30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

和見武志 3

「説明してくれないか?」

「……」

 そっぽを向いたままの武志。
 こちらの顔を見ようともしない。

「どうして、あいつらと一緒にいたんだ?」

「……」

「話せないのか」

「……あんたには関係ない、どうでもいいだろ」

「どうでも良かったら、助けたりはしない」

「そんなこと僕は頼んでないぞ!」

「……そうだな。頼まれてはいないな」

「だったら、自由にさせてもらう」

 そう言って、ドアから出ようとする武志。

「待て!」

「……手を放せ」

「駄目だ。まだ話は終わっていないからな」

「どうしてだよ。あんたには関係ないだろ」

「関係あるから助けたんだ」

「……関係あるだって?」

「ああ」

「今まで……」

 ドアにかけていた手を離し、武志がこちらに向き直る。
 その目には、さっきまでなかった強い光が。

「今まで……姉さんのことも僕のことも、気にもしていなかったくせに」

「……」

「それを今さら」

「……悪かった」

「謝罪なんか要らない!」

「……」

「今こんなことするなら、なぜ今まで無視してたんだ!」

 無視していたわけじゃない。
 ただ、異世界に夢中になるあまり……。

「すまない。全て自分勝手な都合だ」

「都合? 都合なんて誰にでもあるさ」

 ああ。
 都合なんて、ただの言い訳だな。 

「姉さんのことを気にかける時間くらいあっただろ」

「……」

「姉さんがどんな気持ちだったか……。あんた、分かってるのか! 考えたことあるのか!」

「……すまなかった」

「謝罪なんか、今さらなんだよ! それに、謝る相手も違う!」

「……そう、だな」

「もういい! 放っといてくれ!」

「それはできない」

 悪かったと思っている。
 非は認める。
 認めるが、武志のことを見過ごすつもりはない。

 それとこれとは話が違うんだ。

「なんでだよ!」

「武志……。これまでのこと、本当に申し訳なかったと思っている。もちろん、幸奈に対してもそう思っている」

「……」

「今後は……今後はできるだけのことはするつもりだ。絶対に無視なんかしない」

「だから、今日僕を助けたのか?」

「ああ」

「けど、僕は助けてもらったとは思っていない」

 分かってる。

「こんなこと望んでないんだよ!」

「……橘の下にいたかったのか?」

「……」

「いったい、何のためだったんだ?」

「話す必要はない」

「あいつらの思想に共感でもしたのか?」

「話すつもりはない」

「……」

 武志はまだ高校生だ。
 橘にとっては扱いやすい駒のひとつだったんだろう。
 それに、壬生少年の揺魂の影響を受けている可能性だってある。

 そんな武志を説得するには……。

「今回俺が手を出さなかったら、どうなっていたと思う?」

 こんな話でも、するしかない。

「拘束され自由を奪われていただろうな。短期間じゃないぞ、下手をすれば何年もそのままだ」

「っ、何年も!」

「ああ、その可能性は高い」

「……」

「解放されるにしても、かなりの制限を受けるはずだ。さらに、家族にも累が及ぶかもしれない」

「家族は、姉さんは関係ないだろ! 僕だけの問題だ!」

「……関係の有無は能力開発研究所が判断する」

「っ!」

 異能が原因で、幸奈に影響が及ぶなんて考えたくもないよな。

「くそっ!」

 その気持ち、よく分かるぞ。

「だから、武志を連れ出した」

「……どういう意味だよ?」




 武志は、まだこちらを信用しているわけじゃない。
 それでも、話に耳を傾ける気にはなったようなので、俺の推測も加えいろいろと説明をしたところ。

「……」

 今は助手席に座って当惑の表情を浮かべている。

「その話……本当なのか?」

「もちろんだ」

「僕の聞いていた話とは違う」

「橘からは耳当たりの良いことしか聞いていないだろうが、これが真実だ」

 異能について、真実がどうこうと言い切れる知識なんて俺にはない。
 ただ、今ここでは断言させてもらう。

「けど、異能者は研究所に迫害されているんじゃ?」

「研究所は迫害などしない。異能を悪用する輩を取り締まっているだけだ」

「異能を悪用?」

「ああ」

「そんなこと誰も!」

「武志が知らないだけだろ」

「……」

「そもそも、研究所に勝手に乗り込んで事務員たちを眠らせるなんてこと、普通じゃあり得ない。明らかに犯罪行為だ」

「……異能者を迫害する組織だから問題ないと言っていた」

「そんなわけない。それに事務員は普通人だぞ」

「……」

「橘と鷹郷さんのどちらが正しいのか。冷静に客観的に、今までの行動をよく考えてみるといい」

「客観的に……」

 武志も馬鹿じゃない。
 よく考えれば、分かってくれるはず。
 そう信じたい。





「ひとつ聞かせてほしい」

 しばらく考え込んでいた武志。
 おもむろに顔を上げ、決然とした表情で問いかけてきた。

「何でも聞いてくれ」

「……できるだけの事をするって、本当か?」

「もちろんだ」

 武志と幸奈のために、その気持ちに偽りはない。

「力を尽くすつもりでいる、武志と幸奈のためにな」

「……僕のことはいいけど」

「良くはない。武志のことはずっと心配してたんだぞ」

「なっ……」

 僅かに俯き、しばらく躊躇う素振りを見せた後。

「姉さん……姉さんのこと」

「幸奈がどうした?」

「……姉さんのこと、どう思ってる?」



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