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第3章
第5話 この水を飲めば幸せになれるらしい
しおりを挟む「あんた、何それ?」
宿屋に戻ったすぐにもマルシャが尋ねてきた。まるで捨て猫を拾ってきた息子に対し呆れ顔を浮かべるような母親のような、そんな顔でだ。
だからどうしたって話だが、俺は嘘偽りなく答えることにした。
「水だが?」
「いや見れば分かるわよ!わたしがいいたいのはそういうことじゃなくて…何でそんな大量の水を持っているかについて聞いてるの!」
「ああ、そういうこと。貰ったんだよ」
「貰った?」
「そう、無料で差し上げるとのことだったからさ。無料だったら別に問題ないだろ?」
「いや問題はないけど…誰によ?」
「ゴッド信教」
「……は?」
と、マルシャはそう呟いたすぐ後にも、もう一度言えと催促してきた。故に俺とはゴッド信教と巡り合った経緯からこの大量の水ボトルを貰ったまでの一連の流れを簡略的には説明してやった。
と、次にマルシャの般若顔を見た。かなり怒っていた。
「あんた何やってんのよ!?そんな怪しい奴らから怪しい水を貰ってくるなんて全くどうかしてるんじゃないの!?大体よ、水つったって中がどうなっているのか怪し過ぎて飲めたもんじゃないっての!」
「いやな?これはゴッド様のありがたい水といって、ただ今ゴッド信教布教キャンペーンのスペシャル無料セットなんだ。聞いて驚くなよ?この段ボールには計24本の水ボトルが詰められているんだが、その水ボトル一本一本にはゴッド様の人知を超越した有難~い力が注がれいるんだ。さらにさらになんと、この水ボトルを毎日三本ずつ飲むとあら不思議、体の中に溜まった老廃物を綺麗サッパリ流してくれるし、朝の快眠も約束されている。それっていうのはな、」
「もういいから黙れ馬鹿」
一蹴された。ほんと正しい反応過ぎて救われている俺がいたのは嘘じゃない、ほんとさ。ただ同時にやり場のない苛立ちを覚えたのも確かだ。
「はぁ…マルシャよ、お前がそう言いたい気持ちは分かる。ただな!俺だって大変だったんだよ!?お前らが勝手に帰った後に訳のわからねぇ頭のイカれた連中に捕まってゴッド様がどう凄いのかというクッソどうでもいい内容を永遠と聞かされた挙句だ、中々返してくんないから強引に逃げようとしたら『せめてこの水だけでも!』と半ば無理矢理欲しくもないゴッド様の有難い水とやらを掴ませれてよ…少しは同情してくれてもいいだろうが!?」
「わ、悪かったわよ…確かにあんたを置いて行ったのはよくなかったわ」
「ほんとに分かってのかよ全く…危うく俺はゴッド信教第452信徒になる羽目になっていたんだからな?もしかしたらお前らにもゴッド様の有難い水を定期会員お買い得キャンペーンで売りつけていたかもしれないんだからな?な?な?な!?」
「しつこい!」
「にしてもゴッド信教ですか…まさかこの街にも広まっているだなんて驚きですね」
ルクスはベッドの上でゴロゴロと回転しながら言った。その仕草一切からは心底どんでもいいと言った様子がビンビンに伝わってきていた。
「お前も気をつけろよ?何でもゴッド信教は凄い勢いで拡大してるらしいからな」
「そうなんですか?でもなんか変ですよね、そのゴッド様が現れたのはつい一週間前のレッドドラゴンがシリウス街を襲撃時です。そんなゴッド様がいきなりどうして宗教団体などと、また何でレッドドラゴンを一撃で潰せる程の実力者が今まで姿を見せずにいたのかとか…」
「ルクス。お前の言いたいことは大体分かった。つまり、そのゴッド様とやらは偽物じゃないのかって、そう言いたいんだろ?」
「その通り!胡散臭さしかありませんよ!?」
ああ、何と言うことだ…ずっとただのお馬鹿さんだと思っていたルクスがここにきってやっと最もらしい発言しているではないか…
全く喜ばしいだなぁ、と、素直に感心したかったのにも関わらずだ、やはりと言って俺の知っているルクスとはルクスのまんまであるようだった。
その事実を突きつけるように、ルクスとはゴッド様の有難い水を物凄い勢いでは次々と飲み干していく。
「お、おい馬鹿!お前何やってんだ!?」
「何って、これは調査ですよ調査?もしもそのゴッド様が本物のゴッド様なのであればこの[ゴッド様の有難い水]の効能も其れ相応のものな筈ですよね?私もちゃんとした魔法覚えられる筈ですよね!?」
成る程な、つまり魔法士としてゴッド様の人知を超越したお力にあやかりたいと、もうね、アホかと、そう思うわけですよ。
「お前なぁ…そんな得体の知れない水飲んどいて後にどうなっても知らねーかんな?」
「それはあんまりですよバンキス様!?元はと言えばゴッド信教なる集団のリーダーと肉体関係を持ったバンキス様に全責任が、」
「おいおい待て待ておかしい何だよ肉体関係って!?」
「あれ、違いましたか?私はてっきりそのミミカという人物の色仕掛けにバンキス様がまんまと嵌ってしまったとそう思っていたのですが…」
「んなわけあるか!」
「痛ッ!何で打つんですか!?私おかしなこと言ってませんよね!?」
「本当にそう思ってんならもう一発チョップをお見舞いしてやろうか?」
「も、もういいですよ!バンキス様最低です!もうこの水だって全部私が飲みますからね!?後で寄越せって言っても知りませんからね!?」
「勝手にどうぞ」
「ふん!」
と、ヘソを曲げたルクスとは次のゴッド様の有難い水に手をつけていた。既に八本目である、この勢いでいけば明日にでもなくなっていることだろう。果たして明日にはどれ程の効能を得ているか期待しようじゃないか、期待してないけど。
さて、この可愛いお馬鹿さんはとりあえず置いといて、
「なぁマルシャ、ところでガイルの姿が見えないようだが…」
「ああ、ガイルなら魔鋼式霊術装を買い戻しに行くってさっき出ていったわよ?」
「まじかよ、あいつ金持ってない筈じゃあ…お前が金貸したとか?」
「はぁ?そんなお金私が持ってるわけないでしょ?」
うん、全くだ。聞いた俺が馬鹿だったよ。
「ルクスも金貸せるわけないしなぁ…じゃああいつ、どうしようってんだ…」
「さぁね、強盗でもするじゃない?」
「ご、強盗?」
「ええ、ほら、あの子あれでいてかなり強いじゃない?強盗ぐらい余裕でこなしちゃうでしょ?」
成る程な…
「あり得る」
「え?」
「マルシャ、俺はガイルの様子を確かめに行ってくるから、それじゃあ!」
「ちょ馬鹿待ちなさいよ!?冗談だってば!?強盗なんて幾ら何でもあの子がそんな真似、」
「馬鹿野郎!それを確かめる為に行くんだろうが!?仲間を信じたいが故にだ!」
「いやいやいや矛盾してるし!?信じたいなら待てばいいでしょうが!?」
「うるさい黙れ!これ以上厄介ごとに巻き込まれてたまるか!」
「本音はそっちかい!」
ええ、ええそうですとも。
せっかくもう少しでクエスト報酬の大金を手に出来るんだ。そんな手前また問題を作られてはたまったもんじゃない。
それにガイルはかなりの傷心中だ。そのまま感情を高ぶらせたガイルが街中の服を奪い去る可能性がないなんて誰が保証してくれる?いないだろ?結局はケツ持つのは俺なんだ。
「早まるなよガイル!!」
俺は足を急がせた。
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