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第八章 真なる聖剣

927 生まれ変わる

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「おお、そう言えば、そんな迎撃魔法を組んでいたな」

 俺達の話を聞いて、アドミニス殿はポンと手を打って言った。
 いかにも、今思い出したという感じだ。
 勇者のまなじりが更に吊り上がる。

「俺は初代勇者じゃないぞ! 迷惑だ! 責任を取れ!」
「ほう? 責任とはどのような?」
「まぁまぁ二人共。アドミニス殿、あの騎士鎧の中身は、どのような方だったのですか?」

 不毛な言い争いになりそうな気配を遮って、俺は気になったことを聞いてみる。
 勇者はムッとしながらも、黙った。
 おそらく興味があるのだろう。

 アドミニス殿はふむとうなずくと、目を細めて遠くを見るような顔になった。

「そうさな。確かあれは、わしが森を散策しておったときだ……」
「おい、それって年寄りの長話だろ! 完結に結論だけ言え!」

 勇者は、アドミニス殿の思い出話に厳しいツッコミを入れる。
 お前、せめてもうちょっと聞いてやれよ。
 アドミニス殿は特に怒ったりはせず、ニコニコ顔で、深くうなずく。

「確かに、子どもには長話は辛いだろう」
「子どもじゃねえよ!」
「実はだな。あのなかに入っておった騎士は、ドラゴンの棲家に単独で特攻した者でな。闇のような黒いドラゴンと、銀色に輝く鎧の騎士との戦いは、それはもう見事なものであったよ」
「結局語ってるじゃねえか!」

 アドミニス殿の話の合間に勇者が茶々を入れるというリズム感のある語りとなった。
 なんだか面白い。

「それで、その騎士殿はドラゴンにやられてしまわれたのですか?」
「いや、それがな……」

 聖騎士が尋ねると、アドミニス殿は少し口ごもる。

「どうした?」
「死者の名誉に関わることなので少し言いづらいが、まぁあやつが満足して逝ったと言うならば、そなたには聞く権利があるだろう」

 勇者の問いに、アドミニス殿はそう言って、話を続けた。

「実はな、騎士殿は、ぐらついた足場を踏んでしまって、戦いの最中に転倒してしまわれたのだ。そして打ちどころが悪かったらしく、そのまま……」
「なん……だと?」

 アドミニス殿は鎮痛そうな表情で黙祷する。
 勇者は信じられないといった顔でアドミニス殿の顔を仰ぎ見た。
 しかし、アドミニス殿からは冗談を言っているような様子は見えない。

「それは……さぞや無念だったでしょうね」

 聖騎士がしみじみと言った。
 自分の身に置き換えて考えているのだろう。
 確かに戦いを嗜む者としては、さぞや口惜しかっただろうな。

「そ、それで未練を残して幽霊になったのか?」
「うむ。わしも目撃したのは何かの縁と考えてな、何かしてやれることはないか? と尋ねたのだよ。すると、とにかく強い奴と戦いたいと言うので、そう言えば、近く神の盟約者共が勇者を選定するとかなんとか言っていると聞いていたので、其奴と戦ってみてはどうか? と提案したのだ」
「な、なるほど」
「それはよいことをなさりました」

 思わず勢いでうなずいてしまった俺とは違い、聖騎士はしみじみとうなずいた。
 その騎士が満足して逝ったのを見ていたので、感慨深かったのかもしれない。

「俺はごまかされないぞ。お前、そのまま忘れてたんだろうが!」

 勇者の指摘は尤もだ。
 忘れられてしまっていては、騎士も長いこと浮かばれなかったことだろう。

「それは初代勇者殿が型破りだったのがいけない。まさかいきなり大地を割るとは誰も思わないだろう? 驚いて出ていって、そのまま戦いになだれ込んだのだ。勇者殿が城に侵入することはなかった」
「なるほど」

 納得してうなずく。
 勇者はまだ何か納得がいかないようだが、まぁ戦った当人としては言いたいこともあるだろう。

「アルフ、その剣ぐらいは打ち直してもらえ。大公陛下から頂いたものだしな」
「当たり前だ!」

 怒ってる、怒ってる。

「うむ、それは当然であろう。だが、ふむ……」

 アドミニス殿は首を傾げて何やら考え込む風だ。

「何か妙なことを考えてないだろうな?」
「いや、そもそも、そなた二剣を使ったりはしないであろう? 聖剣とその魔剣、二本も必要なのか?」
「聖剣を使うまでもない場合もあるだろうが!」

 アドミニス殿の問いに対する勇者の答えは、確かに、と納得出来るものだった。
 確かにどんな相手に対しても聖剣を使っていては、聖剣の価値が下がるというものだ。
 正直、俺も【星降りの剣】を使いあぐねているところがある。
 ドラゴンの爪を使っているので、素で斬れすぎるのだ。
 俺の剣技である【断絶の剣】は、認識したものを切り離すというものだが、よほどのことがない限り、剣の力があれば剣技が必要ないぐらいだし、手心を加えたいときには、むしろ使えない。
 おかげで今の俺のメイン武器は、ほぼナイフとなっている。
 強力ならそれで万事が解決とはいかないのだ。

 だが、アドミニス殿もさるもの、勇者の主張の矛盾点を突いて来る。

「そういう意味では聖剣のほかに持つのが魔剣というのはいかがなものか?」
「う……」
「それならば、もう一本は普通の剣を持てばいい」
「何が言いたい?」
「うむ。実はな、この炎の魔剣、お前の魔力にだいぶ馴染んでおるので、聖剣の芯材にすればいいのではないかと思ってな。大公とやらも、聖剣の一部となったのなら、光栄に思うのではないか?」
「な……な、な……」

 あ、勇者の奴、何をどう言っていいのかわからない状態になったようだ。
 怒りと戸惑いが混ざってる感じか?

「アドミニス殿。人の世はそう単純ではないぞ?」

 勇者に助け舟を出してやる。

「いや、剣というものは一度折れてしまうと折れ癖がつくのだ。だからこの魔剣を打ち直しても、あまり芳しいことにはならぬだろう。ならば、新しく生まれ変わらせてやりたい。わしの親心というものよ」
「ははぁなるほど」
「師匠、納得しちゃだめだ!」

 アドミニス殿の言うことも納得出来た。
 勇者はうるさいが、折れた剣というものは継いではならないという話を、別の鍛冶師からも聞いたことがあるんだよな。
 役割を終えた剣は、ご苦労さまと言って、炉で熔かしてやるもんだ、と。
 あれは、誰だったかな?

「まぁ安心せよ。最高の聖剣として仕上げてやろうではないか」
「お師匠さま、勇者さまの魔力はものに馴染みにくいとおっしゃっていましたから、その剣身を芯材に出来れば、その問題は解決しますね」

 アドミニス殿はいい笑顔で請け合ったが、作業場から上がって来たルフが、思い切りネタバラシをしたので、台無しになってしまったのだった。
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