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第三章 BL小説の存在、世に知られる
059 公爵令嬢に、不穏の種が播かれる
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メリーローズが高等学院に入学して、一年が経った。
学生生活のかたわら、相変わらずBL小説を執筆する生活を続けている。
メリーローズの作品は、今も多くの読者に支持され人気を博しているが、ライバルとなる「アル攻」シリーズもまた売り上げを伸ばし、今やモリスン書房の二大人気シリーズとなっていた。
そんなとき、とんでもない事件が起こる。
コリーンという女子学生の父親である、ハーバート子爵が高等学院に乗り込んできた。
彼はその手に一冊の本を抱えている。
タイトルは「ローザリウム王国物語」。
メリーローズが執筆した、人気シリーズであった。
「ご覧ください、この破廉恥な本を!」
子爵は、アポイントすら通さず学長室に入ると、学長のデスクに本を投げるように置いた。
「子爵、落ち着いてください。この本は何ですか?」
「私の娘が、我が家に持ち込んだのです。……ああ、とにかく、内容をご覧ください」
子爵の勢いに呑まれるように、学長は本を手に取ってパラパラとページをめくる。
ちゃんと内容を読んではいないが、ざっと見るにアルバートという名前の主人公の物語のようだ。
しかし、ふとページのとある場面が目に留まり、ギョッとする。
その主人公が、こともあろうに男性と口付けを交わしているのだ。
「な、なな、何だと……?」
更にページをめくると、口付けどころではなく、ベッドを共にする描写まであるではないか!
学長は慌てて本を投げると、大精霊に祈りを捧げた。
「大精霊様! このようなおぞましいものを読んでしまった私を、お許しくださいませ」
「学長の罪は、私が背負いましょう。私がこんなものを持ち込み、読むように申し上げたのですから」
ハーバート子爵は神妙な面持ちで呟く。
「子爵殿、こんな本を、どうしたのですか?」
「恥ずかしながら、娘が家で読んでおりました。何でも学友から借りたのだと申しておりまして」
「…………何と!」
学長は、いかにも自分の手で触れたくないという風に、持っているペンで本を指し示しながら、眉根を寄せた。
「子爵殿のご息女を含め、最低二人は、このようないかがわしい本を読んだ者がいる、というわけですな?」
「左様です。あるいは、もっといるかも知れません」
「おお……!」
学長は、些かオーバーな仕草で頭を抱えた。
が、すぐにデスクの上のベルを鳴らし、側近を呼びつける。
「お呼びでございますか?」
平凡な顔立ちに、黒いシンプルなドレスを着た三十前後の女性が、足音も立てずに入ってきた。
「学生たちの中で、この本を所持している者、または貸し借りしている者を探しだすのだ」
「これは、どのような本でしょうか」
受け取った本をパラパラとめくろうとするのを、学長が慌てて止める。
「中を見てはいかん! 禁忌にふれる!」
「はっ」
「本のタイトルと、装丁だけ頭に入れろ。そしてこの本の中身を読んだとおぼしき学生をリストアップし、私に提出するように。期限は一週間だ」
「かしこまりました」
「くれぐれも、他言無用であるぞ」
「心得ました」
黒いドレスの女性は、入ってきたとき同様、物音をたてず速やかに退出した。
「学長殿、今の女は?」
「私が子供の頃から面倒をみて、鍛えあげた者です。普段は身の回りの面倒をみてもらっていますが、いざとなれば間者の役割も果たします」
「信用……できるのでしょうか?」
子爵の言葉に、学長はニヤリと笑みを浮かべる。
子爵にしてみれば、娘の醜聞があまり大っぴらにされては困るのだ。
「勿論ですよ。なんなら私は、妻や子供たちよりも信頼をおいております。忠誠を誓った者に対しては、絶対に裏切ることはありません」
「そうですか。それなら……」
子爵も安堵の息をついた。
「下手に隠蔽しようとせずに、私に事をお知らせくださった子爵のお気持ちに、必ずお応えいたします」
「では、娘の処分は……」
「とりあえず謹慎ということで、如何でしょう。ご自宅でしばらく反省していただき、対外的には体調を崩したということで」
「我が家の名誉にご配慮いただき、ありがとうございます」
ハーバート子爵が学長室を出ると、それまでにこやかに子爵と応対していた学長は、苦虫を嚙み潰したような顔になった。
「とんでもないことが、起こった。まずは学院内で問題を解決せねば。……本来なら宰相や大司教に相談すべきことではあるが……こんなことが明るみに出れば、王立学院を任されている私の責任が問われてしまうからな」
学生生活のかたわら、相変わらずBL小説を執筆する生活を続けている。
メリーローズの作品は、今も多くの読者に支持され人気を博しているが、ライバルとなる「アル攻」シリーズもまた売り上げを伸ばし、今やモリスン書房の二大人気シリーズとなっていた。
そんなとき、とんでもない事件が起こる。
コリーンという女子学生の父親である、ハーバート子爵が高等学院に乗り込んできた。
彼はその手に一冊の本を抱えている。
タイトルは「ローザリウム王国物語」。
メリーローズが執筆した、人気シリーズであった。
「ご覧ください、この破廉恥な本を!」
子爵は、アポイントすら通さず学長室に入ると、学長のデスクに本を投げるように置いた。
「子爵、落ち着いてください。この本は何ですか?」
「私の娘が、我が家に持ち込んだのです。……ああ、とにかく、内容をご覧ください」
子爵の勢いに呑まれるように、学長は本を手に取ってパラパラとページをめくる。
ちゃんと内容を読んではいないが、ざっと見るにアルバートという名前の主人公の物語のようだ。
しかし、ふとページのとある場面が目に留まり、ギョッとする。
その主人公が、こともあろうに男性と口付けを交わしているのだ。
「な、なな、何だと……?」
更にページをめくると、口付けどころではなく、ベッドを共にする描写まであるではないか!
学長は慌てて本を投げると、大精霊に祈りを捧げた。
「大精霊様! このようなおぞましいものを読んでしまった私を、お許しくださいませ」
「学長の罪は、私が背負いましょう。私がこんなものを持ち込み、読むように申し上げたのですから」
ハーバート子爵は神妙な面持ちで呟く。
「子爵殿、こんな本を、どうしたのですか?」
「恥ずかしながら、娘が家で読んでおりました。何でも学友から借りたのだと申しておりまして」
「…………何と!」
学長は、いかにも自分の手で触れたくないという風に、持っているペンで本を指し示しながら、眉根を寄せた。
「子爵殿のご息女を含め、最低二人は、このようないかがわしい本を読んだ者がいる、というわけですな?」
「左様です。あるいは、もっといるかも知れません」
「おお……!」
学長は、些かオーバーな仕草で頭を抱えた。
が、すぐにデスクの上のベルを鳴らし、側近を呼びつける。
「お呼びでございますか?」
平凡な顔立ちに、黒いシンプルなドレスを着た三十前後の女性が、足音も立てずに入ってきた。
「学生たちの中で、この本を所持している者、または貸し借りしている者を探しだすのだ」
「これは、どのような本でしょうか」
受け取った本をパラパラとめくろうとするのを、学長が慌てて止める。
「中を見てはいかん! 禁忌にふれる!」
「はっ」
「本のタイトルと、装丁だけ頭に入れろ。そしてこの本の中身を読んだとおぼしき学生をリストアップし、私に提出するように。期限は一週間だ」
「かしこまりました」
「くれぐれも、他言無用であるぞ」
「心得ました」
黒いドレスの女性は、入ってきたとき同様、物音をたてず速やかに退出した。
「学長殿、今の女は?」
「私が子供の頃から面倒をみて、鍛えあげた者です。普段は身の回りの面倒をみてもらっていますが、いざとなれば間者の役割も果たします」
「信用……できるのでしょうか?」
子爵の言葉に、学長はニヤリと笑みを浮かべる。
子爵にしてみれば、娘の醜聞があまり大っぴらにされては困るのだ。
「勿論ですよ。なんなら私は、妻や子供たちよりも信頼をおいております。忠誠を誓った者に対しては、絶対に裏切ることはありません」
「そうですか。それなら……」
子爵も安堵の息をついた。
「下手に隠蔽しようとせずに、私に事をお知らせくださった子爵のお気持ちに、必ずお応えいたします」
「では、娘の処分は……」
「とりあえず謹慎ということで、如何でしょう。ご自宅でしばらく反省していただき、対外的には体調を崩したということで」
「我が家の名誉にご配慮いただき、ありがとうございます」
ハーバート子爵が学長室を出ると、それまでにこやかに子爵と応対していた学長は、苦虫を嚙み潰したような顔になった。
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