魔道士師団長は弟子を拾う

ててて

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昼休みになった。

いつも昼食は食堂で済ませるので、ルディを片手に食堂へ向かう。

ルディにはあらかじめ「人の多いところに行くけど大丈夫か」と聞けば、「ハンネと離れるよりマシだ」返してきた。

ならばと食堂へ連れていけば、かなりの魔道士達がこちらに注目してくる。

「ハンネ様が子どもを…?」
「え、産んだのか…聞いてないぞ」
「そっそんな訳がないと思うが」
「「「あの手の中の子は誰だ」」」

ざわざわと騒ぎはするが、誰一人として嫌悪感をさらけ出す上司に聞こうという勇者はいなかった。
このあと、噂は魔道士団全体に広がり皆がリベルタの所へ殺到したようだが、リベルタは頑なにして口も開かず部屋からも出てこなかったという。(あの口調だから人前に出られない) 

いつもよりメニューの多いセットランチを頼んで、一番奥の席に座る。
ルディを膝に乗せてやり、食べさせながら自分も食事をとった。

もごもごと動くぷにぷにの頬が面白くてずっと見ていられる。しばらくすれば飲み込んだようで、こちらを向きパカっと口を開ける。そしてまた食べさせる。その繰り返し。

なんだか幸せそうな世界を繰り広げる2人をよそに食堂にいた魔道士達は困惑していた。

あそこに座る人は本当にハンネなのだろうかと。あの、粗雑で適当で男勝りと有名なあのハンネなのか。厳しく、ほとんど笑わないため、実は裏で『氷の女王』などと呼ばれているハンネ・ストリカーチェなのかと。

そんなこんなで時間が過ぎ、午後のチャイムがなった。

午後の仕事としては、書類はほとんど午前に終わったので宰相の元に昨日の報告書を渡したら帰ろうかな。

ルディも今日初めて来たし、少なからず疲れているだろう。

昼食を取り終わり、執務室に戻ってきた。お腹が満たされて気だるい体をソファに預ける。すれば、ルディも小さい体をさらに縮こませて隣に寝そべってきた。

何をするのかなと見ていればそのまま私の体に寄り添い寝始める。

なんだ、昼寝するのか。

背中をポンとリズムよく叩いていれば、そのうち寝息が聞こえてきた。

お腹がいっぱいになったから眠くなったのか。しばらくその幼い顔を見ていれば、廊下から足音が近づいているのがわかった。

多分、あれだな。
私が子どもを連れているのが国王か宰相に伝わったのだろう。そして確かめるべく、人を使いに出した、と見た。

素早く、部屋の鍵をかけ扉を開かなくする。せっかく眠ったルディを起こされるのは癪に障るため、ドアから1メートル以上近づけないように立ち入り制限をした結界も張った。
騒がれるのも嫌なので遮音も張る。

満足した私は、そのままルディを抱えてその心地の良い体温を感じながら微睡みに浸かった。


#



ハンネの匂いがする。
本のような紙のような匂い。

俺はきっとこのままハンネから離れることができない。

俺は産まれてきてはいけないモノだった。魔力、という体に流れるもの。
人の中に血液が流れるように、人それぞれが保有しており、人によって量も濃さも違う。

俺の魔力は人よりどす黒く、量も計り知れないものだったようだ。
そこにいるだけで、人はその禍々しい存在に恐怖を感じるらしい。

母親は俺を見て顔を青ざめ倒れた。父親は震えながら必死に逃げるようだった。
それでも、殺すことも出来ない。
いつ、この魔力が暴走するか。誰が止められるのか。誰が返り討ちに会うのか。

分からないからだ。

人より少しでも魔力が高い者が雇われ俺の面倒を見ようとする。でも、2、3日と持たずその者は恐怖で吐いてしまう。そうして少しずつ衰弱していく。

7歳になったころ、家から出た。街からも出て森住んだ。森で狼などの獣を魔力を操って殺し、食べて生き延びていた。

たまたま雨が降った日、溜まった水たまりを見てこうやって膜を張れば中の石は見えにくくなるということに気づいた。

ならば、自分に膜を張れば魔力が感知しにくくなるのではと考えに至る。
そうして、その日から何回も何枚も何重にも自分に膜を張り、人へ恐怖を煽るこの力を分かりにくくした。

それでも、1人だ。
獣も、鳥も、人も。俺から逃げていく。

体ばかりが大きくなる。
そうして、15になる頃体が大きすぎてもう草むらや木の後ろに隠れにくくなった。不可視の膜を張ろうと思っても上手くいかない。ならば、自分を幼い頃の形に戻して隠れようと思い至った。

そうして、5歳の頃の姿になりまた7年がたった。5歳の頃の姿は小さいから隠れやすいけれど、困ったことにその年齢に精神が引っ張られよく眠ったり、ひとりが寂しいと感じることが多くなった。

そしてあの日。
また眠くて木の裏で眠っていた時、魔力なしの男2人が俺を見つけた。

「なんだコイツ…」
「こんな所で…1人だな。捨て子か」
「…コイツ女か?」
「女なら売れるな」

俺は男だけど、髪が長かったからかそいつら勘違いをしたみたいだ。

「…なぁ、お嬢ちゃん。おじさん達がお嬢ちゃんの新しい家族のところに連れてってあげるよ…」
「着いておいで…1人は寂しいだろ?」

下卑た笑みで言ってくる男共に吐き気がしたし、怒りも湧いたが、5歳児の俺はその話に耳を傾けてしまった。

「…家族?」

「あぁ、そうだよぉ…きっとお嬢ちゃんくらいの小さい子なら優しい家族ができるよぉ」

そうして、小汚い馬車に連れてこられた。人と話すのも久しぶりだった。
男たちは俺の服を脱がすと男だということに気づき逆上した。

「なんだよっ、お前男なのか!!」
「くっそ、紛らわしい学校しやがって」
 そう言い、俺の髪を掴むと地べたへ叩き込む。

沸き起こる怒りを抑える。ダメだ、怒りに任して魔力を使えば俺は止められない。誰も俺を止められやしない。

もしかしたら街を壊すかも、国が吹っ飛ぶかも。それくらい自分の体で渦をまくこの力が以上だと言うことを本人もわかっていた。

「…まぁ、男でも糞みたいな変態には需要があるかもな」
「ちっ、お前はこの中に入ってろ!」

そうして、タライに入っていた水を頭から被せると木の箱に入れられた。ポイっと着ていたボロボロの服も投げ入れられ蓋を締められる。

「…他の商品は?」
「これから拉致するさ」
「…女を中心にするぞ」 
「わかっている。」

くぐもった声が聞こえる。
正直、もうどうでもよかったのだ。
どうにでもなれ。もう、いいんだ。めんどくさい、もうやめてくれ。これ以上、生きたくない

俺を…殺してくれ助けてくれ

風を起こし体を乾かして服を着る。そのまま顔を埋めるようにして蹲り、眠れ眠れと言い聞かせた。

目を覚ましたくない
目を覚まさなくていい
 
たまに箱を蹴られたりして目が覚めてしまうのだが、必死に魔力に力入れ自分を眠らせていた。


どれくらいそうしていたのか。
悲しいことに目が覚めてしまった。

コツコツと聞いたことのない足音が近づいてくるのがわかる。箱の蓋が空けられ光が目に入った。

「子ども…?」

声がより鮮明に聞こえる。
上を被さる前髪の隙間から見えるのは紺色の髪、白い肌、切れ長な淡い青の瞳の中性的な顔立ちのだった。

思わず、目を見開く。
この人は、魔力が流れている。しかも、昔会った街の人や、育てをしていた人よりも圧倒的に多くて、濃くて、綺麗だった。

均一に流れていて、量は多いのに穏やかだ。人はこの人を怖いとは思わないかも知らない。


「ねぇ、君。そこから出ておいで。ほら…おいで」

そう言って白く細い手を伸ばしてくる。なんだこの人。誰だこの人。どうすればいいのか。混乱して上手く行動を起こせない。

そすれば、その人は仕方がない、俺に触れてに抱き上げた。

今は幼児の体だから軽々と抱き上げられるが、これだけ魔力が強い人なのに俺が魔法で年齢と姿形を偽っていることを気づいてないのか。

「ふぅん、凄いな。こんなが自分で魔力の調整が出来るなんて。才能があるね、私の弟子になるかい?」

気づいてないようだった。そこで思わず、口からため息が漏れる。

体を支えられ、触れ合う人との感触が初めてで。こんなに優しく話しかけられたのも初めてで。戸惑ってしまう。

「名前は?」


「…………ア、バーミネル忌み子

意味は知らないが、街にいた頃はそう呼ばれていた。


「……私はまず君に、食料と湯と寝床と名前を与えなくてはならないみたいだね。」

そう言って、この人は俺を拾ったんだ。




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