いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
458 / 505
第七章~おごりの盾~

四百五十七話

 ――ぼくの様子が変なの、心配して……?
 
 優しい眼差しに、宏ちゃんはわざわざぼくを構いに来てくれたんやって、わかったん。
 いつも通りにしてるつもりでも、宏ちゃんはすぐに気づいてくれる。
 
「はい、あーん」
 
 小さいフォークにさして、りんごが口元に差し出される。おずおずとかじれば、甘酸っぱい果肉が口の中でしゃくりとほどけた。
 
「美味いか?」
 
 こくりと頷くと、切れ長の目がますます優しくなる。ぼくは、胸がじーんと熱く震えてしまった。
 
 ――宏ちゃん、すっごく忙しいのに。ぼくのために……
 
 ありがたくて、嬉しくて、言葉にならない。
 こみ上げる涙を堪え、もくもくとりんごを噛んでいると、ふっと息を漏らすように笑った気配がした。
 
「なあ、成」
「……ん?」
「前も言ったけどさ、俺はお前の味方だよ」
 
 はっとして目を上げると、声と同じくらい優しい笑みがそこにあった。
 
「帰ってきてから、なんか沈んでるだろ。悩んでるなら、とりあえず話してみないか?」
 
 どくん、と鼓動が跳ねる。
 
『こんなことでもなければ、あなた達の縁はなかったのでしょう?』
 
 城山さんの言葉が甦ってきて、怖くなった。「陽平とよりを戻せ」と言われてることを話して、宏ちゃんの夢が覚めてしまわないかって。
 
 ――ずっと良くしてもらっていて、そんなことを考えるのが失礼やってわかってる。でも……こわい。
 
 俯いていると、大きな手が膝に置いていた手に重なった。確かな温もりが伝わってくる。
 
「ひろちゃん……」
「成、大丈夫だよ。俺がいる」
 
 優しい夫の顔を、おずおずと見上げる。
 宏ちゃんは笑ったまま、見つめ返してくれた。ぼくの言葉を待ってくれているのがわかって、胸が震えた。
 
 ――そうや。宏ちゃんは……いつも、ぼくの気持ちを聞いてくれる。いつだって、側に居てくれて……守ってくれる。
 
 怖がらないで、いい。――怖がっちゃダメだ。
 ぼくは大きな手を握り返し、ぼくは「あの」と口を開きかけた。
 
 ピリリリリ!
 
 その瞬間、鋭い電子音が鳴り響く。
 はっとして顔を見合わせると、宏ちゃんのポケットから鳴り響いてくるみたいやった。
 
「宏ちゃん、出て?」
「……いいや、あとでかけ直すから」
 
 苦虫を噛みつぶしたような顔に、苦笑する。
 
「ううん、大事なお仕事の電話やと思うし。ぼくの話は、あとでゆっくり聞いてほしいな」
「すまん……すぐに戻るからな」
 
 宏ちゃんはすまなそうに立ち上がり、スマホを耳に当てながら部屋を出てった。ぼくは、ひらひらと手を振って――ふうと息を吐く。
 
「宏ちゃん……すっごく忙しいやんな。心配かけてごめんね」
 
 可愛らしいうさちゃんリンゴをフォークでつつき、独り言ちる。多忙なのに、こうして構いに来てくれたことが嬉しい。でも、同じくらい申し訳なくもあった。
 
「もっと、ちゃんとしなくちゃ!」
 
 リンゴを頬張って、気合を入れる。
 食べ終わったお皿を持って、部屋を出た。ああ言ってくれたけれど、多分お仕事に戻らないといけない宏ちゃんに、お茶を差し入れたくて。
 
 ――明日、話そう。必ず……!
 
 そう意気込んだぼくは、その明日にとんでもないことが起きるとは、想像もしてへんかったんよ。
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。