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第3章 戦争の幕開け
第13話 古城で孤独の竜の少女
しおりを挟む「ドラゴンスレイヤーの一族…ですか、それは確かに面倒ですね」
そう言ったルーシェの声が、少しだけ震えているように聞こえた。多分、気のせいではないだろう。
というのもだ、ルーシェとのドラゴンスレイヤー一族との因縁はかなり深い筈、
僕はルーシェがどれ程の時を生きているからは知らないが、少なくとも現時点から100年前に実際に起きたとされる頂上決戦[最果ての地の闘い]の頃には既に生まれていたことは理解していた。
頂上決戦[最果ての地の闘い]…それは竜こそ世界の覇者であると主張する原竜主義者と、それを否定する多種族達により結成された連合軍団による総決戦の総称である。
世界全土を巻き込んだこの決戦は、世界に壊滅的な被害を与えた結果、竜一族の敗北により終わったとされていた。
この時の決戦により竜一族のほとんどが滅びたとされ、当時の竜討伐に一躍を買ったとされるのがドラゴンスレイヤーの一族であり、それがオーズベルトのご先祖様に当たる人たち…ということなのだろう。
[最果ての地の闘い]で滅びた竜一族の中には無論ルーシェの一族も含まれており、ルーシェはその最後の生き残りとされていた。
「ルーシェ、思い出してしまうかい?」
「どういう意味ですか?」
「いやね、ルーシェにとってドラゴンスレイヤーとは因縁の相手じゃないかと、そう思って聞いてみたんだ」
「余計なお世話です。過去など等に捨てました」
「そうかい、その割には震えているようには見えるけど?」
「デイトナ様の目が等々腐ってしまった結果の ではないかと…」
「ふふ、強情な…ただどうであれ、今のルーシェが はまるであの時と一緒だよ…覚えてるかい?僕らが初めて出会った日の出来事を」
「…さぁ、どうでもよ過ぎて忘れてしまいました」
ルーシェは顔を背けて、虚ろ目は作っていた。そう、この目だーーあの時見たルーシェもまたこんな目をしていたのだっけな…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
100年前ーー
当時、幼竜であったルーシェが山岳部の奥地には存在する崩壊したその古城を見つけたのは、頂上決戦[最果ての地の闘い]が終わったすぐ後のことだった。
打ち捨てられてどれ程の時間が過ぎたのか分からないーー少なくとも数百年は過ぎているだろうと思われる、そんな古城をである。
ルーシェは古城の奥へと入り込むと、寝床となりそうな部屋を探し回った。そうして一部屋、頑丈そうな扉の鍵部屋を見つけた。
鍵部屋といっても、朽ちた金属の施錠など大して障害ではなく、その当時幼竜であったルーシェでさえも軽く破壊できる程度のものに過ぎなかった。
その部屋に入り込んだ瞬間にも、ルーシェの鼻に湿気特有のジメついた香りが漂ってきていた。
朽ち果ててから閉じっぱなしとなっていただろうか…その部屋には窓もなければ外気に晒されるような箇所もない。故に湿気だけずっと充満し続けていたのだろうことが想像ついた。
一見して、その部屋は当時の偉い人が使っていた風である。他の部屋に比べるとやたら豪勢な造りとなっていて、重厚そうな真っ赤な椅子が部屋の中央奥で寂しく置かれているーー比較的綺麗な部であった。
まるで昨日まで誰かが住んでいたような雰囲気を醸し出すその部屋を、ルーシェはえらく気に入ってしまっていた。その瞬間にも、ルーシェは古城で済むことを決意した。
それからルーシェの孤独な生活が始まった。ルーシェは生活の範囲を古城周辺へと固め、食料探しに狩りに出る時以外は、殆どの時間を古城の中にて過ごした。
もっぱら、埃にまみれた書庫部屋にて。読書に耽ることがルーシェ唯一の娯楽となっていた。
最初こそまるで読めなかった本も、読書を重ねていく内に少しずつではあるが読み進めることが出来るようになっていった。
そうして5年、10年、20年、30年と、ルーシェの孤独の時ぐ穏やかな川の流れのようにはゆるゆるとは流れていった。
その頃にもなれば、ルーシェは書庫に存在する述べ数万冊の本の全てを読破していた。結果、ルーシェは世界についてのありとあらゆる知識を蓄えていたのである。
そんなある時、ふと、ルーシェは過去を振り返ってみた。
それは頂上決戦[最果ての地の闘い]時の事だ。
まだ幼竜であったのルーシェが戦闘には参加することはなく、一族の掟に従っては一人旅立った…その時に言われた一言が、突然にもルーシェの脳裏を駆け巡っていた。
『一族の血を絶やさない為にも、お前は最後の竜王の血を引く者として生き延びよ。そしていつの日か、来たる竜一族再興に向け力をつけるのだ…』
例えどんな事があろうとも一族の血を絶やしてはいけない…それが一族の教えであり、伝説の三大竜王の一角である[マスターアイズヘッドドラゴン]の血を引く一族の使命だと昔から教え込まれていた。
別に使忘れていたわけではなかったが、生きる事に必死で、そんな大事な使命さえも思い出せないでいた。
そうして次の日、30年という長い年月を経て、ようやくはルーシェの竜遺伝子の力を最大限に引き出す為の特訓は始まったのである。
掟に従っては、来たる竜一族再興の日に向けてルーシェはやっと一歩を踏み出した。
それからまた10年、20年、30年…どれ程の時間が過ぎたが忘れる程に、ルーシェの孤独の日々が流れていった。
ただいくら時が過ぎても、最低でも数千年は生きるとされる[古竜族]である。たかだか百数年経った…ルーシェにとってはその程度のものに過ぎなかったのだ。
その間に於いて、幼竜から成熟竜と成り代わったルーシェは自我は進化し、達観した考えを持ち出していた。
達観した考えとは…つまり竜族としての真価を見出しつつあったのだ。また時が経つに連れ、次第に強く溢れ出すは闘争心、今は亡き一族の悲願である『竜の一族再興』という野心が、とうとうルーシェの心に重くのしかかってきていたのである。
その頃にも、ルーシェはやり場のない力の矛先を古城の外へと向け始めていた。頭ではやってはいけないと分かっていても、どうしてか暴れずにはいられないルーシェとは、度々古城を出ては近隣の森山を破壊し、目に付いた生命達を悉く駆逐していくのだった。
力が増すに連れ、力は怒りと変わるーーどうして地上の覇者とまで呼ばれた竜一族であるこの私が、身を隠すようには生きなければならないのか?ーーそんな思いが、ルーシェを突き動かしていく。
そうしてついに、その日はやってきたのだった。
「やぁ、竜のお嬢さん」
突如として古城に現れたその男ーー見るからに怪しい中年男性がそこにいた。
「誰……あなた?」
その時、ルーシェは書庫で覚えた言葉を初めて使用したのだった。伝わったかどうか不安そうには目を泳がせるルーシェに、中年男性はニッコリと笑って答えた。
「僕はデイトナ・カースト。君を迎えにきた」
「……迎え…に?」
ルーシェはデイトナと名乗る男の言葉を上手く理解できていなかった。
「どうして……迎えに、来たの?」
「どうして?ふふ、決まってるじゃないか、お前が必要だから、それ以上でもそれ以下でもない」
「?」
「分からないか…まぁいいや。とにかく、僕はお前を貰いにここまでやって来た。それを分からせる為に…そうだな、しばらく僕もここで暮らすこととしよう」
「???」
結局、その後しばらくはルーシェがデイトナの言葉を理解する事なかった。ルーシェがやっとデイトナの言葉を理解し始めたのは、デイトナが古城に住み始めて実に5年が経とうとした頃である。
最初こそデイトナの姿に恐怖を抱いていたルーシェも、その頃にもなればデイトナの存在を認めるぐらいになっていた。
デイトナとルーシェの心が繋がり始めたのは、その辺りからである…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「僕はあの時の事をよく覚えているよ。あの時のルーシェもまた.僕の姿を見ては今のように震えていたんだ…」
「記憶にはございません」
ルーシェは強情そうには否定した。飽くまでもシラを切るつもりでいるらしい。
『ルーシェ、お前やっぱり変わらないなぁ…』
強がりな癖に、臆病…ルーシェは初めて会った時から今に至るまで、そんなルーシェらしさを貫いていた。
もちろんそんなルーシェに振り回されることもあったし、鬱陶しく思ったことだって数え切れない程あった。
ただそれ以上にルーシェの存在に救われたことも確かであった。
いつも変わらず僕の側についてくれて来てくれたルーシェとは、いつしか僕の掛け替えのない繋がりの一つとなっていたのだ。
認めるよ、僕はルーシェが大事だ。アヴァロンを大切に思うように、ルーシェだって同じくらい大切なのだ。
いつも口では罵り合ってばかりだけど、それも僕からすればかつて兄様や姉様達と戯れあって過ごしていた懐かしい日々を思い出させてくれる。生意気なルーシェを、いつしか僕は家族のように思っていたのだ。
総じて、僕はルーシェから色んなものを貰っていた。
ルーシェにそれを告げても、結局は否定されるだけだろうから口に出して言うつもりない。
だけど、『だったら違う何かで返せたらいいな』って、いつもそう思っていたんだ。
だから今がその時だと、そう思っているんだ。
「ルーシェ、ここは僕に任せてくれよ」
「…同情しているのですか?」
ルーシェは不服そうには眉を顰めた。
「違う、そうじゃないんだ。ただねルーシェ、もう少し僕を頼ってくれないか?僕はこれでも、お前のご主人様なんだからさ」
「……契約上に過ぎません」
「何だよ、つれないこと言うなよ」
僕はそう言って、ルーシェの頭に手を乗せた。その瞬間にもルーシェは嫌そうな顔を向けていたが、まぁそれはいいとして、
「たまには僕にもカッコつけさてくれよ、ルーシェ。いつもお前にばかり頼ってちゃあ面目無いじゃないか?」
「……ふん、わざとらしいですよデイトナ様?」
「へぇ?そ、そうかな?」
「ええ、わざとらし過ぎて気持ち悪いぐらいです。私の為に言って居るだろうつもりでしょうが、私からすれば不快感しか覚えませんね」
と、ルーシェはじっとりとした目線を僕に向けてそう言った。何て強情な奴なのだろうか…
「先に戻っておいてくれ。アヴァロンに何かあったら困る…それじゃあダメか?」
「………」
ルーシェは黙ったまま俯いて、軽く舌打ちを鳴らした。
「今回はそういうことにしておいてあげますよ、馬鹿王子様」
ルーシェはそう言って、薄っすらとした笑みを覗かせた。
「馬鹿は余計だぞ?」
「知りません」
「ふん、もういいやい…さっさと行けよ」
僕はアヴァロンに目配せして、ルーシェとともに離脱するよう合図を送る。先程はあんなにも強情にはついてくる聞かなかったアヴァロンも、僕の気持ちを自ずと悟ってくれたのか、コクリと一回頷いた。
「アヴァロンを頼むよルーシェ」
「ええ、もちろん。あとデイトナ様、最後に一言だけ言わせて下さい」
「ん?何だい?」
「ご健闘を」
仏頂面ではそう言い残して、ルーシェはアヴァロンと共に来た道を戻っていった。
「素直じゃないんだから、全く…」
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