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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話
裁く(3)
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「じゃあ、俺がとっても腹が立っていることが伝わったところで、誠意のある『お詫び』をお願いしようかな」
「は、はい! それはもちろん!」
宰相さんの顔からは「お詫び」をしっかりして早くカタをつけたい、魔王の国ともめたくないという気持ちがバレバレ……まぁ、国のトップとしては正しいか。
「なにがいいかな~。魔物の素材、魔法石、現金……」
「えぇ! なんでも! なんでもご満足いただけるだけお渡しいたします!」
宰相さんの「もので解決できるなら助かる!」って顔……じゃあ、お望み通り「もの」で解決してあげよう。
「なんでも? じゃあ、大使館がいいな」
冷たい顔も疲れたし笑顔で提案すると、俺の言葉がよく理解できなかったのか宰相さんが固まってしまった。
「は……?」
「魔王の国の城下町にある、山の国の大使館。あそこが欲しい」
笑顔だけど、可愛くおねだりする顔ではなく、目は笑わないままじっと宰相さんを見詰めると、俺の本気が伝わったようだ。
「あ……そ、それは……!」
「城下町でやりたいことがあるんだけど、この国の城下町ってぜーんぜん空き家が出ないんだよね」
「ですが……!」
宰相さんが慌てて、でも、立場上強い否定はしにくいようで、口も手もオロオロとめちゃくちゃに動かし、視線まで泳がせる。
「俺がやりたいことは隣町でもいいかなと思っていたんだけど、今回怖い人に襲われたせいで魔王さんに心配かけちゃったから、魔王さんを心配させないためにも、魔王さんにしっかり護ってもらうためにも、城下町でやらないといけなくなっちゃったんだよ?」
「うっ……それは、大変、申し訳なく……しかし、大使館は国の顔で……」
宰相さんが汗まで流しながら必死に作り笑いを俺に向ける。
あ、異世界でも媚びる時ってもみ手になるんだ。
「大使館って城下町に無いといけないわけじゃないよね? 北の国や島の国みたいに、隣町に大使館を置けばいいんじゃない?」
「で、ですが……我が国は……他の国よりも……その……あの……」
北の国や島の国よりも、魔王さんのお城に近い場所、しかも城下町に大使館が置けることってステータスらしいね? より親密さをアピールするとか、伝統やお金があることをアピールするとか。
手放したくないだろうなぁ……気持ちはわかるけど、これって優しさでもあるの、わかってくれるかな?
「この件、報道されるからね? 城下町に大使館があるほうが危険かもしれないけど、いいの?」
「え?」
「魔王の国のみんな、俺のことを愛してくれているから……熱烈に」
「あ……あっ……あ、あぁ!」
「それに、魔王さんは当分、山の国に関することを視界に入れるのも嫌だろうし」
「う、うぁ……ぐ……」
宰相さんが悔し泣きでもしそうな様子で、ぎゅっと目を閉じて歯を食いしばる。
魔王の国のみんなは優しく穏やかな人が多いからいないとは思うけど……「ライト様を傷つけようとした山の国なんて許せない!」とか「魔王様のペットを傷つけるとは不敬な!」とか言いながら大使館に石が投げ込まれるなんてこと、無いとは言い切れないよね?
俺の横で黙って俺に任せてくれていた魔王さんも、まだ不機嫌さを隠さない声で後押ししてくれた。
「さすがライトだ。俺のことも国民のことも考えてくれたいい案だな。城下町から出て行ってくれるなら、俺も少しは溜飲が下がる」
「は……っ……」
「う、うぅ……」
宰相さんはもう諦めたように項垂れて、その横で年配の執事のウーボさんがやっと後悔しているようなうめき声をあげた。ペットを襲ったくらいでこんな大事になると思わなかった?
もう遅いなぁ。
「俺、山の国の大使さんは何度かあいさつしたことがあるけど、魔王の国や俺のことを理解してくれているいい人だよね。安全が脅かされるとかわいそうだから。そういう意味でも、わかりやすく、目に見える形での誠意があるほうがいいよ」
「……はい」
「あ、あと、その犯人さんも黒幕のウーボさんも、国を心配しているっていう気持ちはわかるし、また狙ってくることはないだろうから、さっさと国に帰っちゃって。その代わり、二度と俺に近づかないで」
「よろしいのですか? 魔王の国で罰を与えてくださっても……」
「嫌な人のために俺や大事な魔王さん、騎士さん、兵隊さんたちの手を汚したくない。時間も勿体ない。顔も見たくない」
キッパリと言うと、あまりかわいいことを言っていないはずなのに、部屋の入口の方にいた騎士さんたちが「あぁ、俺たちにまで心を配ってくださって」「お優しい!」「かわいい!」って反応してくれているな……なら、もうちょっと言っていい?
「ねぇ宰相さん、ウーボさん。犯罪なんてしている暇があるなら、もっと正攻法で、人間に頼らず山の王様をどうにかしたら?」
宰相さんが頭を下げ、ウーボさんは呆然と俺を見る。
「ウーボさんたちは、人間より魔族が賢いと思うんでしょう? 賢い魔族が頑張ったら?」
本当、かわいくないことを言っているなぁ、俺。
でも、ショック療法と言うか……
「ライト様!」
俺の言葉に、宰相さんとウーボさんの後ろでずっと黙って俺を見ていた犯人の若い男性が大きな声を上げた。
「は、はい! それはもちろん!」
宰相さんの顔からは「お詫び」をしっかりして早くカタをつけたい、魔王の国ともめたくないという気持ちがバレバレ……まぁ、国のトップとしては正しいか。
「なにがいいかな~。魔物の素材、魔法石、現金……」
「えぇ! なんでも! なんでもご満足いただけるだけお渡しいたします!」
宰相さんの「もので解決できるなら助かる!」って顔……じゃあ、お望み通り「もの」で解決してあげよう。
「なんでも? じゃあ、大使館がいいな」
冷たい顔も疲れたし笑顔で提案すると、俺の言葉がよく理解できなかったのか宰相さんが固まってしまった。
「は……?」
「魔王の国の城下町にある、山の国の大使館。あそこが欲しい」
笑顔だけど、可愛くおねだりする顔ではなく、目は笑わないままじっと宰相さんを見詰めると、俺の本気が伝わったようだ。
「あ……そ、それは……!」
「城下町でやりたいことがあるんだけど、この国の城下町ってぜーんぜん空き家が出ないんだよね」
「ですが……!」
宰相さんが慌てて、でも、立場上強い否定はしにくいようで、口も手もオロオロとめちゃくちゃに動かし、視線まで泳がせる。
「俺がやりたいことは隣町でもいいかなと思っていたんだけど、今回怖い人に襲われたせいで魔王さんに心配かけちゃったから、魔王さんを心配させないためにも、魔王さんにしっかり護ってもらうためにも、城下町でやらないといけなくなっちゃったんだよ?」
「うっ……それは、大変、申し訳なく……しかし、大使館は国の顔で……」
宰相さんが汗まで流しながら必死に作り笑いを俺に向ける。
あ、異世界でも媚びる時ってもみ手になるんだ。
「大使館って城下町に無いといけないわけじゃないよね? 北の国や島の国みたいに、隣町に大使館を置けばいいんじゃない?」
「で、ですが……我が国は……他の国よりも……その……あの……」
北の国や島の国よりも、魔王さんのお城に近い場所、しかも城下町に大使館が置けることってステータスらしいね? より親密さをアピールするとか、伝統やお金があることをアピールするとか。
手放したくないだろうなぁ……気持ちはわかるけど、これって優しさでもあるの、わかってくれるかな?
「この件、報道されるからね? 城下町に大使館があるほうが危険かもしれないけど、いいの?」
「え?」
「魔王の国のみんな、俺のことを愛してくれているから……熱烈に」
「あ……あっ……あ、あぁ!」
「それに、魔王さんは当分、山の国に関することを視界に入れるのも嫌だろうし」
「う、うぁ……ぐ……」
宰相さんが悔し泣きでもしそうな様子で、ぎゅっと目を閉じて歯を食いしばる。
魔王の国のみんなは優しく穏やかな人が多いからいないとは思うけど……「ライト様を傷つけようとした山の国なんて許せない!」とか「魔王様のペットを傷つけるとは不敬な!」とか言いながら大使館に石が投げ込まれるなんてこと、無いとは言い切れないよね?
俺の横で黙って俺に任せてくれていた魔王さんも、まだ不機嫌さを隠さない声で後押ししてくれた。
「さすがライトだ。俺のことも国民のことも考えてくれたいい案だな。城下町から出て行ってくれるなら、俺も少しは溜飲が下がる」
「は……っ……」
「う、うぅ……」
宰相さんはもう諦めたように項垂れて、その横で年配の執事のウーボさんがやっと後悔しているようなうめき声をあげた。ペットを襲ったくらいでこんな大事になると思わなかった?
もう遅いなぁ。
「俺、山の国の大使さんは何度かあいさつしたことがあるけど、魔王の国や俺のことを理解してくれているいい人だよね。安全が脅かされるとかわいそうだから。そういう意味でも、わかりやすく、目に見える形での誠意があるほうがいいよ」
「……はい」
「あ、あと、その犯人さんも黒幕のウーボさんも、国を心配しているっていう気持ちはわかるし、また狙ってくることはないだろうから、さっさと国に帰っちゃって。その代わり、二度と俺に近づかないで」
「よろしいのですか? 魔王の国で罰を与えてくださっても……」
「嫌な人のために俺や大事な魔王さん、騎士さん、兵隊さんたちの手を汚したくない。時間も勿体ない。顔も見たくない」
キッパリと言うと、あまりかわいいことを言っていないはずなのに、部屋の入口の方にいた騎士さんたちが「あぁ、俺たちにまで心を配ってくださって」「お優しい!」「かわいい!」って反応してくれているな……なら、もうちょっと言っていい?
「ねぇ宰相さん、ウーボさん。犯罪なんてしている暇があるなら、もっと正攻法で、人間に頼らず山の王様をどうにかしたら?」
宰相さんが頭を下げ、ウーボさんは呆然と俺を見る。
「ウーボさんたちは、人間より魔族が賢いと思うんでしょう? 賢い魔族が頑張ったら?」
本当、かわいくないことを言っているなぁ、俺。
でも、ショック療法と言うか……
「ライト様!」
俺の言葉に、宰相さんとウーボさんの後ろでずっと黙って俺を見ていた犯人の若い男性が大きな声を上げた。
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