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第1章 家族
お話しましょう、そうしましょう
しおりを挟む私は思わず口を開けたまま固まってしまう。
きっと今の私はレディーらしくもなければ、王女なんてもってのほかだろう。
だが、今だけは許して欲しい。
私を抱っこしているのは、他ならぬ国王陛下だからだ。
しかも、眉間にシワをよせ怪訝に見つめる視線付きだ。
「お、おはようございます」
震える声でようやく絞り出せたのは挨拶だった。仕方ないでしょう…他に何も思いつかないほど頭は混乱していたのだから。
「…おはよう」
国王陛下は返事を返してくださるとそのまま私の体を抱え直す。
先程まで陛下の両手が私の両脇に差し込まれていたのだが、陛下の左手だけで私を抱っこしていると言ったら伝わるだろうか
そうして、そのまま歩き出す。
どこに行くのですか…?と聞きたいけれど、怖くて聞けない。
慣れないほどの高さから身を落とさないようにするのに必死で声すら出てこなかった。
まぁ、別の意味でも怖いのだけれど。
「…なんでそんな格好をしているんだ?」
そんな格好…?
そう言われてやっと自分がネグリジェのままだということに気がつく。すぐに顔には熱が集まり、恥ずかしい気持ちでいっぱいになった。
「…その……早く後宮に、戻らなくては行けなくて…」
声は震えているがなんとか答える。
「何故、後宮に戻る必要がある?」
陛下は心底不思議そうに私を見つめる。
これは…ドミニカ様達の事を言ってもいいのかな…ていうか、早くしないと使用人たちが……!
「その…えっと…」
焦る心とは裏腹に言葉を中々紡げない。
言おうと持ってもなんか文がまとまらず、余計に言葉が引っ込んでしまう。
すると、陛下は部屋に入り、椅子に座った。私は陛下のお膝の上だ。
だから、なんで!?
と、つい心で叫んでしまう。
この部屋は昨日の執務室…?
そして、私の肩をトントンと左手で優しく叩きながら右手で机の上にある書類を見始めた。
「…言えるようになったら言え」
え…?
そう言い、陛下は黙々と書類に目を通し始めた。なので、私も端的にわかりやすくかつ、理解のしやすい文を考える。
さっきよりも落ち着けたからか、文がまとまった。
少し遠慮しながらも陛下の袖を引っ張る。
すると、書類に向けていた目をこちらに向けてきた。
「…私が後宮にいないことで使用人達が私を匿ったと勘違いされて、ドミニカ様にいじめられてしまいます。なので、私は早く帰らなければなりません。」
大分、端的ではあるが伝わるだろう。
さぁ!私を後宮に返してください!!
「…帰らなくていい。お前の居場所はあそこじゃない。…ここだ。」
……え?
全く思考回路が追いつかず理解ができない。
「いえ、でも…使用人達が…!」
そうだ。私が帰らなくて良くても使用人達が酷い目に合うのだ。それを阻止したい。
「……わかった。おい」
「はっ」
陛下が声をかけると、すぐに部屋に駆けつけて来たのは軍服をまとった男性だった。
「後宮で仕えるシルフィオーネ付き、または関係者を全員移動させておけ。あと、見張りを強化しろ。」
「はっ。承知致しました。」
彼は敬礼すると、足早に部屋から出ていく。
「……今のは?」
「カスティリアの国軍、第1部隊隊長だ。これで、心配している使用人達の安全は保証された訳だが…あぁ、これでいつあそこを潰してもいいだろうな…後悔もなにひとつもなくできる。」
最後の独り言は聞こえなかったが、これで良かったのだろうか。
まだ、出会ったばかりの此方を信用するのは無理話だが、少しは信じられるのかもしれない。
私が話すために時間を下さり、落ち着かせてくれるような方だから。
見た目よりも案外怖くないのかな…なんて思ってしまう。
しばらく、沈黙がつつぎ陛下も着々と書類仕事を終わらせた。
右に積まれていた書類は半分が左に行き、ピタッと陛下の手が止まる。
コンコン
「入れ」
入ってきたのは、背が高い男性で青く長い髪を後ろに束ねている。
「陛下、先日の……その手に持っているお人形さんはなんです?」
一度私を見て、書類に視線を戻し、また私を見る。これが二度見というものかと思いながらも、彼は私に穴を開けそうなほど見つめてきた。
「……ひとまず、手に持っている書類をおけニクロス。」
そう言われた彼は私に視線を外さずそのまま書類を机に置く。そうして、陛下の机の前まで歩み寄ってくる。
「この子は、シルフィオーネだ。ソフィアの娘で昨日発見された。」
「ソフィア!?それって…ソフィア第二側妃ののこと言ってんの!?」
「あぁ。…今まで後宮にいたらしい。」
「後宮って…あそこ!?あの、毒婦とペットのブタが住むあそこ!?」
「あぁ、そこで暴行を受けながら12年過ごしていたらしい」
そう聞くと、彼はキラリとメガネを光らせこちらに何やら親指を立てる。
「オーケー、任しといてください。ブタの処理と毒婦の抹殺ですね。しっかりやるんで!本当に馬鹿だなぁ、あの女は。戦争でもしたいのか…恐らくそんなことも考えてはいないんだろうな…どうしてくれようか。」
スタスタと部屋を出ていこうとする彼を陛下が止める。
「待て。それはこちらで色々と段取りを決めている。下手なことをするな。」
「はぁ!?じゃあ、私もそれに加わりますぅ。手伝うので仲間に入れてください!!」
陛下は、はぁ…とため息をつくと、面倒くさそうに首を縦に降る。それを見て彼は嬉しそうに微笑んだ。
「…あぁ!そうだ。
ごっほん!……改めまして、ご挨拶が遅れてしまい申し訳ございません王女様。
私、ニクロス・ディ・クオルツと申します。この国で宰相を務めております。どうぞ気軽にニクロスとお呼びください。以後お見知り置きを。」
そう言い優雅に礼をしてみせる。
私も挨拶をと思うが、まだ陛下のお膝の上なのだ。降りたいと思って陛下を見つめると、ふわっと持ち上げ降ろしてくれる。
「ありがとうございます。」
しっかりとお礼をいって頭を下げたら、そのままニクロスの方をむく。
「はじめまして、シルフィオーネ・クラン・カスティリアと申します。」
そういってやはり、不格好な礼をする。
ニクロスは特に気にしないように微笑んでくれた。
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