32 / 60
第32話 ランド/社長
しおりを挟む
その後も伊月さんの様子に気をつけていたけど、最後まで「憧れのアオくんが目の前にいてヤバイ、幸せ、死にそう」というノリで通してくれた。
これで、俺たちが恋人同士で、セックスまでしている関係とは誰にも気づかれないと思う。
「では、広報用の記念写真の撮影をお願いします」
食事とおしゃべりで一時間半ほど経った頃、レストランを出てランドのメインアトラクションのお城風コースターへ向かった。
このアトラクションを背景に伊月さんと「広報用の記念写真」を撮るためではあるけど……さすがに社長と芸能人が並んでいると、社員の方々も足を止める人が多い。
フユキさんたちへの「かっこいい~! 大好き!」「本物だ!」「キャー! フユキー!」という声は予想通りだけど、俺に向けて「はぁ~、確かにイケメン!」「社長が言う通りだな」「キャー! 社長よかったですね!」という声は……本当に「伊月さんが俺のファン」ということは社内で共有されている事実なんだ?
そして……
「社長! 先日はグループの就業規則改善の要望を受けていただきありがとうございます!」
「お陰で子育てと仕事の両立がしやすくなりました!」
急に若い女性グループが近づいてきたと思うと、彼女たちは若いママさん社員一同らしかった。
会話の内容からいって、すごく感謝されているし、伊月さんは社員にも人気のあるいい社長さんなんだ?
「そんな……ちょうどアオくんが主演のドラマで就業規則について取り上げていたから、うちも考えないといけないと思っていただけだよ」
「じゃあ、社長と波崎アオさん、両方へ感謝しないといけませんね!」
「社長、波崎さん、よかったらこれ、お礼です」
「え?」
伊月さんと、記念撮影のために横に並んでいた俺にも、このランドの人気キャラクターの耳とリボンが付いたカチューシャを渡してくれた。
……これ、カップルがよくお揃いで付けて写真撮っているやつ……だけど、この一連のやり取りもカメラに抑えられているから、お揃いで付けてもいいのか。むしろ、付けるべきか。
「俺までいいんですか? では、折角なので……」
俺が遠慮なく付ければ、伊月さんも慌ててカチューシャを付ける。
男らしいイケメンにはあまり似合わないんだけど、なんだろう。楽しいな。
「では撮ります! 三、二、一……次は握手と、すみません、権利問題あるかもしれないんで、申し訳ないですがカチューシャ無しも」
「はい」
プロのカメラマンさんと、秘書さんのスマートフォンで、十枚近く写真を撮ってもらい、「社長より感謝のランチ」の時間は終わった。
「それでは、アオくんも、five×tenのみなさんも、閉園までたっぷり楽しんでいってくださいね。そして来シーズンのCMやイメージキャラクターもどうぞよろしくお願いします」
伊月さんが社長さんらしい笑顔で俺たちを見送ってくれて、また俺とフユキさんたちはアトラクションへと向かった。
途中、「SNSのプレゼント企画の景品にするので、視聴者の方へお土産物を選んでください」という仕事はあったけど、こういう場所で「お土産を買う」なんていうことも初めてで……ちょっと楽しくて、個人的にも、ゲームのモンスターのアクキーを一つだけ買うことにした。
子どもっぽいかな……でも、今日の記念になにか残るものが欲しかったし、フユキさんたちはもっと色々買っていたからいいか。
「波崎くん一個だけ? 自制できてえらいね」
「こういう時、なにを買えばいいかわからなくて。みなさんすごいですね?」
「俺たちは買い過ぎだけどね。でも、半分くらいは事務所の後輩とか、今度のコンサートのスタッフへのお土産だよ」
「俺は家族へ!」
「俺は地元の友達に!」
あ……そうか。こういうところに来たら、仕事仲間や家族や友達に「お土産」を買うものなんだ。
一瞬、家族の顔が浮かんだけど……両親は「そんなくだらない場所の物」って言うだろうし、弟は……よくは思わないよね。
あとは……
「やっぱり、俺ももう少し買います!」
「俺らにつられた? ごめんね」
「合わせること無いからね、波崎くん?」
「いえ、お土産のことを思い出せてよかったです」
フユキさんは心配そうに言ってくれるけど、お世話になっている事務所と、今度の現場にくらいなにか買っていってもいいなと思った。
パッケージがかわいいお菓子……それと……アクキーをもう一つ。
今日、連れてきてくれた伊月さんに。
伊月さんも来ているからお土産というのもおかしいかもしれないけど……「お土産」と言われて一番に思い浮かんだ顔が伊月さんだったんだ。
大人で社長の伊月さんに数百円のゲームのアクキーなんて、とも思うけど。俺が選んだ、俺とお揃いの、初めて家の外で会えた記念の場所のお土産……うん。伊月さん絶対に喜ぶ。
絶対に喜んでくれる相手のために買うお土産は、買っていても楽しかった。
お土産を買った後はずっと、ただただ友達と一緒にアミューズメントパークで遊び倒した。
途中……
「あ! 波崎アオくんだ! 本物、社長の話以上にかっこいい!」
「かっこいい、写真お願いしたい」
「私は握手! でも……」
「うん。社長の推しなのに抜け駆けはよくないよね」
「そうだよね。社長がアオくん推しのお陰で給料も上がったしランド貸し切りで遊べているんだし」
「社長の推しは大事にしないとね」
午前中はあまり周りを気にしないようにしていたけど、気を付けてみるとみんな俺のことを「社長の推し」として大事にしてくれているようだった。
しかも、ただの上司の推しだからと言うよりは、伊月さん自体が慕われているというか……
俺、伊月さんのこと知っているようでまだ全然知らないんだな。
アミューズメントパークという場所の楽しさ、友達と遊ぶ楽しさに加えて、「社長としての伊月さん」が見られたのも、楽しいと感じる一日だった。
これで、俺たちが恋人同士で、セックスまでしている関係とは誰にも気づかれないと思う。
「では、広報用の記念写真の撮影をお願いします」
食事とおしゃべりで一時間半ほど経った頃、レストランを出てランドのメインアトラクションのお城風コースターへ向かった。
このアトラクションを背景に伊月さんと「広報用の記念写真」を撮るためではあるけど……さすがに社長と芸能人が並んでいると、社員の方々も足を止める人が多い。
フユキさんたちへの「かっこいい~! 大好き!」「本物だ!」「キャー! フユキー!」という声は予想通りだけど、俺に向けて「はぁ~、確かにイケメン!」「社長が言う通りだな」「キャー! 社長よかったですね!」という声は……本当に「伊月さんが俺のファン」ということは社内で共有されている事実なんだ?
そして……
「社長! 先日はグループの就業規則改善の要望を受けていただきありがとうございます!」
「お陰で子育てと仕事の両立がしやすくなりました!」
急に若い女性グループが近づいてきたと思うと、彼女たちは若いママさん社員一同らしかった。
会話の内容からいって、すごく感謝されているし、伊月さんは社員にも人気のあるいい社長さんなんだ?
「そんな……ちょうどアオくんが主演のドラマで就業規則について取り上げていたから、うちも考えないといけないと思っていただけだよ」
「じゃあ、社長と波崎アオさん、両方へ感謝しないといけませんね!」
「社長、波崎さん、よかったらこれ、お礼です」
「え?」
伊月さんと、記念撮影のために横に並んでいた俺にも、このランドの人気キャラクターの耳とリボンが付いたカチューシャを渡してくれた。
……これ、カップルがよくお揃いで付けて写真撮っているやつ……だけど、この一連のやり取りもカメラに抑えられているから、お揃いで付けてもいいのか。むしろ、付けるべきか。
「俺までいいんですか? では、折角なので……」
俺が遠慮なく付ければ、伊月さんも慌ててカチューシャを付ける。
男らしいイケメンにはあまり似合わないんだけど、なんだろう。楽しいな。
「では撮ります! 三、二、一……次は握手と、すみません、権利問題あるかもしれないんで、申し訳ないですがカチューシャ無しも」
「はい」
プロのカメラマンさんと、秘書さんのスマートフォンで、十枚近く写真を撮ってもらい、「社長より感謝のランチ」の時間は終わった。
「それでは、アオくんも、five×tenのみなさんも、閉園までたっぷり楽しんでいってくださいね。そして来シーズンのCMやイメージキャラクターもどうぞよろしくお願いします」
伊月さんが社長さんらしい笑顔で俺たちを見送ってくれて、また俺とフユキさんたちはアトラクションへと向かった。
途中、「SNSのプレゼント企画の景品にするので、視聴者の方へお土産物を選んでください」という仕事はあったけど、こういう場所で「お土産を買う」なんていうことも初めてで……ちょっと楽しくて、個人的にも、ゲームのモンスターのアクキーを一つだけ買うことにした。
子どもっぽいかな……でも、今日の記念になにか残るものが欲しかったし、フユキさんたちはもっと色々買っていたからいいか。
「波崎くん一個だけ? 自制できてえらいね」
「こういう時、なにを買えばいいかわからなくて。みなさんすごいですね?」
「俺たちは買い過ぎだけどね。でも、半分くらいは事務所の後輩とか、今度のコンサートのスタッフへのお土産だよ」
「俺は家族へ!」
「俺は地元の友達に!」
あ……そうか。こういうところに来たら、仕事仲間や家族や友達に「お土産」を買うものなんだ。
一瞬、家族の顔が浮かんだけど……両親は「そんなくだらない場所の物」って言うだろうし、弟は……よくは思わないよね。
あとは……
「やっぱり、俺ももう少し買います!」
「俺らにつられた? ごめんね」
「合わせること無いからね、波崎くん?」
「いえ、お土産のことを思い出せてよかったです」
フユキさんは心配そうに言ってくれるけど、お世話になっている事務所と、今度の現場にくらいなにか買っていってもいいなと思った。
パッケージがかわいいお菓子……それと……アクキーをもう一つ。
今日、連れてきてくれた伊月さんに。
伊月さんも来ているからお土産というのもおかしいかもしれないけど……「お土産」と言われて一番に思い浮かんだ顔が伊月さんだったんだ。
大人で社長の伊月さんに数百円のゲームのアクキーなんて、とも思うけど。俺が選んだ、俺とお揃いの、初めて家の外で会えた記念の場所のお土産……うん。伊月さん絶対に喜ぶ。
絶対に喜んでくれる相手のために買うお土産は、買っていても楽しかった。
お土産を買った後はずっと、ただただ友達と一緒にアミューズメントパークで遊び倒した。
途中……
「あ! 波崎アオくんだ! 本物、社長の話以上にかっこいい!」
「かっこいい、写真お願いしたい」
「私は握手! でも……」
「うん。社長の推しなのに抜け駆けはよくないよね」
「そうだよね。社長がアオくん推しのお陰で給料も上がったしランド貸し切りで遊べているんだし」
「社長の推しは大事にしないとね」
午前中はあまり周りを気にしないようにしていたけど、気を付けてみるとみんな俺のことを「社長の推し」として大事にしてくれているようだった。
しかも、ただの上司の推しだからと言うよりは、伊月さん自体が慕われているというか……
俺、伊月さんのこと知っているようでまだ全然知らないんだな。
アミューズメントパークという場所の楽しさ、友達と遊ぶ楽しさに加えて、「社長としての伊月さん」が見られたのも、楽しいと感じる一日だった。
応援ありがとうございます!
556
お気に入りに追加
1,320
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる