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第八章 真なる聖剣

966 順番待ち

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 王都の入場のために順番を申請すると、ギョッとした目で魔道馬車を見られた後、貴族用の特別通用門に誘導されそうになった。
 そうなるともう、そのまま王城まで一直線である。

「お待ちください。今回勇者さまは、我等が国王陛下にお目通りのお手間を求めず、通行だけさせていただきたいとのご意向です。そのため、一般の大門から順番通り入場したいとのこと」

 門衛さん達は困っているようだ。
 自分達だけで判断出来ない……いや、したくないのだろう。
 誰だって責任を取りたくないからな。

「責任は俺が取る」

 きっちりと正装用のマントを羽織った勇者が馬車から降りて姿を見せる。
 旅の途上なので、本格的な正装は持ってないが、マントは身分証明のために正式なものを持ち歩いているのだ。
 まぁ手の甲にある魔法紋を見せれば、それでもいいのだが、そういうやり方はあまり品がないとされているらしい。
 貴族社会も大変だな。

「そ、そうですか。わ、わかりました」

 咄嗟に、どういう態度を取っていいのか迷った挙げ句、中途半端な軍用の礼の姿勢を取ったまま、動揺しつつ答える門衛さん。
 用事は済んだとばかりに、さっさと馬車に引っ込む勇者。

「あー、よかったら待ち時間用のいい宿を紹介してくれないか? 何か用事があればそこに伝えてくれればいいし」

 仕方ないので俺がフォローを入れておく。
 門衛さんは少し安心したような顔になり、そこそこ上等そうな宿を教えてくれたのだった。
 すぐに連絡がつくのなら、上役にも報告しやすいだろうからな。

 だが、紹介された宿を見て、勇者が深いため息を吐くこととなった。
 すごく派手だったのだ。

「ししょー」
「諦めろ。下っ端の兵士が勝手な判断をしたら、下手すると首が飛ぶんだぞ? ちょっと配慮してやれ。それにこんなデカい馬車を預かることの出来る宿も少ないし、な」

 宿と言っても王都の宿ではない。
 順番待ちのための、宿場の宿である。
 もう年越し祭は終わったのだが、春になって流通が増えているので、この時期王都も混雑しているのだ。
 並んで待てる時期はいいのだが、このぐらいの混雑期には、ずらりと並んだまま待たせたりはしない。
 ひとグループ二十組程度に同じ色と番号の入った札を配り、門のところに受け付けをする色と番号を大きく張り出す。
 そうやって自分の受け取った色と番号が回って来るまで待つのである。
 そんな混雑期の待機中の旅人を狙った、季節限定の宿場街にあるのが、今回俺達の泊まる宿という訳だ。

「わたくし、この時期に王都に来るのは初めてです。面白い制度ですね」

 聖女はもらった札を眺めつつ、そう言った。

「長時間道に突っ立ったまま待つと消耗するからな。なかには倒れたり、病気になったり、最悪そこで死んでしまう者まで出る。それでとある貴族が陛下に願い出て実現した制度だ」

 勇者が感慨深そうに札を見ているので、少し気になった俺は聞いてみる。

「随分詳しいんだな」
「……陛下にこの案を願い出た貴族というのが、俺の祖父にあたる方だ。民への思いやりがある人物として、平民には人気があったらしい」
「お前の祖父って……確か」

 勇者の父親は王族だったという話を聞いた気がするぞ。

「母方だ」
「なるほど」

 そう言えば、勇者から母親の話を聞いたことがないな。
 父親とか兄とかの話はたまにしているが……。

「俺の母は、俺を産んですぐに亡くなったと聞いている。俺の教育を受け持ったのは、その後父が迎えた後妻殿だな。いい人だったが、母とは呼べなかった。悪いことをした、と今となっては思っている」
「……そうか。ということは、この仕組みを作ったのは、本当の母君の父親ということか」
「ああ。俺がまだ子どもの頃、……ちょっと調べたことがあった」

 勇者はどこかきまりわるげだ。
 亡くなった母親を恋しがる子どもっぽさを恥じたのかもしれない。

「立派なお祖父さまじゃないか。もっと堂々と自慢しろ」
「そ、そうだな。師匠の言う通りだ。いいことをした人が身内だったのだから、誇るべきなのだろう」

 ちなみに見た目が豪華な宿の飯は正直あまり美味くなかった。
 勇者が勇者であるということを明かさなかったからか、旅装で汚れている俺達への扱いもあまりよくない。
 偉いさんとよしみを通じようとするような店は、賄賂に金を使うんで、肝心の商売に金を掛けない、という噂は、案外本当なのかもしれないな。
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