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ボク(9話)
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変な顔をしている琴音ちゃん。話の流れ的にボクが知っていると思ったんだろうな。残念だけれど、ボクは琴音ちゃんと過ごしたいから、そんなことを話すのに時間を使いたくないんだよね。
「あっ、美味しい。琴音ちゃんも食べる?」
残っているロールケーキを見せたが、よろしい反応ではなかった。
「はぁ、いらない。私はおにぎり食べる」
袋からおにぎりを取り出そうとする手を止めた。目を丸くさせたが、すぐに怪訝そうな表情を浮かべていた。自分自身が行おうとしていたことを邪魔されるのは良い気分にはならないのだと思う。
「ボク、まだ食べるものあるから消費するの手伝って。はい、どうぞ」
優しめに琴音ちゃんの口にロールケーキを入れた。その残った切れ端を手に、もぐもぐと口を動かしていた。さっきは勢いよく口に投入しちゃったからな。小さめの口がちまちまと味わっている。その姿の琴音ちゃんは可愛かった。
モチモチしている食感が良くてクリームが甘くて、生地がふわっとしていて柔らかい。とても甘かった。これを琴音ちゃんにも食べて欲しかった。美味しいものは共有したくなる。
「どうだった?」
「甘い。このあとおにぎり食べたら味が混ざりそう」
桃の水で口直ししていた。ボクは空になったロールケーキの入れ物をビニール袋に入れ、そこから生チョコクレープと卵のおにぎりを取り出した。それらを自分自身の太ももの上に置く。
「これ、琴音ちゃんそっち側に置いといて」
袋を持ち上げて距離をつめた。琴音ちゃんとの間に袋があったけれど、邪魔物がなくなって隣に座ることができた。
「なんでわざわざ……」
ボクのせいで行き場のなくなった袋をブツブツと言いながら、受け取った。ボクはそれを横目で見ながら琴音ちゃんが手を離しているもののフタを開けて口にする。
「なんで! 私の飲んでるの! 自分の物があるでしょ!!」
気づいた琴音ちゃんが目をつりあげているが、それを流すことにした。
「ごめんね。間違えた」
「こっちの袋に入ってるのに間違えようがないでしょ!」
「じゃあ忘れてた」
「じゃあって何?」
卵のおにぎりを開けて口にする。味わう。ケチャップライスと卵は合うんだ、と思いながら、食べ進めた。琴音ちゃんはボクの行動を冷めた眼差しで見ていたが、どうにもならないと思ったのか、睨んでから桃の水を飲んでいた。ボクが口付けたから抵抗があるのだろう。やめる気はないけれど。その後、琴音ちゃんは袋から鮭といくらのおにぎりを取り出して食べていた。
「ボクにも一口ちょーだい」
「嫌よ。さっきから言ってるけど、自分のがあるでしょ!」
「えーいいじゃん。ケチ。一口だけ。あっ」
琴音ちゃんは一気におにぎりを口に入れた。ご飯を溜め込む小動物のように頬が膨らんでいる。
「意地悪」
「ふりゅわい」
機嫌を損ねてしまったようだ。ボクから表情が見えないように横を向いていた。琴音ちゃんが好きなものをボクが食べたかったのにな。しょうがないから琴音ちゃんの飲み物でももらってから生チョコクレープでも食べよう。その前に、桃の水のボトルを手に取って、琴音ちゃんの脚へと寝転がった。膝枕だ。重みに気づいたのだろう。下を見た。ボクがいることに驚いていた。僕は少し起き上がって、琴音ちゃんの唇を奪った。何が起こったのか、状況を理解していなさそうだ。固まっていた。ボクはまた寝転がって態勢を戻した。
柔らかくて温かいな、と思った。僕は目を閉じる。残念だな。もっと君といたかったけど、これで満足しよう。でもさ、やっぱり君と日常を歩みたかった。笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったりしたかった。君といろいろなことをして過ごしたかった。すぐにお別れになるのはわかっていたことだけれど、悲しい。暁人が目覚める。だから、ボクはいなくなる。混じり合って溶けて暁人になるんだ。ボクがボクでいられないのは悔しいや。
琴音ちゃんが暁人を大事にしているのはわかるし、暁人がいなくなったら泣くだろう。だから、これでいいんだ。ありがとう、ボクを見つけてくれて。たったの数時間でも君に会えて、君と一緒にいられて幸せだった。ボクは暁人になる。そうじゃなきゃ、ずっと欠けたまま生きることになるから。ボクね、できることならもっと一緒にいたかったけど、そうするともっと辛くなりそうで。消えるわけじゃないけど、ボクは僕になるからさ。優しさを温もりを知るほど怖くなりそうで。
――バイバイ、琴音ちゃん。ボクのことは覚えててほしい。一時の夢、幻にしていいよ。
「あっ、美味しい。琴音ちゃんも食べる?」
残っているロールケーキを見せたが、よろしい反応ではなかった。
「はぁ、いらない。私はおにぎり食べる」
袋からおにぎりを取り出そうとする手を止めた。目を丸くさせたが、すぐに怪訝そうな表情を浮かべていた。自分自身が行おうとしていたことを邪魔されるのは良い気分にはならないのだと思う。
「ボク、まだ食べるものあるから消費するの手伝って。はい、どうぞ」
優しめに琴音ちゃんの口にロールケーキを入れた。その残った切れ端を手に、もぐもぐと口を動かしていた。さっきは勢いよく口に投入しちゃったからな。小さめの口がちまちまと味わっている。その姿の琴音ちゃんは可愛かった。
モチモチしている食感が良くてクリームが甘くて、生地がふわっとしていて柔らかい。とても甘かった。これを琴音ちゃんにも食べて欲しかった。美味しいものは共有したくなる。
「どうだった?」
「甘い。このあとおにぎり食べたら味が混ざりそう」
桃の水で口直ししていた。ボクは空になったロールケーキの入れ物をビニール袋に入れ、そこから生チョコクレープと卵のおにぎりを取り出した。それらを自分自身の太ももの上に置く。
「これ、琴音ちゃんそっち側に置いといて」
袋を持ち上げて距離をつめた。琴音ちゃんとの間に袋があったけれど、邪魔物がなくなって隣に座ることができた。
「なんでわざわざ……」
ボクのせいで行き場のなくなった袋をブツブツと言いながら、受け取った。ボクはそれを横目で見ながら琴音ちゃんが手を離しているもののフタを開けて口にする。
「なんで! 私の飲んでるの! 自分の物があるでしょ!!」
気づいた琴音ちゃんが目をつりあげているが、それを流すことにした。
「ごめんね。間違えた」
「こっちの袋に入ってるのに間違えようがないでしょ!」
「じゃあ忘れてた」
「じゃあって何?」
卵のおにぎりを開けて口にする。味わう。ケチャップライスと卵は合うんだ、と思いながら、食べ進めた。琴音ちゃんはボクの行動を冷めた眼差しで見ていたが、どうにもならないと思ったのか、睨んでから桃の水を飲んでいた。ボクが口付けたから抵抗があるのだろう。やめる気はないけれど。その後、琴音ちゃんは袋から鮭といくらのおにぎりを取り出して食べていた。
「ボクにも一口ちょーだい」
「嫌よ。さっきから言ってるけど、自分のがあるでしょ!」
「えーいいじゃん。ケチ。一口だけ。あっ」
琴音ちゃんは一気におにぎりを口に入れた。ご飯を溜め込む小動物のように頬が膨らんでいる。
「意地悪」
「ふりゅわい」
機嫌を損ねてしまったようだ。ボクから表情が見えないように横を向いていた。琴音ちゃんが好きなものをボクが食べたかったのにな。しょうがないから琴音ちゃんの飲み物でももらってから生チョコクレープでも食べよう。その前に、桃の水のボトルを手に取って、琴音ちゃんの脚へと寝転がった。膝枕だ。重みに気づいたのだろう。下を見た。ボクがいることに驚いていた。僕は少し起き上がって、琴音ちゃんの唇を奪った。何が起こったのか、状況を理解していなさそうだ。固まっていた。ボクはまた寝転がって態勢を戻した。
柔らかくて温かいな、と思った。僕は目を閉じる。残念だな。もっと君といたかったけど、これで満足しよう。でもさ、やっぱり君と日常を歩みたかった。笑ったり、泣いたり、喜んだり、怒ったりしたかった。君といろいろなことをして過ごしたかった。すぐにお別れになるのはわかっていたことだけれど、悲しい。暁人が目覚める。だから、ボクはいなくなる。混じり合って溶けて暁人になるんだ。ボクがボクでいられないのは悔しいや。
琴音ちゃんが暁人を大事にしているのはわかるし、暁人がいなくなったら泣くだろう。だから、これでいいんだ。ありがとう、ボクを見つけてくれて。たったの数時間でも君に会えて、君と一緒にいられて幸せだった。ボクは暁人になる。そうじゃなきゃ、ずっと欠けたまま生きることになるから。ボクね、できることならもっと一緒にいたかったけど、そうするともっと辛くなりそうで。消えるわけじゃないけど、ボクは僕になるからさ。優しさを温もりを知るほど怖くなりそうで。
――バイバイ、琴音ちゃん。ボクのことは覚えててほしい。一時の夢、幻にしていいよ。
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