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第3章
第6話 金で買えないものはないが、
しおりを挟むガイルを見つけた時、既に日は落ちた後だった。薄暗い街灯の明かりに照らされたガイルがポツンと一人寂しそうにはベンチへと腰掛けている。しかも服はまだボロボロのまま。側から見たらそれは幽霊や亡霊の類いに相違ない。
どうやら魔鋼式霊術装を買い戻す事は失敗したらしい。そりゃそうだ。
「おいガイル、こんなとこで何やってんだ?」
「バンキス殿…いや、ただ世の中の世知辛さに打ち拉がられていただけですぞい…」
「は、はぁ…かなり重症なご様子で何よりだよ…」
「私はただ自分の持ち物を取り返したいだけなのに…それに金が金が金がって…何なんですか人間は!?金金金金って、人情のカケラも持ち合わせていないのですかぁ!?」
「いや、それに関して言えば古着屋の主人が100パーセント正しいと思うぞ」
だって合意の元で売買は完結したわけだし、それを今更やっぱ返せだなんて一方的にも程があんだろうよ。
この魔族の娘にはそういった人間的常識が欠如しているのか、まぁどうやら強盗はしていないようだからその分まだマシだが…
「バ、バンキス殿まで…私は悲しい…悲しいぞい…」
「まぁまぁ、別にお前を責めているわけじゃない。ただな、お金っていうのは生きて行く中ではかなり大切なものなんだよ。お前がどういう生き方してきたかはしらんがな、少なくとも人間世界ではそうだ。だからその使い方も慎重にならなければならないと、つまりはそういうわけだ。どうだ、良い勉強になったろ?」
「…よく分からんぞい…」
ほうほう、ここまで説明して分からんとな?
「私は生まれてこの方、お金というものはあまり縁がなかった。というのも望めばお兄ちゃんが買ってくれたし、欲しいものはある程度城に置いてあったし…」
成る程な、お前とは腐っても魔王の妹という事実を再確認できたよ。
「なぜ、何でもかんでも金がいるのだろうか…欲しいものは欲しい、それをくれたらそれでいいではないか…」
うん、あのね、それ君のお兄ちゃんがやってきたことね?キングオブ暴君のことだからね?
「はぁ、結局、お金は人の心を汚くするだけの、悪しきものにしか思えぬぞい…」
「ガイル、それは違うぞ?金が人を汚くするんじゃない、金の扱い方を誤った人の心こそが金を悪しきものへと変えてしまうんだ」
そう、金はその絶対なる価値が約束されているが故に人の心を惑わせてしまう。この世は金さえあれば何でも許されるというやつだ。暮らす場所や欲しい物だって、更に言えば人だって買えちゃうんだからな。
「故にだガイルよ、金を憎むんじゃなくて、金の使い方を間違った自分を恥じろ。人情がどうだとか語るのはそれからでも遅くねぇからよ」
「…バンキス殿に説教されるなんて不思議な気分ぞい…」
「説教じゃねぇっての。これは言わば人間界の先輩である俺からのアドバイスってやつさ。分かったらほら、さっさと行くぞ?」
俺はガイルの手を引いて歩き出して、
「バンキス殿?そっちは宿へと反対方向ぞい?」
「ああ、いいんだよ。要はあんのはコッチだからな」
「?」
しばらく歩いて、俺たちは古着屋の前へとやってきていた。その頃にはすっかり夜になっていたが、どうやらまだ営業中との事だ。
なんだよ、こんな夜分遅くまで店を開けてるなんて案外人情的じゃんよ?
「バ、バンキス殿?これは一体?」
「まぁまぁ、とりあえずお前は店の外で待っとけ」
ここまでくれば流石のガイルも自ずと察してくれるだろう、と考えていた俺の認識はかなり甘かったらしい。
「バンキス殿!ご、強盗はよくないぞい!?」
「もういいからマジ黙れ」
古着屋での滞在時間としては数分程だった。というのもだ、店主が店を入って直ぐにもガイルの魔鋼式霊術装(服バージョン)を片手には待ち構えていたからである。
「来ると思ったよ…で、あんた、あの嬢ちゃんの兄貴かい?」
「あ、まぁそんな感じっスけど…もしかして、待っててくれた感じですか?」
店主は口をへの字に無言で頷いた。
「はぁ、全く困るんだよねこういうの。こっちだって商売でやってんだからさぁ?売った後でやっぱタダで返してくれだなんて言われてもさぁ…しかもだよ?こっちは何も間違ったこと言ってないのにあんな悲しい顔されちゃあ後味悪いってもんだよ?」
「あ、はい。ほんとマジすんません。あいつには俺からよく言っておきますんで…」
と、俺は有り金の全てを差し出した。これで正真正銘の無一文になったと、
「いいよ。その半分にまけといてやる」
「え、いや、結構っス。何か悪いし…」
「いいって。ただな、2度目はないからな?いいな?」
店主は歯を見せて笑った。神か、これが神というやつなのか?
結局のところ、人を判断できるのは実際に関わった後にしか分からない。今回はそういった意味では良い勉強なったと思うんだ。俺も今後は人を極力見た目で判断しないようとは、心の奥の片隅の方ぐらいには置いておくことにしよう。
古着屋からの帰り道。
「あっはっはっは、ガイルよ。これがお金の清く正しい使い道だと言うやつだ。よく覚えておけよ?」
「バ、バンキス殿ぉ…有り難や…有り難やぁぁ…」
「…今度は平気で売ったりするじゃねーぞ?というのだ、最早その魔鋼式霊術装とはお前だけのものじゃねぇ。俺がガイルに送った、言わばプレゼントというやつなんだからよ?」
「うっ…うっ…なんと…バンキス殿…私は一生、貴殿についていきますぞい!むしろ、私のお兄ちゃんに、」
「断る」
「ぞーーーーーい!!!!」
まぁとにかく一件落着ということで、今夜はやたらと冷える。
手を繋いだガイルの温もりが、少しだけ心地よく感じたのは俺の勘違いだろう。
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