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第八章 真なる聖剣
871 子どもと大人の間
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ロスト辺境伯に、地下にいるアドミニス殿の存在と、俺達の訪問目的を説明出来たことで、やっと肩の荷を下ろした気分になれた。
聖女の実家は、なんというか複雑な事情を抱えているんだな。
俺は今まで貴族なんか、権利にあぐらをかいて偉ぶっている嫌な奴等と思って来たが、勇者と一緒に行動するようになって、その考えもだいぶ変わって来た。
特に、貴族のなかでも特殊な立場にいる人達は、一様に、庶民では想像も出来ない苦労をしているようだ。
俺は平凡な庶民でよかったよ。
部屋に戻ると、ルフがまだ起きていて、眠い目をこすりながら、「お疲れ様でした」と、労ってくれた。
ルフは年齢もあって、一人部屋では不便だろうからと、俺と同じ部屋にしてくれたのだ。
同じ平民だしな。
「起きてたのか。子どもは早く寝ないと、背が伸びないぞ」
「えええええっ」
俺の言葉にちょっと焦ったルフだったが、すぐに真顔になって呟く。
「いえ、どうせ僕、そんなに背は伸びないと思うんです。多少なりとも大地人の血が入っていますから」
あー、ロボリスが半分大地人だったな。
あいつも背が低かった。
嘘か本当か知らないが、大地人は、地中で生活するために不自由がないように背が縮んだ民と言われている。
気にしていたのか、悪かったな。
「そうとも限らないだろ? もう大地人の血もだいぶ薄まっただろうし。まぁそれに背が低くても、お前の親父は立派な人物だからな。気にするな」
「さっきと言ってることが違います」
むむっ、昔うちの村の教会の教手が、変に敏い子は指導しにくいとか嘆いているのを聞いたことがあるが、なるほど、こういうことか。
でも、まぁルフの言っていることは正しいからな。
「確かにな。俺が間違っていた。変なことを言ってすまなかったな」
「別に謝って欲しい訳じゃないんです。背が伸びないのは仕方のないことですからね」
くっ、妙に悟っているな。
きっと遊び友達や修行仲間なんかからさんざん言われたんだろうなぁ。
「ん~、まぁ根拠のない励ましをするのはよくないが、大地人の血が入っているからって必ずしも背が低いとも限らないぞ? それと、ちゃんと寝るのは本当に大事なんで、あまり夜ふかしはしないようにな」
「はい」
ルフはクスクスと笑ってうなずいた。
「大丈夫です。本当に背のことは気にしてませんから」
そして真剣な顔になる。
「あの、城主さまは何と?」
なるほど、それが気になって眠れなかったか。
俺はポンとルフの肩に手を置いた。
寝台の端のほうに止まって眠っていたらしいフォルテが、なぜかそれで目を覚ましたらしく、パタパタと飛んで来ると、ルフの頭に止まる。
もしかして、慰めているのか?
「ああ。大丈夫だ。アドミニス殿のこともわかってもらえたし、ルフの弟子入りの件も話した。反対したり、怒ったりということはなかったぞ」
「そうですか……」
ルフは肩の力を抜いて、寝台によいしょと座った。
「ご城主さまは、聖女さまのお父さんなんですよね?」
「ああ」
「最初、お二人はあんまり似てないなって思ってたんですけど、お話しをしているのを見ていて、やっぱり聖女さまとちょっと似ていると思うようになりました。少し神経質な感じがするけど、優しい人ですよね。こういうこと言うと、すごく失礼かもしれませんけど、不器用な感じが父さんに少しだけ似ているな、って」
ルフは眠そうに目をこすりながらそう言って笑う。
そうか、だいぶ距離も時間も離れたからなぁ……。
父親に、家族に会いたくなったのかもしれない。
それで、ロスト辺境伯に父親の姿を重ねて、気になっていたのかもな。
「わかったわかった。話は明日また聞いてやるから、ほら、寝た寝た。フォルテも寝ぼけてルフの髪を引っ張るな」
俺はルフの頭の上からフォルテをどかして適当な場所に置いてやり、寝台に横たわったルフに毛布をかけてやった。
大人だけじゃなくて、子どもだっていろいろ悩むよな。
そう言えば、俺がルフぐらいの頃、師匠を追って村を飛び出したんだっけか。
十歳か。
もう半分大人みたいなもんだよな。
将来について、決断する年頃だ。
俺は枕元のランプを消し、自分の寝台に潜り込む。
さてさて、明日からはアドミニス殿から出された課題をこなしに行くか。
「冬に、しかも月の出る夜に咲く花、か。長い冒険者生活でも聞いたことがないな。ちょっと、ワクワクする」
新しいことを始めるときには、心が弾み、血が熱くなる。
やっぱり俺は根っからの冒険者なのだと感じる瞬間だ。
冬越しの時期は、辛いことも多いが、今回は少し違った冬を楽しめそうだ、と期待しながら、いつの間にか眠りへと落ちていったのだった。
聖女の実家は、なんというか複雑な事情を抱えているんだな。
俺は今まで貴族なんか、権利にあぐらをかいて偉ぶっている嫌な奴等と思って来たが、勇者と一緒に行動するようになって、その考えもだいぶ変わって来た。
特に、貴族のなかでも特殊な立場にいる人達は、一様に、庶民では想像も出来ない苦労をしているようだ。
俺は平凡な庶民でよかったよ。
部屋に戻ると、ルフがまだ起きていて、眠い目をこすりながら、「お疲れ様でした」と、労ってくれた。
ルフは年齢もあって、一人部屋では不便だろうからと、俺と同じ部屋にしてくれたのだ。
同じ平民だしな。
「起きてたのか。子どもは早く寝ないと、背が伸びないぞ」
「えええええっ」
俺の言葉にちょっと焦ったルフだったが、すぐに真顔になって呟く。
「いえ、どうせ僕、そんなに背は伸びないと思うんです。多少なりとも大地人の血が入っていますから」
あー、ロボリスが半分大地人だったな。
あいつも背が低かった。
嘘か本当か知らないが、大地人は、地中で生活するために不自由がないように背が縮んだ民と言われている。
気にしていたのか、悪かったな。
「そうとも限らないだろ? もう大地人の血もだいぶ薄まっただろうし。まぁそれに背が低くても、お前の親父は立派な人物だからな。気にするな」
「さっきと言ってることが違います」
むむっ、昔うちの村の教会の教手が、変に敏い子は指導しにくいとか嘆いているのを聞いたことがあるが、なるほど、こういうことか。
でも、まぁルフの言っていることは正しいからな。
「確かにな。俺が間違っていた。変なことを言ってすまなかったな」
「別に謝って欲しい訳じゃないんです。背が伸びないのは仕方のないことですからね」
くっ、妙に悟っているな。
きっと遊び友達や修行仲間なんかからさんざん言われたんだろうなぁ。
「ん~、まぁ根拠のない励ましをするのはよくないが、大地人の血が入っているからって必ずしも背が低いとも限らないぞ? それと、ちゃんと寝るのは本当に大事なんで、あまり夜ふかしはしないようにな」
「はい」
ルフはクスクスと笑ってうなずいた。
「大丈夫です。本当に背のことは気にしてませんから」
そして真剣な顔になる。
「あの、城主さまは何と?」
なるほど、それが気になって眠れなかったか。
俺はポンとルフの肩に手を置いた。
寝台の端のほうに止まって眠っていたらしいフォルテが、なぜかそれで目を覚ましたらしく、パタパタと飛んで来ると、ルフの頭に止まる。
もしかして、慰めているのか?
「ああ。大丈夫だ。アドミニス殿のこともわかってもらえたし、ルフの弟子入りの件も話した。反対したり、怒ったりということはなかったぞ」
「そうですか……」
ルフは肩の力を抜いて、寝台によいしょと座った。
「ご城主さまは、聖女さまのお父さんなんですよね?」
「ああ」
「最初、お二人はあんまり似てないなって思ってたんですけど、お話しをしているのを見ていて、やっぱり聖女さまとちょっと似ていると思うようになりました。少し神経質な感じがするけど、優しい人ですよね。こういうこと言うと、すごく失礼かもしれませんけど、不器用な感じが父さんに少しだけ似ているな、って」
ルフは眠そうに目をこすりながらそう言って笑う。
そうか、だいぶ距離も時間も離れたからなぁ……。
父親に、家族に会いたくなったのかもしれない。
それで、ロスト辺境伯に父親の姿を重ねて、気になっていたのかもな。
「わかったわかった。話は明日また聞いてやるから、ほら、寝た寝た。フォルテも寝ぼけてルフの髪を引っ張るな」
俺はルフの頭の上からフォルテをどかして適当な場所に置いてやり、寝台に横たわったルフに毛布をかけてやった。
大人だけじゃなくて、子どもだっていろいろ悩むよな。
そう言えば、俺がルフぐらいの頃、師匠を追って村を飛び出したんだっけか。
十歳か。
もう半分大人みたいなもんだよな。
将来について、決断する年頃だ。
俺は枕元のランプを消し、自分の寝台に潜り込む。
さてさて、明日からはアドミニス殿から出された課題をこなしに行くか。
「冬に、しかも月の出る夜に咲く花、か。長い冒険者生活でも聞いたことがないな。ちょっと、ワクワクする」
新しいことを始めるときには、心が弾み、血が熱くなる。
やっぱり俺は根っからの冒険者なのだと感じる瞬間だ。
冬越しの時期は、辛いことも多いが、今回は少し違った冬を楽しめそうだ、と期待しながら、いつの間にか眠りへと落ちていったのだった。
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