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第5章
第4話 どうしても生きたいと、心からそう思った。
しおりを挟む最悪な展開とはこの事だろう。
まさか俺のグングニルの受けておいて尚死なずにいる奴が存在がいるとは信じられなかった。
でもこれは夢なんかじゃない、現実だ。
「クククク…人間…油断したな?」
そんなセリフを吐いて、余裕そうにはしているガイストを見ては素直に現実を受け入れるしかなかった。
視界を覆った血を拭う。どうやら頭を思いっきりぶん殴られたらしい。脳天からダラダラと血が溢れ出してきているのはその為だろう。
「苦しいか、人間?」
「ああ、とびっきりな。できればこのままご退場願いたいのだが、いかがだろうか?」
「いいが、その時は貴様の命がないと思え」
「ですよねー」
「時に人間…我の一撃を受けて尚生きている人間が貴様が初である。故に問おう…さては貴様、普通の人間ではないな?」
「…はは、いいや、普通の人間だぞ?」
肉体は普通の人間と変わらない俺には厳しい一撃、ただそれでも生きていたのは、ガイストが攻撃を仕掛けてきた一瞬の間にもグングニルを形状変化させ、肉体の表面には不可視化した魔力防御壁を展開させたからだ。
ただこれは俺の意思によるところではない。グングニルが勝手には判断し、勝手には槍としての形状を捨てたからに過ぎない。
まさかこんなことまで出来るなんて知らなんだ。しかも自動的にとはどんだけ万能な神器な事か…
要するにこれはやはり俺は神に愛されていたからという何よりの証拠他ならないのではないか?
「とは言っても、急過ぎてダメージの全ては抑えきれなかったようだが…」
「何をブツブツと言っている、人間ッ!?」
「いやいや、こっちの話。さて、どうしたもんかね…」
傷は深い。今この瞬間にも頭の傷口から血が吹き出してきている。しかも頭グッラグラというバッドステータス三割増しだ。
そんな定まらない視界の中で俺はこの魔剣豪ガイスト=バスタードと戦わなければならないと、なんて可哀想な俺。
更に残念なお知らせ。ガイストとは先程の姿形を捨てており、言うなればそれは第二形態というやつであろうか?
「って、なんか小さくね?」
と、すっかり俺と同じ背丈にまで縮小したガイコツ鎧姿の魔剣豪ガイスト君に尋ねてみる。
「ぶはははははッ!第二形態とはそういうものッ!これは溢れんばかりの力を凝縮した姿…第二形態とはいつの世もそんなものだッ!」
ということらしい。
いやはや、第二形態も奥が深いな…なんて、そんな事悠長に考える余裕もないか。
「…クククク…始めるぞ人間…」
なんてすっかりやる気を露わにしているガイストを前には、最早逃げ場などどこにもない。
そう、ないのだ。あるのはただ生きるか死ぬかという、そんな究極の選択でしかない。殺るか殺られるかとも呼べる。
そして、
「魔剣豪ガイスト=バスタード…参るッ!」
ガイストが猛スピードでは急接近してきていた。
速いーーー
「ッくそ、」
視界が揺らぐ。足元が覚束ない。ただそれでも、ここで動かなければ俺は死ぬ。
死んだら全てが終わる。知ってるさ、そんなことは誰に言われずとも俺がよく知っている。何せ俺の住んでた村はそうやって滅んでいったのだからな。
それは弱肉強食というこの世界の単純明快過ぎるルールだ。いつの世も弱者とは強者の無慈悲なる暴力を前に為す術なく駆逐されてきたのだ。
ただ俺とはそんな駆逐と淘汰の連鎖の狭間に於いて頂上なる力を得た唯一の人類だと言えよう。俺からすれば弱者も強者も関係ない。俺の一存とは神の選択と言っても過言ではないのだから…と、ずっと、そう思ってきた。
それなのに、何だこれ?
「はぁ、はぁ…」
息が荒く、呼吸が酷く不安定だ。
今の俺とはガイストの猛攻な斬撃を前にただ逃げ惑う事しか出来ない。狩る立場から狩られる立場へと変わった瞬間にもこの有様だ。
どうすればいい?どうすれば俺は生き残れる?
生き残れる道を模索しろと俺の全神経が告げている。どうにかしてグングニルを投じれる一瞬の隙を見つけよと脳が俺に命令している。
「ぶははははははッ!先程の威勢はどうした人間ッ!?」
ガイストの斬撃が更に鋭さを増して俺を殺そうとしていた。俺はその斬撃を避ける事で精一杯で、不可視化には身に纏ったグングニル魔力オーラ状態を解除することができない。
これを解除してしまえば俺は元の普通の人間とは戻ってしまう。要は
今はただグングニルの恩恵である超反射で斬撃を交わしきっているだけなのだ。
攻勢に回るにはグングニルを槍へと形態変化させる必要がある。が、それを絶対にガイストは許してくれないだろう。
んなもん見てりゃあ分かる、こいつは俺を殺したくてウズウズしている根っからの戦闘狂だ。
さっきは変身の美学がどうだとか抜かして於いて何だよいきなり…聞いてねーぞこんなの!?
どうする、俺?
「どうしたッ!?逃げてばかりでは我には勝てんぞッ!?」
全くだ。
「諦めたのなら潔く我の剣の前に沈めッ!我の第二形態を引き出したその褒美として、一撃では殺してやるぞッ!?」
へぇ、そりゃあいい。
死ねばこんなにも苦しむ必要ないだろうし、もしかしたら本物の神様とやらがいる6次元の世界には行けるかもしれないし?
つまり俺は本当の神となれる!神となって世界の様子を高みから見物できるのだ!
遥か異次元の高みから「ああ、またマルシャがまた馬鹿やってるよ」とか、「おいおいルクス、お前の美的感覚はいつまでたって治んねーな」とか、「ガイル、お前また兄貴と喧嘩して家出か?」なんて嘲笑ってみたりしてな?
ははは、何だそれ?マジ楽しくなさそう。
それならまだこの世界にいた方がマジだ。それならまだ彼女たちと波乱万丈な日々を繰り返して、倒したくもない魔王を退治するべく冒険者としての旅を続けた方が何百倍もマシだと、そう思うよ。
だから、
「まだこんなとこじゃ…死ねるか…」
生きろ、俺。
「まだまだやり残した事、たくさんあるんだ…」
マジで頼む、死んでくれるな俺。
「別に冒険者のままでいいから…マルシャとルクスとガイルと、そんなウザくて愉快な仲間たちと一緒でいいから…いや、一緒がいいから…だから…」
頼むよ。頼むから…俺を殺さないでくれ。俺も俺として、この世界の底辺冒険者にさせてくれ…
それ以外は何もいらない。本当だ。嘘じゃない。神に誓ったっていい。針千本飲んだっていい。何ならグングニルもいらないから。神の力なんて俺の身に余るもん返すからさ、だから、頼むよ神様…
それでも、駄目なのか?
「これで終いだぁあッ!死ね、人間ッ!」
ガイストのそんな雄叫びと、その次の瞬間にも洗練され尽くした斬撃を見た。それは頭上から俺を真っ二つにせんと迫り来るガイスト渾身の一撃、
敵ながら天晴れ、そう思える程には大した一撃だった。避けきれない。また、その一撃を受けて尚生きている未来なんて想像すらつかない。
終わった、そう思うしかなかった。言っちゃあ諦めきっていたんだ。
だから目を瞑っていた。死ぬのが怖かったんだよ。怖くて怖くて仕方なくて、無様にも敗北を受け入れたんだよ。
惨め?
ああ全くその通りだよ。俺は惨めで情けなくて結局は一人じゃ何も出来ないどうしようもなく愚かで無様な無能冒険者の極みだよ。
そうだ、俺は弱い。神なんかじゃなかった。神を名乗るにはまだまだ尻が青かった。今更気付いたってもう遅いけど。
さよなら、俺。さよなら、世界。
さよなら、愛すべき馬鹿ども…
俺は死ぬよ。
「………」
そうして、俺は死んだのだ。
おわり。
「………」
そうして…俺は死んだのだ…
おわり?
「………」
あれ?
「………」
もう死んだのか?
「………」
わっかんね…目を瞑ったまんまだったからどうなったかホント分かんない!でも痛みはなかったし…生きてる?いやないない、多分痛みを感じる事すらなく死んだんだ。うん、絶対にそう。
「………」
で、でもなんか生きているような気が…目を、開けてみるか?
「………」
無理無理無理ッ!怖い!目を開けてマジ死んでたら一生トラウマもんだぞっ!?いや一生もクソもないだろうが、それにしたって怖いもんは怖い!嫌!俺そういうの苦手なの!
「………」
でも…一瞬だけチラッと目を開けるぐらいなら…
と、事の顛末の結果を知りたい俺がいた。そんな時だった。
「バンキス!あんた何ボサッとしてんのよ!?死にたいの!?」
何故か、マルシャのそんな声を聞いた。幻聴かと思い、とりあえずダンマリを決め込む事にした。
「バンキス様!死にたくなければ目を開けてこのパワーストーンを買って下さい!今ならお安くしときますんで!?」
と、何故かルクスのそんな意味不明な言葉までも聞いてしまって、いよいよ俺は死んで夢の世界にやってきたのではないかと、そう思ってしまっていた。
「バンキス殿!?やはり私の歌声が天に届いたんだな!?そんなんだなっ!?ぞい!」
いよいよ訳分からなくなっていた。いやガイルの歌声とか届いてねーし!てかお前かなり音痴だって俺知ってるし、って
…え?
「お前ら…どうして…」
俺はゆっくりと目を開けた目線先で、三人の少女達を見たーーーマルシャとルクスとガイルと、そんな俺の仲間たちを。
どうやら彼女たちとは俺をガイストの渾身一撃から救ってくれたらしい。ガイルがガイストの一撃を剣で受け止め、マルシャが隙の生まれたガイストを丸太でブン殴り遠ざけ、でルクスが俺にパワーストーンを売りつけようとしていると、そんな感じ?
これは夢か!?
なんて、思った手前、その事を否定するようには俺を殺そうとしていたガイストの驚愕そうな声を聞いて、
「な、何ぃいいッ!?まだ意識があった…だとッ!?」
と、めっちゃ戸惑っていた。うん、俺もお前とおんなじ気持ちだよ?まさかお前なんかの気持ちを理解できるなんて俺びっくりだよ。
どうやら夢ではないらしい。
「バンキス!あんた今までどこいってたの!?生きてるなら生きてるってそう言いなさいよ!?てっきり死んだもんだと思ってたんですけど!?山賊になっちゃったんですけど!?どうしてくれんのよ!!」
マルシャが俺の胸ぐらに掴みかかってきた。マジ苦しい…
「いやいや生きてる報告出来ない状態だった件について!?それに山賊はお前が勝手に選んだ道だろうが!?俺関係ないし!?」
「五月蝿い馬鹿黙れ!!」
と、マルシャは俺をポカポカと殴っては何故か泣いていた。
「バンキス様!これも全て私のパワーストーンのお陰なんですからね!?」
次に目に一杯の涙を溜めたルクスがそう言って、
「いや違うぞルクス殿!?全ては私の歌声が天に召されたバンキス殿の不浄な魂を呼び戻したんだぞい!?」
なんて、二人同様には泣いていた。
いやはや、これどういう展開!?俺もう頭大パニックだよ!?
「勝手に盛り上がるなぁあああッ!我との決戦はまだ終わってないッ!」
そんな雄叫びを上げたガイストとは、かなり怒っていた。うん、やっぱりカルシウムが足りてないらしい。
だったら、奴から魂を消し去り、ただのガイコツにしてやるべき。本当のカルシウムに、骨だけにしてあげるべき…違うか?
「お前ら、とにかく話は後だ。今は奴を…あのガイコツ野郎をカルシウムの塊に戻してやろうぜ!!」
「ふん、あんたに言われなくてわかってるての!」
「バンキス様!ではそのカルシウムの塊は私が貰っても!?」
「ガイスト…あのバカ兄貴に代わり私の恨み辛みを受けてもらう、ぞいッ!!」
共通認識は固まった。魔剣豪ガイスト=バスタードの駆逐という、満場一致の共通認識がな!
「さぁガイスト…お返しさせてもらうぜぇえ…」
俺は、まだまだこんなとこじゃ死なねぇ!!
と、とりあえず俺の冒険の話は一旦終了する。
この後どうなったかは神のみぞ知るとは、それだけは伝えておこうか。
【おわり】
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