いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第八章~遥かな扉~

四百八十二話

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 三日後のお昼ごろ――綾人とお義母さんが、訪ねて来てくれはった。

「やあやあ、久しぶり! このたびはおめでとう!」
「成己ー! 体調大丈夫か?!」

 晴れやかな笑みを浮かべるお義母さんと綾人を迎えて、ぼくもはちきれそうな笑みを浮かべた。

「お義母さん、綾人……! 会いに来てくださって、ありがとうございますっ」

 綾人とも、お義母さんとも久しぶりに会えて、ほんまに嬉しい。話したいことも、聞きたいこともたくさんある。華やいだ気持ちで二人を見つめていると、横からひょいと肩を抱き寄せられた。

「わざわざありがとう。とりあえず、上がってくれ」

 宏ちゃんが、穏やかに微笑んで言った。
 お義母さんと綾人が顔を見合わせて、安堵したように頷いた。


 *


「適当に寛いでくれ」

 宏ちゃんは、お盆にのせたお茶をテーブルに並べていく。リビングのローテーブルには、うさぎや自慢のごはんが湯気を立てていた。
 時間的にも、お昼ご飯を一緒に食べようってことになってね。「それなら」って、宏ちゃんと二人でご用意したんよ!

「ささ、お義母さん。綾人、座ってください」

 丸い座布団をラグの上に敷いて、席をすすめた。ぼく達のおうちに、お義母さんと綾人が居てくれる――なんだか、すごく有難くて、張り切ってしまうん。

「ありがとう成己、宏章さん! すげー美味そうッ」
「いやあ、悪いね。ごちになりまあす」

 まず、皆でテーブルについて、腹ごしらえをすることにしたん。宏ちゃんとぼく、お義母さんと綾人の並びで、向かい合って座る。ぼくは、正面の綾人にニコッと笑いかけた。

「綾人、グラタンサンドもあるよっ。たくさん食べてね」
「成己……! うんっ」

 お皿を渡すと、綾人はぱっと笑顔になってくれた。うさぎ屋で働いてくれてたとき、まかないで一番気に入ってくれてたの覚えてるよ。
 お義母さんは、綾人を嬉しそうに見ながら、手を合わさはった。

「いただきます」

 お義母さんのリクエストで、今日のお昼ご飯は、うさぎやの人気メニュー。ナポリタンにピザトーストサンド、熱々シーザーサラダとか……定番の人気商品をたくさんこしらえたん。食べきれるかなって思ったけど、おなかペコペコの男性四人が集まれば、杞憂やったみたい。美味しいご飯に舌鼓をうっているうちに、すぐになくなっちゃった。

「いやあ、美味しくって驚いた。宏も、まともに喫茶店やってるんだねえ」

 食後のお茶を飲みながら、お義母さんが言う。綾人が、目をぱちくりとする。

「あれ? おかーさん、食った事なかったんすか?」
「うん。特に機会なかったし。宏なら、まあ。うまくやってるだろうと思ったからさあ」

 あっけらかんとした言葉に、宏ちゃんが苦笑している。――ぼくもさっき、ごはんのお手伝いしてるときに聞いて、驚いたんよね。ご両親もお姉さんも、宏ちゃんのお店に来たことなかったらしくって……。
 
 『まあ、うちは放任だからさ。信頼の証ってことだよ』

 そう言いながらも、フライパンをふるう横顔は、少し嬉しそうやったから。宏ちゃんの立派な働きぶりを、お義母さんに知ってもらえて良かったなあって思う。
 夫の横顔を見つめて、にこにこしていると、見こなしで頭を撫でられた。くすぐったい。

「よしよし。お腹も満ちたし、そろそろ本題といこう!」

 
 お義母さんが、パンと手を叩いた。綾人が、「よしきた」と携えていた紙袋をごそごそと探り出す。

「宏。成くん、改めておめでとう。これ、僕たちからのお祝いだよ~」
「こっちはおかーさんで、こっちはオレからっす!」

 笑顔で差し出された箱に、ぼくは息を飲んだ。綺麗な包装紙に包まれた箱を、震える手で受け取る。

「わあ……ありがとうございます。こんな、お気遣いいただいて、なんていったらいいか……!」
「いいからいいから、開けてみて!」

 ワクワクした顔をしてる二人の前で、ぼくと宏ちゃんはさっそく箱を開けさせてもらったんよ。
 お義母さんからは、シルク素材のレッグウォーマーとブランケットを。綾人からは、ルイボスティーの詰め合わせと、どらやきを頂いたん。

「成くん冷え性だって、綾君から聞いたからさあ。番になりたては、体調崩しやすいから、あっためてね。これ、本当に良いやつだから」
「すごい……めっちゃ嬉しいですっ。さっそく、今夜から使わせていただきますね。綾人も、ありがとう。お茶もどらやきも、大好き。大切にいただくね!」
「へへ……成己は頑張り屋だから。それ飲んで、ちゃんとゆっくりしてな!」

 二人からの心のこもったプレゼントに、じいんとしてしまう。
 
 ――大好きな人と番になれて……こんな風にお祝いしてもらえるなんて……ぼく、すごく幸せや。
 
 目尻に浮かんだ涙を拭っていると、宏ちゃんがそっと肩を抱いてくれる。甘えて寄りかかると、森の香りが鼻腔をくすぐった。

「母さん、綾人君……ありがとう。これからも、二人で頑張っていくよ」

 少し照れた声音で、宏ちゃんが言う。その手には、立派な包丁と万年筆――宏ちゃんのお仕事を支える道具があって、心がほわほわと温かくなる。

「ありがとうございますっ」

 宏ちゃんとふたり、ペコリと頭を下げる。すると、お義母さんは穏やかな声で言わはった。

「ふたり、ずっと仲良くね?」
「はいっ」

 宏ちゃんと番になれたことは、ぼくと宏ちゃんの喜びで、誓いなんやけど。こうやって、応援してくださる人がいることが、とっても嬉しい。溢れる涙を拭っていると、綾人がおろおろとティッシュを差し出してくれた。

「綾人、ありがとう――」

 ぼくが手を伸ばす前に、宏ちゃんが頬にキスをして、涙を拭ってくれる。

「大丈夫か、成?」
「宏ちゃん……」

 つい、夫の優しさにうっとりしてしまうと、綾人が顔を赤らめていた。お義母さんが、にまにまと形容するにふさわしい笑みを浮かべている。

「さっそく仲良しで、なにより」

 そしてね、ちょっと身を乗り出して、言わはったん。

「さて。綾くんと成くんは、積もる話もあるだろうし。いったん二手に別れようか」

 お義母さんの言葉に、ぼくと綾人はぱっと笑顔を見合わせた。

「宏ちゃんっ、ぼくのお部屋でお話しててもいい?」

 うずうずしながら、宏ちゃんを振り返ると、優しい眼差しが降ってくる。ゆったりと頷いたのをみとめ、ぼくと綾人は立ち上がった。

「いこ、綾人!」
「おう!」

 ぼく達は笑って、競い合うようにお部屋に向かった。
 やから――背後で、宏ちゃんとお義母さんが、真剣な眼差しを交わしたことには、気づかなかったんよ。
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