勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

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第八章 真なる聖剣

965 昼休憩

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 村中の人が集まったのではないかと思えるほどの盛大な見送りを受けて、俺達は小さな村を出立した。
 ロスト辺境領から半日という、ミホムでは僻地にあたる村なので、彼等もまさか勇者が立ち寄ってくれるとは思っていなかったのだろう。

「いい村でしたね」
「ああいう場所では人は助け合わなければ生きていけないからな。自然に他人を気遣うようになるんだ」

 聖女が感慨深げに言うので、俺はそういう村の在り方を説明した。
 まぁ余計な説明だったような気もするが。

「師匠、ここから王都はどのぐらいだ?」
「んー、もう少しで主街道に出るんで、そっから三日、街に入る手続きを考えると、五日ぐらいみておいたほうがいいかな?」

 魔道馬車は疲れ知らずなので、普通の馬車よりも断然早く目的地へと到着することが出来る。
 ときどき勇者か聖女にチャージしてもらうだけでいいので、飼葉もいらずに燃費もいい。
 その魔道馬車でも少し時間がかかるのは、この国の主街道がかなり東寄りに王都へと向かっているからだ。
 旧街道と呼ばれる北からまっすぐ南へ進む道は、途中で森に突っ込むので商人達が嫌って使いたがらないため、段々と廃れてしまった。

 北西から王都に向かって行くには、大川から支流を下る船路が便利でそっちが人気だ。
 陸路だと、自然に東寄りの主街道を使うこととなる。
 魔道馬車はデカいので、全く整備されていない道だと通れないこともあるからだ。
 便利だが、そういう部分がネックだな。

 陸路の要である主街道が東に寄っているのは、大連合の常設バザールがあるせいだ。
 北の国の商人も大連合の珍しい品を求めてあのバザールに行くので、ミホムの商人は、北と東の商品をまとめて買うことの出来る場所として便利に使っている。
 商人が大荷物を運ぶために金を出して道を整備して、安全な宿場も作るので、自然とそっちが発展するのだ。

 ロスト辺境領が、国境の街なのにあまり潤っていないのは、このせいでもある。
 治安があまりよくない二翼国や、盗賊の巣窟でもある両国の緩衝地帯を抜けて北へ仕入れに行く魅力がないのだ。
 あと、不思議と、ロスト辺境領周辺の魔物は強い。
 儲けの魅力が薄い割には危険が大きすぎるんだよなぁ。

 という訳で、現在俺達はひたすら東に大きく曲がりつつ南下中である。

「師匠、飯にしよう」
「朝ごはんは村で食っただろ」
「昼だ」
「昼に飯を食う風習はない。……ああ、貴族のティータイムとか言うやつか」
「そんな嫌味を言わずにさ、いつもだったら軽くなにか食べるじゃないか」

 昨夜たくさん食べたので、調整として今日の昼は抜くつもりだったのだが、あまりにも勇者がうるさいので、主街道に出る前の脇道で休憩を取ることにした。

「軽く、だからな」
「さすが師匠! 口ではなんと言ってもやさしい」
「お師匠さまはいつもお優しいですよ?」
「あれは甘いと言うんだ」

 俺が念を押すと、勇者が全然価値の感じられない称賛の言葉を吐く。
 勇者の真意など知らない聖女がその言葉を肯定するが、すかさずモンクが修正した。
 はいはい、なんとでも言うがいいさ。

「ダスター、お茶は私が」
「ああ、ありがとう。今日はちょっと試したいことがあるんで、メルリルはこの小分けした携帯食を各々に配ってやってくれ」

 以前は全員にそれぞれの携帯食を渡していたのだが、勇者やモンクが勝手に食いすぎるので、俺がまとめて管理することにしたのだ。
 別にほかの連中が食っている間恨みがましい目で見られるのは気にならないが、聖女や聖騎士達が自分の分を分けてしまうので、よくないと判断したのである。

 俺がいなくなったらこれ、誰に任せればいいんだろう?
 聖騎士かモンクかなぁ……ただこの二人、それぞれ勇者と聖女に甘いんで、あまり信頼出来ないところもある。
 いや、さすがにみんなそれぞれ成長しているんだ。
 信頼してやるべきだろう。

 俺は人数分のカップで計った量の水を小さな鍋で沸かして、そのなかに、乾燥させた果物の皮を粗目の袋に入れたものを投入した。
 この方法だと皮が入り込まないので便利だ。
 もちろんわざと皮や葉を残す茶の淹れ方もあるので、こればっかり使ったりもしないが、今回は、例の村でもらったはちみつ菓子を試してみるつもりなのである。

 真っ黒の塊を親指の先程度入れて、沸騰しない程度に沸かす。
 ほんのりと甘い香りが漂った。

「お、なんだなんだ?」

 勇者が鼻をひくひくさせて俺の手元を覗き見ようとする。

「おとなしく座ってろ!」

 叱っておいて、自分のカップに少し移して味を見た。
 うーんこの程度なら、ほんのりと甘い香りがするぐらいだな。
 あと、鍋底のほうに木の実や雑穀の粒が溜まっているので、これもカップに入れておくと、最後に噛んで楽しめるだろう。

 この昼のお茶は、大絶賛ではなかったものの、「なんだか好き」という全員の好評を貰うことが出来たのだった。
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