いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第四章~新たな門出~

二百四十八話

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 アルファとオメガの番関係は……とても強固やって、センターで習った。
 アルファは、体内に毒を持っていて。オメガの項を噛み、毒を注入することで、オメガの細胞を変質させてしまう。
 自分の子どもしか宿さない様、子宮を縛りつけるために。
 
 ――アルファが死なない限り、解けることは無い鎖。
 
 もっとも、オメガ法ができてから番を結ぶカップルは、あまり多くないそうなんよ。
 というのは、オメガと婚姻したものの離縁したくなったという事例があって。そういうときに番になっていると、オメガをセンターに入所させることが出来なくて、困るからやって。
 やから……項を噛むって事は、アルファにとっては「一生離さない」、オメガにとっては「一生ついてく」っていう覚悟の表れなんよ。
 ぼくは、ほうと息を吐いた。
 
「そっか。ふたりは番になるくらい……大切に、想いあってるんやもんね」
「ああ、大丈夫。なるようになる。その割に、よくドタバタするよなぁと思うが」
「あはは……」
 
 ざっくりした物言いに、笑いが零れる。
  
「だって、人間やもんね」
 
 番になるって決めても、人間同士やから色々あるんよね。
 でも……それだけ想いあった二人なら、きっと大丈夫やって、そういうことなんやと思う。
 にこにこしてると、宏ちゃんがそっと身を屈めた。自然に目を閉じると、額にキスが降ってくる。――口が腫れてるから、気遣ってくれてるんやけど……ちょっぴり残念に思う。
 
「……んっ」
 
 痛まない方の頬、耳って、唇で優しく愛されて、吐息が震えた。
 ジワジワと喚き立てる蝉の声に追われるように、気もちが逸る。広い背にしがみ付いていると、一度ぎゅっと抱きしめられて、キスが終わった。
 
「……もう?」
 
 名残惜しくて、つい唇を尖らせると、宏ちゃんは苦笑する。
 
「これ以上は俺がまずい。病み上がりのお前を、いじめたくないからな」
「……ひえ」
 
 熱い吐息に唇を撫でられて、お腹がきゅうと甘く痛む。
 きらきら光る灰色の目が見られなくて、深く俯いてしまうと、優しい笑い声が降ってきた。
 
「かわいいな」
 
 抱き寄せられて、すっぽりと腕のなかにおさまった。木々の香りに包まれて、頬が緩む。外で、すっごく暑いのに、ちっとも離れたくない。
 宏ちゃんは、おもむろにぼくの項を撫でた。
 
「ひゃっ?」
「汗かいてるなあ。そろそろ入るか」
「あ……」
 
 悪戯っぽい笑みに、本当の心配が見え隠れする。
 触れられた項を抑えながら、ぼくは慌てて頷いた。残念そうな顔をしている気がして、居たたまれない。
 
 ――宏ちゃんが、優しくしてくれるのに……ぼくったら。
 
 鍵をあける宏ちゃんの横顔は、もういつも通り。
 ちょっと置き去りにされた気分で、熱を持つお腹に手を当てていると、
  
「成、おいで」
「わっ」
 
 突然、軽々と抱き上げられて、家の中に運ばれちゃう。
 目を丸くしていると、宏ちゃんは笑う。
 
「おかえり、成」
「!」
 
 嬉しそうな笑顔に、胸がいっぱいになる。
 
「ただいま、宏ちゃん!」
 
 ぼくも笑って、宏ちゃんを抱きしめた。
 首に頬を押し当てると、慣れ親しんだお家の匂いがして――じんわりと胸があったかくなる。
 
「宏ちゃん、大好き」 
「うん。俺も大好きだよ」
 
 すぐに返される言葉が嬉しい。
 ぼくは、ふふと笑った。
 
  ――……いつ、伝えたらいいかな。順調に、からだが開いてきてるって言われたこと。
 
 あのね。
 たくさん検査してもらったあと、中谷先生が言わはったん。
 陽平とのことで、がっくり下がっていたフェロモン値が、また上がり始めてるって。宏ちゃんとの生活で、ぼくの体が変わって行ってること――素直に嬉しい。
 番になるっていうことは、未開花のぼくには遠い話やと思ってた。でも、もうすぐこの体が大人になるのなら……ぼくたちが、変わることってあるのかな?
 宏ちゃんに、聞いてみたいような。
 なんだか、怖いような気もする。
 
 ――ずっと側においてくれるなら、なんでもいいの。でも……宏ちゃんが許してくれるなら――
 
  ジワジワと、蝉が鳴く。
  恋しいと喚くような蝉の声が、雨のように鼓膜を震わせていた。
 
 
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