魔王さんのガチペット

回路メグル

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第6章 二人の話

第134話 儀式(1)

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 翌日、「儀式」は朝から始まった。
 昨日と同じ神殿のような場所だけど、華やかな式典とは違って中にいるのはごく少人数。
 まずは人間が一〇人。
 俺とイルズちゃんはもちろん、ミチュチュちゃんもいる。あとの七人はこの国の人間らしい。
 年齢は色々だけど、全員大人の男性だ。
 人間の他には、森の王様と、昨日即位した弟さん、司祭っぽい筒形の帽子をかぶった年配のエルフの女性がいるだけ。
 ローズウェルさんと騎士団長さん、ギルドマスターさん、その他この国の護衛のエルフは外で待っている。
 少人数とは聞いていたけど、本当に少ないな。

「人間の皆様は、こちらの魔法陣の淵に等間隔に並んでください。手を広げて、外を向いて……精霊が逃げてはいけないのであまり大きな隙間を作らないように……」

 司祭の女性の指示通り、昨日は上にカーペットが敷かれていた石畳の床に書かれている、直径一~二メートルくらいの魔法陣の淵に立つ。
 魔法陣の中心には森の王様と、王様によく似ている弟さんがいるけど、後ろを向いているので中の様子はもう解らない。

「では、精霊を剥がす儀式を行います。五分ほどですので、どうかみなさま動かずに」

 もう、いきなり始まるんだ?
 司祭の女性が魔法陣の中に入り……俺にかかった翻訳魔法では翻訳されない、よく解らない言葉を沢山発する。
 布ずれの音がするから何か動いていて……。

「……!」

 急に背後が強い緑色に光った。
 熱くないけど、めちゃくちゃ明るい。
 また声も聞こえる。
 何やっているんだろう?
 振り向きたい……気になる……でも……

――必ず、儀式を成功させてください!

 昨日、国民のみんなに囲まれてかけられた言葉を思い出す。

「……」

 そうだ。絶対に成功させないとな。
 背後の光が明滅しだした気がするけど、大人しくじっと前だけを見つめた。


      ◆


「みなさま、もう動いて頂いて結構です」

 光が消えてしばらくしてから、司祭の女性が魔法陣から出てきた。
 ってことは儀式は終了か。
 王様は……

「王!」

 俺が振り返るよりも早く、イルズちゃんが長い髪をなびかせながら振り返り……俺が振り返るころには地面に座る森の王様に抱き着いていた。

「安心しろ。成功だ」
「あ……あぁ……よかった」

 イルズちゃんの背中をあやすように撫でてから、森の王様が立ち上がる。

「あ」

 ちょっと小さい?
 身長は五センチくらいの差だと思うけど、全体的に一回り縮んだような気がする。
 そして、一番の違いは……

「その形の耳も似合うね」
「そうか? 自分では解らないが……あぁ、髪がかけづらいな」

 森の王様は、短く丸くなった耳に相変わらず長くて美しい金髪をかけようとして……少し落ちてきた。

「そこは確かに不便かもね~。髪型変えちゃう?」
「そうだな。もう王冠を被らなくていいし、ライト様のように結うのも楽しそうだ」
「王にはどんな髪型もお似合いになると思います」

 元気そうな姿に安心して笑っていると、森の王様の後ろで頭に王冠を被った弟さんが立ち上がった。
 お。森の王様が縮んだ分、大きくなったような……?

「みな、兄上が好きすぎないか? 私の心配もしてくれ」
「あぁ、申し訳ございません! 新王様!」

 ため息交じりに言った言葉に、イルズちゃんやこの国の人間のみんなが頭を下げる。
 そうだよね。今の王様はこっちの弟さんなんだから心配しないと……。
 俺も小さく頭を下げると……弟さんは真面目そうな顔を笑顔に崩した。

「ははっ、冗談だ。兄様から受け継いだ精霊ももう馴染んだ。力がみなぎるようだ。これで国のために心置きなく魔法が使える」
「精霊が入ることのできない人間の皆様がしっかりと囲ってくださったお陰で、精霊の移動が上手くできました。ありがとうございます」

 その辺りの仕組みはよく解らないけど、役に立てたなら何より。
 司祭の女性は俺たちに頭を下げた後、森の王様に向き直った。

「念のため確認を……はい。間違いなく人間になっています。肉体年齢は三〇……いえ、二九歳としましょう」

 お。
 ってことは俺と森の王様同い年だ。
 益々親近感が湧いちゃうな。

「それでは、王籍を抜けましたので新しい戸籍へのサインをお願いします」

 司祭さんが持っていた本の上に紙を一枚置いて、何か書き込んだ後に森の王様に渡す。
 戸籍にサインということは……

「あぁ。ライト様。私の名前を教えてくれ」

 いよいよだ。
 俺のこの国での一番の大仕事。
 ギリギリで悪いけど、昨日の夜にやっと決めた、新しい名前。
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