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第八章 真なる聖剣
919 初代勇者から継いだもの
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「初代勇者?」
「はい」
「ちょっと、ミュリア、大丈夫なの? とりあえず引き上げよう?」
フラフラしながら話をしようとする聖女を心配して、モンクが引き上げを提案した。
確かに、このままここで話すよりは、戻って部屋でゆっくりしながら話すほうがいいだろう。
「いえ、いえ、このままここで。……ここにいさせていただけませんか?」
だが、聖女が懇願するように言い、俺とモンクは顔を見合わせた。
日頃わがままなど言わない聖女がここまで言うのだから、彼女の好きにさせてやるべきだろう。
一瞬の視線の交錯でそう俺達は結論付けた。
「わかった。とりあえず、どっか腰を落ち着けられるところを探すか。その体勢のままじゃ辛いだろうし」
「お気遣い、ありがとうございます」
モンクに支えられている状態の聖女は、にっこりと笑って礼を言った。
心なしか、頬が紅潮している。
興奮しているのか、熱があるのか、あるいはその両方か、俺はモンクに目配せして、聖女の体調がマズいようなら知らせるように、手信号で伝えた。
モンクは当然とばかりにうなずく。
「ここにいたいのはわたくしの、わがままだとわかっています。この、勇者さまの浄化した清らかな場所を感じていたいのです」
聖女は、そんな俺とモンクのやりとりに気づいて笑う。
「そんな風に思うのは、理由があるんだろう?」
聖女は勇者を尊敬してはいるが、その信奉者という訳ではない。
だから、勇者の力に対するものにしては、少々強い感情を抱き過ぎているように感じる。
さっき言っていた、初代勇者の力ということに関係があるのだろう。
「はい。わたくし、初代勇者さまのお話を聞いたときからずっと、憧れて……いえ、尊敬していましたから。なんと清しい心の持ち主だったのだろう、と」
清しい、ね。
上品な言葉で俺なんかには馴染みはないが、確か、清らかな者みたいな意味だったはずだ。
俺達は適当に転がっている収納用の箱を重ねて、仮の椅子を作ってそれぞれ座った。
「初代勇者さまは、遠い別の世界から降臨なさった、ということは知っていますよね?」
「ああ」
そのせいで、東方に勇者の親父が降臨して、とんでもない事態を引き起こしたことも記憶に新しい。
だがまぁ、それは今は忘れておいていいだろう。
「初代の勇者さまは、その遠い地で、タイマのお力をお持ちだった、とのことです」
「タイマ?」
「魔を退ける力、と記されています」
「要するに魔物退治をしていたってことか?」
「いえ、初代勇者さまの暮らしていた世界には、わたくし達の世界にいるような魔物は存在しないとのことでした」
「マジか」
そんな世界があるんだな。
俺は驚愕と、少しの憧れを感じた。
そんな世界を見てみたいと思ったのだ。
「その代わり、怨念……恨みが積み重なって生まれる、魔物、そうですね、わたくし達の世界で言うところの幽霊に強い意思を持たせたようなモノがいて、それを退治するお力を持っていた、とのことです」
「うひゃあ、そんな世界、絶対嫌だね」
聖女の説明に、モンクが震え上がる。
まぁ、そうだろうな。
モンクとは相性が悪そうだ。
「ただ、こちらに降臨なさったときには、魂のみでこちらの世界の依代である少年の体となっていました。そのため、元のお力を失ったと、最初は思われていたそうです」
「ふーん」
勇者が聖女に対するには珍しく、ひどく冷たい突き放した態度を取る。
まぁ、初代勇者の話は嫌なんだろうな。
俺にしてみても、あまり気持ちのいい話ではない。
その当時何があったにせよ、大聖堂は異世界人であった勇者と、依代になった少年と、二人の人生を犠牲にしているのだ。
「ごめんなさい。召喚と依代となった方のことは、あまり気持ちのいいお話ではありませんよね。でも、これは前提として大事なことなので」
「気にするなミュリア。アルフだってわかってる。それでも態度に出るのは、こいつがまだガキな証拠だ」
「むう」
俺が言うと、勇者は不満そうな声を上げたが、特に反論することはなかった。
自分でもわかっているのだろう。
「お師匠さま、ありがとうございます。でも、勇者さまはお優しいから不快になるのであって、わがままとは違うと思います」
「そうだな」
俺は少し笑ってしまいながらうなずいた。
年下の聖女のほうが、勇者よりもずっと大人だ。
まぁだいたいにおいて、男よりも女のほうが大人だと言うが、これは、勇者も自分のおとなげなさを自覚するしかあるまい。
「それと、実は、この初代勇者さまのお力については、わたくし達、聖を冠する者の使う技の元でもあるのです。初代勇者さまがお使いになっていた、癒やしの秘技の一部を、こちらの世界風に応用したのが、聖なる力の始まりだとされています」
驚きの事実だった。
というか、そんな話を俺なんかが聞いてしまっていいのか?
最近ただの冒険者にとっては重すぎる秘密を知りすぎているような気がするぞ。
「ということは、結局初代勇者は力を失ってなかったということか」
「はい。初代勇者さまのお力は魂の力と記されています。魔力ではなく、自身の魂によって世界を塗り替える偉大なお力です。そのお力で、邪悪に染まった想念などを浄化なさっていたとのことでした」
「なるほど。ということは、初代勇者は元の世界でも勇者かそれに準じた仕事をしていたのか」
「いえ、それは違うらしいのです。なんでも、依頼を請けて仕事をするだけの普通の人間だったと、おっしゃったそうなのですが、謙遜だろうというのが、大聖堂の解釈ですね」
面白いな。
もし初代勇者の言葉が本当だとしたら、初代勇者が元の世界でやっていたのは冒険者のような仕事ということになる。
考えてみれば、大聖堂という巨大な組織のバックアップがあるから無償の人助けなんてことが出来るんであって、そういうものがなければ、生活のために働かなければならない。
自分の力をそのために使うのは、当たり前の話だろう。
「その魔を退ける力というのが、白い炎だった、と?」
「記録では、白い聖なる光となっていましたけど、その効果は、今の勇者さまの火と同じです」
「ちっ!」
聖女の説明を受けて、勇者が舌打ちする。
「また初代勇者か。これでまた、生まれ変わりだとか言われるんだろうな」
初代勇者の生まれ変わりとして、名を奪われて初代勇者の名を授かり、身分も血縁も失った。
それこそが勇者の一番の傷となっている。
それは俺にも理解出来ることだ。
だが、そのことで初代勇者を嫌うのは少し違うだろう。
「そういう風に言うな。お前と初代勇者は、言うなればミュリアとアドミニス殿の関係だぞ? ご先祖には責任のないことで罵るのはいただけないな」
「……ミュリアと、元魔王か……なるほど。そう考えると、なんだか初代勇者も、ぐっと身近な存在のように思えてくるから不思議だ。どうせ珍妙な奴だったんだろうよ」
そう言って勇者は少しだけ笑って見せた。
いや、それってアドミニス殿を揶揄して言っているんだろうけど、お前自身のご先祖の話だからな?
「はい」
「ちょっと、ミュリア、大丈夫なの? とりあえず引き上げよう?」
フラフラしながら話をしようとする聖女を心配して、モンクが引き上げを提案した。
確かに、このままここで話すよりは、戻って部屋でゆっくりしながら話すほうがいいだろう。
「いえ、いえ、このままここで。……ここにいさせていただけませんか?」
だが、聖女が懇願するように言い、俺とモンクは顔を見合わせた。
日頃わがままなど言わない聖女がここまで言うのだから、彼女の好きにさせてやるべきだろう。
一瞬の視線の交錯でそう俺達は結論付けた。
「わかった。とりあえず、どっか腰を落ち着けられるところを探すか。その体勢のままじゃ辛いだろうし」
「お気遣い、ありがとうございます」
モンクに支えられている状態の聖女は、にっこりと笑って礼を言った。
心なしか、頬が紅潮している。
興奮しているのか、熱があるのか、あるいはその両方か、俺はモンクに目配せして、聖女の体調がマズいようなら知らせるように、手信号で伝えた。
モンクは当然とばかりにうなずく。
「ここにいたいのはわたくしの、わがままだとわかっています。この、勇者さまの浄化した清らかな場所を感じていたいのです」
聖女は、そんな俺とモンクのやりとりに気づいて笑う。
「そんな風に思うのは、理由があるんだろう?」
聖女は勇者を尊敬してはいるが、その信奉者という訳ではない。
だから、勇者の力に対するものにしては、少々強い感情を抱き過ぎているように感じる。
さっき言っていた、初代勇者の力ということに関係があるのだろう。
「はい。わたくし、初代勇者さまのお話を聞いたときからずっと、憧れて……いえ、尊敬していましたから。なんと清しい心の持ち主だったのだろう、と」
清しい、ね。
上品な言葉で俺なんかには馴染みはないが、確か、清らかな者みたいな意味だったはずだ。
俺達は適当に転がっている収納用の箱を重ねて、仮の椅子を作ってそれぞれ座った。
「初代勇者さまは、遠い別の世界から降臨なさった、ということは知っていますよね?」
「ああ」
そのせいで、東方に勇者の親父が降臨して、とんでもない事態を引き起こしたことも記憶に新しい。
だがまぁ、それは今は忘れておいていいだろう。
「初代の勇者さまは、その遠い地で、タイマのお力をお持ちだった、とのことです」
「タイマ?」
「魔を退ける力、と記されています」
「要するに魔物退治をしていたってことか?」
「いえ、初代勇者さまの暮らしていた世界には、わたくし達の世界にいるような魔物は存在しないとのことでした」
「マジか」
そんな世界があるんだな。
俺は驚愕と、少しの憧れを感じた。
そんな世界を見てみたいと思ったのだ。
「その代わり、怨念……恨みが積み重なって生まれる、魔物、そうですね、わたくし達の世界で言うところの幽霊に強い意思を持たせたようなモノがいて、それを退治するお力を持っていた、とのことです」
「うひゃあ、そんな世界、絶対嫌だね」
聖女の説明に、モンクが震え上がる。
まぁ、そうだろうな。
モンクとは相性が悪そうだ。
「ただ、こちらに降臨なさったときには、魂のみでこちらの世界の依代である少年の体となっていました。そのため、元のお力を失ったと、最初は思われていたそうです」
「ふーん」
勇者が聖女に対するには珍しく、ひどく冷たい突き放した態度を取る。
まぁ、初代勇者の話は嫌なんだろうな。
俺にしてみても、あまり気持ちのいい話ではない。
その当時何があったにせよ、大聖堂は異世界人であった勇者と、依代になった少年と、二人の人生を犠牲にしているのだ。
「ごめんなさい。召喚と依代となった方のことは、あまり気持ちのいいお話ではありませんよね。でも、これは前提として大事なことなので」
「気にするなミュリア。アルフだってわかってる。それでも態度に出るのは、こいつがまだガキな証拠だ」
「むう」
俺が言うと、勇者は不満そうな声を上げたが、特に反論することはなかった。
自分でもわかっているのだろう。
「お師匠さま、ありがとうございます。でも、勇者さまはお優しいから不快になるのであって、わがままとは違うと思います」
「そうだな」
俺は少し笑ってしまいながらうなずいた。
年下の聖女のほうが、勇者よりもずっと大人だ。
まぁだいたいにおいて、男よりも女のほうが大人だと言うが、これは、勇者も自分のおとなげなさを自覚するしかあるまい。
「それと、実は、この初代勇者さまのお力については、わたくし達、聖を冠する者の使う技の元でもあるのです。初代勇者さまがお使いになっていた、癒やしの秘技の一部を、こちらの世界風に応用したのが、聖なる力の始まりだとされています」
驚きの事実だった。
というか、そんな話を俺なんかが聞いてしまっていいのか?
最近ただの冒険者にとっては重すぎる秘密を知りすぎているような気がするぞ。
「ということは、結局初代勇者は力を失ってなかったということか」
「はい。初代勇者さまのお力は魂の力と記されています。魔力ではなく、自身の魂によって世界を塗り替える偉大なお力です。そのお力で、邪悪に染まった想念などを浄化なさっていたとのことでした」
「なるほど。ということは、初代勇者は元の世界でも勇者かそれに準じた仕事をしていたのか」
「いえ、それは違うらしいのです。なんでも、依頼を請けて仕事をするだけの普通の人間だったと、おっしゃったそうなのですが、謙遜だろうというのが、大聖堂の解釈ですね」
面白いな。
もし初代勇者の言葉が本当だとしたら、初代勇者が元の世界でやっていたのは冒険者のような仕事ということになる。
考えてみれば、大聖堂という巨大な組織のバックアップがあるから無償の人助けなんてことが出来るんであって、そういうものがなければ、生活のために働かなければならない。
自分の力をそのために使うのは、当たり前の話だろう。
「その魔を退ける力というのが、白い炎だった、と?」
「記録では、白い聖なる光となっていましたけど、その効果は、今の勇者さまの火と同じです」
「ちっ!」
聖女の説明を受けて、勇者が舌打ちする。
「また初代勇者か。これでまた、生まれ変わりだとか言われるんだろうな」
初代勇者の生まれ変わりとして、名を奪われて初代勇者の名を授かり、身分も血縁も失った。
それこそが勇者の一番の傷となっている。
それは俺にも理解出来ることだ。
だが、そのことで初代勇者を嫌うのは少し違うだろう。
「そういう風に言うな。お前と初代勇者は、言うなればミュリアとアドミニス殿の関係だぞ? ご先祖には責任のないことで罵るのはいただけないな」
「……ミュリアと、元魔王か……なるほど。そう考えると、なんだか初代勇者も、ぐっと身近な存在のように思えてくるから不思議だ。どうせ珍妙な奴だったんだろうよ」
そう言って勇者は少しだけ笑って見せた。
いや、それってアドミニス殿を揶揄して言っているんだろうけど、お前自身のご先祖の話だからな?
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