりもクリスに、ものの判断がつかなかった時代にやらかしたことをずっと一生背負わせるつもりか!」
勇者が正論をピシッと言う。
凄く勇者らしくて立派だ。
俺もなんか感動しそうだ。
最近涙腺が弱くなって来てるからな。
「勇者さまのおっしゃる通りです。わたくしにとってはクリスは甥に当たりますから、あえて言わせていただきますが、精神が成長するまでは、いっそ魔力は封印したほうがいいでしょう。大聖堂はそういうことの専門家で、わたくし自身、助けて頂いたことも多いのです。あそこには、ロスト家の影響が色濃く残ってもいます。もう少し、歩み寄ってもいいのではないでしょうか?」
聖女が、勇者の後押しをするように言い募った。
ロスト家の人間は、勇者の言葉には素直にうなずけないかもしれないが、聖女の言葉なら受け入れざるを得ないだろう。
少し乱暴な言い方ではあったが、勇者の言葉で何かが変わってくれるといいんだが。
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