魔王さんのガチペット

回路メグル

文字の大きさ
358 / 368
第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

裁く(1)

しおりを挟む
 パーティーの翌日、騎士団長さんたちの手で、罪人にしか使わない、特別な許可のいる「自白魔法」を犯人にかけた。
 その前に犯人のほうから全部しゃべっていたので、「一応確認のため」だったらしいけど、犯人が話したことはすべて本音だったそうだ。
 自白のおかげで簡単にわかった「黒幕」は外国の魔族ということだったけど、国のトップ同士ですぐに話がついて、明後日には拘束して魔王の国に連れてきてくれるらしい。
 そして……犯人が侵入した経路も明らかになった。

「俺のせいで、ごめん」
「ライトに原因はない」

 執務室で騎士団長さんたちから報告を受けた後、魔王さんと二人きりになったタイミングで頭を下げた。
 犯人は、黒幕と共に「外国の使用人」として正規ルートで城の中に入って、途中からこっそり調理担当のお店のスタッフに紛れて機会をうかがっていたらしい。
 正規ルートで入られたのは仕方がないけど、俺が普段と違うお店のスタッフをたくさん入れたせいで、隙ができたんだ。パーティーの時にはもう紛れていたらしいのに……全体を把握している俺が気がつかないといけなかったのに。
 おもてなしのことは考えていたけど、安全のことはあまり考えられていなかった。

「警備担当はライトではない」
「でも……悔しい」

 悔しい。
 俺、守られないといけないほど弱いなら、せめてこういうところで自衛をしないといけないのに。
 周りをよく見ることは得意なはずなのに。
 調子に乗っていた。悔しい。ただただ悔しい。

「……えらいな」
「え?」

 俺が唇を噛んでいると、ソファに並んで座った魔王さんが、なぜか笑顔で頭を撫でてくれた。

「悔しいという気持ちは、次に繋がる気持ちだ。ライトはまだ担当一回目で、パーティーは大成功だったのに……更に上を目指そうと思う気持ちがえらい」
「魔王さん……」

 俺のこと、励まそうとしてくれているのがわかる。
 昨日、魔王さんのほうがショックを受けていたのに。

「それに……悔しいというなら、ライトも罪人を裁く場に同席してほしい」
「……!?」

 俺、被害者ではあるけどペットなのに?
 俺の立場って……立ち会っていいの? 国同士の関係に繋がる大事な場だよね?
 
「いい……の?」

 いつになく自信のない自分の声が情けない。
 でも、魔王さんの表情はただただ真剣で真摯だった。

「被害者であるライトにはその権利がある。それに……俺が裁くより、ライトが自分自身に一番利があるようにすべきだと思う」
「……でも……」

 護ってもらった俺が決めるより、護ってくれた魔王さんが……いや、違う?
 だめだな。昨日の今日でまだ頭が上手く働かない。
 俺らしくない自信のない顔を隠すこともできないでいると、魔王さんがまた、俺の頭を優しく撫でてくれた。

「昨日は、取り乱してすまなかった。ライトを護りたい気持ちは大きい。ライトは俺の宝だ。大事にしたい。だが……」

 魔王さんの口角が上がった。

「大事にしまいこみたいわけではないんだ」
「魔王さん……」
「できれば、俺の目の届く……護ってやれる範囲にはいてほしいが、ライトのやりたいことを制限したくない。ライトが今回のことで、自信を失う必要は全くない。ライトはライトらしくいてくれればいいんだ。そうすれば、俺が、周りが、勝手にお前を守りたくなる。それもお前の強さだ。魅力だ。だから……ライトはライトらしくかわいく自分の信じたことをしてくれればいいんだ。そんなライトを見ていると、俺たちも幸せなんだ」

 ……なんで?
 ねぇ、なんで?

「なんで、魔王さんって俺が言われたい言葉がわかるの?」
「ははっ、なぜだろうな? ライトのことが大好きだからかもな?」

 それ、いつも俺が言うセリフだな……
 あぁ、悔しい。魔王さん、絶対に俺の真似。
 悔しいけど……

 嬉しい。

「魔王さんッ! 俺も大好き!」

 たまらなくて叫びながら思い切り魔王さんに抱き着くと、魔王さんは楽しそうに笑って俺の体をしっかりと抱きとめてくれた。

 この腕の安心感。
 しっかり感じる愛情。
 ここが俺の居場所だなって再確認できる。

「ライト、応援している」
「ありがとう。俺にも……魔王さんにも、この国のみんなにもいい結果になるように考えてみる」

 愛してくれているとともに、信頼してくれている。
 だから、弱くても自信を持っていいんだ。
 
 しっかり応えよう。
 俺らしく。


      ◆


 パーティーから三日後。
 魔王さんが優しい言葉をかけてくれたこともあって、俺の気持ちは落ち着いて、一連の出来事についても頭の整理がつき、改めて冷静に考えられるようになったころ。魔王の国に「黒幕」が呼び出された。

 謁見の間には王座についた魔王さん、横の椅子に俺、王座から数段下がった床には拘束された犯人と……もう一人、拘束された高そうな茶色のフロックコート姿の魔族の男、更に山の国の宰相が跪いている。
 この宰相さんはマリドちゃんのご主人様だけど、今日はマリドちゃんは一緒ではない。

「我が国の者が、誠に、誠にッ! 申し訳ございません! ですが、このような、一歩間違えば戦争になるようなこと! 誓って、国の総意ではございません!」

 宰相さんは緑と茶色の中間……カーキ色かな? 肩まで伸ばした髪が床につくのも気にせず、魔王さんの前で土下座をしている。
 背は高いけど細くて……大げさに言うとやつれているような体型の魔族さんで、大きな外巻きの羊角が細すぎる体にアンバランスというか……高級そうなカーキの燕尾服が妙にぶかぶかだから最近やせたのかな?
 とにかく、かわいそうなほどガリガリの体で力いっぱい土下座をしていた。

「……到底、許せるものではない」
「はい! 魔王様のおっしゃるとおりでございます! 罪人たちは魔王の国に引き渡し、どのような処罰でもお与えください! また、国としても、できる限りの賠償はさせていただき、再発防止にも努めます! 申し訳ございません! どうか、どうかお許しください!」

 もちろん山の国の犯人が悪いけど、こんなに平に謝られると拍子抜けしちゃうな……山の国と魔王の国ってどっちも強くて豊かな国で、仲も悪くなくて、「同格」って聞いていたけど、あまりにも宰相さんの腰が低い。
 こっちは王様で、向こうは宰相だから?

「俺は、なにをどうされても許せないが……民を巻き込みたいわけではない。被害者はライトだ。まずはライトがどうされれば許せるかきこう」

 魔王さんはあからさまに不機嫌な顔と声を床の三人に向ける。
 魔王さんの怒りって相当なもので、本当なら犯人を八つ裂きにしたいくらいだと思うのに、ここで俺に聞いてくれるところ、優しい。大好き。
 だから俺も、この三日でいろいろと考えることができた。
 
 俺はか弱くて護られる立場ではあるけど……やっぱり俺は俺らしく、俺のできる戦い方をすべきだなって。

「どうするか考えるから、もう一回、事情を詳しく教えて欲しいな。詳しく、ね?」
「はい……」

 宰相さんは下を向いたまま、か細い声で説明を始めた。


しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です

ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」 「では、契約結婚といたしましょう」 そうして今の夫と結婚したシドローネ。 夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。 彼には愛するひとがいる。 それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。