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第五章~花の行方~
三百九話【SIDE:宏章】
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「――なんで、追いかけもしないんだ!」
用事を終え、帰り着いた野江家のリビングで、俺は怒りのあまり叫んだ。
母さんに茶の給仕をしようとしていた佐藤さんが、カップを取り落とす。ガシャン、と陶器の砕ける音が響いた。
「落ち着け、騒々しい。使用人を怯えさせるんじゃない」
兄貴が落ち着き払って、言う。ソファから身じろぎもしない様子に、ますます怒りが募った。
大股に歩み寄ると、背広の肩を掴んだ。
「何だよ」
「兄貴。なんで、成に話した? 俺は伝えないでくれって、頼んだよな。――わざわざ、あの子を傷つける必要は無いって!」
俺の家を襲撃したのは城山陽平だと、とっくに見当がついていた。
だから、成には真相を伏せておきたかった。
城山との一件は、成の心に深い傷を負わせた。今回のことを知れば、また傷が痛みだすのではないかと、心配だったからだ。
「それを勝手に話した挙句、成が出て行ったのを追いかけもしないで! 何かあったら、どうしてくれるんだ!? こんなとこで、のんびり茶なんか飲んでるなんて、どうかしてるぞ……!」
テーブルに広げられた茶菓子と、湯気を立てる紅茶が憎らしい。そんなことより、先にすることがあるんじゃないのか。
たった一人で出て行った成を思うと、胸が締め付けられる。
――かわいそうに……
どれほど傷ついたことだろう。
ぎり、と肩を掴む指に力をこめると、兄貴の眉が顰められる。
「子どもみたいなことを言うんじゃねえ。成己さんはこの件の当事者だ。この野江家をも巻き込む事態を、彼だけ知らぬ存ぜぬで済むはずないだろうが」
そう言って、うるさそうに腕を振り払った。
「彼も野江家に入ったのなら、子どもみたいに守られてばかりでは困る。もう立派な大人なんだからな」
「兄貴、あんたな――!」
「待って、宏!」
母さんが、慌てて立ち上がった。
「ごめんよ! 成くんのことなら、ちゃんとうちの使用人に後を追わせてるから! お茶はね、入れ違いにならないよう待ってたんだけど、落ち着かなくて……朝は、ぼくを気遣ってくれただけだからね?」
「母さん……」
「朝を責めないでやって。この子なりに、お前を心配してたんだよ」
はるか下にある母の顔は青ざめていて、俺はぐっと言葉に詰まる。母さんに怒っても仕方ない。それに、この人は突然訪問した俺たちを、快く迎えてくれた。
母への恩義で、兄貴への罵倒をぎりぎりで飲みこんで、拳を下ろした。
――そうだ。怒っても仕方ない……早く、成を迎えに行ってやらないと。
あの用心深い成が、飛び出して行ってしまったんだ。よほど傷ついて、動揺してるに違いない。それに……成の身体の状態を思うと、ことは一刻を争う。
「邪魔をした。俺は成を探しに行く」
俺は踵を返した。
足早に出入り口に向かいながら、スマホを取り出し、成の番号にかける。……繋がらない。続けざまに、何度も呼び出し音を鳴らす。
そうだ。首輪のGPSを確認しなければ――
「待て、宏章」
背後から、呼び止められた。俺は振り返らなかった。
「待て!」
びり、と威嚇のフェロモンをぶつけられ、苛立つ。俺はドアノブに手をかけ、問う。
「何だよ」
「お前は、なぜそこまで薄情なんだ。母さんは、お前をすぐに迎え入れてくれたろう? 俺だって、お前を心配して、色々と考えてやってるんだ。家族の思いにあぐらをかいて、他人ばかり優先して……お前は一体何のつもりだ!?」
兄貴の声には、怒りと困惑があった。本気で言っているのだろう。そのせいか、どこか誠実に聞こえて――俺をいっそう空しくさせる。
「成は俺の家族だ!」
はっきりと言って、今度こそ部屋を出た。
用事を終え、帰り着いた野江家のリビングで、俺は怒りのあまり叫んだ。
母さんに茶の給仕をしようとしていた佐藤さんが、カップを取り落とす。ガシャン、と陶器の砕ける音が響いた。
「落ち着け、騒々しい。使用人を怯えさせるんじゃない」
兄貴が落ち着き払って、言う。ソファから身じろぎもしない様子に、ますます怒りが募った。
大股に歩み寄ると、背広の肩を掴んだ。
「何だよ」
「兄貴。なんで、成に話した? 俺は伝えないでくれって、頼んだよな。――わざわざ、あの子を傷つける必要は無いって!」
俺の家を襲撃したのは城山陽平だと、とっくに見当がついていた。
だから、成には真相を伏せておきたかった。
城山との一件は、成の心に深い傷を負わせた。今回のことを知れば、また傷が痛みだすのではないかと、心配だったからだ。
「それを勝手に話した挙句、成が出て行ったのを追いかけもしないで! 何かあったら、どうしてくれるんだ!? こんなとこで、のんびり茶なんか飲んでるなんて、どうかしてるぞ……!」
テーブルに広げられた茶菓子と、湯気を立てる紅茶が憎らしい。そんなことより、先にすることがあるんじゃないのか。
たった一人で出て行った成を思うと、胸が締め付けられる。
――かわいそうに……
どれほど傷ついたことだろう。
ぎり、と肩を掴む指に力をこめると、兄貴の眉が顰められる。
「子どもみたいなことを言うんじゃねえ。成己さんはこの件の当事者だ。この野江家をも巻き込む事態を、彼だけ知らぬ存ぜぬで済むはずないだろうが」
そう言って、うるさそうに腕を振り払った。
「彼も野江家に入ったのなら、子どもみたいに守られてばかりでは困る。もう立派な大人なんだからな」
「兄貴、あんたな――!」
「待って、宏!」
母さんが、慌てて立ち上がった。
「ごめんよ! 成くんのことなら、ちゃんとうちの使用人に後を追わせてるから! お茶はね、入れ違いにならないよう待ってたんだけど、落ち着かなくて……朝は、ぼくを気遣ってくれただけだからね?」
「母さん……」
「朝を責めないでやって。この子なりに、お前を心配してたんだよ」
はるか下にある母の顔は青ざめていて、俺はぐっと言葉に詰まる。母さんに怒っても仕方ない。それに、この人は突然訪問した俺たちを、快く迎えてくれた。
母への恩義で、兄貴への罵倒をぎりぎりで飲みこんで、拳を下ろした。
――そうだ。怒っても仕方ない……早く、成を迎えに行ってやらないと。
あの用心深い成が、飛び出して行ってしまったんだ。よほど傷ついて、動揺してるに違いない。それに……成の身体の状態を思うと、ことは一刻を争う。
「邪魔をした。俺は成を探しに行く」
俺は踵を返した。
足早に出入り口に向かいながら、スマホを取り出し、成の番号にかける。……繋がらない。続けざまに、何度も呼び出し音を鳴らす。
そうだ。首輪のGPSを確認しなければ――
「待て、宏章」
背後から、呼び止められた。俺は振り返らなかった。
「待て!」
びり、と威嚇のフェロモンをぶつけられ、苛立つ。俺はドアノブに手をかけ、問う。
「何だよ」
「お前は、なぜそこまで薄情なんだ。母さんは、お前をすぐに迎え入れてくれたろう? 俺だって、お前を心配して、色々と考えてやってるんだ。家族の思いにあぐらをかいて、他人ばかり優先して……お前は一体何のつもりだ!?」
兄貴の声には、怒りと困惑があった。本気で言っているのだろう。そのせいか、どこか誠実に聞こえて――俺をいっそう空しくさせる。
「成は俺の家族だ!」
はっきりと言って、今度こそ部屋を出た。
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