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第3章
第4話 宗教は怪しいと相場で決まっている
しおりを挟む何とか、最高難易度を誇る赤紙のクエストは達成された。
ただその代償は凄まじく、街へと戻る俺たちの気力とは風前の灯火状態であった。
ギルドにて。
焦燥感と疲労感を垂れ流す俺とマルシャとルクスと、ただただ悲壮感を漂わせるボロボロのガイルを見た受付のお姉さんが唖然とした表情を見せていた。
「だ、大丈夫ですかぁ!?」
そんな最もらしい反応を浮かべるお姉さんに対し、俺たちは、
「「「「大丈夫に見えますか?」」」」
と、雁首揃えては尋ね返した。見事なハモリ具合だった。それ程に今現在の俺たちの心情とはシンクロしていた。死地を潜り抜けた仲間達を心を通いあわせた瞬間である…
うん、んなたぁクッソどうでもいい。
今すぐにでも宿に戻って死ぬように眠りたいという、ただその一心でしかなかった。それは皆も同様なようで、少女達の死んだ魚な瞳のような虚ろな瞳が何とも痛ましい。
「お姉さん、俺たち無事に帰還しました…死んでません、ちゃんと生きてます」
「は、はぁ…」
「クエストも無事遂行してきました」
そう言って、俺は袋に詰めたポイズンデスパリストの尻尾五本をカウンターの上にドサリと置いた。
赤紙の依頼書には件の魔物を討伐した暁には各魔物ごとに尻尾を採取し提出せよと記されていた。故に俺たちは手分けして尻尾を回収したと、
「その証拠がこのくっさいくっさい尻尾です。中を確認しますか?くさいですよ?めっちゃくさいですよ?」
「い、いえ結構です…後で担当者に確認していただきますので。報酬はその後になりますが…」
「分かりました…では、後日にでもまた報酬を受け取りに伺いますので…では皆、宿へ帰ろうか?」
「「「……」」」
返事はない。歩く屍とは彼女達にこそ相応しく、各々はよろよろと覚束ない足取りではギルドから出ていった。
さすが最高難易度クエストの赤紙と言ったところであろうか、今回ばかりは皆にクエスト達成は喜ぶ余裕はないみたいだ。そりゃそうだ、あんな泥仕合を繰り広げて於いて元気でいられるわけがない。そう言う俺とて彼女達と大差はないくらいには疲弊しきっているわけだ。
『こんな筈じゃなかった…』
後日にもそう言ってため息を吐くだろう彼女達の姿が容易には想像できた。俺は俺で彼女達の嘆きにウンウンと頷いて、「今後はクエスト選びも慎重になる必要があるな」とは同情心を押し出していることだろう。
「彼女達…ほんと大丈夫ですか?」
「さぁ…どうでしょう?あいつらあれでいてタフなんで、多分大丈夫でしょう」
「は、はぁ…それなら別に構いませんが。では最後に、クエスト達成お疲れ様でした」
「…ありがとうございます」
俺は困惑するお姉さんに力なくそう答えて、皆の後を追いその場を後にした。
とりあえず今は暖かいベッドの潜り微睡みには沈みたいと、ただそれだけを望む。
結論から述べよう、俺の望みは叶わなかった。何故なら俺の細やかなる望みを妨害するように現れた彼等によって行く手を阻まれたからである。
彼等とはーーギルドを出て直ぐにも俺の目の前に立ち塞がる異様な姿格好をした怪しい集団を指す。そんな見るからに怪しい集団とは皆一様には白いローブを身に纏い、フードを深く被っているせいかその表情は見えない。数にして10数人、それだけでただ事ではないと直感的に悟ったよ。
『ああ、また面倒事かよ…』
と、ダウナーなオーラを醸し出す俺。そんな俺に向かってだ、白ローブ集団の中に於いて唯一特徴的な首飾りをした集団のリーダーと思しき奴が前へと歩み出た。
そして、
「貴方がバンキス=トール様、ですか?」
とは疑問符を浮かべる。まるで鼻っから俺がバンキスである事を知っている風な口ぶりのそいつに対し、俺は、
「いえ、違います。それじゃあ」
人違いを装い逃げる決断を選んだ。その決断に何ら躊躇いはない。
「あ、そうですか…って、待って下さい!」
「はぁ、何ですか?」
「い、いえ…すみませんがもう一度仕切り直しても?」
「どうぞ?」
「で、では改めて…我々は最近何かと巷で噂になっている[ゴッド信教]の、」
「あ、そうですか。それじゃあ」
「ちょ待って!?最後まで話を聞いて下さいよ!?」
「いやだから何です?宗教の勧誘ですか?生憎ですが俺そういうの入信しない性分なのでごめんなさいではさようなら…」
「待って!だから待って!?お願い待って!?」
腕を掴まれた。かなりの力だ。それだけでこいつがどれだけ必死なのかが存分に理解できる。
うん、これはいかん。こいつは間違いなく面倒なタイプのそれ。絶対そうに違いないと俺の第六感と第七感と飛ばして第九感辺りがそれを告げている。故にだ、
「離せよ変態!嫌!皆さーん!この人痴漢です!誰か!?誰か助けて!?」
「違います!ちょ、やめてよ!そういうのほんとやめてよぉおお!!」
「だったら離せよ!?俺はクエスト帰りでマジ疲れてんだから!」
「それは分かりましたから!時間は取らせませんから!だからお話だけでもぉおお!!」
「全然分かってねぇじゃねぇか!!」
結局、俺は怪しい集団に捕まってしまった。何故俺だけがこんな目に合うんだとは神様に問いたい。
「でだ、何だよ一体?」
怪しい集団に連れられてやって来たのはとある喫茶店である。その喫茶店自体は別に何の変哲も無い普通の喫茶店ではあったが、そこに十数人もの怪しい集団が居ればそれだけで怪しい奴らのアジトか何かへと様変わりだ。
どことなく注がれる周囲の視線も痛いが、何より店主の「早く帰れよ」オーラが一番心に響いていた。
いやご主人聞いて下さい、俺は別にこいつらと縁もゆかりも有りませんからね?だからそんな目で見ないで!お願いだから怪しい奴らの仲間だと勘違いしないで下さいおなしゃす!
と、俺が店主に救いの目を注ぎ込んでいた時だ。
「いやね?我々は別に怪しい集団ではないと言うことだけは先に申しておきましょう!」
そう言ってウシシと無邪気そうな笑い声をあげたのはリーダーと思しき奴で、俺の真向かいに座っている。
そんなリーダーと思しき奴は次の瞬間にもフードを脱いでその素顔を見せた。何と、驚くべき事にそいつは女だった。しかも可愛い。歳は俺より少し上程に見える、黒髪ロングの純朴そうな少女である。
「ではまず自己紹介から、私はミミカ=カリトロス。ゴッド信教第17信徒であります。で、右端から順にこっちがゴッド信教第121信徒でそっちがゴッド信教第86信徒でそのまたあっちが、」
「あ、もう大丈夫っす」
どうでもいい。ゴッド信教が何か知らんがお前らの事なんか知りたくもない件について。
「そうですか…では、貴方は冒険者のバンキス=トール様で間違いはありませんよね?」
「だったら何だと?」
「まぁまぁ、そんな邪険にせずともよいではないですか?別にとって食おうってわけじゃないんですから」
「邪険にしたくもなる俺の気持ちも察して下さい」
俺はゴッド信徒を流し見てそう言ってやった。まごう事なき怪しい顔触れ、変質者のオンパレード。つまりだ、別に俺は間違ってないと思うの。
「貴方の気持ちは存分に理解しました。つまり、貴方は誤解をしていらっしゃると」
「ほほう、それはどんな誤解と?」
「バンキス様、貴方は我々を胡散臭いチンケな信教団体とは、そう思っていらっしゃいますでしょ?」
驚いた。全くその通りだったからである。
「自覚あるならもう返して下さいよ~」
「いいや待って、話はこれからなんですから!あと我々は怪しい信教団体ではないですからね?誤解ですからね?」
こほん、とミミカとやらは咳払いをして、
「では本題へ、まずバンキス様…貴方はゴッド信教がどういった団体からご存知ですか?」
「知らん。知りたくもない」
「即答ですが…いやいいんです、慣れっこですので」
悲しげな口調だった。
「いやいや、お前こんな事に慣れちゃダメだと思うぞ?」
「仕方ないじゃないですか…これも信徒としての務めなのですから」
だからその信徒とやらが問題なのだと激しくそう言いたい。
「で、そのゴッド信教さんが俺に何か御用でも?」
「そうなんです。バンキス様、この度は貴方にあるお願いがあってやってきたのです!」
と、途端に元気を取り戻したミミカが顔を顔を近づけてきた。鼻と鼻がぶつかりそうな勢い。しかも仄かに甘い良い香りが何とも俺を勇躍させるではないか。何か、色仕掛けかでもするつもりか?
「バンキス様、端的に申します。ゴッド信教に入信したくはありませんか?」
「ない」
「…ふむ、よろしい。では、体験入信という形でならどうでしょう?」
「うん、結構だ」
「成る程…成る程…ではでは、一度我々の活動の見学に…」
「だから却下!ここまで言ってまだ分からないのか!?全く興味がないそう言っている!お前なぁ、少し面が可愛いからって俺が引っかかるとでも思うなよ!?」
「か、可愛い!?」
ミミカは眉を顰めた。
「あ、いや…おっほん、要するにだ、どうあったって俺はそのゴッド信教とやらには入らない。大体あれだろ?ゴッド信教ってのはシリウス街に現れた『竜墜の投擲者』を奉る的なやつだろ?悪い事はいわん、お前らも直ぐに脱会しとけ。そんな奴この世にいるわけないから、」
と、俺が言いかけた、刹那、
「いますよ」
ニッコリとした満天スマイルでミミカは言った。断言したとも呼べる。
「は、はぁ?何故そう言い切れる?」
「だって、既にゴッド様は我々の元に舞い降りているからです」
「…え?」
いや待て、実際にいたとしてもゴッド様は俺だろ?
「冗談だろ?」
「ほんとですよ。ゴッド様は我々の元に姿を現してはその崇高なるご意思を示されています。故にこうして我々とは新たな信徒を集うべく活動に勤しんでいるのです。全てはゴッド様のご意思によるところ、いわば神の啓示というやつです、はい」
それが冗談か否かについて、多分ミミカとは本気でそう言っていた。少なくとも俺にはそんな風に見えていて、こいつが俺を騙そうとかそんなつもりはさらさらないということだけは理解できた。だからだ、俺は戸惑いを隠しきれないでいる。
冷や汗がこめかみを伝った。
「ゴッド様が…本当に、いる?」
俺ではない誰かがそれを演じているとでも言うのだろうかーーそれを知る事になる頃、その頃には既に俺はこの上ない厄介事に苛まれている最中であるとは、この時の俺はまだ知らずにいるのだった。
ただ、不幸の足音だけは何となくだが聞こえてきたような、そんな気はしていた。
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