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第1章
第4話 無能な仲間がやってきた?
しおりを挟むマルシャの同意も得た事だし、最早俺を阻む障害はない。ということで、俺たちは仲間の募集をかけるべく募集広告紙の製作にとりかかった。募集広告紙といっても、別に大したものではない。
『誰でも構いません!一緒に冒険の旅に出ませんか!?』
という、とにかくアバウトな内容だったと思う。思うとはだ、正直あれから2日過ぎた今ではどんな事を書いたのかもよく思い出せない。また確認しに行こうとも思わない。それぐらいの適当加減と思って頂けたら幸いだ。
今俺たちはギルド隣の酒場にやってきているわけだが、もしも俺たちの仲間になりたいという冒険者がいるならば今日の今頃にもこの酒場へとやってきて下さいお願いしますといった具合である。
「で、マルシャ的にはどんな奴が来てほしいんだ?」
特に深い意味もなく尋ねて見た。聞いたところでどうせろくでもない奴が来るわけもないことは百も承知だが、せめてマルシャの願望ぐらいは聞いておいてあげようとか思った次第である。
マルシャは手に持ったビールグラスを口元へ近づけゴクゴクと一気に飲み干すと、酔ってしまったのだろうかトロンとした瞳を浮かべながらには口を開いた。
「うーとそうね…別に高望みはしてないけど、出来るなら魔法の心得がある冒険者だと助かるわね」
「成る程な、魔法士か…」
「これからの冒険に魔法士は絶対に欠かせない存在だと私は思うのね?まぁ私も多少なりは魔法を使えたりするわけだし?正直私以下だったら残念なんだけどさぁ、でも魔法を使えるってだけでかなりの強みにはなると思うのね?」
「というと?」
「つまりよ、私は純粋な魔法士じゃないから攻撃魔法しか使えないわけ。例えば攻撃魔法じゃない魔法が必要になった場合、旅の途中で毒を浴びたり傷を負ったりした時によ、そんな時に魔法を使ってチョチョイと回復魔法をかけてくれる魔法士がいたらかなり冒険が楽になると思わない?」
「……ふむふむ」
確かにマルシャの言っていることは正しいと認めざるを得なかった。戦闘面で言えばマルシャがいれば大概のことはない片付くだろうし、最終的にやばかったとしても俺には天下無双の魔槍グンニグルがある。
ただそうでない部分、今マルシャが言ったような俺たちじゃどうしようもない負傷を負ってしまった場合のことを考えると、回復魔法とは俺たちにとってかなりの死活問題となってくるわけだ。
俺とてグングニルを自由に使えるということを除けば底辺冒険者、どこぞの馬の骨となんら変わりない人間なのである。毒を負えば普通に苦しいだろうし、深傷を負おうもんなら誰よりも早く死ねる自信がある。
「そこは考えてなかったな…さすがマルシャ」
ただただ感心してそう言った。そんな俺を見てマルシャは酒臭い息を吹きかけて、
「あったり前でしょ?あんたこの私を誰だと思ってるの?んん?ほら、口に出して言ってみなさいな?」
と、傲慢な態度を見せつけていた。ああ、こいつかなり酒癖悪い奴だと理解できるそんな態度をである。
「はいはい、お前は伝説の勇者ハイトリック・エストバーニ様の血を継ぐ者マルシャ=クレーヌ様ですよ~…これでいいのか?」
「よくない!バンキス、前から言おうと思ってんだけどあんたのセリフには全ッ然感情ってものが篭ってないわけね?」
「は、はぁ…」
「この際だから言わせてもらいますけどね、あんた何様なわけ!?」
「はぁ!?それをお前が言っちゃうわけ!?」
「何よ!?なんか文句あるわけ!?」
あるわボケ!むしろ文句しかないわ!だがそれをこの場でブチまけてしまえばこれまでの全てが水の泡となってしまうし…くそ、いっそこのまま逃げ出そうか?そしたら全ての問題事項がマルッとすっきり解決ぅ~って…ないか、ないよな…このマルシャという女はそれでも俺を離してくれない気がする。どうせ俺の後を追ってくるに決まってんだよ…こいつの言うリーダーシップとやらがある限りな…
「ほらほらバンキス、言いたい事がはっきり言いなさいよ!?ええ!?」
「い、いえ…特にこれといったことなどは…」
「聞こえない!!」
「はい!!すみません!!」
耐えろ、耐えるんだ俺…今はまだキレていい時じゃない…
と、自分へと必死に言い聞かせてみるが…うん、全く意味ねぇ。かなりムカつくんだが?
そんな俺に対してマルシャの酒癖の乗った悪態は永遠と続き、いよいよ堪忍袋の尾が切れかかやろうとしていたーーーそんな時だった。
「あの、ちょっと、いいですか?」
か細い声。それは俺のすぐ隣から聞こえてきた。
俺は未だギャーギャーと叫ぶマルシャを無視して声の方へと目線を向けた。そして見たのはーー見た感じは年齢は俺より少し下ぐらいの、淡いクリーム色をしたおさげ髪を揺らしていて、煤けた灰色のローブを身に纏う少女である。
そんな少女がだ、おどおどとした瞳を浮かべては俺を見ているではないか。はて、何か俺たちに何か用でもあるのかな?
「ん、どうした?」
「いえ、もしやあなた方が冒険者ギルドにて仲間募集をかけていた者達かと思いまして…違っていたらすみません」
と、少女は丁寧なお辞儀を見せた。うん、少しおどおどしているが中々礼儀正しいお嬢さんじゃないか。どこぞ自称勇者の生まれ変わりである冒険者様に見習ってほしいぐらいである。
「何よバンキスその目は…」
「いや、別に」
こほん、とりあえずこの酔っ払いは置いといて、
「いかにも俺たちがその冒険者だが、もしかして仲間になりたくて来てくれた…とか?」
「はい、その通りです」
「ふむふむ、成る程、そうきたか」
まさかこんな少女くるなんて予想外だ。見た感じ冒険者には見えないし、ギルドでも見かけたことはなかったが…にしても可愛いな。まるで可愛い小動物を見てる気分である。
「よく来てくれた。俺は冒険者のバンキス、そしてこっちが酔っ払いのマルシャだ」
「だ、誰が酔っ払いよ!?」
実際に酔っ払いだろうが。ま、とりあえず無視だ無視、
「で、お嬢さんは?」
「あ、すみません申し遅れました。私はルクス=シャムニールという者です」
「ふむ、ルクス=シャムニールか…良い名前だ。ではルクスと呼ばせてもらおう。俺の事は気軽にバンキスとでも呼んでくれ」
「は、はい。ありがとうございます」
「よし。ではルクス、とりあえず座ってくれ、色々と話そうじゃないか?」
俺は満面の笑みを前面に席を引いて、ルクスは畏まった素ぶりでは「では…」と席に着いた。
予想だにもしていなかった可愛い来訪者だけに少し緊張する。だがここはどこまでも紳士的に、緊張した素ぶりは見せないように、俺は笑みを崩さず、まずルクスについてを尋ね始めていた。
「ではルクス、色々と聞かせてもらうが…君は冒険者か?」
「はい。一応」
「ん、一応?」
「あー…その一応というのはですね、確かに私は冒険者ではあるのですが…ついこの間までは普通の村娘でして、はい」
「成る程ね、つまりまだ冒険者として経験はない駆け出し冒険者であると、そういうことでいいんだね?」
「はい、期待させたのなら申し訳ありません…」
ルクスは居たたまれなさそうには頭を下げた。その仕草一切を覗いて、うん、何と健気な少女であろうか…
可愛すぎる!
俺の心は先程からキュンキュンしっぱなしであった。
「いや、いいんだルクス、気にしなくいい。というのもだ、俺もまたついこの間冒険者になったばかりなんだ。実力もなければこれといった才能もない木偶の坊とは俺の事だ」
「…あんたってほんと身の程わきまえ過ぎて見てて悲しくなってくるわ…」
マルシャが口を挟んで言った。
「何を言うかマルシャ?これは紛れも無い事実だろうが?」
「ま、まぁ否定はしないけどさぁ~」
「こほん、とにかく俺たちは似た者同士、これからは冒険者として共に頑張ろうじゃないか?」
「は、はい!」
ルクスは途端に嬉しそうに微笑んだ。やばい、惚れてまう…
どこぞのクズ野郎が来るだろうかと思っていただけにこのギャップはヤバ過ぎる。出来ることなら土下座して頼み込んで仲間にしたいぐらいにはルクスが欲しい。もちろんそれは私情でしかない。
でもな!?俺だってまだまだ血気盛んな男の子!グングニルさえ手にさえしなけれゃどこにでも男子なんだよ?そこ理解してくれる?
「…ふぅ、落ち着け俺…激しく落ち着け…」
「ちょ、あんた大丈夫?」
「おう…心配するなマルシャ…俺は別に興奮してなどいない!神に誓ってだ!?」
「あ、そう…」
「よしルクス、話を戻そう。でだ、君が駆け出しの冒険者である事にまず問題はない。ないよなマルシャ!?」
「ええ、そこは別に構わないけど…」
と、マルシャが言いかけて、
「わかっている!つまりだマルシャ、お前はこう言いたいのだろう?出来れば魔法士が欲しいと、そうだろ?」
マルシャはコクリと頷く。そんなマルシャを見た次にルクスへと視線を移した。
「でだ、時にルクス…君は魔法の心得があったりするか?いやないにしてもだ、魔法だったら何だっていい!使えたらそれでいい!小さい火を指先にチョコッと灯せるとか1ミリぐらい浮かべるとかその程度でも全然構わない!」
「いや良くないでしょ!?それ最早魔法使う意味なくない!?」
「いいや!魔法か使えるということは、今後磨き方次第ではさらなる魔法の習得も可能ということ…違うかマルシャ!?」
「違いわないけど、けどけど~なんか違う気がする!?」
「気にすんな!お前はただ酒さえ飲んでればそれでいい!何なら今日は俺の奢りで結構だ!ほらジャンジャン飲め!」
「え、ほんとにぃ!?」
マルシャは途端に目を輝かせていた。
ふん、チョロいな…
ウキウキと酒の注文に行ったマルシャを横目に、俺はルクスへと向き直った。
「で、実際のところどうなんだルクス?」
「い、いや実は…」
「実は?」
「……私、魔法からっきしなんです…」
ルクスは小さく血縮こまっては言った。俺はそんなルクスの肩に手を置いて、
「うん、問題ない!」
「え?いいんですか?」
「もちろん!ただあいつ…マルシャにだけは黙っといてくれ」
「い、いやそれではマルシャ様に申し訳ない気が…マルシャ様は魔法士をお求めのようでしたし…」
「大丈夫。俺が許す」
「許すな馬鹿」
いつの間にやら酒を片手に戻ってきていたマルシャが口を挟んで言った。恐ろしい程にジットリした目で俺を見ている。
「お、おうマルシャ…早かったじゃないか…」
「てかあんた勝手に話進めないでくれる?このパーティの指揮者は私、マルシャ=クレーヌなんだからね?」
「まぁそうなんだけど!そうだけどさぁ!?」
「何よ?」
そして俺は今までにないマルシャの冷徹な瞳を見た。うん、怖い怖い…
「いや、ナンデモゴザイマセン…」
「ふん!じゃあこっから私が話を進めるから、あんたは大人しくしてること」
と、マルシャはキョトンとするルクスを見て、
「…でルクス、魔法は使えないと、そう言うわけね?」
「はい」
「そう…でも不思議ね、私、貴女からとてつもない魔力オーラを感じるんだけど、気の所為かしら?」
ん?
「え!?マルシャ様、私の魔力が分かるんですか!?」
「いやそんなハッキリとは分かんないけど、でも貴女の魔力は感じ取れるわ。それってのはつまり、貴女の中に内包してる魔力が強大過ぎて外に漏れ出しているからだと思うけど…違うかしら?」
「…はい、全くその通りです…私、自分ではよく理解してないんですけど…保有する魔力だけはすごいみたいなんですよね、はい…」
んん!?
「ちょちょちょっと待て!?待て待て待てい!?」
「何よバンキス?」
「い、いや何だそれ!?じゃあ何か?ルクスは魔法は使えないにしても魔力だけはメッチャ凄いってことか!?」
「だからそう言ったでしょ?バカなの?」
「うん、バカだけど?」
「…はぁ、素直さだけは立派ね」
マルシャは呆れたように呟いた。
「でだよ、それってどれぐらい凄いわけ?」
「馬鹿あんたにでも分かりやすく説明すると、バンキスの魔力が1だとして、ルクスは1000とか、そんなところね」
「…嘘だろ?」
「マジよマジ。因みにその例えで言うと私は50ぐらいだから…この意味、いくら馬鹿なあんたでも理解できるでしょ?」
「も、もちろんだ…」
何だが凄いことになってきたなぁおい…
「でもおかしいわね、それだけの魔力を保有してながら簡単な魔法ひとつも使えないわけ?」
頭にはてなマークを浮かべたマルシャがルクスに問いかけた。
ルクスは「はい…」と小さく呟くと、続けて、
「どうも魔法士としての才能は全くないらしく、簡単な魔法術式の理解すら出来ませんでした。こればっかりは才能だからどうしようもないと言われてまして…」
「成る程ね、だからそれ程の魔力を有していながら仲間の一人もいないと、そういうこと?」
「です…」
「ふーん、でも確かにそうね。魔力がいくらあったところで魔法が使えなきゃそれって宝の持ち腐れだし?見た感じ武器を持って戦えそうってわけでもないし?」
「ぐうの音も出ません…」
「おいおいマルシャ、何もそんな言い方しなくても…」
「いいやバンキス、これは事実なのよ?これから仲間となる者の事はよく理解しておかないといけないでしょうが?」
「……うんうん全くその通りだと思うが…って、え?」
今こいつ、なんて言った?
「お、おいマルシャ?」
「何よ?聞こえなかった?だったらもう一度言うわ。ルクス、もし良かったら私の仲間にならないかしら?」
と、突然に畏まった態度でマルシャ、ルクスに向けて頭を下げてそうお願いしていた。それを聞いたルクスとは鳩が豆鉄砲を食ったような表情を受けべていて、それは俺も同じである。
「い、いいのかよマルシャ!?」
「ええもちろん、あんたもルクスに仲間になってほしかったんでしょ?」
「もちろんだ!」
俺は即答していた。何故ならルクスとは俺をかっなーり癒してくれるマジ可愛いマスコット的キャラだし、それに加えまだまだ未熟で冒険者としては下の下のそれだ。確かに魔力はヤバイらしいが使えないとなればもしかしたら俺以下かもしれない、というのも俺は軽いにしてもショボい魔法ぐらいは使えるだ。まぁ風を軽く靡かせる程度の魔法だがな…
そんな俺でも使える魔法をこのルクスは使えない。つまりかなり使えないと、そういうことだ。
逸材、まさにルクスとは俺が求めた理想的すぎる存在、そして俺の癒し!
「いやぁマルシャ、見直したよ?お前にも人並み程の感情は持ち合わせていたんだなぁ…」
「はぁ!?あんた私をどれだけ薄情な奴と見てたわけ!?」
「うんと、それは秘密」
「なんでさ!?」
そんなやり取りをマルシャとしていた、刹那、ルクスの小さく小さく媚び泣く声が聞こえてきた。
「うっ…うっ…嬉しいよぉお…」
「お、おいルクス!?何も泣くこたぁないだろ?」
「いえ!私!本当に嬉しいんです!!だって…みんな私が魔法も戦闘もからっきしだと知るとすぐに追い返すし…お二人が初めてなんですよぉぉ、こんな私を拾ってくれたのぉおお…」
「そ、そうか…」
何だか不憫な奴だったんだなぁ…見てるこっちまで泣けてくるわ。
「分かった分かった、じゃあこれからは仲間としてよろしくなルクス!マルシャ、お前からも何か…って、えぇ!?」
俺は目を疑った。何故ならばだ、目に一杯の涙をためたマルシャが鼻水をだらだら垂らして泣いていたからである。
「ルクス…辛かったでしょう?もう心配しなくていいのよ…だって、今から私達は仲間、家族!!辛い事なんて何もないんだからね!?」
「マルシャ様ぁああああああああ!!」
「うんうん、よしよし」
「……あれ、えーと…」
何だこれ?
こうして、俺たちに新しい仲間が加わった。この時の事について、どうして俺はこうもおかしな現実を素直に受け止めていたのだろうかと、後にそう思う事になる。それを知る事になるのは次の日、次の日にも俺はルクスの知られざる真実を知って、重たいため息を吐くことになるのだった…
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