俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百九十五話

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「吉村、預かっていたものだ」
「ありがとうございますっ」
 
 葛城先生が、ポケットからブレスレットを取り出して、渡してくれた。壊れたら嫌だから、預かってもらってたんだ。ごそごそと嵌め直していると、先生が言う。
 
「それは、須々木の作だな」
「あっそうなんす! お守りにって、頂いて」
「そうか」
 
 えへへと頭を掻いていると、先生はちょっと誇らしそうに目を細めた。
 
「そうだ。吉村、決闘の際も外しておくようにな。他人の作った魔法道具の持ち込みは、原則禁止だ」
「うすっ、わかりました!」 
「ちなみに、自作ならば幾つ持ち込んでも構わないぞ。決闘は、自分の研鑽の成果を試す場所でもある。ゆえに、実験を兼ねて魔法道具の使用も認められている」
「ほえーっ」
 
 じゃ、武器攻撃もありなのか。なんとなく、素手のタイマンだけなのかって思ってたぜ。
 
「決闘のスタイルは、それぞれの個性が出る。今度の決闘大会で、色々と見学してくるといい」
「はいっ!」
 
 俺は、ビッと敬礼した。





「お片付けありがとうね、吉村くん。助かっちゃった」

 姫子先生は、扉に鍵をかけながら言う。振り返りざまの笑顔が、華やかだ。

「いえいえ! お疲れさまですっ」

 俺は、ぺこっと頭を下げて、実験室を後にした。
 ホームルームまで、時間がある。
 ガヤガヤする廊下を移動して、俺は風紀室へ向かった。

「すみません」

 第三の戸をノックして、ひょっこりと顔を出す。すると、茶嶋先輩がデスクでなにやら書き物をされていた。

「茶嶋先輩、戻ってこられてたんすね!」
「やあ、吉村くん。昼に学園に着いてね、ようやく戻ってこれたんだよ 」
「そうですか……お疲れさまですっ」
「ありがとう。吉村くんは、どうしたんだい?」

 先輩は、作業の手を止めて、ニコニコと歩いてきてくれた。
 申し訳なく思いつつ、俺は慌てこんで尋ねた。

「あの、二見は戻ってきましたか?」
「真帆?」

 茶嶋先輩が、不思議そうに首を傾げた。――そのとき。

「草一さん、ありましたよ。三年分の資料……」

 バーン! と奥の扉が開いて、元気そうな人が飛び出してきた。達成感に溢れる笑みを浮かべたその人は、俺を見た途端、腕に抱えていたファイルを足の上に落とした。
 バサバサバサ、と重い音が響く。茶嶋先輩が、慌てた様子で駆け寄った。

「おい、健太! 大丈夫か?」
「……」

 ボー然としている、健太さん。しかし、この人、どっかで見たことある気がすんだけど。

「あのう、大丈夫ですか?」

 俺は近づいて、ファイルを拾い上げようと身を屈めた。

「……触るな!」
「えっ」

 肩をガッシ、と掴まれる。
 思わず、目を真ん丸にして動きを止めた。すると、健太さんは、キッと俺を睨み付ける。

「おい、健太。失礼だろう」

 茶嶋先輩が、嗜めるように言った。

「草一さん、騙されないでください。この男は、生徒会のスパイなんですよ!」
「へえ?!」

 スパイ?! 俺が?
 あっけにとられる俺をよそに、健太さんは「図星を突かれて、何も言えねーようだな?」とニヤリと笑った。
 いや、図星もなにも、わけわからんのよ。

「……何を言ってるんだ、お前は」
「あてっ!」

 べちん、とグローブみたいな手で、茶嶋先輩が健太さんの額を叩いた。健太さんは、額を押さえながら、なお言い募る。

「本当なんですって! 草一さんは知らないかもですが!」
「まさか、吉村くんと桜沢くんが友人なことを言ってるのか? そんなこと、風紀では周知のことで――」
「違います! いや、それもありますけど。とにかく、情報が生徒会に漏れてるって、委員長が仰って! それで、真帆が――」
「二見?!」

 急に飛び出してきた、二見の名前。ガシッ! と俺は健太さんの肩を掴んだ。

「うわぁ?! なんだよっ?」
「今、二見って……どういうことっすか? 二見、何かあったんすか?」
「近いよ! ちょっ、離れろっ」
「落ち着け、二人とも!」

 揉み合いになったところを、茶嶋先輩に引き離される。

「どういうことなんだ、健太。真帆が、何かあったのか?」

 茶嶋先輩が、困惑の面持ちで尋ねる。俺も、そこんとこが気になったので、固唾を飲んで答えを待つ。

「昨日の放課後、真帆が反省室送りになったんです。容疑は、生徒会への業務内容漏洩で。副委員長が、取り調べして――クロだったらしくて」
「何だと?」

 反省室――?!
 物々しい響きに、俺は息をのんだ。草一さんも、目を見開いている。

「そんな、まさか。真帆はそんなことしないよ」
「でも、本当なんです。真帆が、生徒会に風紀の警備体制について、機密を色々話しちまったって。副委員長、カンカンですよ」
「しかし……」

 茶嶋先輩は、腕を組んで天井を見上げた。俺は、狼狽えつつも、健太さんに訴える。

「けど、二見、そんなんしてないです! いつも、これは機密だから言えないってちゃんと――」

 すると、健太さんは強い目で俺を睨む。

「ほら見ろっ。機密を真帆から聞き出そうとしたんだろ? 真帆は、やたらお前に肩入れしてたからな。あいつを利用して――」
「んなこと……!」
「馬鹿っ」

 茶嶋先輩が、健太さんにげんこつを落とした。ぽか、と小気味いい音が鳴って、俺は目を丸くする。
 茶嶋先輩は、厳しい顔で言った。

「いい加減にしないか。確証の無いことをペラペラと――それが風紀のすることか?」
「……っ。すみません」

 マジで怒ってる様子の先輩に、健太さんは顔を青ざめさせた。
 普段穏やかな人が怒ると、怖いよな。俺までつられて、腹の底が冷たくなる。

「吉村くん。すまないが、今日のところは……こいつと話をしないといけないから」
「はいっ」

 くるっと、俺を振り返った先輩に、ビシッと背筋を伸びてしまう。笑ってるのに、なんか怖いよ。

「真帆のことは、心配いらない。反省室は、大人しくしていれば三日で出られるからな」
「ほ、本当ですか?!」
「大丈夫、俺だって入ったことがある。きっと、真帆は、悪いことにはならないよ」
「そうですか……」

 悪いことにはならない。そう聞いて、ひとまず胸を撫で下ろすけど。
 頭を下げて、風紀室を出た俺は、健太さんの言葉を思い返した。
 二見が、生徒会に機密を話すはずがない。「詳しいことは言えない」って、いつも言ってたし。
 寮の警備のことだって、イノリはすでに知ってたんだもん。

――真帆は、お前に入れ込んでた……

「じゃあ……俺の力になってくれたせいで……誤解されたのか?」

 暗澹たる気持ちが、胸に垂れ込めた。


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