勇者パーティから追い出されたと思ったら、土下座で泣きながら謝ってきた!

蒼衣翼

文字の大きさ
883 / 885
第八章 真なる聖剣

988 商人のルール

しおりを挟む
「なるほどな、腐れ狩人の街の冒険者のやらかしそうなこった」

 俺達の話を聞きながら、そう悪態をつきつつ男は書類を記載して行く。

「へえ、なかなか立派な文字を書くなぁ」

 男の書き記す書類をちらりと見て、俺は感心した。
 教会のおかげで、多少育ちが悪くても平野の民の多くは読み書きが出来る。
 ただし、それは平民の使う平文字であって、貴族達が正式な書類なんかに使う文字とは違い、短文でまとまった意味を伝えるには難しい文字だ。
 自然と文字量が多くなるので、記載スペースに限りがある書類なんかの作成には向いていないし、見た目もあまりよろしくない。
 そのせいで、店の看板などにはあまり文字は使われずに、その仕事を象徴する絵を元にしたデザインが使われることが多いのだ。

 ところが、この男の書く文字は、平文字なのに見やすく工夫されていた。
 しかも要点ごとにまとめて書いているので、内容もわかりやすい。

「お、ありがとよ。俺達のような傭兵は、いかに偉い人間にアピールするかってのが大事だからな。平文の契約書類でお偉いさんにアピールするために工夫した結果さ。だがおかげで、報告書なんかの雑事は全部俺に回って来やがる。目立つのも良し悪しだよなぁ」

 俺の言葉にニヤリと笑った男は、礼を言いつつもそうぼやく。
 なるほどな、傭兵と言えば仕事の相手はほとんどが貴族だ。
 貴族は書類に独特の飾り文字を使っていて、平民の書く文字を平文字と読んでバカにしている節がある。
 とは言え、平民である傭兵と契約を結ぶなら、その書面の文字は平文字となるだろう。
 なかには貴族落ちの傭兵部隊もあるようだが、かなり珍しい。
 だからこそ、平文字でも見た目がいいというのはアピールポイントになる、という訳だ。

 俺達冒険者も、二つ名や目立つ逸話で指名依頼が入りやすいようにするものだが、傭兵もそれぞれにアピールを考えてよりいい契約を結ぼうとしているんだな。

「なるほど、すでにある文字を装飾するというのは面白い発想だな。貴様それなりに頭がキレそうだ」

 と、勇者も感心した。
 物言いが横柄なので誤解されそうだが、これでもかなり相手を認めているのだ。

「うおう。噂の勇者さまにそんな風に言われちまうとケツがむず痒くなっちまうぜ……っと、下品で失礼」
「俺はもう貴族ではない。品など気にしない」

 傭兵らしい軽口を慌てて訂正する男に勇者が仏頂面でそう言うと、相手の男は少し虚を突かれたような顔になり、すぐに笑い出した。

「いいね。今回の勇者さまは正真正銘庶民の味方だって評判だったが、実際に会ってみれば評判以上におもしれえ勇者さまだ。……そういうのは実にいい」
「それで、俺達の処分はどうなるんだ?」
「んー。このバザーを運営している商連合のお偉いさんの定めたルールだと、喧嘩騒ぎを起こした場合は一人当たり、半銀貨の罰金で、刃物や魔法などの危険な暴力武器を使用した場合には一人一大銀貨カド、けが人が出た場合にはけが人一人当たりに更に一大銀貨カド追加とバザーへの出入り不可、死人が出た場合には一人当たり一金貨ミヘイ徴収した上で拘束、ご領主さまの裁可を仰いだ上で処分を下すって感じだ。……どうだ、お貴族さまの法よりもわかりやすいだろ?」
「実に商人らしいルールだな」

 問題は金で解決というのが、商人の考え方だからな。
 確かにわかりやすい。

「ということは、俺達は一人半銀貨、ミディの親父さんが一大銀貨カドってところか。……なぁよかったらミディの親父さん、……あの森人の分の罰金は俺が立て替えたいんだが」
「師匠、金なら俺が出す。罪なき者を護るための金なんだから、使いみちとしては合ってるだろ?」

 ものは言いようである。
 しかし、勇者もなかなかしゃれたことを言えるようになったな。

「あー、ちょっと待ってくれ。今回の件については、おそらく罰金はいらないってことになるんじゃないかと思う」
「む?」

 勇者が思わず顔をしかめた。
 特別扱いが嫌いなのだ。

「商人ってのは評判を気にするからな。噂の勇者さまから金をむしり取ったなんて評判が立つと困るって判断になりそうだってことさ。より自分達に利益があるように考えるんじゃねえかな? ……俺もこれでも商人の旦那方とは付き合いが長いからな。この読みは当たると思うぜ」

 古い傷跡のせいで歪な形に唇を歪ませながら、傭兵の男は快活に笑ってみせるのだった。
しおりを挟む
感想 3,670

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。