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第八章 真なる聖剣
876 湖探索開始
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採取すべき花は夜に咲くのだが、俺達はまだまだ日が高い時分に現地に到着した。
一応夜目は利くとは言え、やはり光がある時間のほうが動きやすいので、かなり余裕を持って行動したのだ。
「で、問題の湖というのはどこだ?」
勇者が肩を竦めて言った。
俺達が持つ湖についての情報は、アドミニス殿から提供された、大川と支流の間というものだけだ。
大公国からの戻りの際には、どうやって国境を越えるか? ということに気を取られていたので、あまり周囲の探索はやっていない。
大川は、そのひねりも何もない名の通り、大陸一の大きな川だ。
その支流には、名前はつけられていないが、それは、流れ込んでいる先が大森林であり、人間には恩恵がないせいでもあった。
だが、それにしても、その支流と本流の間に湖があるというのは初耳だ。
念の為、大聖堂でもらった地図で確認したが、当然記されてはいない。
疑問に思いつつも、俺達は探索を開始する。
組分け案としては、勇者と若葉組、聖女とモンク組、俺とメルリルとフォルテ組だ。
「師匠! 異議を申し立てる!」
それに、勇者が勢いよく反対した。
「なんで俺と若葉で一組なんだ! 人間ですらないじゃねえか!」
なんだそんな疑問か。
「この組分けは、戦闘力を持った人間と、サポート役を相棒として組ませてある。ただ、正直なところ、若葉に何が出来るのかはよくわからない。緑のドラゴンの人間との接触回数は、ドラゴンのなかでも最低と言われているしな。だが、穏やかな気質で、人間の子どもを助けたことがあるというような話もあった。以前に会った白いドラゴンの言葉の印象からして、緑のドラゴンは回復や生産性のある性質を持っていると思われるので、サポート役は出来ると踏んだ訳だ」
「そう! 僕、回復出来るよ!」
若葉が羽根を広げて空中に飛び上がると、くるりと一回転した。
その姿は、色は違えど人間と親しい魔物の一種である、火守りというトカゲに似た魔物と近い。
今度から人に聞かれたら、若葉は火守りの亜種であると答えよう。
火守りはカマドの火の調整とかをしてくれるので、魔物のなかでは圧倒的な奥さま人気を誇るのである。
火守りのいる家に嫁ぐ、とかいうことわざがあるぐらいだ。
若葉の見た目は、花とトカゲを融合したデザインの宝石飾りのようで、他人に警戒心を起こさせないものとなっている。
俺も、若葉が人間に恐怖心を起こさせる見た目だったら、従魔契約を提案などしなかったかもしれない。
見た目は大事だよな。
「まぁ、わたくしと一緒ですね」
聖女がニコニコと嬉しそうに言った。
実際、仲間が出来て嬉しいのかもしれない。
「えへへ。ミュリアとはちょっと違うかな~。ミュリアのは、相手に自分の魔力を注いで、体内で肉体を再生したりしているんだよね。僕はね、新しく作るの」
「まぁそれは凄いですわ! それなら欠損部位なども、簡単に再生出来ますね。私達の魔法では、時間が経過して体が欠損部分を受け入れてしまうと、その再生は不可能になってしまうのです」
「そこは不便なところだよね。でも僕と同じことを人間がやると死んじゃうし、死んじゃっても出来なかったりするから、やらないほうがいいよ」
何かすごい専門的な会話をしているぞ。
「待て。新しく作るということは、人間を人間以外に作り変えることも可能ということか?」
勇者は、その説明に何か感じるところがあったらしい。
なるほど、言われてみればそういう使い方も出来る訳だ。
なんせ新しく作るんだからな。
「えー、やらないよ。アルフ怒るもん」
「俺が怒らなければ出来るんだな?」
「さー、どうかな?」
あ、こいつとぼけてやがる。
まぁ一応形なりとも勇者の従魔ではあることだし、そこを疑ってしまうと話が進まない。
それに俺の勘だが、若葉は勇者のためにしか力を使わないんじゃないかと思う。
つまり、勇者以外と組ませても、何の意味もないということだ。
「ほら、じゃれるのはいい加減にしろ。それで、疑問は解消されたのか? この組分けでいいか? 反対なら、新しい提案をしろ」
「ぐぬぬ……」
勇者が悔しそうにうめく。
もう従魔にしたんだから、そこはあきらめて受け入れるべきところだぞ?
そして、何よりも早く、若葉に出来ることと出来ないことを理解する必要がある。
せっかくとんでもない従魔を得たんだ。
その力を、勇者として使ってみせる度量を持つべきだ、と俺は思う。
とは言え、勇者が、いや、ほとんどの人間が、一部の生活のなかに存在する種族を除き、魔物という存在に対して強い忌避感を持つというのは理解出来る。
特に、このミホムという国では、国の歴史そのものが、魔物との生存競争そのものだったからな。
貴族が消耗を嫌って、魔物退治を平民の仕事としてしまってからは、庶民にとって死活問題となった。
いや、これは勇者には関係ない話か。
勇者が魔物を嫌うのは、魔物から民を救うという役割からすれば、いいことなんだろう。
とりあえず、渋々ながらに納得した勇者以外に異議はなかったので、最初の案のままの組み合わせで、支流の南側から、大川本流までの探索が開始されたのだった。
探索場所としては、平野に近い方から聖女組、勇者組と来て、大森林に入り込む部分は俺とメルリル、そしてフォルテという担当となる。
時間は一応日没前まで。
キャンプ地を作ったので、そこに集合だ。
さてさて、簡単に発見出来るといいんだが……。
一応夜目は利くとは言え、やはり光がある時間のほうが動きやすいので、かなり余裕を持って行動したのだ。
「で、問題の湖というのはどこだ?」
勇者が肩を竦めて言った。
俺達が持つ湖についての情報は、アドミニス殿から提供された、大川と支流の間というものだけだ。
大公国からの戻りの際には、どうやって国境を越えるか? ということに気を取られていたので、あまり周囲の探索はやっていない。
大川は、そのひねりも何もない名の通り、大陸一の大きな川だ。
その支流には、名前はつけられていないが、それは、流れ込んでいる先が大森林であり、人間には恩恵がないせいでもあった。
だが、それにしても、その支流と本流の間に湖があるというのは初耳だ。
念の為、大聖堂でもらった地図で確認したが、当然記されてはいない。
疑問に思いつつも、俺達は探索を開始する。
組分け案としては、勇者と若葉組、聖女とモンク組、俺とメルリルとフォルテ組だ。
「師匠! 異議を申し立てる!」
それに、勇者が勢いよく反対した。
「なんで俺と若葉で一組なんだ! 人間ですらないじゃねえか!」
なんだそんな疑問か。
「この組分けは、戦闘力を持った人間と、サポート役を相棒として組ませてある。ただ、正直なところ、若葉に何が出来るのかはよくわからない。緑のドラゴンの人間との接触回数は、ドラゴンのなかでも最低と言われているしな。だが、穏やかな気質で、人間の子どもを助けたことがあるというような話もあった。以前に会った白いドラゴンの言葉の印象からして、緑のドラゴンは回復や生産性のある性質を持っていると思われるので、サポート役は出来ると踏んだ訳だ」
「そう! 僕、回復出来るよ!」
若葉が羽根を広げて空中に飛び上がると、くるりと一回転した。
その姿は、色は違えど人間と親しい魔物の一種である、火守りというトカゲに似た魔物と近い。
今度から人に聞かれたら、若葉は火守りの亜種であると答えよう。
火守りはカマドの火の調整とかをしてくれるので、魔物のなかでは圧倒的な奥さま人気を誇るのである。
火守りのいる家に嫁ぐ、とかいうことわざがあるぐらいだ。
若葉の見た目は、花とトカゲを融合したデザインの宝石飾りのようで、他人に警戒心を起こさせないものとなっている。
俺も、若葉が人間に恐怖心を起こさせる見た目だったら、従魔契約を提案などしなかったかもしれない。
見た目は大事だよな。
「まぁ、わたくしと一緒ですね」
聖女がニコニコと嬉しそうに言った。
実際、仲間が出来て嬉しいのかもしれない。
「えへへ。ミュリアとはちょっと違うかな~。ミュリアのは、相手に自分の魔力を注いで、体内で肉体を再生したりしているんだよね。僕はね、新しく作るの」
「まぁそれは凄いですわ! それなら欠損部位なども、簡単に再生出来ますね。私達の魔法では、時間が経過して体が欠損部分を受け入れてしまうと、その再生は不可能になってしまうのです」
「そこは不便なところだよね。でも僕と同じことを人間がやると死んじゃうし、死んじゃっても出来なかったりするから、やらないほうがいいよ」
何かすごい専門的な会話をしているぞ。
「待て。新しく作るということは、人間を人間以外に作り変えることも可能ということか?」
勇者は、その説明に何か感じるところがあったらしい。
なるほど、言われてみればそういう使い方も出来る訳だ。
なんせ新しく作るんだからな。
「えー、やらないよ。アルフ怒るもん」
「俺が怒らなければ出来るんだな?」
「さー、どうかな?」
あ、こいつとぼけてやがる。
まぁ一応形なりとも勇者の従魔ではあることだし、そこを疑ってしまうと話が進まない。
それに俺の勘だが、若葉は勇者のためにしか力を使わないんじゃないかと思う。
つまり、勇者以外と組ませても、何の意味もないということだ。
「ほら、じゃれるのはいい加減にしろ。それで、疑問は解消されたのか? この組分けでいいか? 反対なら、新しい提案をしろ」
「ぐぬぬ……」
勇者が悔しそうにうめく。
もう従魔にしたんだから、そこはあきらめて受け入れるべきところだぞ?
そして、何よりも早く、若葉に出来ることと出来ないことを理解する必要がある。
せっかくとんでもない従魔を得たんだ。
その力を、勇者として使ってみせる度量を持つべきだ、と俺は思う。
とは言え、勇者が、いや、ほとんどの人間が、一部の生活のなかに存在する種族を除き、魔物という存在に対して強い忌避感を持つというのは理解出来る。
特に、このミホムという国では、国の歴史そのものが、魔物との生存競争そのものだったからな。
貴族が消耗を嫌って、魔物退治を平民の仕事としてしまってからは、庶民にとって死活問題となった。
いや、これは勇者には関係ない話か。
勇者が魔物を嫌うのは、魔物から民を救うという役割からすれば、いいことなんだろう。
とりあえず、渋々ながらに納得した勇者以外に異議はなかったので、最初の案のままの組み合わせで、支流の南側から、大川本流までの探索が開始されたのだった。
探索場所としては、平野に近い方から聖女組、勇者組と来て、大森林に入り込む部分は俺とメルリル、そしてフォルテという担当となる。
時間は一応日没前まで。
キャンプ地を作ったので、そこに集合だ。
さてさて、簡単に発見出来るといいんだが……。
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