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第八章 真なる聖剣
922 地下通路探索パート2
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「とりあえず最深部の工房までの探索を進めたいので、明日からまた地下通路を調べる」
「待ってくれ」
勇者の宣言に、ロスト辺境伯が待ったをかけた。
勇者の眉がピクリと動く。
「なにか問題でも?」
「明日は、ミュリアは探索から外すように」
「えっ!」
今「えっ」と言ったのは聖女である。
まぁでも、親の立場からしたら当然だよな。
「またあのような呪物などがあるかもしれません。わたくしも一緒に行きます!」
「それこそ、大変じゃないか。今日の探索で呪いを受けて、魔力が枯渇寸前まで行ったと聞いて、私がどれほど心を痛めたか、ミュリアはわかっているのか?」
「そ、それは……わたくしが対応に手間取ったから……」
「愚かなことを言ってはならないよ。それはミュリアに呪いが発動するのを防げなかった勇者さまへの非難となってしまう」
「あ……」
いや、今のはロスト辺境伯から勇者への非難だな。
これは勇者も甘んじて受けるしかあるまい。
正直、俺も申し訳ないと思っている。
とっさの防御を聖女に頼りすぎていた。
冒険者として恥ずべきことだ。
ちょっと最近高い能力の仲間がいるせいで、たるんでいたのだろう。
もし、これが普段のソロで請けた依頼だったら? と思うと、恐ろしい。
「ミュリア。お父上のおっしゃることはもっともだ。明日はゆっくりご両親と過ごすがいい。俺も経験があるが、急速に失った魔力の回復には時間がかかる。それを薬などで無理に補填すると、その分体に無理が生じる。だからこれは俺の命でもある。明日は休め」
「うぬっ……」
お、勇者が勇者としての命を使うのを久々に見たな。
というか仲間相手に使うのは初めてじゃないか?
そして、休んで欲しいはずのロスト辺境伯がちょっとムッとしているぞ。
愛する娘に上から命令されたのが気に食わないのか?
一方で聖女は、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
ソファーから立って、その場で片膝を突くと、手を胸に置き、頭を垂れる。
「勇者の勅命、ありがたく頂戴いたします」
「うむ」
勇者は勇者として崇められることを嫌がっていたのに、こういうときに勇者の権限を使えるぐらいに割り切ったんだな。
そうだな、下手なこだわりは物事を停滞させる。
ちょっと大人になったということか。
あ、凄いムスッとしている。
やりたくなかったんだな。
さて、ロスト辺境伯に報告を済ませた翌日。
聖女抜きでの探索が開始されることとなった。
聖女はいつもと同じように勇者の部屋に集まり、少し寂しそうに見送ってくれた。
そして今、俺の肩には、左にフォルテ、右にアグがいる。
「なんでだ?」
アグはふよふよピカピカしてみせた。
「俺達が心配だからということか?」
ピカピカコクコク。
どうやら合っていたらしい。
「ダスター凄い。もうアグちゃんの言葉がわかるようになってる!」
メルリルが称賛してくれるが、今気にするところはそこではないだろう。
「それは師匠だからな当然だろ」
そして相変わらず勇者が自分のことのように自慢してくれる。
お前ほんとブレないな。
「それでなんで俺の肩に? アルフのところに行けばいいじゃないか」
ピカッユララ。
「あ、若葉が怖いのか」
それは確かにな。
若葉は勇者にもコントロール出来ない存在だ。
ゲテモノ食いなので、アグなどは試しに食ってしまうかもしれない。
「お前、仮にも元魔王の一番の使い魔だろうが、若葉程度あしらってみせろよ」
ユラユラふわり。
「アグは戦いは好まないそうだ」
「ダスター、本当に凄い」
メルリルの称賛のまなざしは嬉しいが、俺にも理由がわからないんだよな。
実を言うと、なんでかアグの言いたいことが頭のなかに閃くように浮かぶのだ。
もしかするとフォルテがやってるのかと思ったのだが、フォルテは眠そうに、「チガウ」と意思を伝えて来た。
ペシペシ。
アグが何やら葉っぱで俺を叩いて、称賛してくれている。
はいはい、ありがとうな。
まぁそんなこんなで、聖女を残して俺達は再び地下通路の探索に戻った。
モンクは聖女と一緒にいたそうだったが、当の聖女から俺達のことを頼まれてしまって、渋々ついて来たようだ。
だからといって、あからさまにやる気のない様子を見せないで欲しい。
地下への入口には、現在仮の扉が付けられている。
扉と言っても、ほぼただの板だが、アグが例のごとく軽く封印して、ちょっとしたおしゃれな蔦模様の飾りが施されているように見えた。
あまり違和感を抱かせない見た目なので、おかしく思う者もいないようだ。
「アグ、封印解除を頼む」
入口の扉に絡みついたアグの根っこかツルがスルスルと消えていく。
「こいつがいないときにはどうやったら解除出来るんだ? 無理なのか?」
勇者がその様子を見ながら疑問を感じたらしくそう聞いた。
アグは例のふよふよピカピカで答える。
「燃やせばいいらしい」
「は?」
「多少くすぶるが、燃えるそうだ」
「それじゃあ普通の植物と一緒じゃねえか」
「まぁ植物だからな」
勇者は何か納得行かないという風だったが、そもそもが、封印と言っても、何かヤバいものを封じた訳ではないので、要するに人が勝手に入らなければいいのだ。
目的にさえ合っていれば十分有用な能力と言えるだろう。
昨日呪物があった収納庫をそのままにして逆方向に進む。
一応俺と勇者で、収納庫の内部の様子を確認したが、問題は起こってないようだ。
「ここは、いらない家具置き場か?」
「季節ものや、古くなって修理が必要なものなんかを置いてあるところのようだな」
通路脇にまた扉を見つけて確認する。
腕のいい職人が作ったとおぼしき家具類がたくさんあり、使われていないことがもったいないと思えてしまう。
いらないなら売ればいいのにと思う俺は、所詮庶民なんだろうな。
貴族は歴史あるものは取っておく性質があるとのことだ。
「古いものは一度失ったらもう二度と手に入らないかもしれないだろ? 古い時代の名匠作のものとか、長く愛されてたりするしな」
「ふむ。貴族は持ち物に金をかけるし、ほとんど宝物と言っていいものもあるもんな。確かに簡単に処分は出来ないか」
「あ、この鏡台素敵」
モンクが、細かい細工のほどこされた鏡台を見つけてうっとりとしている。
モンクも年頃の女の子らしい一面があるようだ。
というか、メルリルも一緒になって眺めているぞ。
「引き出しの細工が素敵です。この光が当たるとキラキラするのは、前に東のほうで見たことあるね」
言われて俺も見てみる。
「ああ、螺鈿細工だな。この辺だとかなり高価なものだぞ。なんでも海に棲んでいる貝を素材にしているらしい。それを地上の素材で真似たものとかは、ミホムでも作っているやつがいたな」
「へー」
メルリルとモンクがキラキラした目で話を聞いていた。
俺なんか、そんな特に便利でもない飾りに金をかけるのは無駄だと思うんだが、女性の感じ方はまた違うのだろう。
「待ってくれ」
勇者の宣言に、ロスト辺境伯が待ったをかけた。
勇者の眉がピクリと動く。
「なにか問題でも?」
「明日は、ミュリアは探索から外すように」
「えっ!」
今「えっ」と言ったのは聖女である。
まぁでも、親の立場からしたら当然だよな。
「またあのような呪物などがあるかもしれません。わたくしも一緒に行きます!」
「それこそ、大変じゃないか。今日の探索で呪いを受けて、魔力が枯渇寸前まで行ったと聞いて、私がどれほど心を痛めたか、ミュリアはわかっているのか?」
「そ、それは……わたくしが対応に手間取ったから……」
「愚かなことを言ってはならないよ。それはミュリアに呪いが発動するのを防げなかった勇者さまへの非難となってしまう」
「あ……」
いや、今のはロスト辺境伯から勇者への非難だな。
これは勇者も甘んじて受けるしかあるまい。
正直、俺も申し訳ないと思っている。
とっさの防御を聖女に頼りすぎていた。
冒険者として恥ずべきことだ。
ちょっと最近高い能力の仲間がいるせいで、たるんでいたのだろう。
もし、これが普段のソロで請けた依頼だったら? と思うと、恐ろしい。
「ミュリア。お父上のおっしゃることはもっともだ。明日はゆっくりご両親と過ごすがいい。俺も経験があるが、急速に失った魔力の回復には時間がかかる。それを薬などで無理に補填すると、その分体に無理が生じる。だからこれは俺の命でもある。明日は休め」
「うぬっ……」
お、勇者が勇者としての命を使うのを久々に見たな。
というか仲間相手に使うのは初めてじゃないか?
そして、休んで欲しいはずのロスト辺境伯がちょっとムッとしているぞ。
愛する娘に上から命令されたのが気に食わないのか?
一方で聖女は、すぐに気持ちを切り替えたようだ。
ソファーから立って、その場で片膝を突くと、手を胸に置き、頭を垂れる。
「勇者の勅命、ありがたく頂戴いたします」
「うむ」
勇者は勇者として崇められることを嫌がっていたのに、こういうときに勇者の権限を使えるぐらいに割り切ったんだな。
そうだな、下手なこだわりは物事を停滞させる。
ちょっと大人になったということか。
あ、凄いムスッとしている。
やりたくなかったんだな。
さて、ロスト辺境伯に報告を済ませた翌日。
聖女抜きでの探索が開始されることとなった。
聖女はいつもと同じように勇者の部屋に集まり、少し寂しそうに見送ってくれた。
そして今、俺の肩には、左にフォルテ、右にアグがいる。
「なんでだ?」
アグはふよふよピカピカしてみせた。
「俺達が心配だからということか?」
ピカピカコクコク。
どうやら合っていたらしい。
「ダスター凄い。もうアグちゃんの言葉がわかるようになってる!」
メルリルが称賛してくれるが、今気にするところはそこではないだろう。
「それは師匠だからな当然だろ」
そして相変わらず勇者が自分のことのように自慢してくれる。
お前ほんとブレないな。
「それでなんで俺の肩に? アルフのところに行けばいいじゃないか」
ピカッユララ。
「あ、若葉が怖いのか」
それは確かにな。
若葉は勇者にもコントロール出来ない存在だ。
ゲテモノ食いなので、アグなどは試しに食ってしまうかもしれない。
「お前、仮にも元魔王の一番の使い魔だろうが、若葉程度あしらってみせろよ」
ユラユラふわり。
「アグは戦いは好まないそうだ」
「ダスター、本当に凄い」
メルリルの称賛のまなざしは嬉しいが、俺にも理由がわからないんだよな。
実を言うと、なんでかアグの言いたいことが頭のなかに閃くように浮かぶのだ。
もしかするとフォルテがやってるのかと思ったのだが、フォルテは眠そうに、「チガウ」と意思を伝えて来た。
ペシペシ。
アグが何やら葉っぱで俺を叩いて、称賛してくれている。
はいはい、ありがとうな。
まぁそんなこんなで、聖女を残して俺達は再び地下通路の探索に戻った。
モンクは聖女と一緒にいたそうだったが、当の聖女から俺達のことを頼まれてしまって、渋々ついて来たようだ。
だからといって、あからさまにやる気のない様子を見せないで欲しい。
地下への入口には、現在仮の扉が付けられている。
扉と言っても、ほぼただの板だが、アグが例のごとく軽く封印して、ちょっとしたおしゃれな蔦模様の飾りが施されているように見えた。
あまり違和感を抱かせない見た目なので、おかしく思う者もいないようだ。
「アグ、封印解除を頼む」
入口の扉に絡みついたアグの根っこかツルがスルスルと消えていく。
「こいつがいないときにはどうやったら解除出来るんだ? 無理なのか?」
勇者がその様子を見ながら疑問を感じたらしくそう聞いた。
アグは例のふよふよピカピカで答える。
「燃やせばいいらしい」
「は?」
「多少くすぶるが、燃えるそうだ」
「それじゃあ普通の植物と一緒じゃねえか」
「まぁ植物だからな」
勇者は何か納得行かないという風だったが、そもそもが、封印と言っても、何かヤバいものを封じた訳ではないので、要するに人が勝手に入らなければいいのだ。
目的にさえ合っていれば十分有用な能力と言えるだろう。
昨日呪物があった収納庫をそのままにして逆方向に進む。
一応俺と勇者で、収納庫の内部の様子を確認したが、問題は起こってないようだ。
「ここは、いらない家具置き場か?」
「季節ものや、古くなって修理が必要なものなんかを置いてあるところのようだな」
通路脇にまた扉を見つけて確認する。
腕のいい職人が作ったとおぼしき家具類がたくさんあり、使われていないことがもったいないと思えてしまう。
いらないなら売ればいいのにと思う俺は、所詮庶民なんだろうな。
貴族は歴史あるものは取っておく性質があるとのことだ。
「古いものは一度失ったらもう二度と手に入らないかもしれないだろ? 古い時代の名匠作のものとか、長く愛されてたりするしな」
「ふむ。貴族は持ち物に金をかけるし、ほとんど宝物と言っていいものもあるもんな。確かに簡単に処分は出来ないか」
「あ、この鏡台素敵」
モンクが、細かい細工のほどこされた鏡台を見つけてうっとりとしている。
モンクも年頃の女の子らしい一面があるようだ。
というか、メルリルも一緒になって眺めているぞ。
「引き出しの細工が素敵です。この光が当たるとキラキラするのは、前に東のほうで見たことあるね」
言われて俺も見てみる。
「ああ、螺鈿細工だな。この辺だとかなり高価なものだぞ。なんでも海に棲んでいる貝を素材にしているらしい。それを地上の素材で真似たものとかは、ミホムでも作っているやつがいたな」
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メルリルとモンクがキラキラした目で話を聞いていた。
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※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
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