俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百七十三話

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 二見の登場に、利登先輩と泰我先輩は、さすがにそれ以上の攻撃的な言葉は吐かなかった。
 
「おい吉村、玲人くんに筋は通せよな」
「不義理しといて、頂くもんは頂くとか、乞食同然だぜ」
 
 ただ、去り際に教科書のことを、俺にくぎを刺してくことも忘れない。これには、本当に痛いところを突かれちまった。
 今お借りしてる教科書は、姫岡先輩の私物みたいだから。先輩を訴えている以上、このまま使わせてもらうのは良くないよなあ……。
 とは言え――今はそれより、大事なことがある。
 俺は、二見と須々木先輩に向き直った。
 
「二見、来てくれてサンキュ。須々木先輩も、ありがとうございます。それと、その……大丈夫ですか?」
「あ、ああ……大丈夫」
 
 須々木先輩は、まだ少し青い顔をしていた。顔の下半分を手で覆って、せわしく首を横に振っている。ジェスチャーとしては、「大丈夫」だけど、全然違うのは見て分かった。
 
「あの、先輩……」 
「風紀の、ええと、二見やっけ。吉村くんのこと、頼んでええ?」
「はあい、任されました。でも先輩こそ、大丈夫なんですか? マジで顔色悪いですよ」
「いや、ぼくは平気」
 
 そう言って、須々木先輩はふらふらと歩いて行ってしまった。背中が、追っかけてくるのを拒んでいて、思わず立ちすくむ。
 明るい先輩が、あんなにショックを受けるなんて。
 泰我先輩が、ろくでもねえこと言ったからだ。
 そう思うと、むらむらと胸の奥から怒りが湧いてきた。
 須々木先輩が、俺を「殺しかけた」? なんで、そんなひどいこと言うんだろう。
 逆だ、逆! 先輩は、俺の命の恩人なんだからな。
 ぎょっとして、すぐに「違うだろ!」って言えなかったのが、口惜しい。次会ったら、絶対言い返してやる。
 それに、須々木先輩にも――今度こそ、助けてもらったお礼言うんだ。俺は、あんな侮辱これっぽっちも聞こえてないって、先輩に伝えなくちゃ。
 ふんす、と鼻息荒くこぶしを握ったとき。
 トントン、と肩を叩かれて、振り返る。
 
「百面相は終わったかな? 迂闊な吉村くん」
 
 二見が、恐ろしいほど完璧な笑顔を浮かべていた。
 
 
 
 
 
「もおお! 何やってんだよ、キミは! 教室で待っといてッて言ったでしょ?!」
「ごめん! ちょっと提出行くだけだからって、つい……」
「言い訳しない!」
 
 二見は、怒り心頭ってかんじで、捲し立てるように話してる。あまりの迫力に、俺は大汗かいて頭を下げまくった。けど、これはマジで俺が悪い。
 
「今回は生徒会が助けにきたみたいだけど、いつもそうとは限らないんだよ? 気をつけてよね」
「わかった。本当にごめん」
 
 一しきり怒ったあと、二見は「ふう」とため息を吐く。
 
「まあ、いつでもオレがいられるわけでもないし、こんな怒ったって仕方ないんだけど。ごめんね、ヒートアップしちゃって」
「えっ、いやいや。心配してくれたんだろ?」
 
 俺は慌てて、手を振った。すると、二見はちょっと苦笑した。
 
「うん。じゃ、メシ行こっか? 桜沢祈、待ってると思うし」
「おう!」
 
 並んで歩きながら、二見が思い出したように言う。
 
「そういやさあ、吉村くん。さっきの二年になんか言われてたじゃん」
「ああ、それは」
 
 俺が、姫岡先輩に教科書を借りている旨を説明すると、二見はあんぐりと口を開けた。
 
「吉村くんさあ……いや、もう何も言うまい」
「す、すまん。でもさ、俺考えたんだけど――やっぱ、あれ返そうかと思って」
「え?」
 
 目をまん丸にした二見に、俺は考えを話す。
 
「俺、姫岡先輩を訴えてるしさ。教科書だけは使わせてもらうのって、フェアじゃないと思って」
「マジで? 思いっきるなあ。……でも、教科書無いと困るっしょ?」
「うーん。テストも終わったし。休みの間に、もっかい注文してみるよ」
 
 もうじき、冬休みで良かった。あとちょっとの間くらい、何とかなるはずだ。痛い出費ではあるけど、ここは出世払いと言うことで勘弁してもらおう……。
 
「まあ、それがいいかもね。――でも、返しに行くなら風紀同伴にしなよ」
「えっ」
 
 直接、相手の本拠に行くのは危な過ぎるから、風紀をつけてくれるって。
 俺が借りてたものなのに、わざわざいいのかな。でも、さっきのアレがあるから、ついて来てもらえるのはめっちゃありがたい。

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。ありがとう」
「うん、よろしい」
 
 二見は、満足そうに頷いてくれた。
 

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