魔王さんのガチペット

回路メグル

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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

裁く(2)

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「今回の事件の発端は……先日即位された山の王様へ、ライト様を献上したいがために起きたことでございます。ですが、山の王が望まれたのではございません! こちらの……山の王の執事であるウーボの独断でございます!」

 この辺りは事前に聞いていた。
 結構ヤバイ話だよね? 「王様のため」って……一歩間違えば国際問題。
 でも、宰相さんの言う通り山の王様の指示ではないなら、ギリギリ国の責任ではない、かな?

「うん。自白魔法もかけたって言っていたし、そうなんだろうね。でも、ウーボさん。なんで俺を山の王様に献上したかったの?」

 茶色のフロックコートの男性魔族さんは、短い鹿角の頭を上げると、年配でシワが濃い顔を気まずそうにくしゃくしゃにする。

「それは……」

 床を見て、宰相さんを見て、俺を見て……観念したようだった。
 ここで黙っても、嘘を言っても、自白魔法を使われればバレるもんね?

「……新しい山の王様は……あまり……王としての自覚がなく……」

 難ありとは聞いていたけど、自覚がない? 遊び人? 不良? なまけもの?

「人前が苦手な方で」

 ん?

「自室からもあまり出てこられず」

 引きこもり……ってことか。そうか、そっち系か。

「ただ、人間がとてもお好きな方で、人間がいれば、外に出て、王としてふるまっていただけるのではないかと、考え……ました」

 納得できるような、できないような……

「人間だったら、山の国にもかわいい子がたくさんいるよね? 宰相さんのペットのマリドちゃんだってすごくかわいいよ?」
「はい……おっしゃる通りでございます。しかし……山の王様は人見知りが激しく、魔族慣れしていない人間はもちろん、多少魔族に慣れている人間でも、お心を開くことがかなわず」

 引きこもりなら人見知りもするか、まぁ……え、でも……?

「……人間、好きなんだよね?」
「それは間違いございません。人間の写実画集など喜ばれますし、ライト様のお顔が描かれたお菓子も、空き箱が自室の壁を埋めるほど積んでおられます。新聞記事なども楽しそうに読まれていますし」
「そ、そう……」

 ……この表現でいいのかわからないけど、「リアル人間より二次元がいい、引きこもりの人間オタク」ってこと? 

「……黒髪としての結界のお仕事はなんとか、ご自身の身にもかかわることですのでしていただいていますが、それ以外の、王としてのお仕事は……」
「ウーボ! ……あ、その……申し訳ございません!」

 さすがに国家の運営にかかわる部分だと判断したのか、宰相さんが慌てて話を遮り、俺たちに頭を下げる。
 まぁ、これ以上は俺たちが聞いても意味ないか。

「つまり、引きこもって仕事をサボっている王様のやる気を出すために、俺に来てほしかったってことか。なるほどね」

 一応事情は理解した。
 理解したうえで、許せないな。

「それ、正式に頼んできたら少しくらい協力したかもしれないのにね」
「え?」
「へ?」
「だって、山の王様が東の国を助けないせいで魔王さんが東の国の結界の仕事もして……大変だから早く山の王様にもしっかりお仕事してほしいって思っていたんだよ? だから、正直に言ってくれれば、『魔王さんのためにちょっとだけ手伝ってもいいかも』って思ったんじゃないかな?」
「あ、では……!」

 宰相さんと年配の執事のウーボさんがゆっくりと口角を上げかける。
 期待した? でも……

「でも、こんなことされたから、絶対に山の国なんか行きたくないって思った」
「あ……」

 上がりかけた口角が一瞬で下がる。
 かわいそうな言い方をしたけど、俺、結構怒っているんだよね。
 魔王さんを悲しませて、お城のみんなにも手間がかかって、そして……

「俺が、何に怒っているかわかる?」
「はい! 怒って当然です! 拉致や、刃物で襲うなど……!」
「ちがう」
「え?」

 できるだけ冷たく言い放って、椅子から立ち上がった。

「俺が人間だから、物のように扱っているところが気に食わない」
「……え?」
「あ……」

 こんな冷たい顔、魔王さんにもお城のみんなにも見せたくないけど、今日はハッキリ言わないと通じないと思った。
 ほら、宰相さんは気まずそうに体を震わせているけど、ウーボさんは不思議そうに眼を瞬かせるだけだ。

「交渉すればいいのに、いきなり力業なんて……人間相手に交渉するっていう発想なかった?」
「あ……そ、それは……」
「やり口も雑だよね? 人間のことバカにしてる?」
「そんな……」
「無理やり連れて帰って、俺が『では喜んで山の王様のために働きます!』なんて言うと思う?」
「い、いえ……」
「それに、俺って魔王さんの専属だから魔王さんの魔力を定期的にもらわないと苦しいんだよ? そういうこと、考えた?」
「……え? えっと……」
「そもそも、結界があるから魔王さんから一定距離しか離れられないし、専属化しているから魔王さんに位置がわかるし……成功するわけがないのに。そういう知識がないのも、人間を雑に扱っているってことだよね?」

 最初は頭が悪いのかと思ったけど、たぶんそういうことだよね?
 山の国のペットたちには専属化の制度が無いらしいし、ペットを護るための結界魔法も使わない。
 だからこんな杜撰なことができるんだ。

「山の国って人間のこと大事にしないんだね?」
「……ッ」
「大事には、していますが……その……ライト様のような賢い人間がいないので、その……」

 黙り込んでしまったウーボさんの代わりに、宰相さんが言い訳をするけど、俺はそう思わない。

「マリドちゃん、結構賢いと思うけど?」
「そのような……ことは」

 謙遜? 違うな……
 薄々は気がついていた。
 この世界で山の国が一番人間に対して「ただのペット」という意識が強い。
 かわいがってはいるだろうけど、対等ではない。「かわいがって世話をしてやらないといけないか弱い生き物」って思っている感じ?
 人間の方も、「人間は魔族に愛されるために頑張らないといけない」っていう意識が強そう。
 お互いにそれで納得しているなら、他国の俺に口を出す権利はないけど……
 さっきから「訳がわからない」という顔をしている執事さんと違って、宰相さんはきっと、俺や他の国の人間のことも目にする機会が多いからか、答えにくそうに視線を逸らす。

「わ、私は……そのぉー……ライト様のおっしゃることが……おそらく理解できていると思います。ライト様と出会ってから、人間のかわいいうえに賢いところを何度も見てきましたので」
「そう。ありがとう。山の国のみんなにも、そういう感覚が広がっていくと嬉しいな。また狙われたくないし、よろしくね?」
「はい……」

 これ以上ここで言っても、どうせ宰相さんにしか伝わらないとは思うけど。
 言いたいことは言えたからとりあえずいいや。

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