30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

手合わせ 1

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<キュベリッツ王国王太子視点>



 ずっと悪くない空気だっただろ。
 それに、ほら、リラックスできてるじゃないか。

「……」

 いや、だから。
 そんな呆れたような顔は止めてほしいんだけど。

「せっかくの興味深い試合なんだ。キツイ顔しないで楽しむってのはどうかな?」

「見苦しい顔で申し訳ございません、殿下」

 あっ……。

「うん、分かった。僕が悪かった」

「……」

「だからさ、今は純粋に楽しもうか」

「……」

「ほら、もう始まるから」

「……楽しむような試合になんてならないわよ」

 おっ、少し険が消えたかな。

「どうせ、師匠が胸を貸すだけ」

「君は対戦相手を知っているのかい?」

「あなたに呼ばれて来たばかりなのに、知るわけないでしょ」

「だったら、案外いい試合になるかもよ」

「師匠相手にいい試合?」

「ああ。それなりの試合にはなるんじゃないかな」

「……」

「いずれにしても、幻影ヴァルターの手合わせなんて、そうそう観れるもんでもない」

「今さらだわ。それに、師匠はもう随分前に引退してるのよ」

 険が取れてきたとはいえ、まだご機嫌斜めのようだ。

「引退していても、幻影は幻影だからね」

「……」

「君はヴァルターに師事していたから珍しくもないだろうけど、僕には充分興味深い試合なんだ」

「師事といっても1年だけだわ」

 そう、たったの1年。
 なのに。

「その短期間で幻影ヴァルターの全てを吸収する君が恐ろしいよ」

「……全てじゃない」

「ほぼ全てかな」

「……」

「おっ、ふたりが出てきたぞ」

 この部屋から少し離れた場所で、ヴァルターとその相手が何やら話をしている。

 ん……。
 特別室の大窓からは訓練所が一望できるとはいえ、この距離はちょっと見づらいか。

「!?」

 どうした?
 何を驚いている?

「あの対戦相手?」

 ヴァルターの相手は……。
 ああ、随分と若い冒険者だ。
 まだ10代に見える。

「相手はアリマという名の冒険者。ヴァルターの相手をするには、ちょっと若いかな?」

「アリマ……」

「オルドウの冒険者らしい」

「オルドウのアリマ……」

 若すぎるってのは、聞いていた話とは違う。
 ただ、考え込むようなことでもない。

「この対戦、あなたが仕組んだの?」

「まさか。ただの偶然だよ」

「そう……」

「それで、何を驚いているんだい?」

「……あのアリマという青年、さっき小広場で会ったばかりなの」

「ほう! それはまた、奇遇というか縁があるというか」

「縁……」

「ああ、間違いなく縁だろうね」

 広場で出会った同日に、この訓練所でも見かける。
 大縁とは言わないものの、無縁ではないだろう。

「それで、小広場では何が?」

「……あの青年のおかげで、助かったのよ」

「君が?」

「私……そうね、私も助かったのかもしれない」

 珍しいこともあるもんだ。

「あの彼が師匠の相手」

「……」

「なら、きっといい勝負になるわ」




**************************




 木剣を右手に、こちらに足を進めるヴァルターさん。
 すり足のように見えるが……。

 違うな。
 独特の歩法だ。

 と。
 いきなり速度が上がった!

 予想を上回る踏み込み!

「はっ!」

 踏み込みの勢いそのままに、気合一閃。
 こちらの左肩に向けて袈裟懸けのような一撃が放たれる。

 片手なのに凄い威力だぞ。
 肩に受けたらただじゃ済まない。

 とはいえ、あまりにも大きく単純な動き。
 こっちの腕を試すってことか。

 それなら。

 振り下ろされてくる木剣を掻い潜るように左側に身体を投げ出して躱し。
 ヴァルターさんの右胸に向けて、こちらも右手一本で突きを入れる。

「!?」

 木剣を袈裟懸けに振り切ったヴァルターさん。
 左手に持つ木盾も大きく左後方に流れている。

 この体勢から対応するのは難しいはず。
 牽制ではあるが、充分に勢いのあるこの打突を。

 カシーン!

 おっ!

 木剣の切っ先が胸に当たる直前。
 ヴァルターさんは左手に持つ木盾を右に振り、俺の突きを撥ねのけた!

「……」

 あの状況から、即座に対応。
 しかも、俺の木剣を盾で防ぐのではなく、弾くように横から撥ねのけてみせた。

 さすが、幻影のヴァルターさんだ。

 が、続けて。
 これなら、どうだ!

 木盾により左下方に逸らされた木剣の流れをきり、手首を返し剣を戻す。
 狙いはヴァルターさんの右脚。
 高速で横に薙ぎ払ってやる。

 ヴァルターさんは、振り下ろした木剣と左手に持つ木盾が交差している状態。
 不安定なその体勢で、俺の剣速と威力についてこれるかな。

 ガコン!

 間に合うのか!

 交差していた盾を真下に滑らせたヴァルターさん。
 自身の右脚と俺の木剣の間に木盾を差し入れてきた。

「……」

 おもしろい!


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