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第5章 王都編
手合わせ 2
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自身の持つ木剣と木盾が交差した体勢。
あの崩れた体勢から、横薙ぎを防ぐとは。
おもしろい!
「くっ!」
ただ、木盾の上からでもダメージはあったようだ。
それなりの力で叩き込んだ一撃だったから、辛うじて間に合った盾の防御では剣勢を完全に消し去ることはできなかったのだろう。
「……」
ヴァルターさんの顔から少し余裕が消えている。
お試しは終わりかな。
と思ったところで、とんでもない反撃。
「とりゃぁぁ!」
右脚の前にある木盾。
俺の木剣を防いだ盾をそのままこちらに叩きつけてきた。
盾術か?
「っ!」
面の攻撃は木剣では捌きづらい。
なら、回避するのみ。
すぐさま後方に跳躍。
ヴオォォーン!!
寸前まで俺のいた場所に、木盾が凄い勢いで振り抜かれる。
すさまじい風圧だ。
初撃の袈裟懸けに続いて、この木盾の攻撃も並の威力ではない。
身に受けていい類の一撃じゃない。
「……」
この一連の動き。
ヴァルターさん、とんでもない腕力、膂力だな。
見た目通りの怪力の持ち主といったところか。
ステータスの数値はどうなってるんだ。
俄然、興味が湧いてきたぞ。
ああ。
もちろん、ヴァルターさんのステータス確認などはしていない。
手合わせの前に相手のステータスを見るなんて、フェアじゃないだろ。
「……」
さてと。
跳躍して距離をとった俺とヴァルターさんの対峙。
今は少しばかりの空白が訪れている。
「……5級とは思えない動きだ」
「ありがとうございます」
「本当に5級なのか?」
「ギルド証の通りですよ」
昇級が確定しているけれど、今は5級だ。
「……そういうことも、あるのか」
「……」
「まあ、今の攻防で力があることは分かった」
それはよかった。
「オレの目が節穴だったということもな」
「……」
「ただ、さっきまではその気配を消していただろ?」
その通り。
下手に外に気を出していたら、厄介事に巻き込まれそうだからさ。
今回の王都行では、完全に気を抑え込むことにしている。
もちろん、戦闘となれば話も変わってくるが。
「さっきその圧力を出していれば、手合わせをする必要もなかったぞ」
「……」
「いや、そうとも限らないか」
どっちだよ。
「それで、どうだ? もうやめるか?」
こんな場所で目立ちたくはないからな。
やめるのも悪くない。
ただ。
「ヴァルターさんは、どうです?」
「オレか? オレは、中途半端は嫌いだな」
「……」
「コーキさん、あんたもだろ」
俺は……。
そうだな。
ここでやめても、あまり変わらないか。
「どうする?」
「……もう少し、お願いできますか?」
「おう、もちろんだ!」
その瞬間。
ヴァルターさんの身体を纏う空気が一変。
「ヴァルターさんも隠してましたね」
俺を試していたのは分かっていたが、ここまで空気が変わるとは。
「当然だ。こういうものは、いきなり出すもんじゃない」
「なるほど」
手合わせを始めてからずっと、幻影の異名とはかけ離れた力技ばかりだった。
本番はここから。
そういうことか。
「まっ、引退した身でいきなり力を出すのはキツイ、ってのが本音だな」
「……」
「さっ、覚悟はいいか!」
さらに圧力が増す。
こちらの肌をひりつかせる剣気。
殺気にも似たそれが、質量をもってひしひしと伝わってくる。
その剣気に、思わず武者震いを覚えてしまう。
これが本当の幻影ヴァルター!
「……」
はは。
悪くない。
悪くないぞ。
こんな楽しい立ち合い、久しぶりだ!
「……」
つまらない考えが霧散していく。
この感情の前では、全てが取るに足りないものになっていく。
さっきまで目立たないようにと思っていた思考も消えかかって……。
今はただ、この対峙に。
目の前の一振りに全てを!
「ふふ……」
ヴァルターさんも、そう思っているのか。
その剣気とは真逆の笑みを口の端に浮かべている。
「……」
そのヴァルターさん。
今は木盾を捨て、木剣を右手に持つのみ。
そして……。
さっきまでの積極性が嘘のように、静の構えだ。
剣気は身体から溢れているのに、木剣はピクリとも動かない。
そのまま、こちらを凝視。
「……」
「……」
俺から動いてもいいが、やはりここは……。
ヴァルターさんの動きを見たい。
後の先などという作戦じゃない。
純粋な興味。
静から放たれる幻影の一撃を見たいという単純な衝動。
幼稚な思いにすぎない。
と!
ヴァルターさんが動いた。
ゆっくりとした動作で俺との距離をつめてくる。
が、すぐに立ち止まり。
また動きを止める。
「……」
「……」
その目に溢れるのは闘志。
なのに!?
急激に、剣気が消失!
完全に消え去ってしまった!
「……」
「……」
信じがたい程の変化、消失。
目を瞑れば、そう。
規格外の剣士が存在している事実に気づかないのではないだろうか?
そう思える程の静穏無比で柔らかな空気。
気品さえ感じさせる静の佇まい。
「……」
「……」
訓練用のただの木剣が。
十把一絡げの木剣が。
剣自らが意志を持っているかのように。
無言で雄弁に語りかけてくる。
泰然とした人剣無境。
これがヴァルターさんの剣。
静の剣!
あの崩れた体勢から、横薙ぎを防ぐとは。
おもしろい!
「くっ!」
ただ、木盾の上からでもダメージはあったようだ。
それなりの力で叩き込んだ一撃だったから、辛うじて間に合った盾の防御では剣勢を完全に消し去ることはできなかったのだろう。
「……」
ヴァルターさんの顔から少し余裕が消えている。
お試しは終わりかな。
と思ったところで、とんでもない反撃。
「とりゃぁぁ!」
右脚の前にある木盾。
俺の木剣を防いだ盾をそのままこちらに叩きつけてきた。
盾術か?
「っ!」
面の攻撃は木剣では捌きづらい。
なら、回避するのみ。
すぐさま後方に跳躍。
ヴオォォーン!!
寸前まで俺のいた場所に、木盾が凄い勢いで振り抜かれる。
すさまじい風圧だ。
初撃の袈裟懸けに続いて、この木盾の攻撃も並の威力ではない。
身に受けていい類の一撃じゃない。
「……」
この一連の動き。
ヴァルターさん、とんでもない腕力、膂力だな。
見た目通りの怪力の持ち主といったところか。
ステータスの数値はどうなってるんだ。
俄然、興味が湧いてきたぞ。
ああ。
もちろん、ヴァルターさんのステータス確認などはしていない。
手合わせの前に相手のステータスを見るなんて、フェアじゃないだろ。
「……」
さてと。
跳躍して距離をとった俺とヴァルターさんの対峙。
今は少しばかりの空白が訪れている。
「……5級とは思えない動きだ」
「ありがとうございます」
「本当に5級なのか?」
「ギルド証の通りですよ」
昇級が確定しているけれど、今は5級だ。
「……そういうことも、あるのか」
「……」
「まあ、今の攻防で力があることは分かった」
それはよかった。
「オレの目が節穴だったということもな」
「……」
「ただ、さっきまではその気配を消していただろ?」
その通り。
下手に外に気を出していたら、厄介事に巻き込まれそうだからさ。
今回の王都行では、完全に気を抑え込むことにしている。
もちろん、戦闘となれば話も変わってくるが。
「さっきその圧力を出していれば、手合わせをする必要もなかったぞ」
「……」
「いや、そうとも限らないか」
どっちだよ。
「それで、どうだ? もうやめるか?」
こんな場所で目立ちたくはないからな。
やめるのも悪くない。
ただ。
「ヴァルターさんは、どうです?」
「オレか? オレは、中途半端は嫌いだな」
「……」
「コーキさん、あんたもだろ」
俺は……。
そうだな。
ここでやめても、あまり変わらないか。
「どうする?」
「……もう少し、お願いできますか?」
「おう、もちろんだ!」
その瞬間。
ヴァルターさんの身体を纏う空気が一変。
「ヴァルターさんも隠してましたね」
俺を試していたのは分かっていたが、ここまで空気が変わるとは。
「当然だ。こういうものは、いきなり出すもんじゃない」
「なるほど」
手合わせを始めてからずっと、幻影の異名とはかけ離れた力技ばかりだった。
本番はここから。
そういうことか。
「まっ、引退した身でいきなり力を出すのはキツイ、ってのが本音だな」
「……」
「さっ、覚悟はいいか!」
さらに圧力が増す。
こちらの肌をひりつかせる剣気。
殺気にも似たそれが、質量をもってひしひしと伝わってくる。
その剣気に、思わず武者震いを覚えてしまう。
これが本当の幻影ヴァルター!
「……」
はは。
悪くない。
悪くないぞ。
こんな楽しい立ち合い、久しぶりだ!
「……」
つまらない考えが霧散していく。
この感情の前では、全てが取るに足りないものになっていく。
さっきまで目立たないようにと思っていた思考も消えかかって……。
今はただ、この対峙に。
目の前の一振りに全てを!
「ふふ……」
ヴァルターさんも、そう思っているのか。
その剣気とは真逆の笑みを口の端に浮かべている。
「……」
そのヴァルターさん。
今は木盾を捨て、木剣を右手に持つのみ。
そして……。
さっきまでの積極性が嘘のように、静の構えだ。
剣気は身体から溢れているのに、木剣はピクリとも動かない。
そのまま、こちらを凝視。
「……」
「……」
俺から動いてもいいが、やはりここは……。
ヴァルターさんの動きを見たい。
後の先などという作戦じゃない。
純粋な興味。
静から放たれる幻影の一撃を見たいという単純な衝動。
幼稚な思いにすぎない。
と!
ヴァルターさんが動いた。
ゆっくりとした動作で俺との距離をつめてくる。
が、すぐに立ち止まり。
また動きを止める。
「……」
「……」
その目に溢れるのは闘志。
なのに!?
急激に、剣気が消失!
完全に消え去ってしまった!
「……」
「……」
信じがたい程の変化、消失。
目を瞑れば、そう。
規格外の剣士が存在している事実に気づかないのではないだろうか?
そう思える程の静穏無比で柔らかな空気。
気品さえ感じさせる静の佇まい。
「……」
「……」
訓練用のただの木剣が。
十把一絡げの木剣が。
剣自らが意志を持っているかのように。
無言で雄弁に語りかけてくる。
泰然とした人剣無境。
これがヴァルターさんの剣。
静の剣!
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