勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
766 / 885
第八章 真なる聖剣

871 子どもと大人の間

しおりを挟む
 ロスト辺境伯に、地下にいるアドミニス殿の存在と、俺達の訪問目的を説明出来たことで、やっと肩の荷を下ろした気分になれた。
 聖女の実家は、なんというか複雑な事情を抱えているんだな。
 俺は今まで貴族なんか、権利にあぐらをかいて偉ぶっている嫌な奴等と思って来たが、勇者と一緒に行動するようになって、その考えもだいぶ変わって来た。
 特に、貴族のなかでも特殊な立場にいる人達は、一様に、庶民では想像も出来ない苦労をしているようだ。
 俺は平凡な庶民でよかったよ。

 部屋に戻ると、ルフがまだ起きていて、眠い目をこすりながら、「お疲れ様でした」と、労ってくれた。
 ルフは年齢もあって、一人部屋では不便だろうからと、俺と同じ部屋にしてくれたのだ。
 同じ平民だしな。

「起きてたのか。子どもは早く寝ないと、背が伸びないぞ」
「えええええっ」

 俺の言葉にちょっと焦ったルフだったが、すぐに真顔になって呟く。

「いえ、どうせ僕、そんなに背は伸びないと思うんです。多少なりとも大地人の血が入っていますから」

 あー、ロボリスが半分大地人だったな。
 あいつも背が低かった。
 嘘か本当か知らないが、大地人は、地中で生活するために不自由がないように背が縮んだ民と言われている。
 気にしていたのか、悪かったな。

「そうとも限らないだろ? もう大地人の血もだいぶ薄まっただろうし。まぁそれに背が低くても、お前の親父は立派な人物だからな。気にするな」
「さっきと言ってることが違います」

 むむっ、昔うちの村の教会の教手おしえてが、変に敏い子は指導しにくいとか嘆いているのを聞いたことがあるが、なるほど、こういうことか。
 でも、まぁルフの言っていることは正しいからな。
 
「確かにな。俺が間違っていた。変なことを言ってすまなかったな」
「別に謝って欲しい訳じゃないんです。背が伸びないのは仕方のないことですからね」

 くっ、妙に悟っているな。
 きっと遊び友達や修行仲間なんかからさんざん言われたんだろうなぁ。

「ん~、まぁ根拠のない励ましをするのはよくないが、大地人の血が入っているからって必ずしも背が低いとも限らないぞ? それと、ちゃんと寝るのは本当に大事なんで、あまり夜ふかしはしないようにな」
「はい」

 ルフはクスクスと笑ってうなずいた。

「大丈夫です。本当に背のことは気にしてませんから」

 そして真剣な顔になる。

「あの、城主さまは何と?」

 なるほど、それが気になって眠れなかったか。
 俺はポンとルフの肩に手を置いた。
 寝台の端のほうに止まって眠っていたらしいフォルテが、なぜかそれで目を覚ましたらしく、パタパタと飛んで来ると、ルフの頭に止まる。
 もしかして、慰めているのか?

「ああ。大丈夫だ。アドミニス殿のこともわかってもらえたし、ルフの弟子入りの件も話した。反対したり、怒ったりということはなかったぞ」
「そうですか……」

 ルフは肩の力を抜いて、寝台によいしょと座った。

「ご城主さまは、聖女さまのお父さんなんですよね?」
「ああ」
「最初、お二人はあんまり似てないなって思ってたんですけど、お話しをしているのを見ていて、やっぱり聖女さまとちょっと似ていると思うようになりました。少し神経質な感じがするけど、優しい人ですよね。こういうこと言うと、すごく失礼かもしれませんけど、不器用な感じが父さんに少しだけ似ているな、って」

 ルフは眠そうに目をこすりながらそう言って笑う。
 そうか、だいぶ距離も時間も離れたからなぁ……。
 父親に、家族に会いたくなったのかもしれない。
 それで、ロスト辺境伯に父親の姿を重ねて、気になっていたのかもな。

「わかったわかった。話は明日また聞いてやるから、ほら、寝た寝た。フォルテも寝ぼけてルフの髪を引っ張るな」

 俺はルフの頭の上からフォルテをどかして適当な場所に置いてやり、寝台に横たわったルフに毛布をかけてやった。
 大人だけじゃなくて、子どもだっていろいろ悩むよな。
 そう言えば、俺がルフぐらいの頃、師匠を追って村を飛び出したんだっけか。
 十歳か。
 もう半分大人みたいなもんだよな。
 将来について、決断する年頃だ。

 俺は枕元のランプを消し、自分の寝台に潜り込む。
 さてさて、明日からはアドミニス殿から出された課題をこなしに行くか。

「冬に、しかも月の出る夜に咲く花、か。長い冒険者生活でも聞いたことがないな。ちょっと、ワクワクする」

 新しいことを始めるときには、心が弾み、血が熱くなる。
 やっぱり俺は根っからの冒険者なのだと感じる瞬間だ。
 冬越しの時期は、辛いことも多いが、今回は少し違った冬を楽しめそうだ、と期待しながら、いつの間にか眠りへと落ちていったのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる

グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。 『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。 2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。  主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。