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第16話 仕事/結果(家族)
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―――ブブブブブッ
「……っ!?」
まだ動画を開いたままのスマートフォンが震えた。
こっちに届くのは……家族からのメッセージだ!
急いでメッセージアプリに切り替えると、「お母さん」と「お父さん」からひとつずつメッセージが届いていた。
『アオ、話題になっている動画を観ました。大変でしたね。でも、正義の心を持っているアオのことを誇りに思います。常に正しく素敵なアオでいてくださいね』
お母さん……
『パワハラで訴えるなら専門の事務所を紹介する』
お父さんも……!
珍しい。
俺の活躍を喜ぶ以外の、心配してくれているような言葉、褒めてくれているような言葉、気にかけてくれているような言葉がこんなにももらえるなんて!
嬉しくて、嬉しくて、思わず画面をスクショして、一時間掛けて返信を考えて、「お気遣いありがとうございます。お父さん、お母さんに教えて頂いた正しい心を持って、仕事に取り組んでいきます」と、結局は何の変哲もないシンプルな返事をした。
でも、嬉しい。
両親が……なかなか俺を見てくれない両親が、俺を見てくれた。
伊月さんの策略でもなんでもいいや。
情けない土下座が拡散されたのも、パワハラもどうでもいいや。
悩んでいたことも忘れて、浮かれながらベッドに入った時、また個人のスマートフォンが震えた。
『こっちは毎日勉強頑張っているのに、土下座で済むなんてイケメンは得だね(笑)』
「……っ!」
……弟のコウからだ。
語尾の「笑」は本当に笑っているようには思えなかった。
俺の二歳年下の弟は、有名私立大学で弁護士を目指して頑張っている。
父の弁護士事務所を継ぐために。
「……俺だって、勉強が頑張れるならそっちがよかったよ」
俺は、特別勉強ができないわけではないと思う。
ただ、父方の家族が全員通っていた有名私立小学校の受験で落ちてしまった。
俺が落ちたから、弟は俺の何倍も勉強させられて、小学校に合格。その後も、「長男のように躓いてはいけない。念には念を入れて、慎重に、もっと……」と、親が付きっ切りになって勉強させられている。
弟は「自由にできる兄さんが羨ましい」「兄さんが馬鹿なせいで俺が苦労する」と言う。羨ましく思われているし、嫌われている。
でも俺は……弟の方が羨ましい。
体調を崩した時に俺よりも手厚く看病してくれること、欲しい物をご褒美として買ってもらえること、ずっと一緒にいてもらえること、勉強はキツイだろうけどやればやるだけ褒めてもらえること、ずっと両親が側で視線を向けてくれること……全部羨ましかった。
俺は、「勉強ができない情けない息子」であることを隠すために、ありとあらゆる習い事をさせられ、その中で一番「才能がある」と言われた劇団に放り込まれ……
母曰く「長男にも父親と同じく弁護士を目指して欲しかったのですが、本人がやりたがって才能がある『役者』という部分を伸ばしてやることも大切だと思ったんです」ということになった。
それ以来、両親は俺が役者として成功した時だけ褒めてくれる。
ドラマの主役になった時、映画の主役になった時、大手企業のCMキャラクターに決まった時、俳優として賞をとったとき。そういう時だけ俺のことを褒めてくれる。俺のことを見てくれる。
両親の世間体なのかメンツなのか見栄なのか……そんなことのために俺は、今日まで俳優をやっている。
俺は「両親の期待に応えられない、できの悪い息子」ではなく、「両親が自由にさせてくれたおかげで成功した才能ある息子」でいなくてはいけないんだ。
両親のためであり、自分のため。
両親からわずかばかりの愛情をもらうため。
両親がくれない愛情を、ファンやスポンサーからもらうため。
あぁ……
愛されたいなぁ。
「お父さん……お母さん……コウ……」
家族の顔が浮かんだけど、三人が俺を愛してくれている表情というのは上手く想像できない。
頭を撫でてもらった感触も、抱きしめてもらった感触も、遠い昔すぎる。
なんとか思い出そうとするけど……頭を撫でられる感触も、抱きしめられる安心感も、「大好きだよ」と言いながら笑ってくれる顔も……思い出せるのは、最近全て与えてくれる伊月さんのそれだった。
「ははっ……伊月さんのこと怖いとか重いとかいうけど……俺も重いしこじらせているなぁ……」
無性に、誰でもいいから……伊月さんでいいから、抱きしめられたくなった。
さっきまで怖がっていたのに。
だめだな、俺。自分勝手すぎる。
「……っ!?」
まだ動画を開いたままのスマートフォンが震えた。
こっちに届くのは……家族からのメッセージだ!
急いでメッセージアプリに切り替えると、「お母さん」と「お父さん」からひとつずつメッセージが届いていた。
『アオ、話題になっている動画を観ました。大変でしたね。でも、正義の心を持っているアオのことを誇りに思います。常に正しく素敵なアオでいてくださいね』
お母さん……
『パワハラで訴えるなら専門の事務所を紹介する』
お父さんも……!
珍しい。
俺の活躍を喜ぶ以外の、心配してくれているような言葉、褒めてくれているような言葉、気にかけてくれているような言葉がこんなにももらえるなんて!
嬉しくて、嬉しくて、思わず画面をスクショして、一時間掛けて返信を考えて、「お気遣いありがとうございます。お父さん、お母さんに教えて頂いた正しい心を持って、仕事に取り組んでいきます」と、結局は何の変哲もないシンプルな返事をした。
でも、嬉しい。
両親が……なかなか俺を見てくれない両親が、俺を見てくれた。
伊月さんの策略でもなんでもいいや。
情けない土下座が拡散されたのも、パワハラもどうでもいいや。
悩んでいたことも忘れて、浮かれながらベッドに入った時、また個人のスマートフォンが震えた。
『こっちは毎日勉強頑張っているのに、土下座で済むなんてイケメンは得だね(笑)』
「……っ!」
……弟のコウからだ。
語尾の「笑」は本当に笑っているようには思えなかった。
俺の二歳年下の弟は、有名私立大学で弁護士を目指して頑張っている。
父の弁護士事務所を継ぐために。
「……俺だって、勉強が頑張れるならそっちがよかったよ」
俺は、特別勉強ができないわけではないと思う。
ただ、父方の家族が全員通っていた有名私立小学校の受験で落ちてしまった。
俺が落ちたから、弟は俺の何倍も勉強させられて、小学校に合格。その後も、「長男のように躓いてはいけない。念には念を入れて、慎重に、もっと……」と、親が付きっ切りになって勉強させられている。
弟は「自由にできる兄さんが羨ましい」「兄さんが馬鹿なせいで俺が苦労する」と言う。羨ましく思われているし、嫌われている。
でも俺は……弟の方が羨ましい。
体調を崩した時に俺よりも手厚く看病してくれること、欲しい物をご褒美として買ってもらえること、ずっと一緒にいてもらえること、勉強はキツイだろうけどやればやるだけ褒めてもらえること、ずっと両親が側で視線を向けてくれること……全部羨ましかった。
俺は、「勉強ができない情けない息子」であることを隠すために、ありとあらゆる習い事をさせられ、その中で一番「才能がある」と言われた劇団に放り込まれ……
母曰く「長男にも父親と同じく弁護士を目指して欲しかったのですが、本人がやりたがって才能がある『役者』という部分を伸ばしてやることも大切だと思ったんです」ということになった。
それ以来、両親は俺が役者として成功した時だけ褒めてくれる。
ドラマの主役になった時、映画の主役になった時、大手企業のCMキャラクターに決まった時、俳優として賞をとったとき。そういう時だけ俺のことを褒めてくれる。俺のことを見てくれる。
両親の世間体なのかメンツなのか見栄なのか……そんなことのために俺は、今日まで俳優をやっている。
俺は「両親の期待に応えられない、できの悪い息子」ではなく、「両親が自由にさせてくれたおかげで成功した才能ある息子」でいなくてはいけないんだ。
両親のためであり、自分のため。
両親からわずかばかりの愛情をもらうため。
両親がくれない愛情を、ファンやスポンサーからもらうため。
あぁ……
愛されたいなぁ。
「お父さん……お母さん……コウ……」
家族の顔が浮かんだけど、三人が俺を愛してくれている表情というのは上手く想像できない。
頭を撫でてもらった感触も、抱きしめてもらった感触も、遠い昔すぎる。
なんとか思い出そうとするけど……頭を撫でられる感触も、抱きしめられる安心感も、「大好きだよ」と言いながら笑ってくれる顔も……思い出せるのは、最近全て与えてくれる伊月さんのそれだった。
「ははっ……伊月さんのこと怖いとか重いとかいうけど……俺も重いしこじらせているなぁ……」
無性に、誰でもいいから……伊月さんでいいから、抱きしめられたくなった。
さっきまで怖がっていたのに。
だめだな、俺。自分勝手すぎる。
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