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第八章 真なる聖剣
988 商人のルール
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「なるほどな、腐れ狩人の街の冒険者のやらかしそうなこった」
俺達の話を聞きながら、そう悪態をつきつつ男は書類を記載して行く。
「へえ、なかなか立派な文字を書くなぁ」
男の書き記す書類をちらりと見て、俺は感心した。
教会のおかげで、多少育ちが悪くても平野の民の多くは読み書きが出来る。
ただし、それは平民の使う平文字であって、貴族達が正式な書類なんかに使う文字とは違い、短文でまとまった意味を伝えるには難しい文字だ。
自然と文字量が多くなるので、記載スペースに限りがある書類なんかの作成には向いていないし、見た目もあまりよろしくない。
そのせいで、店の看板などにはあまり文字は使われずに、その仕事を象徴する絵を元にしたデザインが使われることが多いのだ。
ところが、この男の書く文字は、平文字なのに見やすく工夫されていた。
しかも要点ごとにまとめて書いているので、内容もわかりやすい。
「お、ありがとよ。俺達のような傭兵は、いかに偉い人間にアピールするかってのが大事だからな。平文の契約書類でお偉いさんにアピールするために工夫した結果さ。だがおかげで、報告書なんかの雑事は全部俺に回って来やがる。目立つのも良し悪しだよなぁ」
俺の言葉にニヤリと笑った男は、礼を言いつつもそうぼやく。
なるほどな、傭兵と言えば仕事の相手はほとんどが貴族だ。
貴族は書類に独特の飾り文字を使っていて、平民の書く文字を平文字と読んでバカにしている節がある。
とは言え、平民である傭兵と契約を結ぶなら、その書面の文字は平文字となるだろう。
なかには貴族落ちの傭兵部隊もあるようだが、かなり珍しい。
だからこそ、平文字でも見た目がいいというのはアピールポイントになる、という訳だ。
俺達冒険者も、二つ名や目立つ逸話で指名依頼が入りやすいようにするものだが、傭兵もそれぞれにアピールを考えてよりいい契約を結ぼうとしているんだな。
「なるほど、すでにある文字を装飾するというのは面白い発想だな。貴様それなりに頭がキレそうだ」
と、勇者も感心した。
物言いが横柄なので誤解されそうだが、これでもかなり相手を認めているのだ。
「うおう。噂の勇者さまにそんな風に言われちまうとケツがむず痒くなっちまうぜ……っと、下品で失礼」
「俺はもう貴族ではない。品など気にしない」
傭兵らしい軽口を慌てて訂正する男に勇者が仏頂面でそう言うと、相手の男は少し虚を突かれたような顔になり、すぐに笑い出した。
「いいね。今回の勇者さまは正真正銘庶民の味方だって評判だったが、実際に会ってみれば評判以上におもしれえ勇者さまだ。……そういうのは実にいい」
「それで、俺達の処分はどうなるんだ?」
「んー。このバザーを運営している商連合のお偉いさんの定めたルールだと、喧嘩騒ぎを起こした場合は一人当たり、半銀貨の罰金で、刃物や魔法などの危険な暴力武器を使用した場合には一人一大銀貨、けが人が出た場合にはけが人一人当たりに更に一大銀貨追加とバザーへの出入り不可、死人が出た場合には一人当たり一金貨徴収した上で拘束、ご領主さまの裁可を仰いだ上で処分を下すって感じだ。……どうだ、お貴族さまの法よりもわかりやすいだろ?」
「実に商人らしいルールだな」
問題は金で解決というのが、商人の考え方だからな。
確かにわかりやすい。
「ということは、俺達は一人半銀貨、ミディの親父さんが一大銀貨ってところか。……なぁよかったらミディの親父さん、……あの森人の分の罰金は俺が立て替えたいんだが」
「師匠、金なら俺が出す。罪なき者を護るための金なんだから、使いみちとしては合ってるだろ?」
ものは言いようである。
しかし、勇者もなかなかしゃれたことを言えるようになったな。
「あー、ちょっと待ってくれ。今回の件については、おそらく罰金はいらないってことになるんじゃないかと思う」
「む?」
勇者が思わず顔をしかめた。
特別扱いが嫌いなのだ。
「商人ってのは評判を気にするからな。噂の勇者さまから金をむしり取ったなんて評判が立つと困るって判断になりそうだってことさ。より自分達に利益があるように考えるんじゃねえかな? ……俺もこれでも商人の旦那方とは付き合いが長いからな。この読みは当たると思うぜ」
古い傷跡のせいで歪な形に唇を歪ませながら、傭兵の男は快活に笑ってみせるのだった。
俺達の話を聞きながら、そう悪態をつきつつ男は書類を記載して行く。
「へえ、なかなか立派な文字を書くなぁ」
男の書き記す書類をちらりと見て、俺は感心した。
教会のおかげで、多少育ちが悪くても平野の民の多くは読み書きが出来る。
ただし、それは平民の使う平文字であって、貴族達が正式な書類なんかに使う文字とは違い、短文でまとまった意味を伝えるには難しい文字だ。
自然と文字量が多くなるので、記載スペースに限りがある書類なんかの作成には向いていないし、見た目もあまりよろしくない。
そのせいで、店の看板などにはあまり文字は使われずに、その仕事を象徴する絵を元にしたデザインが使われることが多いのだ。
ところが、この男の書く文字は、平文字なのに見やすく工夫されていた。
しかも要点ごとにまとめて書いているので、内容もわかりやすい。
「お、ありがとよ。俺達のような傭兵は、いかに偉い人間にアピールするかってのが大事だからな。平文の契約書類でお偉いさんにアピールするために工夫した結果さ。だがおかげで、報告書なんかの雑事は全部俺に回って来やがる。目立つのも良し悪しだよなぁ」
俺の言葉にニヤリと笑った男は、礼を言いつつもそうぼやく。
なるほどな、傭兵と言えば仕事の相手はほとんどが貴族だ。
貴族は書類に独特の飾り文字を使っていて、平民の書く文字を平文字と読んでバカにしている節がある。
とは言え、平民である傭兵と契約を結ぶなら、その書面の文字は平文字となるだろう。
なかには貴族落ちの傭兵部隊もあるようだが、かなり珍しい。
だからこそ、平文字でも見た目がいいというのはアピールポイントになる、という訳だ。
俺達冒険者も、二つ名や目立つ逸話で指名依頼が入りやすいようにするものだが、傭兵もそれぞれにアピールを考えてよりいい契約を結ぼうとしているんだな。
「なるほど、すでにある文字を装飾するというのは面白い発想だな。貴様それなりに頭がキレそうだ」
と、勇者も感心した。
物言いが横柄なので誤解されそうだが、これでもかなり相手を認めているのだ。
「うおう。噂の勇者さまにそんな風に言われちまうとケツがむず痒くなっちまうぜ……っと、下品で失礼」
「俺はもう貴族ではない。品など気にしない」
傭兵らしい軽口を慌てて訂正する男に勇者が仏頂面でそう言うと、相手の男は少し虚を突かれたような顔になり、すぐに笑い出した。
「いいね。今回の勇者さまは正真正銘庶民の味方だって評判だったが、実際に会ってみれば評判以上におもしれえ勇者さまだ。……そういうのは実にいい」
「それで、俺達の処分はどうなるんだ?」
「んー。このバザーを運営している商連合のお偉いさんの定めたルールだと、喧嘩騒ぎを起こした場合は一人当たり、半銀貨の罰金で、刃物や魔法などの危険な暴力武器を使用した場合には一人一大銀貨、けが人が出た場合にはけが人一人当たりに更に一大銀貨追加とバザーへの出入り不可、死人が出た場合には一人当たり一金貨徴収した上で拘束、ご領主さまの裁可を仰いだ上で処分を下すって感じだ。……どうだ、お貴族さまの法よりもわかりやすいだろ?」
「実に商人らしいルールだな」
問題は金で解決というのが、商人の考え方だからな。
確かにわかりやすい。
「ということは、俺達は一人半銀貨、ミディの親父さんが一大銀貨ってところか。……なぁよかったらミディの親父さん、……あの森人の分の罰金は俺が立て替えたいんだが」
「師匠、金なら俺が出す。罪なき者を護るための金なんだから、使いみちとしては合ってるだろ?」
ものは言いようである。
しかし、勇者もなかなかしゃれたことを言えるようになったな。
「あー、ちょっと待ってくれ。今回の件については、おそらく罰金はいらないってことになるんじゃないかと思う」
「む?」
勇者が思わず顔をしかめた。
特別扱いが嫌いなのだ。
「商人ってのは評判を気にするからな。噂の勇者さまから金をむしり取ったなんて評判が立つと困るって判断になりそうだってことさ。より自分達に利益があるように考えるんじゃねえかな? ……俺もこれでも商人の旦那方とは付き合いが長いからな。この読みは当たると思うぜ」
古い傷跡のせいで歪な形に唇を歪ませながら、傭兵の男は快活に笑ってみせるのだった。
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