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第八章 真なる聖剣
921 城主への報告
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俺達付きの使用人に言伝を頼んで部屋で一旦休憩。
全員でまったりと茶を飲んでいると、使用人が戻って来て、面会出来ることを教えてくれた。
領主のお仕事も大変だろうに申し訳ないが、一応知っておかないとまずい問題だしな。
もちろん俺は勇者の従者として付いて行くだけなので、報告は勇者と聖女任せだ。
聖女には滋養強壮にいいお茶を飲んでもらってそれなりに回復した。
ただし、魔法はしばらく厳禁である。
貴族の執務室というのは、その貴族の為人がよくわかる場所だ。
ロスト辺境伯の執務室は、あまり広くはないが、来客にも備えた、落ち着いた部屋だった。
暖炉に火が入り、室内も適度に温まっている。
来客用のテーブルセットが一番暖炉に近い場所にあるのも、心遣いが嬉しいところだ。
「地下通路の先には、いくつかの部屋があった。それと、封鎖されていた間に魔力溜まりが発生して、だいぶ危険なことになっていた。まだ一般人は入れないほうがいいだろう」
「そんなにですか?」
ロスト辺境伯は少し驚いたようだ。
まさか自分達の足下がそんなことになっていようとは思っていなかったのだろう。
「ああ。実際倒した魔物の死体も持って来た。後で解体すれば使える部位もあるかもしれない」
「大きいですな。これは……元はネズミか」
ロスト辺境伯は眉間にシワを寄せて魔物の死体を検分した。
「みなさんが探索を申し出てくださって助かりました。我が領の兵士でもなんとかなったとは思いますが、少なからず負傷者が出たでしょう。この御礼は後ほどまとめてさせていただきます」
「いや、冬の間の滞在費だと思ってくれればいい。貧しい領地からむしり取るようなことはしない」
勇者が言いにくいことをはっきりと言う。
もうちょっとやんわりと言え。
「ははは。手厳しいですな。ですが、恩に報いずにいては、当主として示しがつきません。そこのところは汲んでいただければ、と」
なるほど、辺境伯爵としても、一族の長としても、体面のようなものがある訳か。
大変だな。
「まぁそれは好きにしろ。清廉なる貴族は飢えて死ぬという格言を忘れるな」
むむっ、知らない格言が出て来た。
貴族同士で通じる言葉なのだろう。
そのまま理解すれば、清い貴族は他者に施しをするために自らは食べられなくなってしまうという意味か。
なるほど。
貴族なら施しの規模が違うからな。
有り得ることだ。
「はっ、さすがは……」
「お父さま」
何かを言いかけたロスト辺境伯を聖女が止める。
うん? もしかして勇者の実家のこと口にしかけたのか?
今勇者は血縁から切り離された状態だ。
聖女が止めたのはそんな勇者に対して、親族の話をするのは失礼、ということなのだろうか?
「う、む。失礼をいたした」
「気にするな。それと、少し込み入った話がある」
勇者がそう告げると、ロスト辺境伯の顔が少し険しいものになる。
どうやら何かの暗喩のようだ。
「お前達、後で呼ぶので少し席を離れなさい」
「はっ」
ロスト辺境伯は、それまで仕事のために控えていた使用人達を部屋から出した。
俺はついでにその使用人に魔物の死体を託す。
使用人は嫌な顔一つせずに、……というか、少し嬉しそうにその魔物の死体を預かった。
美味そうですね、と小さな声で言っていたので、後で食べるのかもしれない。
ちゃんと魔力抜きはするんだぞ?
まぁこの城の厨房の人間はみんなよくわかっているようだったので心配はいらないか。
使用人達がいなくなると、ロスト辺境伯は自分のデスクを離れ、俺達のいる席へとやって来た。
「それで、何かとんでもないものでも見つかったか?」
「話が早い。地下通路の先にある倉庫のような場所で呪物が見つかった」
「っ! 呪物だ……と」
ロスト辺境伯の顔色がたちまち悪くなる。
少し、怒りを感じているようだ。
まぁそりゃあ、自分の家のような城のなかに呪物があれば、腹が立つよな。
ましてや、ロスト辺境伯は呪いが見えることで今まで辛い思いをして来た人だ。
呪物に対しては、いろいろと思うところがあるだろう。
勇者が呪物の説明をし、聖女が標的になったことを説明した途端、予想通り、ロスト辺境伯の怒りは最高潮となった。
「なんと! ミュリアを呪うなど! 許せん! すぐにやった奴を見つけ出して八つ裂きしてくれる!」
「お父さま落ち着いて」
「そうだ落ち着け。あれは恐らくミュリアを狙った訳じゃない」
聖女の言葉と、勇者の何かをわかっているような言い方に、ロスト辺境伯の怒りが、意思によって抑え込まれたようだ。
決して消え去った訳ではないことは、傍からもわかる。
「な、なぜミュリアを狙ったものではない、と?」
ロスト辺境伯の言葉に、勇者はため息を吐きながら答えた。
「冷静になればわかるはずだ。あの通路を封印したのはいつだ?」
「私が領主を継いですぐです。忘れもしません。ミュリアが産まれる一年程前のことです。……あ」
「俺ですら、ミュリアの話を聞いてわかったんだ。産まれる前か産まれてすぐか、どちらにせよ、その頃にミュリアが膨大な魔力持ちになると、わかるはずもないからな」
「ということは、狙いは、ミュリアが産まれる前にいた、膨大な魔力の持ち主……。なるほど、父ですね」
ロスト辺境伯はすぐに結論を出した。
ロスト辺境伯の父親と言えば、今は大聖堂にいるブロブ殿だ。
そう言えば、一時期、領地に戻っていたんだっけな。
「父を嫌う者は多くいました。そういう意味では容疑者は多い。……だが、そこまで殺意の高い呪いとなると、父の存在があると地位を追われる者、あるいは、損をする者ということになりますな」
「まぁ今更という感じはするけどな。あのじじいは大聖堂に閉じこもっている訳だし、呪いはこれまで発動しなかった。それに……」
勇者はニヤリと酷薄な笑みを浮かべた。
「第一段階だけならともかく、後のほうの呪いは、だいぶキツく返ったと思うぞ」
広く知られていることだが、呪いは失敗すると掛けた当人に戻るらしい。
理屈は俺にはよくわからないが、勇者は何か知っているようだな。
「複雑な気持ちですね。父が死んで利益を得る者となれば、ほぼ間違いなく私にも近しい者でしょう。ただ、狙った訳ではないとしても、ミュリアに被害が及んだことは、決して許されることではない」
ロスト辺境伯は暗い笑みを浮かべてフフフと笑った。
勇者とロスト辺境伯の視線が絡み合い、何やら目配せをしてる。
犯人もまさか十年以上前にやったことで、とんでもないことになるとは思ってもいないだろうな。
まぁ同情はしないが。
全員でまったりと茶を飲んでいると、使用人が戻って来て、面会出来ることを教えてくれた。
領主のお仕事も大変だろうに申し訳ないが、一応知っておかないとまずい問題だしな。
もちろん俺は勇者の従者として付いて行くだけなので、報告は勇者と聖女任せだ。
聖女には滋養強壮にいいお茶を飲んでもらってそれなりに回復した。
ただし、魔法はしばらく厳禁である。
貴族の執務室というのは、その貴族の為人がよくわかる場所だ。
ロスト辺境伯の執務室は、あまり広くはないが、来客にも備えた、落ち着いた部屋だった。
暖炉に火が入り、室内も適度に温まっている。
来客用のテーブルセットが一番暖炉に近い場所にあるのも、心遣いが嬉しいところだ。
「地下通路の先には、いくつかの部屋があった。それと、封鎖されていた間に魔力溜まりが発生して、だいぶ危険なことになっていた。まだ一般人は入れないほうがいいだろう」
「そんなにですか?」
ロスト辺境伯は少し驚いたようだ。
まさか自分達の足下がそんなことになっていようとは思っていなかったのだろう。
「ああ。実際倒した魔物の死体も持って来た。後で解体すれば使える部位もあるかもしれない」
「大きいですな。これは……元はネズミか」
ロスト辺境伯は眉間にシワを寄せて魔物の死体を検分した。
「みなさんが探索を申し出てくださって助かりました。我が領の兵士でもなんとかなったとは思いますが、少なからず負傷者が出たでしょう。この御礼は後ほどまとめてさせていただきます」
「いや、冬の間の滞在費だと思ってくれればいい。貧しい領地からむしり取るようなことはしない」
勇者が言いにくいことをはっきりと言う。
もうちょっとやんわりと言え。
「ははは。手厳しいですな。ですが、恩に報いずにいては、当主として示しがつきません。そこのところは汲んでいただければ、と」
なるほど、辺境伯爵としても、一族の長としても、体面のようなものがある訳か。
大変だな。
「まぁそれは好きにしろ。清廉なる貴族は飢えて死ぬという格言を忘れるな」
むむっ、知らない格言が出て来た。
貴族同士で通じる言葉なのだろう。
そのまま理解すれば、清い貴族は他者に施しをするために自らは食べられなくなってしまうという意味か。
なるほど。
貴族なら施しの規模が違うからな。
有り得ることだ。
「はっ、さすがは……」
「お父さま」
何かを言いかけたロスト辺境伯を聖女が止める。
うん? もしかして勇者の実家のこと口にしかけたのか?
今勇者は血縁から切り離された状態だ。
聖女が止めたのはそんな勇者に対して、親族の話をするのは失礼、ということなのだろうか?
「う、む。失礼をいたした」
「気にするな。それと、少し込み入った話がある」
勇者がそう告げると、ロスト辺境伯の顔が少し険しいものになる。
どうやら何かの暗喩のようだ。
「お前達、後で呼ぶので少し席を離れなさい」
「はっ」
ロスト辺境伯は、それまで仕事のために控えていた使用人達を部屋から出した。
俺はついでにその使用人に魔物の死体を託す。
使用人は嫌な顔一つせずに、……というか、少し嬉しそうにその魔物の死体を預かった。
美味そうですね、と小さな声で言っていたので、後で食べるのかもしれない。
ちゃんと魔力抜きはするんだぞ?
まぁこの城の厨房の人間はみんなよくわかっているようだったので心配はいらないか。
使用人達がいなくなると、ロスト辺境伯は自分のデスクを離れ、俺達のいる席へとやって来た。
「それで、何かとんでもないものでも見つかったか?」
「話が早い。地下通路の先にある倉庫のような場所で呪物が見つかった」
「っ! 呪物だ……と」
ロスト辺境伯の顔色がたちまち悪くなる。
少し、怒りを感じているようだ。
まぁそりゃあ、自分の家のような城のなかに呪物があれば、腹が立つよな。
ましてや、ロスト辺境伯は呪いが見えることで今まで辛い思いをして来た人だ。
呪物に対しては、いろいろと思うところがあるだろう。
勇者が呪物の説明をし、聖女が標的になったことを説明した途端、予想通り、ロスト辺境伯の怒りは最高潮となった。
「なんと! ミュリアを呪うなど! 許せん! すぐにやった奴を見つけ出して八つ裂きしてくれる!」
「お父さま落ち着いて」
「そうだ落ち着け。あれは恐らくミュリアを狙った訳じゃない」
聖女の言葉と、勇者の何かをわかっているような言い方に、ロスト辺境伯の怒りが、意思によって抑え込まれたようだ。
決して消え去った訳ではないことは、傍からもわかる。
「な、なぜミュリアを狙ったものではない、と?」
ロスト辺境伯の言葉に、勇者はため息を吐きながら答えた。
「冷静になればわかるはずだ。あの通路を封印したのはいつだ?」
「私が領主を継いですぐです。忘れもしません。ミュリアが産まれる一年程前のことです。……あ」
「俺ですら、ミュリアの話を聞いてわかったんだ。産まれる前か産まれてすぐか、どちらにせよ、その頃にミュリアが膨大な魔力持ちになると、わかるはずもないからな」
「ということは、狙いは、ミュリアが産まれる前にいた、膨大な魔力の持ち主……。なるほど、父ですね」
ロスト辺境伯はすぐに結論を出した。
ロスト辺境伯の父親と言えば、今は大聖堂にいるブロブ殿だ。
そう言えば、一時期、領地に戻っていたんだっけな。
「父を嫌う者は多くいました。そういう意味では容疑者は多い。……だが、そこまで殺意の高い呪いとなると、父の存在があると地位を追われる者、あるいは、損をする者ということになりますな」
「まぁ今更という感じはするけどな。あのじじいは大聖堂に閉じこもっている訳だし、呪いはこれまで発動しなかった。それに……」
勇者はニヤリと酷薄な笑みを浮かべた。
「第一段階だけならともかく、後のほうの呪いは、だいぶキツく返ったと思うぞ」
広く知られていることだが、呪いは失敗すると掛けた当人に戻るらしい。
理屈は俺にはよくわからないが、勇者は何か知っているようだな。
「複雑な気持ちですね。父が死んで利益を得る者となれば、ほぼ間違いなく私にも近しい者でしょう。ただ、狙った訳ではないとしても、ミュリアに被害が及んだことは、決して許されることではない」
ロスト辺境伯は暗い笑みを浮かべてフフフと笑った。
勇者とロスト辺境伯の視線が絡み合い、何やら目配せをしてる。
犯人もまさか十年以上前にやったことで、とんでもないことになるとは思ってもいないだろうな。
まぁ同情はしないが。
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