能ある冒険者は、その内に秘めたる魔槍”グングニル”を隠す -北欧神話伝来の魔槍グングニルを与えられた俺という最強の存在の苦難の旅路-

泥水すする

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第4章

第1話 絶対絶命の警鐘が鳴り響く時、時既に遅し

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「何だよ、あいつら…」

 俺は不気味に蠢くそいつらを見て、自然と驚嘆句を漏らしていた。

 そいつらとはドロドロとした赤黒い泥の形をした生き物のようで、また無生物のようで、要するに奴等こそが古種の魔物という奴なのだろう。確かに見た目して普段見るような魔物達とは全然異質なものに映る。

 姿形はスライムという水質系の魔物に似ているが、似て非なるものだとは一目で理解できていた。ただヤバイ奴が近付いて来ているとだけは俺の全神経が告げている。

 ガイルとサンちゃんの忠告を聞いた手前、そのヤバさは更に誇張されきっている。仮に倒せるにしてもだ、ここは彼らの忠告を素直に聞いておくことがベストだろうと踵を翻して、

 抗戦意欲満々のマルシャを見た。

「ふっふっふ、やっと冒険らしくなってきたじゃない…」

 やる気だ。こいつ、マジであんな得体の知れない奴等とやり合う気だ。

「マ、マルシャ!?待てよ?お前まさかあんなんのとマジでやり合う気か!?やめとけ!ありゃヤバイって!?」

「何よバンキス、あんなのただの魔物でしょ?」

「ただの魔物だと?お前本気で言ってるのか!?」

 そう言って驚いて見せている俺とて、実際そいつらを見るまでは半信半疑ではあった。

『俺たちが倒せない魔物?ないないそんなの』

 と、そんな風にな。だがしかし、今ではその考えすら遠き彼方へと追いやっている。これはいわゆる勘というやつだ。理屈じゃない。勝てる勝てないとかの問題ではなく、そもそも関わっちゃいけないんだと、そう思っている俺がいる。

「悪い事はいわん。一度引き返して別ルートを探ろう」

 それは提案だ。別に逃げようってわけじゃない。言って、戦略的撤退だとは、そう言っている。なのに、

「嫌よ。面倒くさい」

 マルシャは来た道を流し見て、うんざりとした口調では呟いた。

「わざわざ戻るよりも、あいつらまとめてぶっ倒して先に進む方が早いでしょ?」

「や、やめとけって…」

「そういう根拠は何よ?あんたさっきから何ビビってんの?」

「い、いやこれには色々と理由が…」

「はぁ、分かったわ。あんたが戦いたくないってんなら後ろに下がってなさい。ここは私1人で十分よ!」

 と、1人突っ込んでいくマルシャを止めようにも既に遅かった。マルシャは瞬時に古種の魔物達へとは駆け走っていって、俺の脇元をするりと抜けてマルシャへと続いていくのはガイルだ。

「援護に入るぞい!バンキス殿、やはりあいつらはヤバイ!」

「だからそう言ってんだろ!ガイル、マルシャを引き戻せるか!?」

「やってみるぞい!」

 ああ、大変なことになってきた…

「バンキス様!サンちゃんが酷く警戒しています!『逃げろ』って、どういうことですか!?」

 後ろから近付いてきたルクスか怯えた瞳を浮かべる。無理もない、俺だってかなりこえーよ…ビビってんよ…

「よくわからんが、あの魔物は普通のやつとは訳が違うらしい。ルクス、いいからお前は後ろにいろ。いいな?」

 俺はルクスにそう告げて、マルシャとガイルの後へと続いた。正直俺が行ったところでどうにもならないとは思うが、このまま悠長に見てもいられない。

 と、次の瞬間。

「きゃああああああああ」

 それはマルシャの悲鳴。見ると、マルシャの剣が古種の魔物にズイズイとは引き込まれていくではないか。なんてこった。

「マルシャ!今すぐ剣から手を離せ!お前まで飲み込まれるぞ!?」

「い、嫌よ!だって、だってだって!これはあんたに折半してもらってまで買った剣だし、結構お気に入りだし!」

「馬鹿野郎!んなこたぁ今どうでもいい!」

「嫌!離さない!」

 もうこうなってしまったマルシャに何を言っても無駄だ。そんな事はこいつと旅をしてきた俺が一番よく理解している。だから、

「ガイル!頼む!マルシャを、」

「合点承知の助ぞい!」

 ガイルがマルシャの体を掴む。そのままマルシャを連れて後退、

 うん、それでいい。

「嫌ぁああああ!私の剣がぁ!私のなけなしの貯金を切り崩して買った私の剣がぁあ!!」

「何を言っている!?ほぼほぼ俺の金で買ったようなもんだろうが!?」

 マルシャを抱いたガイルが俺の隣へと戻ってきた。

「バンキス殿、やはり撤退した方がいいみたいぞい!」

「ああ、全くだ」

 と、俺は再び古種の魔物を見て、唖然とした。

 おいおい、あいつら何か早くなってねーか!?

 先ほどのノロノロとした進行スピードとはうってかわり、古種の魔物達が猛スピードで俺たちへと進んできていた。一体全体あの体のどこにそんな機能が備わっているか小一時間程議論したいね。

「ガイル…こうなってしまったらもう手遅れだ。お前達は一旦ここから出ろ」

「バ、バンキス殿はどうするおつもりで!?」

「決まってんだろ?あいつらを足止めしておく」

「ひ、1人では無理ぞい!?なら私も、」

「いいや駄目だ。お前はそのお馬鹿さんと、」

 指先して、未だ取り乱すマルシャを見て、

「離して離して!戦うの!私まだまだやれるの!」

 そんな戯言を耳にする。駄目だこりゃあ…

「それと、ルクスを頼む。お前しか出来ないんだ…分かってくれ」

「バ、バンキス殿…ぐっ、了解ぞい!」

 ああ、どうしてこうなった。

 去りゆく3人の少女達を背に、俺はそんなことを思っていた。こんな筈じゃなかったのに、俺はただただ冒険スローライフを送りたかっただけなのにと、そうも溜息を吐いては思ったね。

 背後から少女達の声が響いてきた。

「バンキス殿!直ぐに戻る!無茶するでないぞい!?」

「バンキス様…御武運を!」

「いやぁあああ私の剣がぁあ!伝説の勇者の末裔としての誇りがぁああああ!!」

 そんな少女達の声とは次第に遠ざかっていって、俺は真ん前にまで迫ってきていた古種の魔物達と対峙した。手に魔槍グングニル、俺の持つ最高火力を構える。

「さぁ来い化け物…遠慮はしねーぜ!」

 刹那、俺の雄叫びと同タイミングで、古種の魔物がグニャリと形態変化させては飛び掛かってきた。俺は瞬時に背後へと下がる。回避成功。そして、

「くらいやがれぇええ!!」

 グングニルを、勢い任せには古種の魔物達へ向け投擲した。

 抜かりはなかった。あったとして、それは不安要素他ならない。その不安要素とはつまりだ、

『果たしてこいつらに俺のグングニルにが通用するのか?』

 それだけだ。地上の生物なら容易に駆逐できる天下無双の槍とて、相手がよく分からんのであれば話は別だ。話別として、そもそも生きた生物なのかすら定かではない相手に通用するのか理解に乏しい。

 その後どうなったかについてでさえ、俺は理解することはなく…絶命絶命の警鐘は鳴り響く。

 最後に見た光景はグングニルが古種の魔物をすり抜けていく様であり、要するにそういうことだ。

 俺は古種の魔物に取り込まれ、気を失った。

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