能ある冒険者は、その内に秘めたる魔槍”グングニル”を隠す -北欧神話伝来の魔槍グングニルを与えられた俺という最強の存在の苦難の旅路-

泥水すする

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第4章

第8話 それぞれの選択… side マルシャ

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「なぁ姉御ぉ、聞いたか?何でもこの地に向け魔王軍が侵攻を開始したらしいぜぇ?」

 商人から奪った肉に舌鼓をうっている最中の事だった。いきなりゼルバがそんな事を言い出したのだ。

「何にぃい!?魔王軍だとぉ!?どうしてだぁあああ!?」

「あ、姉御ぉ!?どうした急にぃ!?」

「ゼルバぁ!?いいから言え!?知ってる事を全て吐け!殺されてぇのかぁああ!?」

「ひ、ひぃいい!?すいやせん姉御ぉお!!」

 と、次にもゼルバは街で聞いたという話を語り出した。それはゴッド信教の教祖ゴッド様がレッドドラゴンを葬った事実に感化された魔王軍が、大量の軍隊を率いて侵攻を開始したという、そんな話だった。

「魔王軍めぇえ、あいつら私らの島を荒そうって魂胆かぁ…舐めた真似してくれんじゃねーか…」

「で、でも姉御ぉお?この山にまで侵攻してくるかはわかんねぇぜ!?」

「あぁあああ!?ゼルバぁああ!!てめぇ…ふざけた事言ってんじゃねぇええええ!!!」

 と、私はゼルバを思いっきりぶん殴っていた。

「ぐはぁああああああああ!!姉御ぉおの拳はやはり世界一ぃいい!!!」

「「「「ゼ、ゼルバ兄ぃい!?」」」」

 山賊A、B、C、Dの驚愕に満ちた声が重なる。

「あのなぁあああゼルバぁあああ!!んな当たり前の事言ってじゃねぇぞオラァあ!?私は別に魔王軍の侵攻を止めようとか、そんなん一切思ってねぇしぃ!?そこんとこ理解してけぇえ!!ヒィーハァー!!!」

 そう、私は最早魔王がどうだとか知った事ではない。誰が死に、どうなろうが勝手。私はただ、この山での生活と、愛すべき兄弟達の生活が守れればそれだけで充分なのだ。

 かつての冒険者としてのマルシャ=クレーヌは、もう死んだのだ。

「あ、姉御ぉおが御怒りでいらっしゃる…」
「や、やべぇよやべぇよ…」
「ぶははははははは!!流石ぁ姉御ぉお!!流石俺たちの頭だぁああ!」
「一生ついていきますぜ姉さん!!」

 と、そんな愛すべき兄弟達の暑い信頼を得た私に、怖いものなんて何もない。後悔や未練もまた、何もない。あるのはただ…

「ぶははははははははは!!さぁ兄弟!!宴の再開だぁああああ!!!」

「「「「「姉御ぉお!!!!」」」」」

 ただ、よく分からない使命感が、あるだけだ。この使命感は何だろうか?考えたくはない。

 忘れたい。





 次の日、

「姉御ぉお!!大変だぁあああ!!魔王軍がマジで来やがったぁあああ!!」

 そんなゼルバの叫び声で起こされた。早朝から目覚めの悪い朝だ。昨晩は浴びるほどの酒を飲んだせいか頭も痛い。いわゆる、二日酔いというやつだ。

 重い頭を起こして、とりあえずゼルバをぶん殴る。そして山から見える下の大地を見ては、目を丸くさせてしまっていた。

「ま、まじかー…めっちゃいんじゃん…」

 数にして万単位、数万単位の魔物達が地平線彼方一杯を埋め尽くしていた。

「へへへ、姉御ぉお!こっから下の奴らが魔物に蹂躙される様がよく見えるぜぇえ!?」
「特等席ぃい!!特等席ぃい!!」
「たまんねぇぜ!おい酒を用意しろぉお!!」
「2日連チャンの宴だぁあああ!!」

 相変わらずの山賊達。彼らからすれば自分達をこの山へと追いやった下の人間達がどうなろうが関係ないのだろう。いや、むしろ楽しそうにはしている。とんだ下衆野郎達だ。ただ言って、今では私もそんな下衆野郎達の頭。ヘッドだ馬鹿野郎!つまりだ、この中で一番の悪だって…そこんとこよろしくぅうう!?

「よし兄弟ぃい!!まだまだ飲みたんねぇだろぉおお!!」

 と、兄弟達に叫びかけた、

 その時だった。

「待ってくれぇ姉御ぉおお!!!」

 私に殴られほっぺたを赤く腫らしたゼルバが、物凄い形相を露わにしてはそう叫んだ。

「おい何だぁああ?ゼルバぁあああ!?」

「いや、いやな姉御ぉお…俺、分かるんだよぉお…」

「はぁあああ!?何がだぁ!?」

「姉御ぉお…本当の事を言ってくれぇえ!!姉御ぉおは本当は…あの魔物達と戦いって、そう思ってんだろぉおおお!?」

「…え?」

 予想外なセリフを聞いた。
 山賊達もどうやら私と同じ事を思っていたようで、

「ゼ、ゼルバの兄ぃ!?なななな、何言ってんだよぉ!?」
「そうだぁぜぇ兄ぃ!?姉御ぉおがそんな事思ってるわけねぇだろぉ!?」
「ヒィーハァー!!!違いねぇ!!」
「姉御ぉおは筋金入りの悪!!んなわけ、」

 と、各々が口々には言って、

「バッきゃろぅう!!!??てめぇらぁあ…姉御ぉおの事何も分かっちゃいねぇえなぁあああ!?」
 
 ゼルバは私へと視線移した。その瞳に涙を浮かべて。

「俺には分かるんだぁああ…姉御ぉおは…姉御ぉおは…」

「「「「ゴクリ……」」」」

 山賊達が一斉に唾を飲んだ。そして、

「姉御ぉおはなぁああ!?多分…いや絶対!!!俺たちを魔物の軍勢から守ろうぉおおおと考えてるんだよなぁあああああ!?」

「「「「な、何だってぇええ!?」」」」

 などという、見解に至ったゼルバと鵜呑みにする山賊達だった。

「姉御ぉお!?まじかよぉお!!」
「でもそうだよなぁああ!?あんな軍勢だ…この山に侵攻してきたって何ら不思議じゃねぇえ!?」
「ということは…つまり?」
「そんな俺たちをぉおお!?姉さんは守ろうぉおって、そう言うのかぁああああ!?」
 
 山賊達は目に一杯の涙を溜めて私へと駆け寄ってきていた。その中に於いてゼルバは「分かってるから、もう何も言わなくていい!」とは言いたげな瞳を向けてくる。

「姉御ぉお!!こんな時の為に姉御ぉおの装備はちゃああああんと整備済みだぁああ!!剣はないが…でも、俺たちにはコレがある!!!」

 とはゼルバ、一本の丸太を私に手渡した。それは狩りの時に使う、太々しい丸太をである。

「丸太を手にしたぁああ姉御ぉおおは世界一ぃいいい!!!そうだろぉおお!?皆んなぁあああ!?」

「「「「ヒィーハァーッ!!!」」」」

 そういう次第で、私は魔王軍と戦うことになった。

 初めはどうしてこうなるんだと己が現実を否定したがっていたが、今ではそれはなかった。

 どうしてかは分からない。ただ言って、これこそが私の心に突き刺さっていた『得体の知れない使命感』だとは、そんな事に気付かされていた。

 結局、私はどこまでいっても伝説の勇者の血筋を忘れられなかったみたいだ。冒険者としての輝かしい日々も、仲間達とかけ抜いた戦場の数々も、今では昨日の事のようには思い出せる。

 そう、私はかつて、冒険者だった。魔王討伐を悲願にする、誉れ高き冒険者様だったのだ。

 そもそも私がこうして生きているのは、かの男が命を呈してくれたおかげ。私はようやく、その事を思い出すことができた。

 あの日あの時の勇敢なる冒険者バンキスの背を、脳裏に焼き付けて…

 私は再び、冒険者としての一歩を踏み出した。丸太を手に!!

「てめぇえええらぁあああああ!!ちょっくら魔物を蹂躙しとくるぜぇええ!!!ヒィーハァーぁあああ!!!」

「「「「「ヒィーハァーぁッ!!!」」」」」

 私の冒険が、今、動き出す!!

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