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第2章 エンノア編
エンノア 5
しおりを挟む「コーキ殿、すみません。シェリーどうしたんだ?」
給仕のシェリーさん、肩で息をしている。
かなり辛そうだが、どこか悪いのだろうか。
10代半ばくらいの線の細い少女だから、貧血ということも考えられる。
「あ、あの、すみません、少し目眩が」
「お前も……なのか」
「……」
食卓についていたのは10名程度だが、みんな一様に黙り込んでいる。
さっきまでの和やかな雰囲気が嘘のように一変してしまった。
シェリーさんが目眩で屈みこんだことに、それほど衝撃を受けるのだろうか。
「ゼミア様!」
宴の間ずっと穏やかだったスペリスさんの悲痛な表情。
「ふむ……。サキュルスよ、シェリーを離れまで連れて行くように」
「承知いたしました」
ゼミアさんの指示に従い、サキュルスさんが席を立つ。
そのままシェリーさんに肩を貸して宴の間から出て行ってしまった。
「……」
「……」
「……」
俺も含め皆さん席に戻ったのだが空気が重い。
まあ、食事会の最中に誰かが倒れたらこうなるのも理解できるが、それにしたって……。
「コーキ殿、歓迎の宴の最中に申し訳ございませぬ」
そこは全く問題ない。
「いえ、体調不良はどうしようもないことです。それより、彼女は大丈夫でしょうか?」
「今すぐどうということはないかと。とりあえず、別室で休ませておきますので」
「今すぐですか」
ということは、先々に問題があるということか。
「長老様!」
「ゼミア様!」
「皆の者、分かっっておる」
背筋を伸ばしたゼミアさんが俺の方に向き直る。
「コーキ殿、少しよろしいでしょうか」
「ええ、もちろん」
「実は……聞いていただきたいことが」
深刻な顔つきをしたゼミアさんの言葉が止まる。
ただ事ではないな、これは。
「実は先ほどのシェリーのような症状の者。未知なる病に罹っている者が現在のエンノアには沢山おります」
「……はい」
「数日前に同じ症状だった者がひとり亡くなりました。そして今は集落に暮らす53名の内17名、シェリーを含めて18名が倦怠感や筋肉痛、関節痛で寝込んでいる状況です」
「……」
そんなに。
あまりの惨状に言葉を飲み込んでしまう。
「今のところ、その者たちの命に別状はないです……ですが、その中の5名が痩せ細り、このままではどうなることかと」
「それは……」
本当に大変な状況だ。
そんな状況のエンノアの集落に俺が来たのは迷惑以外の何物でもないよな。
「何と言うか、そんな大変な中で宴を開いていただき、ご迷惑をおかけしました」
「いえ、それは問題ないのです。彼らには我らができること全てをしておりますので。コーキ殿の歓迎とは別物です」
「とは言いましても」
「ゼミア様の言われる通りです。エンノアの大切な命を救っていただいたのですから、歓迎するのは当然です」
「ですが、スペリスさん」
「本当にこの宴に関しましては我らの気持ちですし、病とは関係ないことです。コーキ殿を歓迎しなければ病の者が治るということでもありませんし」
「……」
それは、まあ、その通りなのだが。
宴を開いてもらっている立場からすると、申し訳ない気持ちが先立つ。
だからというわけではないが、俺にできることはないのかと考えてしまう。
力になれることがあるなら何でもするのに、残念ながら俺は医者じゃない。
その上、エストラルの病気についての知識もないし、こちらの人々の身体のことも知らない。
そもそも、臓器を含め身体の構造が同じかということすら分からない状況だ。
もちろん、俺もいつかくる異世界行に備えての準備はしてきた。身体を鍛え、武術を身につけ、魔法を練習し、そして様々な知識を貯えてきた。その中には一般的な家庭医学の知識もある。
とはいえ……。
そんな知識で、どうにかなることなのか?
……。
「コーキ殿?」
大したことはできないかもしれない。
が、それでも、何もしないよりはましだな。
「ああ、すみません」
「どうかいたしましたか?」
「いえ……それより、病気の方について幾つか教えてもらえませんか。もしよければ、直接様子も見てみたいのですが」
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