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第3章 戦争の幕開け
第16話 死闘開幕
しおりを挟む僕の体を構成している[ミラージュ・ロストエイジ]を取り込んだのは、確か僕がまだ30歳いくかいかないかぐらいの時だったと思う…
その頃の僕は竜細胞の研究に没頭し、寝る時以外の時間の殆どをそこに費やしていた。ただいくら時間を費やしたところで、満足のいく研究成果を全くといって出ずに、研究を始めた当初に思い描いていた未来よりも、ずっと違う方向へとは進んでいるような気がしてならなかった。
失敗の成功の繰り返しならまだしも、実際に僕がやっていたこととの全ては結果も意味もない大失敗そのものでしかなかった。
そんな研究に行き詰まっていたある時である。僕はとある決断に迫られた。
その決断に迫られたのは、偶然にも僕が数千年前にも滅びたとされる最古の竜王[ミラージュ・ロストエイジ]の亡骸を見つけたからである。
研究に必要な希少鉱石を見つけに出た日のことだ。その場所、険しい山岳地帯[デザート・デス・マウンテン]の最果てーー生命の侵入を拒むようには極寒の、嵐と雪が吹き荒れる標高1万メートルの山頂付近で、ひっそりと息を潜めるようにはその全長20メートル程の巨体を縮こませ、死んでいた。
竜王の亡骸には全くといって損傷が見受けられなかった。その理由については後になって知ることであるが、幾らかの古竜細胞が活動が未だ継続されているからであり、死して尚も肉体の劣化を防いでいたようであった。
また標高の高く、全くといって微生物の存在しない極寒の山頂が、死体の腐敗を阻止していたのも一つの要因だと言えるだろう。
にしてもだ、普通に考えて雪に埋もれて見えなくなってしまっていても不思議ではない極寒の山頂で、何故か竜王の周り一帯付近だけは綺麗なもんだった。
そうして拝んだ竜王[ミラージュ・ロストエイジ]とは、想像していたよりも遥かに綺麗な姿をした竜であるーー夜空のようには澄み切った黒色に、体の所々に光る金色模様が、まるで夜空に浮かぶ星の如き輝きを放っていた。
もっと禍々しいものを思い浮かべていただけに、僕の目は暫く竜王の亡骸へと釘付けとなったままであった。
この時、どうして僕がこの死した竜を[ミラージュ・ロストエイジ]へと認識出来たかというと、それは竜王の亡骸の傍らに置かれた粗末な石碑に、こう刻まれていたからだ。
『我、名もなき竜の旅人。世に災厄を齎したとされる霧闇の古竜を、我、ここに見つけたり。死して尚、その威風堂々たる在り方に、我、感銘を受ける。我が祖先たる竜王の意思が如何なるものか、理解するより先に、我、尊重したくは思う。故、この場に至った全ての者達に告ぐ。即刻、この場を去りたまえ。さもなくば、汝、竜の逆鱗に触れることとだろう……』
その石碑がいつのものなのかは分からない。ただかなり昔、軽く見ても数百年から一千年も前に使われたとされる古代文字で刻まれていることは確かで、つまりはその頃にも刻まれたものだろうことが伺えた。
それが停滞したままとなっていた竜王研究の先駆けとなるとは、もちろん言うまでもなく、
僕ら山頂から[ミラージュ・ロストエイジ]の肉片を切り落としては、研究に可能性を見出していった。そして遂には、自分の体に竜王細胞を移植するという禁忌に触れたのだった…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
体が燃えるように暑かった。また竜王[ミラージュ・ロストエイジ]の細胞が、瞬く間には全身を刺激していくのを感じていた。
普段はリミッターを設けていたからこそ僕は意識を失わずに済んでいたわけで、ではそのリミッターを解除してしまえばどうなるのかーーそこに至るのは今回が初めてであるからに、僕にもどうなるかは分からない。
全身から黒い湯気が噴き出していることと、全身から黒い竜鱗が生えていることーーーそれら[竜化状態]の事象だけしか、僕は把握出来ていなかったのだ。
オーズベルトは目を見開いては警戒心を露わにしていた。ただ恐れを振りかの如く、剣をしっかりと持ち直してジリジリとは距離を詰め出していた。
「デイトナ・カースト…あなたは一体…」
「お前の目の当たりにしている現実こそが全てだよ。人間を辞め、世界に復讐を誓った哀れな男の成れの果て…人間と竜の融合体さ」
「人間と…竜の…融合体…?」
オーズベルトは驚愕そうに呟いた。また続けて、
「あなたは…まさか禁忌を犯したというか!?」
「禁忌?それは他種間との融合を指しているのかい?」
デイトナは強く頷いた。
「それも竜との融合だなんてぇ…正気の沙汰じゃない…」
「信じられないとは言いたげだが…それはエゴだよ、オーズベルト。禁忌だろうがね、それを犯してはいけないと誰が決めた?神か、悪魔か?」
「……」
オーズベルトは返す言葉が見つからないのか、黙った。
「ほら、言えないじゃないか?結局だよ、禁忌なんてもの何処ぞの馬の骨がうちたてた下らない戯言でしかない。それに、僕はこうすることでしか先には進めなかった。言うなれば、僕がこうなることは定めだったんだよ。お前がドラゴンスレイヤーとしての血を引いて生まれたように、僕もまた滅ぼされた小国の王子であり、竜との融合を余儀なくされたに過ぎない…」
「それは詭弁だぁ!定めがどうだとか…理屈ばかりつけているだけだろうにぃ!」
「詭弁だと?ふははははははははは!!」
「何がおかしい!?」
「いやね、お前の最もらしい言葉が酷く浅ましく聞こえて仕方がないわけだよ…いいよなぁ…僕もお前のように胸を張って正論を述べることができるような、そんな生き方に浸かりたかったよ…」
オーズベルトとの理解し合うのは不可能である、今更ながらにはそんなことを思っていた。
ドラゴンスレイヤーの末裔としてーーー忌み子と呼ばれ、悲惨な過去を辿ってきたとされるオーズベルトと少しは理解し合えると思っていたが、どうもそんなことはなかったらしい。
つまり、オーズベルトもまた恵まれた側の人間だったという何よりの証明他ならない。
僕とは違う。全てを失い、全てを奪われた僕とは、絶対的に違う。
「最早言葉で語る必要もないだろうオーズベルト!お前が正しいというなら、僕を殺して証明してみせろ!!」
「……そうするしか、ないみたいですねぇ…」
オーズベルトは空気を震わす程の覇気を発して、僕を睨む。どうやら意思が固まったらしい。
僕を殺すつもりで仕掛けるとは、剣が無言で語っていた…,
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ドラゴンスレイヤー…それは竜の遺伝子を破壊する為に生まれてきた一族を指す。竜の遺伝子を破壊できる特殊なオーラを発するドラゴンスレイヤーの一族は、100年前に起きた竜と人間族との頂上決戦[最果ての血の闘い]にてその力を存分には発揮し、人間族に勝利を齎したとされていた。
ただそんな輝かしい話の裏で、生命体の最上種とも呼べる竜を打ち滅ぼしたドラゴンスレイヤーの一族は人々に恐れられたのである。
そしてついに、ドラゴンスレイヤーの一族の滅ぶ日とはやってきた。それは一人の学者によるとある発見が始まりだった。
その学者は、ドラゴンスレイヤーの一族の中に、竜と同等の細胞が組み込まれていることを突き止めたのであった。
学者曰く、かつてドラゴンスレイヤーの先祖に当たる誰かが竜との交配を試みたのではないかと推測した。その結果、竜と人間との遺伝子が混じり合い、竜殺しの才能に恵まれたのではないかと学者は提唱した。
学者の話は瞬く間に世界全土へと知れ渡り、ドラゴンスレイヤーの一族に対する魔女狩りは始まった。
姿形こそ普通の人間と変わりはないが、その発達し過ぎた身体能力の高さだけを根拠として、ドラゴンスレイヤーの一族は悉く捕まり、処刑されていった。
「竜が滅んだのなら、ドラゴンスレイヤーも滅ばなければならない」
そんな誰かの言葉をスローガンに、ドラゴンスレイヤー種の根絶は止まることはなく、この時でドラゴンスレイヤーの9分の1が滅んだとされる。
生き延びた者でさえ、人里から離れた山や森の奥地での生活を余儀なくされ、ドラゴンスレイヤーの血筋は絶えて、消えていったのである…
そう、彼を除いてはーーオーズベルトである。
「デイトナ・カースト…僕は争い事は嫌いですがぁ…あなたはここで打ち滅さなければならないのだと、そう思います…」
「ははははははは!!やっと本性を見せたなオーズベルト!僕を殺したくてうずうずしているんだろ!?」
「違う!あなたと僕はーー」
「違わないさ!僕も、お前も、戦わずしてはいられない…そういう人間だろ?」
「一緒にするなぁ!!」
オーズベルトは激昂し、吠えるように言った。
そんなオーズベルトを流し見て、デイトナは不敵な笑みを浮かべた。
「認めろよ。剣を手に取り戦うということは、相手を力で屈服させる為だけ愚劣な手段に過ぎない。別に僕はそれを否定しないーー否定しないからこそ僕もまた剣を取ったんだ。それをお前ら革命軍が否定した。自分達の闘いに誤りはないと、そう言ったんだ。そんな中にお前というドラゴンスレイヤーがいて、僕という認めたくない相手を殺す、殺したい、と、お前がやろうとしていることはな、たったそれだけのことなんだよ。どうせ初めからこうなるんだったら、初めからそう言えよ馬鹿野郎が…薄っぺらい綺麗ごとばかり吐きやがって…僕はもうたくさんだよ、そんなの」
デイトナが動いたーー次の瞬間、オーズベルトのあばらに痛烈な痛みが走る。デイトナに蹴りを入れられたと気づいた頃、オーズベルトの体は吹き飛ばされた後だった。
「がはぁっ!」
デイトナは血を拭いて地面を転げ回るオーズベルトを一瞥して、
「思ったより軽いな。いや…僕の力が増したからかな?」
余裕な態度で呟き、笑った。
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