俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

三十九話

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 俺は、須々木先輩の腕を掴んだ。

「ど、どういうことですか?! イノリ、大丈夫なんですか? 何で……っ」
「お、落ち着け吉村くん! 桜沢は、大丈夫やから!」

 パニックになりかけた俺の肩を、須々木先輩が強く掴んだ。
 動揺でゆらゆらする視界に、先輩の真剣な顔がはっきりと映りだす。

「だ、大丈夫って?」
「とっくに治療してもろて、身体的には全快してるねん。けど、あいつ寝不足やったみたいでなあ。ついさっきまで、眠り込んどったんや」
「寝不足」
「うん、もう部屋に戻ってるし。明日は、問題なく305に行くと思うから安心してな」
「そうですか……」

 気が抜けて、ぺたんと地面にへたり込む。よかった……。
 困り顔の須々木先輩が、背中をさすってくれた。

「おどかしてごめんな。大丈夫やで」
「すんません、俺……」
「ええねん、吃驚して当然や」

 励ますように背を叩かれて、俺は顔を上げる。

「あのっ、何があったんすか? 怪我するなんて、あいつ何か危ないことに巻き込まれたんですか!?」
「あぁ~」

 問いかけると、先輩は明後日に視線をそらした。
 なんか言いにくそうに、ぽりぽりと頬をかいている。えっ、何その反応。

「それが、ただの喧嘩。書記の松代と派手にやりあってな」
「へ」

 イノリが、喧嘩?
 信じられず、目をパチパチさせていると、先輩が苦笑する。
 すっと立ち上がって、俺の手を引いて立ち上がらせた。

「まあ、ちょっと話そか」

 「地べたも何」ということで、少し先のあずまやに移動した。屋外に変わりないけど、屋根から垂れる蔓のせいか、風は防げるみたいだ。
 俺たちは、並んでベンチに座る。
 須々木先輩は、烏龍茶の缶をくれた。まだかなり熱い。

「汗冷えたらあかんし、これ羽織っとき?」
「えっ」

 さらに、自分の上着を俺の肩にかけてくれた。
 たしかにあったかいけど、これじゃ先輩が寒いんじゃないか。先輩は、笑って手を振る。

「心配いらんで。ぼく、元素調節してるから寒ないねん」
「あ、それ。イノリもやって――」

 言いかけて、得意そうなイノリの笑顔を思い出す。
 あのとき、寝てる俺が寒くないようにカーディガンをかけてくれたんだっけ。
 しんみりしていると、先輩が話し始めた。

「喧嘩の理由なんやけど。あいつ、ここんとこずっと荒れとって」
「えっ、イノリが?」
「そうそう。もぉ~態度悪いのなんの! あいつは人間低気圧や」
「……そうなんすか?」

 態度悪いイノリって、あんま想像できねえけど……。
 首を捻っている俺に、先輩が生温かい眼差しを向けつつ言葉を続ける。

「ほんまやで? もう、今日なんぞは最高潮よ。それを、松代のアホが無闇に煽るさかい、ブチ切れてしもたんやな。そんできみ、大乱闘スマッシュブラザーズの大開催や」
「マジすか!?」
「マジや。ほんで今日に限って、八千草も蓮条もおらんときて、もう、行くとこまで行ったわけ。アホ二人は医務室送りやし。祭の後の生徒会室はめっちゃくちゃやし、ぼくと海棠は、今の今まで片付けに追われる始末」
「おぉ……お疲れ様です」

 早口で喋りきると、先輩はでっかいため息を吐いた。かなりお疲れ模様のようで、背もたれと一体化してる。
……それにしても。
 なんか、信じがたい話を聞いたような気がするぜ。
 ボー然としている俺に、先輩は苦笑した。

「信じられへん?」
「いえっ。でも、イノリがそんなに怒るなんて……何があったんですか?」

 身を乗り出して尋ねると、先輩は顎に手を当てて「んん」と呻いた。

「まあ、色々やけど……それより、ぼくも聞いてええ? 吉村くんさ、桜沢となんかあったやろ?」
「……!」

 いきなり悩みのど真ん中を突かれ、俺は息を飲んだ。先輩は、尋ねたものの「わかっていた」と言うように頷いた。

「やっぱりなあ。桜沢があんなんなっとるから、絶対きみがらみやと思ってん」
「――えっ、じゃあイノリ、俺のことで怒って、喧嘩したんすか?」
「いや、違うよ。まあ、きみが大元の原因とは言えるかも」
「そんな……」

 俺がぐだぐだ悩んで、傷つけたせいで。
 イノリは、らしくもない喧嘩して怪我したのか?
 ショックで言葉を失っていると、焦ったように先輩は言葉を続けた。

「ごめん、余計な事いうた。ただ、桜沢にとって、きみがそんだけ影響力あるっちゅう話でな」
「でも、俺のせいでイノリが」

 うじうじする俺に、困り顔になった先輩は、ピンと来たように指を立てた。

「ええと。なあ、何があったんか聞いてもええ? 知らん仲でもないし、先輩として、ちょっとはええこと言えるかも!」


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