勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
813 / 885
第八章 真なる聖剣

918 白い炎

しおりを挟む
 そうこうしているうちに、聖女を囲む宝珠が徐々に色を変えていく。
 透き通った色から、濁った血の色を思わせるどす黒い赤に。
 明らかにヤバそうだ。

「くっ!」

 聖女は何度か術を発動させようとしているのだが、そのたびに、発動しかけた魔法が解けて周囲の宝珠に吸収されている。
 完璧に、強力な魔法使いに焦点を絞った呪いだ。

「くそっ、どうすれば!」
「師匠、俺に任せろ! こういうのは昔から得意なんだ」

 俺が焦りを言葉にすると、勇者がそう言って、地面に手をついた。
 なんだ? 何をする気だ?
 というか、昔から?

 すると、勇者の手から真っ白な炎が沸き起こり、地面を舐めるように広がって、たちまち室内を覆った。

「うわっ!」
「きゃあっ!」

 その炎は俺達にも燃え移り、全員が炎に包まれる。
 驚きのあまり、それぞれが悲鳴を上げたり、火を消そうとしたりしたが、その白い火は、目には見えるが、熱さも、感触も何もなく、落ち着いてみれば、ただの幻影かと思われた。

 だが、その白い炎を受けて、無事ではなかったものもいる。
 
「ギッギッギッ……」

 聖女の魔力で育ち始めていた芋虫のような呪いが、白い炎に包まれてのたうつ。
 そして、聖女を囲んでいた宝珠が次々と色を失っていった。

「ふ……あ」

 聖女がふらりと立ち上がり、何かにつまづいたように倒れかかる。
 慌ててモンクが駆け寄って支えた。

「ミュリア、大丈夫か?」

 モンクは、今起きている現象よりも先に、聖女の状態を確認する。
 さすがだ。

「う……うん、ちょっと、眠い、かも?」

 ぐったりとモンクに支えられている聖女は、痛みなどは訴えなかったが、ひどく眠そうだ。
 一気に魔力を失った影響だろう。
 あの誘拐のときと同じだな。

 聖女が大丈夫そうなのを確認すると、次に勇者だが、今はまるで人の形をした白い炎のようになっている。
 この白い炎には魔力とは違う何かを感じた。
 実際、魔力はほとんど動いてはいない。
 やがて、部屋を舐め尽くした白い炎は、特に何も焼いたりもせずに、ただの幻影だったとしか思えないようにすうっと消えた。
 ただし、あの呪いも、まるで元から何もなかったかのように、消失してしまっている。

「今のは?」
「昔、まだ魔法紋を授かる前だった。俺は魔法に憧れて、魔法を放つ真似事をしていたんだ。そのときに出たのがこの白い炎だ。……最初はびっくりしたが、熱くもないし、何も焼かない。ただそこにあるだけの幻のような火だった。魔法紋を授かるまでは魔法の練習をしてはいけないという決まりなので、俺はこの炎のことを誰にも言わなかったが、何の役にも立たない火でも、なんとなく魔法が使えたように思えて、嬉しかったことを覚えてる」

 勇者が子どもの頃を思い出したように言った。
 ちょっとだけ恥ずかしそうだ。
 自分でも子どもっぽいと思っているのだろう。

「そんなある日、こっそり父上の執務室に入り込んで遊んでいたときのことだ」

 そんなところに子どもが入り込んでいいのかよ。

「父上のデスクの上に、何かすごく気になるものがあった。その頃はよくわかっていなかったが、今から思えば、手紙だったと思う。俺はすごくムズムズして来て、ついつい白い炎を放ってしまった」

 なんでそこでついついやっちゃうんだ?
 小さい頃からそんなんだったんだな。

「いや、師匠。そんな目で見なくても……。だって、ほら、この白い火は何も燃やさないんだぞ? 少ないくともそれまではそうだった」
「そのときは違ったんだろ?」
「えっ! なんでわかるんだ!」

 いや、その話の流れならわかるだろ、普通。

「そうなんだ。白い炎は、他のものは全く燃やしたりしなかったんだが、デスクの上にあった手紙のようなものを真っ白な灰にしてしまったんだ。俺は怖くなって父上の執務室を逃げ出した」

 これがいたずらなら子どもあるあるだが、ちょっと毛色が違う。
 これまでの現象と話からして、その手紙、何か悪いものだったんだろうな。

「そしたら夜に父上が部屋を訪れた。滅多に会えないから、嬉しいはずなんだが、そのときは昼間のことがあったからびくびくしていた。そしたら父上がすごい剣幕で、執務室に入ったかどうか問いただしたんだ。俺は怖くなって、首を横に振って、知らないと答えた。すると、父上は嘘をつくなと怒って、俺を王城にある教会に連れて行った。聖水を頭から被せられたりして、さんざんだったな。俺にとって、父上の印象はあのときのものが一番強く残っている。怖くて理不尽で、憎かった。……と、話が逸れたが、そのときの父上と教手の会話から、あの手紙が何か悪いものだったことを知ったんだ」
「なるほど。親父さんは何かよくないものを預かっていて、それがなくなっていた。お前が部屋に入った痕跡があったから、心配して聖水で呪い払いをした訳か」
「えっ!」

 えっ、てなんだ。
 それ以外の解釈が出来るとでもいうのか?

「父上は、俺のいたずら癖を治そうと、聖水で清めたんじゃなかったのか……」
「……普通、聖水掛けたら呪いとか悪縁とかそういうのを祓うためだろ?」

 俺は同意を求めて他の皆を見た。
 だが、ほかの皆はどうもそれどころではなかったようだ。
 モンクは聖女を介抱しているし、聖騎士は剣で丹念に宝珠を砕いている。
 メルリルだけが俺の後ろにいて話を聞いていたようだが、教会などと馴染みがないメルリルに聖水のことなどわかるはずもない。
 フォルテも肩に乗っていたが、まぁこいつが教会のことなんか知っている訳がないしな。
 結果的に誰からも同意をもらえなかった。

「……師匠。俺が不憫だからってそんな風に慰めなくても」
「違うわ、どっちかというと、不憫なのはお前の親父さんだ。絶対誤解だからな、それ」
「……まぁ、師匠がそう言うなら、そういうことにしてもおいてもいい」
「いや、それは自分で納得してからにしろ。それよりも、結局その白い火はなんだ?」
「実は俺もよくわかってなかったんだ。魔法紋を授かってからは、ちゃんとした火の魔法を使うようになったんで、あんまり使ってないし。ただ、ものを燃やさずに、よくない気配を元から絶てるんで禁書庫とかでおかしなものを見つけたら、使ってたぐらいかな」

 魔法紋がないときに使えたなら、確実に魔法ではない。
 と言って、ただの魔力でもない。
 うーむ?

「もしかすると、それは初代勇者さまが持っていたお力かもしれません」

 モンクに抱えられてふらふらしながらも、聖女がそう言った。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。