魔王さんのガチペット

回路メグル

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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

ゆ~っくり(1)

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 会議の日から一ヵ月半ほどが過ぎた日の夕食後。

「ライト、明日は午後に時間がとれる」

 会議やパーティーの準備、東の国の結界の修復、パーティー後の襲撃事件……大変なことがたくさんあって、大変なことの後処理がたくさんあって、俺も魔王さんもずっと忙しく過ごしたここ数カ月。
 ほぼ毎日夕食後は一緒にいたし、魔力補給のためにも週に数回イチャイチャもしていたけど、魔王さんが月に数回とる、午後の自由時間は無い状態が続いていた。
 それがやっと、とれるらしい。

「やった。久しぶりだね?」

 嬉しい! ……って顔を見せたいんだけど、魔王さんはソファに並んで座る俺に抱き着いて……半分押し倒されているような格好だけど、エッチな感じではなく、大好きなネコちゃんかワンちゃんの首筋に顔を埋めて吸う……いわゆる「猫吸い」の俺版。「ライト吸い」のような状況だ。
 魔王さん、最近これがお気に入りなんだよね。嫌ではないけど、この体勢って俺から抱きしめ返しにくいし顔も見えないし……まぁ、一方的に愛されまくっている感じも悪くはないか。

「ライトもずっと忙しかっただろう? 労わなければならないと思っている」
「労う?」
「行きたい場所があればどこへでも連れていく。したいことがあれば一緒にしよう」

 俺の首筋からやっと顔を上げた魔王さんが、優しく微笑みながら頭を撫でてくれる。
 魔王さんこそ、ここ数カ月大変で、頑張って……ショックなことも乗り越えて、労ってあげなきゃいけないのに。
 こんな時も俺優先? 優しいなぁ。大好きだなぁ。
 大好きな魔王さんとの久しぶりの自由時間か……

「じゃあ、明日の午後はベッドの上で過ごそう?」
「ベッドの、上?」
「そう。ベッドの上で、のんびり、ゆっくり、ごろごろしよう?」
「のんびり……そんなことでいいのか? いや、そうか……ライトも疲れているか。あぁ、ゆっくり体を休めよう」

 魔王さんが優しい笑顔のまま頷いてくれるけど、そうじゃないんだよね。

「休むっていうか、魔王さん補給?」
「補給? 魔力が足りていなかったか? それなら今からでも……」
「んー……そうじゃなくて」

 魔王さんの不思議そうな顔に両手を添える。

「魔王さんが足りない。毎日少しは一緒に居られるけど、もっとたくさんおしゃべりしたい。くっつきたいし、俺からも魔王さん吸って魔王さん撫でて、魔王さんによしよししたい」
「俺を……?」
「あと、魔王さんにも同じことしてもらいたい。魔王さんも最近距離が近いのって俺が足りていないからじゃないの?」
「……? 近いか?」
「近いよ。顔が近すぎて顔が見えないことが多い」

 これ以上近づけさせないために、両手でつかんでいるって気づいている?

「……そういえば、ライトの顔を見るよりも匂いや体温を感じることに夢中になっていたかもしれない」

 やっと自覚した?
 
「そうだ……確かにそうだ! ライトが不足している! もっとライトを感じたい!」
「でしょう? だから明日の午後はベッドでごろごろしよう?」
「あぁ、それがいい!」

 魔王さんが俺の手の中で大きく頷く。
 よかった。魔王さんと俺、同じ気持ちだ。

「お行儀悪いけど、ベッドに寝ころんでお菓子食べながら、おしゃべりもしたいな」
「そうだな。行儀はよくないが体を休めつつ栄養補給もしつつ、ライトとたくさん話ができるのは最高だ」
「ベッドなら全身ピッタリくっつくハグができるね?」
「あぁ! ライトの足先まで全部、俺の体で包み込める!」
「頭撫でてね?」
「もちろんだ!」
「キスもしようね?」
「たくさんしよう!」

 俺の言葉に全部頷いてくれるなぁ。
 じゃあ……

「魔力は十分足りているけど、魔力補給もね?」
「ン! あ、あぁ!」

 ちょっとだけ色気を含ませて言った言葉には、一瞬あからさまに「ドキッ!」としてから頷いてくれた。
 明日、楽しみだな。
 いや、もう今から楽しいな。


      ◆

 
 翌日の午後、仕事を終えた魔王さん自ら「ローズウェルから受け取ってきた」と、大きな銀のトレイに乗ったお茶とお菓子を持って部屋に来てくれた。
 いつもより背の高い、こぼれにくそうなマグカップ風の入れ物にお茶が入っていて、お手拭きも添えてある。
 さすがローズウェルさん。気が利くなぁ。

「じゃあ魔王さん、それベッドに置いたら服脱ごう」
「え? い、いきなりか?」

 嬉しそうに期待しているところ悪いけど、違う。

「この服は魔王さんとくっつくのに邪魔だから。リラックスできるバスローブに着替えよう?」
「あ、あぁ……」

 魔王さんが気まずそうにしながら寝室へ向かう。
 せっかくの楽しい時間なのに最初からテンション下がっちゃうのは嫌だから……ご機嫌になってもらおう。

「早くね? 俺が脱がせるから」
「いいのか!」

 一瞬で笑顔になって、すごい勢いでトレイをベッドに置くと、魔王さんがたった数メートルをすごい勢いで走ってくる。

「俺も脱がせてくれる?」
「ぜひさせてくれ!」

 魔王さんがにこにこしながら俺のシャツのボタンを外してくれて、俺も魔王さんの詰襟の……このボタンは飾りだっけ? こっちの裏側にフックとボタンがあって……

「……あれ? あ、そうか。ここを外すんだっけ?」
「あぁ。手間のかかる服で悪いな」

 魔王さんは俺の服を一瞬で脱がせてしまったのに、俺はやっと上着を脱がせたところ。
 しかも、中のシャツのボタンにベルトに、ブーツ……時間のかかるものがたくさん残っている。

「これ、毎日着るのも大変じゃない? もっと楽な格好で……は、だめだな。魔王さんこの服すごく似合っていてカッコイイから」
「ははっ! ……確かに面倒ではあるが、王の威厳を表すためにもかしこまった服は必要だろう? それに……」

 魔王さんが楽しそうな顔のまま俺の金髪に指を通す。

「ライトが一生懸命服を脱がす姿がかわいくて最高だ」
「……」
 
 魔王さん、最近こういうこと素直に言っちゃうんだよね……
 俺のほうこそ、最高。


 脱がせあって、二人ともバスローブ姿になると、トレイが斜めにならないように気を付けながら、ベッドにうつぶせで寝ころんだ。

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