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第八章 真なる聖剣
967 王城からの使者
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結局のところ、俺達の思惑通りには行かなかった。
まぁこうなることは予想していたけどな。
「陛下におかれましては、ぜひとも勇者殿のご活躍のお話をお聞きしたいとのこと。お忙しい勇者殿のご事情を慮り、あくまでも内々に留めると」
王城から派遣された騎士が、むちゃくちゃ緊張した面持ちで勇者の前にひざまずいている。
かなりの必死さ具合から見て、下手すると失敗したら降格されるのかもしれない。
勇者を招待出来なければ地位を追われるとか、さすがに不憫である。
「そ、それに、普通に王都入りなさりたいとのご希望ですが、その場合今の時期、一日はゆうに時間を取られましょう。その時間を儀礼門を使って省き、陛下との歓談にお当てになればよろしいかと」
うんうん、わかるよ。
そうだよな、貴族用の門を使えば、わざわざ並ぶ必要がないから急いでるんならそっちを使って浮いた時間を王様と会え、と思うよな。
「それはものの順序が逆であろう」
冷え冷えとした声で勇者が告げる。
「勇者は常に民と共に在る。民が苦境にあり、急ぎ駆けつけねばならないのなら、民の遵守する法を省くこともあるだろう。だが、個人の事情で民に課せられた法を破るのは違うのではないか?」
「こ、個人。陛下をただの個人とおっしゃるか?」
「ほう? 神の下、全ての人は平らかであり、王や貴族は神の意に沿って民を導くためにあるのではないのか?」
「っ!」
こらこらケンカを売るな。
「勇者さま。使者殿にそのような意地悪をなさる必要はないでしょう。勇者さまのおっしゃった個人とは、勇者さま自身のこと、と明かしてさしあげればよろしいのでは?」
俺がそう差し出口を叩くと、使者の騎士がギロリと睨みつけて来た。
おおう、怖い。
冒険者風情が口を挟んで申し訳ありませんでした。
その途端、勇者がドンッ! と、床を踏み鳴らす。
おいやめろ、床が抜けたらどうする?
「我が従者に何かご不満でも? それとも貴殿、個人というのは自らの主のことだとして押し通したいのか?」
あ、勇者の機嫌が更に悪化した。
困ったな。
「い、いえ、滅相もありません。……従者殿、ご無礼をいたした」
「いえ、ただの従者がいらぬ口を出しました。こちらこそご無礼を謝らせていただきます」
ほらほらちゃんと謝れる人なんだから、お前も機嫌を直せ。
もうこうなったら話を受けるしかないだろうが。
こんなやりとりしているだけ無駄な時間だぞ。
「まぁいい。使者殿に苦情を言っても始まらないことはわかっている。承知した。登城させていただく」
勇者がそう言った途端、使者殿の顔がパッと明るくなった。
よかったな。
「ただし、今回は滞在はしない。そこは承知していただけなければ、この話、お受け出来ない。それが最低限の条件だ」
勇者の条件に、使者殿はなんとも言えない表情に戻る。
何か苦いものを無理やり呑み込んだような苦悩の顔だ。
「し、承知いたした。陛下には必ず申し上げる。それでは、こちらの通行手形をお受け取りください」
勇者は使者殿の渡して来た、貴族専用の儀礼門を通るための手形を受け取り、俺へと手渡した。
俺は懐から北門の順番待ちの札を出し、勇者に渡す。
「では、これを門衛に返してやってくれ。なくなると、困るだろうからな」
この待ち札は、高値で取引されることもあるので、そこらに捨てる訳にもいかないのだ。
使者殿は、ぶるぶる震える手でその札を受け取ると、深く礼をして、部屋を後にした。
あの震えは、きっと怒りによるものだろうな。
王の使者を私用に使ったとか思われたに違いない。
貴族は、ついでに何かをするという発想を下品な行いみたいに考えるからな。
「アルフ、あんまり国と揉めるなよ?」
「俺が国と揉めるとか有り得ないな。そもそも勇者は政とは関わらない存在だ。自分達に優先権があるとか思っている王や貴族がおかしい。そうだろ?」
「まぁ気持ちはわかる」
勇者は使者殿との会話の影響か、しばらくイライラしていたが、やがて落ち着いて来ると、眉間にシワを寄せて何やらうなり出した。
「師匠、どうしよう」
「どうした?」
「陛下がこれだけ無理強いする理由は、おそらく聖剣の件だ。もう大公国でお披露目した話はこっちにも届いているだろうしな」
「……なるほど」
つまり陛下の前であのお披露目のようなことをさせられる可能性が高いのか。
「そのときは、その仮の聖剣でごまかせるんじゃないか? 耐久力はともかくとして、剣身は本物だし」
「そうなんだが、もう一つ。元の聖剣は、ミホムの国宝だったんだ」
「……あー。うーん、世界を滅ぼすような恐るべき魔物を倒すためにその使命を全うした、とか言っておけばいいのでは? 別に嘘でもないし」
「なるほど。さすが師匠、冴えているな」
「……一応謝っておけよ?」
「おう!」
懸念材料がなくなった勇者は、笑顔で元気よく返事をしたが、それで本当に納得してくれるかどうかは知らないからな?
まぁこうなることは予想していたけどな。
「陛下におかれましては、ぜひとも勇者殿のご活躍のお話をお聞きしたいとのこと。お忙しい勇者殿のご事情を慮り、あくまでも内々に留めると」
王城から派遣された騎士が、むちゃくちゃ緊張した面持ちで勇者の前にひざまずいている。
かなりの必死さ具合から見て、下手すると失敗したら降格されるのかもしれない。
勇者を招待出来なければ地位を追われるとか、さすがに不憫である。
「そ、それに、普通に王都入りなさりたいとのご希望ですが、その場合今の時期、一日はゆうに時間を取られましょう。その時間を儀礼門を使って省き、陛下との歓談にお当てになればよろしいかと」
うんうん、わかるよ。
そうだよな、貴族用の門を使えば、わざわざ並ぶ必要がないから急いでるんならそっちを使って浮いた時間を王様と会え、と思うよな。
「それはものの順序が逆であろう」
冷え冷えとした声で勇者が告げる。
「勇者は常に民と共に在る。民が苦境にあり、急ぎ駆けつけねばならないのなら、民の遵守する法を省くこともあるだろう。だが、個人の事情で民に課せられた法を破るのは違うのではないか?」
「こ、個人。陛下をただの個人とおっしゃるか?」
「ほう? 神の下、全ての人は平らかであり、王や貴族は神の意に沿って民を導くためにあるのではないのか?」
「っ!」
こらこらケンカを売るな。
「勇者さま。使者殿にそのような意地悪をなさる必要はないでしょう。勇者さまのおっしゃった個人とは、勇者さま自身のこと、と明かしてさしあげればよろしいのでは?」
俺がそう差し出口を叩くと、使者の騎士がギロリと睨みつけて来た。
おおう、怖い。
冒険者風情が口を挟んで申し訳ありませんでした。
その途端、勇者がドンッ! と、床を踏み鳴らす。
おいやめろ、床が抜けたらどうする?
「我が従者に何かご不満でも? それとも貴殿、個人というのは自らの主のことだとして押し通したいのか?」
あ、勇者の機嫌が更に悪化した。
困ったな。
「い、いえ、滅相もありません。……従者殿、ご無礼をいたした」
「いえ、ただの従者がいらぬ口を出しました。こちらこそご無礼を謝らせていただきます」
ほらほらちゃんと謝れる人なんだから、お前も機嫌を直せ。
もうこうなったら話を受けるしかないだろうが。
こんなやりとりしているだけ無駄な時間だぞ。
「まぁいい。使者殿に苦情を言っても始まらないことはわかっている。承知した。登城させていただく」
勇者がそう言った途端、使者殿の顔がパッと明るくなった。
よかったな。
「ただし、今回は滞在はしない。そこは承知していただけなければ、この話、お受け出来ない。それが最低限の条件だ」
勇者の条件に、使者殿はなんとも言えない表情に戻る。
何か苦いものを無理やり呑み込んだような苦悩の顔だ。
「し、承知いたした。陛下には必ず申し上げる。それでは、こちらの通行手形をお受け取りください」
勇者は使者殿の渡して来た、貴族専用の儀礼門を通るための手形を受け取り、俺へと手渡した。
俺は懐から北門の順番待ちの札を出し、勇者に渡す。
「では、これを門衛に返してやってくれ。なくなると、困るだろうからな」
この待ち札は、高値で取引されることもあるので、そこらに捨てる訳にもいかないのだ。
使者殿は、ぶるぶる震える手でその札を受け取ると、深く礼をして、部屋を後にした。
あの震えは、きっと怒りによるものだろうな。
王の使者を私用に使ったとか思われたに違いない。
貴族は、ついでに何かをするという発想を下品な行いみたいに考えるからな。
「アルフ、あんまり国と揉めるなよ?」
「俺が国と揉めるとか有り得ないな。そもそも勇者は政とは関わらない存在だ。自分達に優先権があるとか思っている王や貴族がおかしい。そうだろ?」
「まぁ気持ちはわかる」
勇者は使者殿との会話の影響か、しばらくイライラしていたが、やがて落ち着いて来ると、眉間にシワを寄せて何やらうなり出した。
「師匠、どうしよう」
「どうした?」
「陛下がこれだけ無理強いする理由は、おそらく聖剣の件だ。もう大公国でお披露目した話はこっちにも届いているだろうしな」
「……なるほど」
つまり陛下の前であのお披露目のようなことをさせられる可能性が高いのか。
「そのときは、その仮の聖剣でごまかせるんじゃないか? 耐久力はともかくとして、剣身は本物だし」
「そうなんだが、もう一つ。元の聖剣は、ミホムの国宝だったんだ」
「……あー。うーん、世界を滅ぼすような恐るべき魔物を倒すためにその使命を全うした、とか言っておけばいいのでは? 別に嘘でもないし」
「なるほど。さすが師匠、冴えているな」
「……一応謝っておけよ?」
「おう!」
懸念材料がなくなった勇者は、笑顔で元気よく返事をしたが、それで本当に納得してくれるかどうかは知らないからな?
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