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第6章 二人の話
第135話 儀式(2)
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「うん……『シン』ってどうかな? この国の名前としておかしくない?」
森の王様、そしてイルズちゃんに視線を向けると、二人とも頷いてくれた。
「シン……おかしくないですよ。この国ではあまりない名前ですが、リンやキンという名前は多いので、響きが近く違和感はないです。むしろ、涼やかでよいと思います」
「響きは気に入った。どういう意味なんだ?」
反応は上々。
でも、響きだけで決めたわけではない。
理由を知ってもらわないとね。
「シンっていうのは俺の生まれた国では『森』のことでもあり、『新しい』とか、『真実』『進む』なんて意味もある言葉で、名前の一部に使うことも多いんだよ」
最初、念のため三つくらいは考えようと思ったのに、シンと思ってから他に思いつかなくて……ほら、森の王様、シンって顔してない?
「そんなに意味の多い言葉なのか? 森、新しい、真実、進む……良いじゃないか。これから新しい人生を歩む俺にあつらえたようだ。気に入った」
王様は満足してくれたけど、意味はそうなんだけど……
「これを思いついたのは、この国の国民のみんなのお陰だよ」
「国民の?」
「うん。昨日、国民のみんなに声をかけられて、森の王様のことを色々聞いたんだけど……その中で『真の王様』って言っていて……それは、翻訳魔法がかかっているからこっちの言葉では音が違うと思うんだけど、俺の世界の言葉では『シン』の王様って音になる」
翻訳、上手く伝わっているかな?
「みんな、王様のことが大好きで、尊敬していて、応援していて……これからの幸せを願っていたから。そういうみんなの気持ちも込めて、『シン』はどう?」
「そう……か。任期中に退いた俺に対して……みんな……そうか」
森の王様は嬉しそうなのに泣きそうな顔をした後、イルズちゃんを真っすぐ見つめた。
「イルズ、呼んでみてくれ」
「シン」
「……呼びやすいか?」
心配そうに顔を覗き込む森の王様に、イルズちゃんがにっこりと深い笑顔で頷いた。
「とても」
「なら決定だ。ライト様、良い名前をありがとう!」
「気に入ってもらえたなら何より。これからもよろしくね、シン様」
笑顔になったシン様は俺に握手を求めるように手を差し出した。
手の平も一回り小さいな。
「もう王ではない。俺もイルズと同じで気軽に呼んでくれ」
「……じゃあ、シンさん……シンくんにしようかな。俺のことも好きに呼んでね」
「解った、ライトくん」
目線が近くなったシンくんと、同じくらいの大きさの手で握手をかわす。
責任重大だったけど、結構いい仕事ができたんじゃないかな?
「イルズ、ライトくん、それにみんなも……これからは同じ種族として一層仲良くしてくれ」
シンくんの言葉にみんなは笑顔で頷くけど……困ったな。
「え~? 難しいこと言うね」
「え?」
俺が首をひねると、シンくんが笑顔を引きつらせる。
これは解ってないな……。
「俺……きっとイルズちゃんもだけど、種族の違いなんて気にせず最高に仲良くしていたつもりだから、これ以上仲良くって言われると困るよ?」
俺の言葉にシンくん、それにイルズちゃんや弟さんたちも一瞬きょとんとした後、みんな声を出して笑ってくれた。
「……は、ははっ! そうだな。これまでと同じように仲良くしてくれ!」
「そうですよ。今まで通りずっと仲良くしましょう」
「あぁ。そうだな。そうだった。みんなもよろしくな」
シンくんが俺たちに頷いた後、視線を向けられたミチュチュちゃんは笑顔のまま少し肩をすくめる。
「種族差よりも……その……不敬かもしれませんが、王様ではなくなられたということで、身分差が縮まった分お近づきになれればとは思います」
あぁそうか。
退位式にも出たのに、人間になることばかりを意識して忘れていた。
そういう意味では関係性も変わるか……俺は最初から王様相手って感じではなかったけど。
「それはもちろんだ! これからは役人ではあるが平民だ。気軽に接してくれ。その代わり、酒場に行けば割り勘だからな?」
「しまった、安いところにしてくださ~い!」
ミチュチュちゃんがかわいく手を合わせて、またみんなが笑う。
少し緊張したけど、これで儀式は終わり。
きっと俺の見えないところでシンくんも周りの人たちも沢山悩んだり考えたり話し合ったりしたんだろうけど、ここにいる誰もがこの結果に納得して喜んでいるように思えた。
シンくんの弟さんも……。
「兄様。種族が変わってもあなたは私の兄様です。これからも甘えますよ」
「あぁ。人間になろうが、イルズと家族になろうが、お前が弟であることは変わらない。大事に思っている」
……俺、兄弟愛に弱いんだよ?
弟が兄を思う気持ち、兄が弟を思う気持ち、やばいな……ちょっと泣きそう。
数ヶ月前に一時帰国していなかったらホームシックになっていたと思う。
「本当に、よかった……」
俺が感動を隠さずに呟くと、シンくんは照れた笑顔をこちらに向ける。
「ライトくん、次はそちらの番だな。応援している」
「あ……」
そうだ。
この旅の一番の目的が無事に終了したから、今度は……。
「そうだね。シンくんを観ていると、成功するイメージしか湧かない。頑張ってくるよ」
それに、実はシンくんにも協力をしてもらっているんだ。
心強いよね。
きっと、俺も……。
俺も、目の前でイルズちゃんを幸せそうな笑顔で見つめているシンくんのように、魔王さんの横で笑えるはずだ。
森の王様、そしてイルズちゃんに視線を向けると、二人とも頷いてくれた。
「シン……おかしくないですよ。この国ではあまりない名前ですが、リンやキンという名前は多いので、響きが近く違和感はないです。むしろ、涼やかでよいと思います」
「響きは気に入った。どういう意味なんだ?」
反応は上々。
でも、響きだけで決めたわけではない。
理由を知ってもらわないとね。
「シンっていうのは俺の生まれた国では『森』のことでもあり、『新しい』とか、『真実』『進む』なんて意味もある言葉で、名前の一部に使うことも多いんだよ」
最初、念のため三つくらいは考えようと思ったのに、シンと思ってから他に思いつかなくて……ほら、森の王様、シンって顔してない?
「そんなに意味の多い言葉なのか? 森、新しい、真実、進む……良いじゃないか。これから新しい人生を歩む俺にあつらえたようだ。気に入った」
王様は満足してくれたけど、意味はそうなんだけど……
「これを思いついたのは、この国の国民のみんなのお陰だよ」
「国民の?」
「うん。昨日、国民のみんなに声をかけられて、森の王様のことを色々聞いたんだけど……その中で『真の王様』って言っていて……それは、翻訳魔法がかかっているからこっちの言葉では音が違うと思うんだけど、俺の世界の言葉では『シン』の王様って音になる」
翻訳、上手く伝わっているかな?
「みんな、王様のことが大好きで、尊敬していて、応援していて……これからの幸せを願っていたから。そういうみんなの気持ちも込めて、『シン』はどう?」
「そう……か。任期中に退いた俺に対して……みんな……そうか」
森の王様は嬉しそうなのに泣きそうな顔をした後、イルズちゃんを真っすぐ見つめた。
「イルズ、呼んでみてくれ」
「シン」
「……呼びやすいか?」
心配そうに顔を覗き込む森の王様に、イルズちゃんがにっこりと深い笑顔で頷いた。
「とても」
「なら決定だ。ライト様、良い名前をありがとう!」
「気に入ってもらえたなら何より。これからもよろしくね、シン様」
笑顔になったシン様は俺に握手を求めるように手を差し出した。
手の平も一回り小さいな。
「もう王ではない。俺もイルズと同じで気軽に呼んでくれ」
「……じゃあ、シンさん……シンくんにしようかな。俺のことも好きに呼んでね」
「解った、ライトくん」
目線が近くなったシンくんと、同じくらいの大きさの手で握手をかわす。
責任重大だったけど、結構いい仕事ができたんじゃないかな?
「イルズ、ライトくん、それにみんなも……これからは同じ種族として一層仲良くしてくれ」
シンくんの言葉にみんなは笑顔で頷くけど……困ったな。
「え~? 難しいこと言うね」
「え?」
俺が首をひねると、シンくんが笑顔を引きつらせる。
これは解ってないな……。
「俺……きっとイルズちゃんもだけど、種族の違いなんて気にせず最高に仲良くしていたつもりだから、これ以上仲良くって言われると困るよ?」
俺の言葉にシンくん、それにイルズちゃんや弟さんたちも一瞬きょとんとした後、みんな声を出して笑ってくれた。
「……は、ははっ! そうだな。これまでと同じように仲良くしてくれ!」
「そうですよ。今まで通りずっと仲良くしましょう」
「あぁ。そうだな。そうだった。みんなもよろしくな」
シンくんが俺たちに頷いた後、視線を向けられたミチュチュちゃんは笑顔のまま少し肩をすくめる。
「種族差よりも……その……不敬かもしれませんが、王様ではなくなられたということで、身分差が縮まった分お近づきになれればとは思います」
あぁそうか。
退位式にも出たのに、人間になることばかりを意識して忘れていた。
そういう意味では関係性も変わるか……俺は最初から王様相手って感じではなかったけど。
「それはもちろんだ! これからは役人ではあるが平民だ。気軽に接してくれ。その代わり、酒場に行けば割り勘だからな?」
「しまった、安いところにしてくださ~い!」
ミチュチュちゃんがかわいく手を合わせて、またみんなが笑う。
少し緊張したけど、これで儀式は終わり。
きっと俺の見えないところでシンくんも周りの人たちも沢山悩んだり考えたり話し合ったりしたんだろうけど、ここにいる誰もがこの結果に納得して喜んでいるように思えた。
シンくんの弟さんも……。
「兄様。種族が変わってもあなたは私の兄様です。これからも甘えますよ」
「あぁ。人間になろうが、イルズと家族になろうが、お前が弟であることは変わらない。大事に思っている」
……俺、兄弟愛に弱いんだよ?
弟が兄を思う気持ち、兄が弟を思う気持ち、やばいな……ちょっと泣きそう。
数ヶ月前に一時帰国していなかったらホームシックになっていたと思う。
「本当に、よかった……」
俺が感動を隠さずに呟くと、シンくんは照れた笑顔をこちらに向ける。
「ライトくん、次はそちらの番だな。応援している」
「あ……」
そうだ。
この旅の一番の目的が無事に終了したから、今度は……。
「そうだね。シンくんを観ていると、成功するイメージしか湧かない。頑張ってくるよ」
それに、実はシンくんにも協力をしてもらっているんだ。
心強いよね。
きっと、俺も……。
俺も、目の前でイルズちゃんを幸せそうな笑顔で見つめているシンくんのように、魔王さんの横で笑えるはずだ。
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